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印刷2025/10/16 15:18

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政府はゲーム産業に何ができるのか? バルセロナのゲーム開発シーンを見たカタルーニャ州文化省のディレクターに聞く

 スペインのバルセロナにあるイベント施設,ラ・ファルガ(La Farga de L'Hospitalet)で開催されたゲームイベントのBCN Game Fest 2025の会期中,同地域の文化省でイノベーション及びデジタル文化担当のゼネラルディレクターを務めるマリソル・ロペツ(Marisol Lopez)氏にお話を伺う機会があったので,紹介しておこう。

 観光都市バルセロナを中心とするカタルーニャ州のゲーム産業育成施策は,本誌連載の「奥谷海人のAccess Accepted」でも取り上げたことがある。

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 7月18日から20日かけて京都で開催された「BitSummit the 13th」において,パビリオンブースとして大きな存在感を示していたのが「Catalan Arts Digital Culture」だった。カタルーニャの州政府機関が主導する文化振興機構のプログラムの1つで,南ヨーロッパ最大のゲームイベント「BCN Game Fest by Indie Dev Day」も多きな盛り上がりを見せてくれそうだ。

[2025/07/28 12:00]

 「Catalan Arts Digital Culture」は,同州政府の文化振興およびビジネス育成の取り組みとして,文化省下のカタルーニャ文化企業協会(Catalan Institute for Cultural Companies。以下,ICEC)が主導するもの。BitSummitなど各国のゲームイベントでも,最近ではブラジルなどと同様にパビリオンブースを展開するとともに,現地デベロッパのビジネス面をサポートし,地域内への投資を呼び込んできた。

※そのままなら略称はCICCとなるはずだが,カタルーニャ語表記をもとにしたICECを使っているようだ

画像ギャラリー No.003のサムネイル画像 / 政府はゲーム産業に何ができるのか? バルセロナのゲーム開発シーンを見たカタルーニャ州文化省のディレクターに聞く

 連載記事でも紹介したように,カタルーニャ州の総人口は約750万人。そのうちバルセロナには160万人もの人が暮らすというから,福岡市や川崎市など日本の政令指定都市に比肩する規模だ。

 このうち,ゲーム開発を含む文化やクリエイティブな職に従事するのは4万5000社,17万人弱で,2020年度ではカタルーニャ州の年間税収に2%のGVA(粗付加価値)を生み出している。ビジネスの場としてはすでに成熟しており,今後はゲームデベロッパの育成を働きかけることで,さらに成熟した経済に貢献できる産業になっていくことが見込まれるわけだ。

 ロペツ氏とは即興のインタビューとなったが,このあたりの政府の取り組みを聞いてみた。

4Gamer:
 それではよろしくお願いします。まず,ICECの取り組みについて聞かせていただけますか。

元々は大学教授だったロペツ氏。州政府の要人でありながら,Larian Studiosの「Baldur's Gate 3」といった具体例がスラスラ出てきたのはさすがだ
画像ギャラリー No.002のサムネイル画像 / 政府はゲーム産業に何ができるのか? バルセロナのゲーム開発シーンを見たカタルーニャ州文化省のディレクターに聞く
ロペツ氏:
 カタルーニャ州政府の文化省に関連する公共機関で,「文化企業」を指す企業やスタジオを支援することを目的としています。対象となるのはゲームビジネスだけでなく,音楽や映像メディア,パフォーミングアーツや書籍なども含まれています。
 ビデオゲーム産業に対しては,助成金やトレーニングのサポート,スタートアップや国際化の支援などがあり,BitSummitへの出展もその1つです。また,インキュベーションプログラムとしてGameBCN外部リンク)を10年にもわたって開催してきました。

4Gamer:
 GameBCNは,今回のBCN Game Fest 2025にも出展されていますが,この10年を振り返っていかがですか。

ロペツ氏:
 それ以前に行われていたゲーム開発関連授業の価値観を変えて,「大企業に就職するための勉強」ではなく,「自分たちのプロジェクトを発展させるための,ビジネスとしての創作活動」へと視点を変えたプログラムを用意したのです。ゲームという枠内にはありますが,成長していく可能性の高いスタートアップの育成を目的として,GameBCNもその一環として行われました。

4Gamer:
 学生プロジェクトとして始まったゲームをそのまま終わらせてしまうのではなく,ということですか。

ロペツ氏:
 開発資金の援助やレンタルオフィスの提供,業界人とのメンタリングやビジネスノウハウの供与などを通し,商業的に通用するものに昇華させることで,これまでの10年でインキュベーションプログラムから実際に製品化されたゲームは45%に上ります。
 もちろん,我々政府もそうしたノウハウは獲得しており,ゲーム業界側からの視点として,日本で2021年に立ち上がったマーベラスさんのiGi(indie Game incubator)プログラムとも相互協力しております。

GameBCNのブースでは,今後の地元産業を支えてていくであろう学生プロジェクトがいくつか紹介されていた
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4Gamer:
 世界各地で頭脳流出(優秀な学生が海外に留学し,そのまま現地で就職して帰ってこないこと)によって経済や知識の空洞化が生まれていることが問題視されていますが。

ロペツ氏:
 もちろん,(特にEU圏においての)労働者は自由に移動して職に就くことができますが,バルセロナに関しては世界でも有数の商業圏であり,生活水準も高いことからそうした問題が表面化しているわけではありません。これまでも,バンダイナムコエンターテインメントやUbisoft,Gameloft,そしてTake-Two Interactiveに買収されたSocial Pointなどの大企業が進出していますし,最近でもLarian StudiosやIO Interactive,Paradox Interactiveなどのスタジオが支部を置くなどしているのも,質の高い労働力をバルセロナが確保しているという証左になっているでしょう。

4Gamer:
 なるほど。そして,それまで草の根的に行われていたIndieDevDayと協力し,BCN Game Festとリブランド化することになったわけですね。

ロペツ氏:
 はい,そうなんです。とても誇りに思っていますし,これからも成長する産業と市場であることを証明できたのではないでしょうか。我々はIndieDevDayともそれ以前から提携しており,2018年に最初に貸し出した会場は,確か15社のインディーチームが参加した小さなものでした。会場は「コ」の字型の建物の屋根のない中庭部分だったのですけど,あいにく(雨が少ないバルセロナで)雨が降っちゃいましてね。みんな両脇の軒先ギリギリまでコンピュータデスクを下げて,ショートしないかビクビクしながらお互いのゲームを遊びあっていたのです(笑)。

4Gamer:
 ははは(笑)。そう考えると,今回のイベント会場であるラ・ファルガは,9000平方メートルの会場にまでなっていますからね。

ロペツ氏:
 ええ。サッカーコート4個分に相当して,出展メーカーは200社にも及びます。そして,今の大きな目標は,BCN Game Festをさらに国際的なイベントにし,バルセロナのゲームシーンをグローバルに位置付けることにあります。そのためには,もうラ・ファルガも手狭になっており,いずれはさらに大きなイベント会場に移動しなければならないとは考えています。

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4Gamer:
 確かに,Devolver Digitalのようなパブリッシャも参加していますが,さらに大手が入ってきたら,そのブース1つでもう空きスペースはなくなっちゃいそうです。

ロペツ氏:
 いいポイントですね。国際化という観点では,そうした国外の大手パブリッシャに魅力を感じてもらうイベントにしていくことも必要になるでしょう。そして,その出展を体験するために,地域の若い世代のゲーマーたちもイベントに参加し,やがては学生として育っていくような潜在的な労働力の確保につながっていくわけですからね。

4Gamer:
 本日は,お時間をありがとうございました。


 最近,筆者が会った別の国の政府関連の要人は,日本のアニメ産業のとある重鎮に政府の補助や必要性について聞きに行った際,「政府は何もしないことが一番」と言われたというエピソードを笑い話のように語っていた。もちろん,その重鎮が言いたかったのは「干渉しない」ということである。

 日本でさえ「クールジャパン戦略」については失敗したというのが大方の意見であろうが,文化都市バルセロナを中核にするカタルーニャ政府は,これまでもパフォーミングアーツや書籍などのさまざまな芸術に関与してきたこともあり,このあたりのノウハウはしっかりと確立している印象だ。ロペツ氏との会話でも「どのようなコンテンツにするか」という話題は一切なく,あくまでも産業育成のためのサポートという位置付けで,GameBCNなどのプログラムを進めてきたことがわかる。グローバル市場において「バルセロナ産ゲーム」が普通になる日も,それほど遠いことではないかもしれない。

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