本稿で取り上げるのは,「Nexon and Krafton's AX Journey――何を試し,何を手放したのか」と題された対談だ。モデレーターは慶熙大学のキム・サンギュン教授,パネリストはNEXON KoreaのAI本部長カン・ドクウォン氏と,KRAFTONVPのイム・ギョンヨン氏である。
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まずAX(AIトランスフォーメーション)の目標から触れていこう。カン氏は「AX自体まだ日が浅い。初期は既存サービスのモニタリングやレポーティングといった手間のかかる作業の自動化に注力し,運用負担を大きく減らしてライブ対応力を高めた。
現在は開発生産性の向上を最優先とし,専用AIモデルの開発や開発パイプラインの再設計を進めている」と語る。イム氏は「KRAFTONが最も注力してきたのは,問題解決のアプローチを徹底してAIファーストにすること。何でもまずAIで試す。そのうえで,いきなり全部を置き換えるのではなく,小さな業務単位から切り替えて効果を測りながら段階的に進めている」と述べた。
最初の一歩は対照的に見えて似ていた。ネクソンは「規模が大きく,ゲームもプロジェクトも業務も多様で,単一の標準でAXを進めるのは難しい。まずAIリテラシー教育に力を入れ,各組織の成功事例を共有するボトムアップ文化を築いた。
最大の成果は,AXをリードできる“チャンピオン”を数多く発掘できたこと」(カン氏)。KRAFTONは「経営トップが明確に意思を示すことから始めた。昨年11月に全事業をAIファーストで運営すると宣言し,多様なツールを直接提供。2月の全社アンケートでは社員の97.6%が『AIを使っている』と回答した」(イム氏)と,トップダウンの効果を強調した。
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KPIやROIでの定量化が難しいなか,“実感した変化”が語られた。ネクソン最大の変化は運用コンソールの作り方だ。「以前はデータや運用ツールが欲しいときデータ組織や開発組織に依頼し,成果が戻る頃にはタイミングを逃していた。数年前からMonolakeとPower BIで各組織が自らデータを抽出できる基盤を整え,AX本格化後は各組織がAIの支援で自分の運用コンソールを作り運用するようになった。意思決定に必要な情報が格段に速く手に入り,ライブ対応のアジリティが大きく向上した」。
各組織が一人で判断する弊害は,と問われると「むしろ逆。データリテラシーが上がり,以前は時間がないと多少不正確でも流していたのが,自分で抽出して『これおかしい』と気づき直すようになり,データへの信頼はむしろ高まった。アナリストは高度な業務に集中できる」と答えた。
KRAFTONのイム氏は「まずインフラを整えた。共通デプロイパイプライン『KRAFTON Playground』と,データの『データ・ファウンデーション』を構築し,その上で各種AIツールの成果物を使えるようにした」と説明。象徴例として,先週のハッカソンでHRチームの非エンジニアがCodexとClaudeで,面接日程調整・会議室予約・案内送付までを自動化するツールを作った話を挙げ,「彼らが“ブランチ・コミット・マージ”といった開発者的な用語で戻ってきたとき,壁が取り払われていくのを実感した」と語った。
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話題は率直に“失敗”へ。イム氏は「KRAFTONは失敗の兆候を測る指標を作っていない。AXは継続的な試行錯誤の連続で,AIはまだ初期段階の基盤技術。失敗の測定より,試みから得た経験を資産として蓄積することが目標」としつつ,2つの判断ミスを挙げた。(1)エンタープライズ級の大規模ツールを拙速に導入したこと(多機能だが各社固有の事業の本質に合わせ込むのが難しい)。(2)作っても使われないツールは失敗の経験と見なすべきこと(経験は残るがユーザーが増えなければ失敗)。
ネクソンの代表的な“難しかった事例”は全社向けのOpenAI(ChatGPT)導入だ。経営トップ自らが使って「OpenAIは非常に強力で,業務生産性の向上に大いに役立つ」と判断し,本部長らも交えて全社導入を検討した。ところがテストの中でセキュリティ上の問題が頻発したため,これを解決すべくオープンソースを改変した自社ホスト版の独自ツール「NXクロ」を開発する。
だが今度は,そのベースにしたオープンソースが猛烈な速さで(しかも大半がセキュリティ関連の)アップデートを重ね,追随し続ける運用負荷が膨大になった。自動アップデートを設定しても頻繁に止まるうえ,全社規模のインフラコストも無視できない水準に達した。そこで「全社導入は時期尚早」と比較的早く撤退を判断。「ここで得た教訓は,技術的に可能なことと,実際に継続可能なことは別だという普遍的な真理だった」とカン氏。
撤退基準はセキュリティ,UX(支援ツールがかえって手間を増やしてはいけない),インフラコスト。「成功事例を増やすだけでなく,素早く試し,ダメなら素早く撤退するのも重要な能力」と語った。なお余談として,AIで“既存のメール業務”を自動化しようとした結果,自分でメールを書くより遅くなる皮肉な事態も起きたといい,「業務フロー自体を先に見直す必要がある」とも述べた。
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成功事例の横展開には共通の壁があった。ネクソンは「良い事例も他組織へ広げるのが難しく,組織間のスピード差が埋まらない。Slackに3,000人超のAIコミュニティを作り毎日事例を共有してもなお温度差が残る。そこで最近はトップダウンを補完し,AI本部がAX進捗をモニタリングして,遅れている組織に最適なユースケースを(強制せず)提案し,先行組織とつなぐブリッジ役を担っている」。
KRAFTONは「技術・インフラ・方法論の課題を現場で解決する『FD』というポジションを採用し各現場へ派遣。「AI活用のエキスパート,何でも聞いて」という名札を置くと,皆が通りがかりに質問するようになった。さらに『AXポータル』や,社内成果物を誰でも試せる社内アプリストアも整備し,将来はマーケットプレイス化を計画している」とした。
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技術進歩の速さと疲労感も率直に語られた。カン氏は「『今から開発して来月完成しても,来月使えるのか』が口癖だそうだ。明確な答えはまだない。最も重要なのは“役に立っている”という実感。中央組織として長期的なAXロードマップを示し,個人や組織が変化に振り回されず3$301C6か月先を見通せるよう準備している」。
イム氏は「韓国にAIの最前線を走る企業はまだない。AnthropicやOpenAIのレベルにあってこそ先導者だ,という現実は受け入れざるを得ない。だが1年何もしなければ何も得られない。試行錯誤を重ね広く共有すること自体に意義がある。KRAFTONは現場が試行できる基盤を提供することに力を注ぐ。どの方法が正解かは私にも分からないからだ」と述べた。
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ゲーム産業ならではの違いも論点になった。カン氏は「ゲームは結局“楽しさ”を生む産業で,楽しさには正解がない。だからAXを定義しやすい領域と適用しにくい領域がはっきり分かれる。今は検証しやすい領域(自動化など,“面白さ”以外)に注力しているが,今後は創造性や判断が重要な不確実領域と向き合うことになる。そのとき問いは『AIが何を代替できるか』から『人間が必ず何を担うべきか』へ移る。
AXは効率化ではなく,人の役割・価値を定義し直すプロセスになる」と語った。イム氏は「ゲームはコマースや金融と違いガバナンス・規制の壁が小さく,AIを導入しやすい産業。クリエイティブ中心の産業だからこそ,メッシュを手作業で削る工程などをAIで楽にし,浮いた時間でより魅力的なアセットやサウンド,新手法に注力すれば,クリエイティブはもっと大きく広がる」と前向きに述べた。モデレーターは「WEFの報告書では,売上比のAI投資は通信・金融が上位でゲームは中位。だが投資が少ないというより,“楽しさ”や人間的・芸術的な部分に力を注いでいるからではないか」と整理した。
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AIのためのデータ整備(オントロジー)も語られた。カン氏は「ゲームはコンテキストもデータ量も膨大で,オントロジー化の明確な道標がまだない。まず大量のドキュメントやデータを適切に保存し,AI-Readyなデータへ変換することが基本。ゲーム数が多く完全な一元標準は不可能なので,多様な情報を柔軟に受け入れるデータ構造を作り,どのデータがどこにあるかをオントロジー化する。
企画書やソースコードまで含めた関連性の整理に注力している」と説明。イム氏は「ゲーム制作用と非制作用のアセットに分け,オントロジーに基づくカタログ『データ・ファウンデーション』を構築。グローバル企業ゆえEUのAI規則や各国の法律も考慮し,試行・制作・パブリッシングの領域を分けてガバナンスを築いている」とした。
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最も“ホットな論点”がコストだ。カン氏は「ボトムアップ普及のためツールを支援した結果,コストが想定を大きく上回って急増した。だが本質はそのコストがどれだけ価値ある業務につながったか。十分な価値があるならコストがかかっても問題ない。例えば開発期間が1か月短縮されるなら,相応のトークン費用は十分に見合う。トークン使用量や活用パターン,プロジェクト進捗を総合的に分析している。
狙いはトークン削減そのものではなく,より大きな価値・より面白いゲームにつなげること」と語る。次に大きいのは教育コストだが「各部門の試行も教育の一環で,結局トークンコストに置き換わる」とした。
KRAFTONはトークン費・エンタープライズシート・個人サブスクの3コストを一括で見るダッシュボードを構築。「『コストを削れということか』と『トークンを多く使えということか』が同時に出たが,答えは組織の成熟度次第。リテラシーが低い組織はむしろ多用を奨励し,成熟した組織には効率的な利用を促す。
次段階としてLLMモデルのコスパを点数化した料金表を社内に展開し,各自が選べるようにした」(イム氏)。コストの変動性については,カン氏が「下期コストの予測が最大の悩み。日々データを入れても祝日一つで結果が変わる。それでもコスト予測モデルを作り続け,プロジェクト単位で必要予算を見積もれる時代を目指す」。イム氏は「変動要因はベンダー側の裁量が大きい。利用量が多い強みを生かし単価交渉を進めている。価格競争の先に独占が生じる可能性に備え,自社ファウンデーションモデルも開発中」と述べた。
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組織・ワークフローの変化について,カン氏は「AIネイティブなワークフローの姿はまだ不透明。まず既存業務を細分化・標準化し,各プロセス単位をエージェントが実行できる形に整理している。AXを単なる効率化と捉えれば同じコンテンツを2$301C3倍量産するだけ。重要なのは人が何に集中すべきかを定義し直すこと。CS業務なら,マクロ的な定型回答を速く返すことではなく,業務の本質=ユーザーの不便をいかに的確に解消するかにAXを適用すべきだ」と語った。イム氏は「『ワーク』と『ワークフロー』の切り分けに悩んだ。今は全社的インパクトを狙うプロジェクトで,現場の業務を一つのつながったチェーンとして再構築している。Slackで依頼を受け処理して返す一連を,AIで自動化する取り組みを進めている」とした。
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競合かパートナーか,という問いには両者とも“仲間”と答えた。イム氏は「韓国を代表する2社が本当に同じ悩みを抱えていると分かり,良き仲間に出会えたと感じた。AXに取り組む皆が仲間だ」。カン氏は「『なぜ自分にこんな試練が』と一人で抱えていたが,VPと話すうちにKRAFTONも多くの悩みを抱えていると知った。
今はトークンを多用を奨励する組織と効率利用を促す組織に分けるという発想が大きなヒントになった。『多用してでもAXを進めるべき』と『コストを削るべき』という2つの考えが常に頭の中でぶつかっている」と語った。
評価基準については,カン氏が「現在は業務がどれだけ具体化・エージェント化されたかで測る。短期は時間とコスト削減=キャッシュ効果,長期は新ワークフロー構築や会社の体質変化,これまで不可能だった価値の創出という定性面も評価に組み込む。
効率性だけでなくどれだけ革新的かまで測れる基準を作る」。イム氏は「評価基準を設けること自体が危険だと考え,可能な限り設けない。アプリストアの採用や交流の度合い,試行錯誤を共有し学び合うこと自体をAX資産の蓄積として重視している」と対照的な姿勢を示した。
ジュニアへのメッセージとして,カン氏は「ゲーム産業は常に変化とともに成長し,技術が変わるたびに新たなチャンスが開かれてきた。AIへの恐怖より期待に重心を置いて一歩ずつ進んでほしい」。イム氏は「真のAIネイティブは,これから業界に入る皆さんだ。固定観念がなく,あらゆることにAIを使える。どんなゲームやビジネスを生むのか楽しみだ」と語り,モデレーターは「この転換をうまく越えれば,人の力だけでは作れなかったより創造的で面白いゲームを作るスタートラインに共に立てる」と締めくくった。
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