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[インタビュー]猫,潜水艦,そしてキリン。元SIE・吉田修平氏がBICで見た,韓国インディーの現在地。「もう2,3年したらドカンといくかも?」
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印刷2025/09/11 11:30

インタビュー

[インタビュー]猫,潜水艦,そしてキリン。元SIE・吉田修平氏がBICで見た,韓国インディーの現在地。「もう2,3年したらドカンといくかも?」

 「遅れて登場ってまた書かれたくないからね」

 そう苦笑しながら待ち合わせ場所に姿を見せたのは,元SIEワールドワイド・スタジオのトップで,いまではインディー界隈の守り神のような存在になっている吉田修平氏だ。

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 世界中どこにも出没する氏だが,今回の舞台は,韓国・釜山のインディーゲームフェスティバル「BIC 2025」だ。G-STARのような巨大イベントが「見本市」であるのに比べ,ここBICは業界の「実験場」。等身大の挑戦や,まだ形になりきっていない実験的なタイトルたちが,所狭しと並んでいる。

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 釜山の港町は,古来より大陸と海を結ぶ玄関口として栄えてきた。その昔は交易の拠点であり,今も漁船とコンテナ船が行き交うこの都市に,近年はもうひとつの“貨物”が運び込まれるようになった。それが,ゲームだ。
 G-STARも開催されるイベントホールであるBEXCOに足を踏み入れると,派手な電飾や巨大スクリーンはなく,長めの机1個分くらいの小さなブースが,整然と並んでいる。そこに集まっているのは,大手メーカーの名刺を持たない若いクリエイターや学生たちで,BICは,韓国における“草の根のゲーム文化”が芽吹く場所となりつつあるのだ。

 BICに初めて訪れたという吉田氏は,ここで「韓国インディーは確実に変わりつつある」と感じ取ったという。

 インディーゲームのイベント会場にいると,氏はただのゲーム好きのおじさんが喜々として徘徊しているかのように見える。業界の重鎮であるにも関わらず決して特別扱いを求めず,歩き回り,ブースを回り,開発者と雑談し,気になる作品があれば長時間腰を据えて学生と一緒に遊ぶ。そこには華やかな基調講演や壇上でのスピーチはなく,ゲーム好きとしてBICというイベントを感じ取っているだけなのだろう。

 「大手5社が強い国だけど,若い人たちは独立し始めている。日本より早く動くかもしれない」―――そう語る口調には,世界のインディーシーンを歩いてきた人間ならではの説得力がある。
 実際,氏はSIE時代からインディーの価値を誰よりも早く信じ,支援を続けてきた人物だ。「風ノ旅ビト」や「No Man’s Sky」といったタイトルを積極的にサポートし,“小さなゲームが業界を変える瞬間”を何度も目の当たりにしてきた。その経験があるからこそ,彼の言葉は単なる感想ではなくて,裏付けのある実感として説得力を持つ。

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 「ビデオゲームの語り部たち」第41部は,元ソニー・インタラクティブエンタテインメントの吉田修平氏に話を聞きました。初代PlayStationの立ち上げからプラットフォームの発展に貢献し,インディーゲームにも注力していた吉田氏ですが,SIEを退職してからも,多忙で充実した日々を送っているようです。

[2025/05/09 07:00]

 このインタビューは,吉田氏が会場で実際に遊んで気に入った作品を挙げながら,韓国インディーの“いま”をどう見ているのかをまとめたものだ。ひたすらに雑談のような会話が続くが,現場で得た手触りをそのまま言葉にした,いわば「BIC観察記」とも呼べるものだ。
 インディーとAAAの狭間で揺れるゲーム業界の“現在地”を,氏のクールな視点を借りてちょっと覗いてみよう。

吉田修平氏の「BIC 2025」ピックアップタイトル

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Fantaskech / ファンタスケッチ(PC) Steam /
BATHYSPHERE(PC Steam BIC 2025

4Gamer:
 すいません,急にお願いしたのにお時間ありがとうございます。

吉田修平氏(以下,吉田氏):
 いや実は結構プレッシャーありましたよ。

4Gamer:
 ぷ,プレッシャー?

吉田氏:
 また遅れたらどうしようって(笑)。

4Gamer:
 あぁ……20分遅れたやつですね(笑)。

※BitSummitでの弊誌インタビューに20分遅れて登場した模様。その直前にインタビュールームの様子を見たときに「まだ来ないですTT」とみんな関係者が泣いていた。まぁ本当は20分ではなくて……。

吉田氏:
 「また吉田さん遅れて登場」と書かれてしまう。

4Gamer:
 いやいや,あのときはありがとうございました。
 引き続き今回もお話聞いちゃうんですが,昨日今日と見て回って,どんな感じでした? いいものありました?

吉田氏:
 ありましたね。このイベント自体に来るのが初めてだったので,どんな感じだろうって思ってて。
 昔のソニーの同僚からは,「すごくいいインディーのイベントだよ」と聞いてて,「韓国のインディーゲーム見るんだったら,BIC Festivalが一番だ」と。

4Gamer:
 あぁそれはそう思いますね。BICはかなりいいと思います。

氏がG-STARに呼ばれたのは2023年だ(関連記事
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吉田氏:
 G-STARには1回呼ばれて行ったことあるんですよ。昨年だったかな? その時はもうインディーゲームがほとんどなくて。

4Gamer:
 あれは「いわゆるゲームショー」ですからね。

吉田氏:
 そうですね。それこそPC,モバイル,MMO……みたいな感じだったので,もうこれはインディー不毛の地だな,と思ってました。でもBICに来てみて,全然たくさんあるじゃないかと。やっぱり韓国のデベロッパーのタイトルは多いけど,それもすごくいいなーという。

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BICと同じ会場を使っているが,大手の皆さんが派手に壁の場所取りをしているG-STAR
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4Gamer:
 いやお勧めする前に来ていただけてよかったです。韓国は,とりあえずBIC見ておけば大体OKですよインディーは。

吉田氏:
 韓国って,大手の会社が5社ぐらいあるじゃないですか。

4Gamer:
 そうですね。「3N+2K」とか。

※この手の呼び名は時代と共に変わっていくのが韓国の常だが,とりあえず最近は「NEXON」「NCSOFT」「Netmarble」の3Nと,「KRAFTON」「Kakao Games」の2Kが大手とみられている

吉田氏:
 もうそれ以外では,独立系の会社があんまり多くないっていう状況だったのが,ほんとに変わってきてるんだというのを感じましたね。
 若い人達に話を聞いても,デカい会社で経験積んで独立してる人もいれば,最初からインディーゲームでやってますという人たちもいて,とてもいいなぁ,と。

4Gamer:
 なんというか親近感が持てる空気感なんですよね,言い方難しいですが。

吉田氏:
 そう。例えば中国人って,むちゃくちゃ企業家精神が旺盛じゃないですか。

4Gamer:
 そういう感じありますね。

吉田氏:
 そのへんちょっとアメリカ人っぽくて,なんかあったらガーッと進んじゃう。日本人ってそれの全然逆ですよね。同じ会社に長く居続けたいし,もし自分たちに力があっても,ずっと会社にいた方が気が楽……みたいな。
 韓国人の性格はその中間くらいと聞いてたんですよね。「チャンスがあったらやる」けど,中国人ほどガンガン動くわけでもない。でもそろそろ,勢いが出てきてるのかな? という感じはありますね。

4Gamer:
 あぁ「中間くらい」っていうのは言い得て妙ですね。すごく似た空気感を感じるのはそのせいなのかな。

吉田氏:
 去年来た人に聞いてみたらゲームの数も増えてるし,ゲームの全体的なクオリティも上がってるということなので,まぁこれは日本もそうですけど,やっぱりここもそうなんですね。

4Gamer:
 私も去年から来始めたばかりですけど,確かに去年よりさらに1段レベルが上がってる気はしますね。BICの運営委員長にも言ったんですが,インディーだからさすがにちょっとはクオリティにバラつきがありそうなのに,それがほとんどない。

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 世界にインディーイベントは数あれど,まだあまり知られていないのが韓国の「BIC Festival」だ。8月のど真ん中に,暑い都市釜山で開催されるイベントで,厳正な審査を通ってきたタイトルだけが展示されているという。今年変わった新しい運営委員長の時間をもらえたので,ちょっと話を聞いてみよう。

[2025/08/29 12:00]

吉田氏:
 でもこのお客さんの少なさはさ,ちょっとショックだな。昨日はビジネスデーだったのでお客さんはまぁ少ないよなと思ってたけど,今日は土曜日なのに昨日くらいしかない。

4Gamer:
 そうなんですよ……これなぜなんだろう。

吉田氏:
 すいてるとかなり遊べるからいいんだけど,これはこれで心配になりますよね。まだ韓国ではインディーゲームの市民権というか,一般的な認知度が低いのかな? っていうのが私の仮説です。
 日本がずっとそうだったわけじゃないですか。それこそコロナ前ぐらいのタイミングから急激に市民権を得てきて,それこそインディーゲームデベロッパーをテーマにしたテレビ番組が出来たり,大手さんがいろんなスポンサーとかコンテストやったり,もうわーっとすごい勢いで日本で広がってますけど,そこに至るちょっと手前くらいなのかな,という感覚です。

写真から見ると密集具合が全然違う「BIC 2025」(オンライン&オフライン参加者数合算で3万8273人)と今年の「BitSummit the 13th」(のべ5万8065人)だが,どちらも昨年と比べて観客数が1.5倍になっているという
画像ギャラリー No.009のサムネイル画像 / [インタビュー]猫,潜水艦,そしてキリン。元SIE・吉田修平氏がBICで見た,韓国インディーの現在地。「もう2,3年したらドカンといくかも?」 画像ギャラリー No.010のサムネイル画像 / [インタビュー]猫,潜水艦,そしてキリン。元SIE・吉田修平氏がBICで見た,韓国インディーの現在地。「もう2,3年したらドカンといくかも?」

4Gamer:
 いやでも実はですね,去年来たときはもうちょっと混んでたんですよ。

吉田氏:
 このイベントですか?

4Gamer:
 ええ。ちょっと通路が狭いなぁ動きづらいなぁ,っていうくらいには。

吉田氏:
 同じ場所で?

4Gamer:
 です。同じ日程,同じ場所です。

吉田氏:
 なぜなんでしょうね。

4Gamer:
 さっきちょうど僕らも話してたんです。「なんで今年こんなにすいてるの?」と。

吉田氏:
 そうなんですね。去年はたくさん来てて,イベントの評判も良かったんですよね,きっと。なのにリピート客が……?
 謎ですねえ。

4Gamer:
 取材はしやすいんですけど。

2006年のTaipei Game Show(4Gamer取材記事一覧
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吉田氏:
 BtoBのミーティングブースも全部余ってるじゃないですか。
 まぁこれからなのかな。例えばTaipei Game Showもそうだったんですけど,ゲームは増えてるんです。現地のデベロッパーさんはたくさん作って,良いものも出始めてるんだけど,海外のパブリッシャーが来ていない。ゲームのスカウトとかが来ると,BtoBみたいな場所が一気に埋まるじゃないですか。またはDevolverさんみたいにブースを出したりとか。

4Gamer:
 インディーパブリッシャーは,ほぼ韓国企業しかいませんね確かに。

吉田氏:
 ね。Devolverさん以外は,海外のインディーパブリッシャーがいないですね。人も送りこんで来てない風ですし。

4Gamer:
 業界の人と誰とも会わないですもん。ラクでいいですけど(笑)。

吉田氏:
 ゲームどんどん遊べるし(笑)。
 なのでまぁ韓国のインディーゲームが今増えてるぞ,いいゲームが出始めてるぞ,というのはなんとなく気付き始めているけど,まだ人が来るところまで至ってないっていう感じなんですかね。
 もうあと2,3年したらドカンと行くんじゃないかなという期待はあります。

4Gamer:
 韓国ゲーム業界も,まさにコンソール/PCにシフトしてる最中だし,そのあたりも絡めて何か大きく動きそうですよね。

吉田氏:
 そう,いきなり来ましたよね。
 それこそNEOWIZさんのインタビューにもあったように,「Lies of P」以降はもう急にみんな気付いて。あと中国の政策でゲーム出せなくなりましたからね。韓国大手パブリッシャーも,中国市場に寄って期待してたわけじゃないですか。そこで稼げないとなって,海外のアジア以外を見たときは,やはりコンソール/PCだということで。

4Gamer:
 まぁモバイルで勝負するのはなかなかつらいですよね。

吉田氏:
 だから,違うほうに投資しようという感じですよねいま。まさにNEOWIZさんがそうですけど,「Lies of P」以降は,開発ラインをモバイルからPC・コンソールにシフトして。KRAFTONさんとかSmilegateさんとかも結構投資してますよね。

4Gamer:
 8割以上がPC・コンソールらしいですからね,NEOWIZ。

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 2023年の夏くらいだったか,「NEOWIZがコンソールへとシフトするようだ」という噂を聞いた。ちょっと話を聞いてみたいと思っていたのだが,なかなかその機会はなく,今年のG-STARの出展リストにNEOWIZの名前はなし。ダメ元で連絡を取ってみたらすんなりOKをもらえたので,背景などをいろいろ聞いてみよう。

[2024/12/11 12:00]

吉田氏:
 その流れが来てて,若い人たちも独り立ちして世界で売れるというのを目指す流れがきてるし,さっき言った国民性の問題でこういう風になると,日本よりも早く韓国の方が動く可能性はあります。
 ……というのを肌で感じながら色々見て,いくつかすごい気に入ったのがありまして。名前出してもいい?

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