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神谷英樹氏×ヨコオタロウ氏が創作哲学を語り合う。ゲーム作りの現実に対するスタンスや,邪悪なテクニックをお披露目[G-STAR 2025]
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印刷2025/11/14 18:56

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神谷英樹氏×ヨコオタロウ氏が創作哲学を語り合う。ゲーム作りの現実に対するスタンスや,邪悪なテクニックをお披露目[G-STAR 2025]

 G-STAR 2025と併催のゲームカンファレンス「G-CON 2025」で,セッション「先見の明を持つゲームデザイナーたちの特別対談 ― 神谷英樹×ヨコオタロウの創作哲学」が行われた。

 壇上ではクローバーズの神谷英樹氏と,ブッコロのヨコオタロウ氏が,いくつかのお題をテーマにそれぞれの創作哲学を語っていった。
 モデレーターを務めたのは,ファミ通グループ代表の林 克彦氏だ。

写真左から神谷英樹氏,ヨコオタロウ氏,林 克彦氏
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神谷氏の担当作は「バイオハザード2」「デビルメイクライ」「ベヨネッタ」「大神」など。ヨコオ氏の担当作は「ドラッグオンドラグーン」「NieR」などが有名
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 開口一番,「どうも,ゲーム業界の寄生虫ことヨコオタロウです」と,韓国語の同時翻訳がしっかりとなされたのか気になるあいさつで壇上を苦笑いさせ,セッションはなごやかにスタートした。

 最初はお題は「互いの印象」だ。
 神谷氏は「世の中にはいろんなゲーム会社で,いろんな人が作品を作っているが,誰が作ったのか伝わっていないものも多い。そんななか,ハッキリと制作者が際立っているのが,ザ・ヨコオタロウな作品を作ってるヨコオさんです」と語る。ユニークな作品を創っている人にはとくに興味が湧き,個人的なリスペクトの対象になっているとのこと。

 神谷氏の心情としては,ヨコオ氏は同士に近く,今回のセッションも神谷氏のほうから「一緒に出てください」と頼んだという。

 一方,ヨコオ氏は「神谷さんはアクションゲームへのこだわりを感じる人。なかでも手触りが重視されていて,シナリオにフォーカスしている自分とはジャンルが違い,尊敬している。そして神谷さんがデビルメイクライやベヨネッタなどの優れたアクションゲームを作ったのを見て,俺はもう(そのジャンルは)作らなくていいやってなった」と返した。

 これに神谷氏も反応し,「自分が作るときはコントローラと脳みそが直結して遊べるものを重視しているが,シナリオは得意ではないので,モノを書ける能力はうらやましく思う」と称賛した。

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壇上にはヨコオタロウ氏の本体(?)のみが座っていた
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 続いて「ゲームの企画を立ち上げるとき,どんな考えからスタートしているのか」といったお題が投げられた。

 はじめにヨコオ氏は「夢がないけど」と前置きしつつ,「ゲーム作りの前提にどれほどの時間とリソースがあるかで,“夢”の大きさは変わる」と述べた。考えるべきはスタッフの適材適所,パブリッシャのリクエストであり,自らなにかやりたくてゼロからスタートしたことはほぼない,と言いきった。つまり,創作意欲ではなく現実問題からの思案だ。

 また,ヨコオ氏は着想をストックせず,アイデアは毎回新しく考えているとのこと。それは「若いころはアイデアがたくさんあったけど,作りたいものは作れたことがないから,絶望した。だから今作れるものを作ろうと,目の前に並べられた素材で,お客さんが一番楽しんでもらえるものを調理してきた」というスタンスからきている。
 そのうえで,スケジュール設計はいまだにうまくできてきたとは言えないことから,今後も個人的に課題にしていくという。

 神谷氏も「夢がないという意味でヨコオさんに近い」と語る。ただ,フリーランスな外注仕事が主流のヨコオ氏に対し,神谷氏のキャリアはゲームメーカー勤めが主だったことで,意味合いは少し違う。
 氏はカプコンからはじまり,クローバースタジオにプラチナゲームズにと,基本的には会社から「〜〜なゲームを作ってほしい」というオーダーを受け,それに対してのアンサーを練ってきた。

 氏の代表作としてよく挙げられるカプコンの「デビルメイクライ」も,もとは「バイオハザードの続編をPS2で作ってくれ」というミッションから生まれた。クローバースタジオの「大神」も「新スタジオの看板になるようゲームを作ってくれ」と言われ,ユニークさを重視した。こういった,なにか土台になるオーダーが起点になっている。
 そのため,なにもきっかけがなく,「なんでもいいから作って」と言われると,もしかしたら難しいのかもしれないと口にする。

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 神谷氏は過去,「ある有名なIP同士をコラボさせるゲームを考えて」と言われたことがあった。そこで任天堂の「大乱闘スマッシュブラザーズ」を連想しつつ,同作とは異なるアプローチを考えた。
 それが「全キャラクターを一斉に画面に出現させる」「巨大な拳で相手を殴る」といったアイデアであったが,この企画は結局なくなってしまい,自分で考えたアイデアを引き出しにしまうことになった。

 しかし,後年になってその引き出しを開いたのが,カプコンの「ビューティフル ジョー」だったという。
 神谷氏は「ゲームを作るときは,その作品にしかないメカニズムを入れ込むことに専念している。それが僕がゲームデザイナーとしてやっていくうえで,プライドを持っていきたいところ」と強調する。

 一方,ヨコオ氏は自分ならではのオリジナリティは考えず,「ゲームを買ってもらう理由を作りたい」とした。
 おもしろいゲームは世の中に多い。そして「ベヨネッタでいいなら,ベヨネッタでいい」などと言える名作も多い。
 そのなかで「おもしろくなくてもいいから,買う意味をゲームに与えたい。例えば好きなアイドルが出てくるから買うという信条も,1つのアプローチ。そうしたやり方次第で,ゲームはより幅広いことをできる。おもしろさだけが人を引きつける引力ではない」と語る。

 引力という言葉に,神谷氏も共感を示す。その一例として「ゲームサイトなどで記事のサムネイルを見たとき,クリックしたいゲーム内容にしたい」と説明してくれた。そういった細部の露出にまで届く絵作りをしたいとの意味合いだったが,こちらとしても耳の痛い話だ。

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 お次は「〜〜というシチュエーションがあったなら,2人はどういうゲームを作るか」という,発想力が試されるお題だ。

 最初は「あなたの目の前に鬼がいます。どうやって白熱なバトルを設計しますか?」というもので,漠然とした質問だけに解釈のしようはいくらでもある。ゆえに見えてくるものもある。

 これにヨコオ氏は「アクションは得意じゃないので,神谷さんにバトンタッチするとして,自分はシナリオの方向で考えます。例えばゲームでは,ただ単にボスをドーンと置くのではなく,プレイヤーが倒したくなる理由を作るのが大切」と述べる。

 課題解決の方法は「家族を殺されたから復讐したい」といった理由づけだ。それも1つだけだとシンプルすぎるので,「あいつは土地も奪った」「父は自殺に追いやられた」「妹も食べられた」などと,複数の要因によるストレスを積み重ね,最後に倒す展開に持っていく。
 まさにヨコオ作品で思い当たる節はいくつもあるだろう。

 ヨコオ氏にとってボスは,プレイヤーに嫌なことをする存在だという。「だから性格が悪い人ほどボス作りがうまい」と持論を展開すると,神谷氏は「こういう講義をぜひ,うちの会社でしてほしい」と頼んでいた。

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 対して神谷氏は「家族の命を握られているギリギリのシチュエーションをヨコオさんが用意してくれるなら,僕は3Dアクションで,特別なバトルのためのメカニズムをイメージします」と答える。

 氏は「ザコ敵と戦って,戦って,戦い続けて最後に出てくるのがボス。そのときにプレイヤーの感情を乗せられているなら,ザコ戦と同じシステムだけでなく,ボスでだけ使えるアクションを用意する」という。こちらも神谷作品ではいくつも実例が思い浮かぶ。
 一例としては,敵を組み伏せて殴りつける連打アクションだ。連打操作はプレイヤーの感情を盛り上げるものとして有効だという。

 なかでもベヨネッタでは,巨大ボスと戦ってもらうだけでは平凡に見えたため,ステージ自体を動かした。プレイヤーはその瞬間まで広く平らな地面で戦っていたと思っていたら,カメラが引くことで,「実は危険な崖際で戦っていたことに気付く」という演出だ。

 極論,ゲームは鑑賞する娯楽ではなく,干渉できる娯楽である。だからこそ,プレイヤーの体験を揺さぶるものが必要と考えていると明かした。

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 続くお題は「感動する場面を作るならどうする?」

 先手の神谷氏は「特別,プレイヤーを感動させる作り方は意図しない」と述べた。ストーリー進行の移り変わりは気にするが,感動させるポイントは意識しない,ということらしい。

 ここで,氏は「音楽」を例に挙げる。音楽は曲の旋律だけでなく,聞く場面によって与える感情が変化する。つまり,「このBメロの入りで泣かす」などと考えて音楽を作るのではなく,曲全体の完成度と使用するシーンが泣ける曲という属性を与える,といった意味合いである。
 先ほどの話と同様,作品全体の一体化を大切にしているようだ。

 これにはヨコオ氏も共感を示した。「僕も感動させようと思うことはないし,岡部さん(NieRなどでタッグを組んできた作曲家の岡部啓一氏)に曲を作ってもらって,曲から物語を考えることがある。あと,悲惨な状況をあえて敵側に用意するかもしれない。仲間が最後に助けてくれる状況はスタンダードな話になりがちだけど,ボスが過去に子供を殺されていた,なんて状況でもっと盛り上げる要素を付け加える」とした。

 感動の一例として語られたのは「姉妹」。妹が飢えていて,姉はご飯を分けてあげるが,妹は衰弱して亡くなってしまい,ご飯が減った姉も亡くなる。ほかにも,武器もお金もない仲間キャラクターが,プレイヤーのために命を張って男気を見せるといったシーンを挙げている。こうした発想は,いわく「トッピングを足すイメージ」らしい。

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 次なるお題は「締め切り」について。ゲームクリエイターどころか,世界中の多くの人が付き合わざるを得ない片思いの相手の名だ。

 ヨコオ氏は,締め切りがないと延々と作り続けてしまうので,締め切りや予算があったほうがいいと前置きしながらも,「どうやれば納期をぶっちぎれるか考えましょう」とヨコオ節に方向転換。
 ただし,完成度50%のときはすべきではない。やるのは,完成度90%のときに「さらに30%増したいとき」だという。すると,9割の未完成品という概念に,パブリッシャ側も引くに引けなくなることから,いわばコンコルド効果で納期を延ばしてくれる。

 これは「邪悪なテクニックです」とのことである。

 ただ,納期の延長はクオリティアップの意図よりも,「そこを作らないと(作品として)完成しない。だから完成させるために増したい」という状況で考える。「ゲームをより良くしたい」は一生終わらない思索であるため,どこかで誰かが止めないとならないからだ。

 なお,氏はこれまでの担当作品で,完成時に「完璧に仕上がった」と思ったことはなかったという。
 けれど,発売から5年ほど経ってから見ると,いい感じに思えてきた作品も多かったそうで,以降は自分の感性を信じないことにした。自分がおもしろくても,100人の客の感想は違う。そして自分以外の感性に応えるために,買う理由をつけたいのだと回帰する。

 続く神谷氏は「スケジュールに関して,なにも言えることがない」とのこと。というのも,氏は(全体の)スケジュールを自分では毎回把握しておらず,周囲のスタッフに管理してもらっているという。
 「自分はフルスロットルでゲーム作りに挑むだけ。頭脳明晰な人ならスケジュールに全部盛り込めるかもしれないが,自分はできない。だから,どこかで諦めなければいけないときがある。でも,スケジュールを意識するとアクセルを踏み込めなくなって,作品の良さも生まれないから,常にアクセルを踏めるゲームデザイナーでありたい」と,己の役割を語った。

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 お題を終えると,2人の近況が語られた。

 神谷氏は現在,クローバーズを立ち上げ,スタッフも50人規模に成長し,「大神 完全新作」プロジェクトに挑んでいる。
 「自分は今もプログラムも絵も音楽も書けないけど,ディレクターとしてゲーム作りの舵取りをするための,いい環境作りはできた。信頼できる仲間を呼んで,その人たちがさらに信頼できる仲間を呼んで,濃度が高いスタジオになりました。楽しく仕事ができている今,自分は幸せ者だと思ってる。本当に,仲間に恵まれて運が良かった」と語った。

 ヨコオ氏は「よく,NieRの続編をなぜ作らないのかとか,ヨコオ仕事してないなとか言われますが,最近は途中で中断してしまうプロジェクトが多かったせいです。だから,仕事はしてたけど世の中には出なかった。お金はもらってるので個人的に問題はないが,アウトプットが世に出ていないから仕事してないように見られてる」とコメント。
 しかし,「変なものを出すくらいなら出さないほうがいいと思ってるので,そこにネガティブな感情はない」と付け加えた。

 最後は,現地の韓国人クリエイターにアドバイスが送られた。

 ヨコオ氏は「韓国は技術力が高くて,もう日本から学ぶことはないと思ってます。そのうえで感情の動かし方として,自分が『イヤだなと思うこと』に着目してほしい。例えばSNSを見ていてイライラすることがある人,その心の動きがヒントです。そのストレスはシナリオの種になります。そうした心の動きを逃さずにパッと捕まえて,シナリオに落とし込むと,プレイヤーの心をつかめます。そう考えると,SNSが宝探しの場所になるはずです」と,実にらしい助言を伝える。

 一方,神谷氏は「韓国のゲームは最近,ハッと目を見張るものが当たり前に存在するので,僕も負けずに作らないといけないと思ってる。そのうえで『この楽しさは,これでしか味わえない』というゲームがもっと出てきて,ゲームから作家性がにじむような人たちが増えていくと,ゲームシーンが世界的に盛り上がり,僕も同士ができてうれしく思えます。クリエイターの個性は国ごとに違うので,そうした強みを生かした作品を制作してください」と語りかけていた。

セッション終了後,来場者とのサイン会の一幕
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