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“手数料格安”のアプリ外課金を実現する「アプリペイ」。12月のスマホ新法で業界が変化する(かもな)今,追い風を受けるか[TGS2025]
本サービスはApp StoreやGoogle Playを通さず,“メーカー側”が“手数料格安”で有償サービスを提供できるものだ。
こうしたサードパーティが,いわばストア機能に対して参入する類例もあるにはあったが,今年はスマホ新法の後押しが強い。
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あらかじめ,話の焦点を握っている,スマホ新法こと「スマホソフトウェア競争促進法」について簡単に説明しておこう。
こちらは2025年12月18日に全面施行される新たな法律で,スマートフォンOS,アプリストア,ブラウザ,検索エンジンの特定ソフトウェア市場における寡占状態を是正し,自由競争を促すためのものだ。
端的に,スマホ新法の適用後は「寡占状態のストアをとおしたアプリ内課金以外の方法で,有償サービスの決済をしていい」となる。
このほかにもいろいろと是正案が膨大に盛り込まれているが,本稿に限ってはこれだけ覚えておけば問題ないだろう。
つまるところ,今後は「こっちで買うと石(有償通貨)が300円安いですよ!」などと宣伝し,アプリ外での決済に誘導できる。
ただし,手数料の削減が“企業側の収益”に向くか,“提供アイテムの充実”に向くかは,各社次第といったところである。
……なお,名目上はこうなるはずだが,本当に実現できるかは完全にはクリアになっていないとも聞く。というのも,各ストアなどのプラットフォーマー側の規約も加味すると,そうサラッとはいかないようで。
とはいえ,この大きなきっかけを前に足踏みしない者もいる。それが日本初のアプリ外課金サービスをうたう,アプリペイだ。
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TGSに出展していたアプリペイの売り文句は,こちらだ。
「アプリ外課金で手数料を5%に削減
アプリペイ導入でストア手数料が30%からわずか5%へ。」
上記で単純計算すると,以下のとおり。
※ゲーム提供企業の費用
別のストア:収益100万円−手数料30万円=70万円
アプリペイ:収益100万円−手数料5万円=95万円
この差額25万円は,収益の改善案としては非常においしい。高い高いと騒がれる各ストア手数料のくびきから逃れられるわけだから。
しかし,前述したとおり,ここで生まれた差額が「自社のふところに入れよう」になるか,「石の提供量を上げよう」になるかは不明だ。ユーザー側への還元に波及するかはケースバイケースというほかない。
それでも,アプリペイと連携している80タイトル以上のスマホゲームたちは,「パッと見で分かるお得さ」で提供しているようだった。なかにはTGS 2025と連動し,「石を買ったらTシャツのおまけ付き(TGS会場でお渡し)」といった施策を打つスマホゲームも見られた。
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アプリペイなどのサードパーティ製の決済手段は「タイトル側がどれだけ導入するか」が課題だ。やはり一部タイトルだけに限られると,それだけで外見が見劣りする。それに「アプリ提供企業が,自社で独自の決済手段を設けた」なら,これまた苦境になり得る。
単純な話,人気ゲームの大手メーカーたちが自社で仕組みを確立させたら,サードパーティは「それをできない中小メーカーの,なんとも言いづらいラインナップ」で客を呼び込むほかなくなる。
その点,アプリペイは連携タイトルが80タイトルほど。数だけだとなんとも言いがたいが,10月中旬には「モンスターストライク」が参画するなど,質のほうで見れば上々な流れが見えている。
あくまで極端な例だが,「セールスランキングTOP10のアプリ」を半分とはいわず3本でも確保すれば,途端にデカいビジネスに早変わりだ。それに外部課金移行率(どれだけアプリペイが使われるかの割合)も,平均30%から最大60%に達しているというのがウリらしい。
まあ,いきなり極端に傾くことはないだろうから,ソリューションサービスとして介入することは問題なくできるのだろう。こういうものを用意するだけでも,我々には計り知れぬコストがかかるのだから。
また,大手ゲームメーカー側が自社で決済手段を設けたらの課題についても,自分たちなりの活路は見えているらしい。
結論から言うと,Amazonや楽天市場やZOZOTOWNだ。取り扱う品々は大切だが,ストア自体が“盛り上がっている”と,それだけで客を呼び,勢いが連携先を増やし,流れが貫禄を生み出す。
こうしたブランディング主体で戦うなら,タイトル数だのといった値だけ見て勝負しなくてもよくなる。まさに発想の転換だ。
ともすると理想論的な道筋ではあるが,アプリペイはアプリ外課金サービスの界隈において,おそらくブッチギリの首位だ。しかし,広報担当は「ただ,今はサイトのデザインがこんな感じで……」と,良くも悪くも非常にシンプルなサイトのデザインを気にしていた。
実際,視認性はいいが,気にしたほうがいいと思った。だが課題として把握している時点で,解決されるのは時間の問題だろう。
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似た懸念としては「集客の課題」もある。仮定の話だが,上記した「差額が企業のふところに入るだけ」のパターンが横行すると,ユーザー側は結局のところ「どっちで買っても一緒だし,アプリ内課金でいいじゃん」になる。間違いなくそうなる。断言できる。
しかも,クレジットカードや電子マネーなどの決済手段が限られれば,使い勝手が悪いと判断され,これまたそっぽを向かれかねない。それ以前にサービス自体がユーザーに周知されなければ,「なにこれ? 知らないしいいや」で終わってしまう。目に浮かぶかのようだ。
だからこそ,ゲームメーカーもサードパーティも,アプリ外課金で自分たちだけWin-Winして終えずに,肝心のユーザーにとってどれだけお得な影響があるかを知らしめねばならない。でなければ,彼らを既存の寡占状態から脱出させるどころか,依存を加速させるだけだ。
が,その点もちゃんと考慮しているようだ。現状,アプリペイの決済方法はクレジットカードとPayPayだという。PayPay自体の普及率の高さはもちろんだが,スマホゲームユーザーのPayPay利用率の高さも,数字としてはっきり表れているそうだ。10月にはメルペイも追加され,その後もキャリア決済やコンビニ決済など,決済方法を順次追加し,ゲームメーカー,ユーザーの選択肢を幅広くカバーするとしている。
そのうえでの利用方法は「アウトリンク」(外部サイトに飛ぶURL)が主となる。メーカー側の裁量で使っていいURLの表示先では,自分たちで設定したゲームの有償アイテムを購入させられる。
続く問題は,アウトリンクをユーザーにどう見つけてもらうか。そこは「ゲーム公式サイト」や「インフルエンサー」が例として分かりやすい。公式サイトにバナーやお知らせで掲示されていれば,それだけで信用に値するだろう。また,インフルエンサーが動画やSNSでおすすめすれば,これまた分かりやすい導線が浮かび上がってくる。
さらに,どうやら我々ゲームメディアもURLを広める伝道者の一員だったらしい。タイトルAの記事を掲載したとき,そこにアプリ内決済よりもお得に買える場所をバナーなどでおすすめする,という関係である。こうした事情を知らずに聞いたが,メディアの者としてはすぐに納得できた。同時に,うちとは縁がなかったことも明らかとなる。ははは。
ただ,最大の課題である“アプリ内から直接飛ぶ”はかなっていない。決済自体はアプリ外だとしても,アプリ内で「外部で購入しますか?」の案内を一文出せれば,これこそが最も効果的な誘導方法のはずなのにだ。とどのつまり,それができなかったのが従来の世界で,それができる“かもしれない”になるのが,12月からの世界というわけだ。
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アプリペイが生まれた2023年ごろは,スマホ新法の気配などかけらもなく,自分たちのイノベーションなサービスに賭けていたという。しかし,2024年。大きな風が吹いた。スマホ新法の懸案のご登場だ。
アプリペイはTGS 2025の会期初日,公正取引委員会を迎えたセッションや,海外向けアプリ外課金決済についての講演を実施していた(どちらも気になって取材した時点で終わっていた)。とくに後者は,TGS直前にアプリペイのグローバル展開を発表したことに連なっているらしい。
この流れと勢いを見るに,同社の背中が追い風に吹かれていることは事実だろう。現状はBtoBの性質が強く,ゲームユーザーに対して幅広くアピールできていないところがある。アプリ内からのアウトリンク遷移の泣きどころも,これから可能になるかはいまだ不明。
しかし,同社と同サービスはおそらく,今回のTGS出展社のなかでも(可能性の大きさなら)トップクラスに壮大な夢を抱えられていて,目指せるポジションにもある。まさに世界的挑戦者だ。
当初は,アプリ内課金の規模がゲーム市場が一番大きいからと,この形を選んだだけのようだが,結果次第では,食でも服でもありとあらゆるジャンルのeコマースに,決済という領域で参入できてしまう。名前だけで支持されるようになれば,アプリペイの中核を成すオリジナルゲームだとか,暴挙だがダブルアップを望める成長案だって見えてくる。
などと,外から煽るぶんには気楽なものだが,当人らは堅実に切磋琢磨の真っ最中だろう。当面は年末に向けて,スマホ新法がどのような効果を発揮し,アプリペイをはじめとする既存企業がどう対処して,これを機と見て乗っかってくる新規参入者がどう出てくるのか。アプリ内外の決済にまつわる動向自体に注目していきたい。
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