2025年6月14日から22日(6月17日は休館)まで,東京・乃木坂の国立新美術館にて
「のこす! いかす!! マンガ・アニメ・ゲーム展 in Tokyo 2025」が入場料無料で開催中だ。
このイベントは2024年11月から京都国際マンガミュージアムで開催された企画の巡回展であり,文化庁による「メディア芸術連携基盤等整備推進事業」の成果として,マンガ,アニメ,ゲームのアーカイブ活動の実績が紹介されている。
本展は単なる過去の作品展示ではなく,今後どんなものを残す(収集し保存する)のか,そしてどのようにいかす(活用する)のかを,来場者にも一緒に考えてもらうための場でもある。
……と,しっかり説明するとお堅いイメージを持たれたかもしれないが,会場にはマンガ,アニメ,ゲームを愛する人にとって,心を揺さぶられる貴重な展示物が並んでいた。
「ペンゴ」(1982年 セガ)のポスター。筆者はリアルタイムで通過した世代ではないので,こんなポスターがあったこと自体が驚きだった
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テーブル筐体での展示。画面になんとなく違和感があったが,液晶ディスプレイにブラウン管のカバーを組み合わせ,当時の姿に少しでも近づけているという
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「オペレーションウルフ」(1987年 タイトー)。筐体に設置された銃(ライトガン)で画面を撃って敵を倒す,往年の大ヒット作だ。当時,筆者はゲームセンターへの出入りが禁じられていたので,温泉旅館で見つけて喜んだ記憶がある
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ゲームの展示では,アーケードゲーム筐体の現物だけでなく,ポスターやインストラクションカード(遊び方を解説した,筐体で提示するカード),サービスマニュアルといった関連資料も並べられていた。
案内してくれた日本ゲーム展示協会・代表理事の小出氏によれば,「アーケードゲームはアーカイブが特に困難なメディア」だという。ブラウン管を使用するゲームや大型筐体は,部品の入手性の関係で修理保全が難しい。
しかし,設計図などが残っていれば,遊べる状態でアーカイブできる可能性が高まるかもしれない。単にモノを残すだけでなく,体験できる形で未来へつなぐ重要性が分かりやすい例ではないだろうか。
「アウトラン」(1986年 セガ)の筐体
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ピンボール筐体「Skylab」(1974年 Williams)の展示は,内部の基盤も見える形だ
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それらを修理・保全する工房の様子も展示されていた
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「Skylab」回路図のコピー。原本がなくとも貴重な資料となることもある
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ゲーム,アニメ,マンガのメディアミックス展開は長い歴史を持つ。例えば,マンガ「ゲームセンターあらし」は,作者のすがやみつる氏がアーケードゲームに触発されて生まれ,後にアニメ化もされた作品だ。
アニメ「ゲームセンターあらし」の復刻セル
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作中によく登場する巨大画面をイメージした展示。実際に遊ぶこともできる
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巨大コントロールパネルには,「スペースインベーダー」作者・西角友宏氏や,すがやみつる氏のサインも
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また「DRAGON QUEST -ダイの大冒険-」は,「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…」の世界設定を元にしたコミカライズとしてスタートし,のちにアニメ化された。
近年,そのリメイクアニメが制作されたが,それに伴いゲームもリリースされている。これらの例は,3つのメディアの「親和性の高さ」を示している。
マンガの展示では,京都国際マンガミュージアムの伊藤氏が,さまざまな原画の保存方法や複製方法,および修復方法の実例を紹介してくれた。
劣化に強い和紙に絵を残す方法や,作者が自らスキャンを繰り返してベストな状態を探った「原画’」(原画ダッシュ)といった方法,さらには作者本人が長期保存や展示に向いた画材を使って描き直すといったアプローチなど,多様な試みがあるそうだ。
ちばてつや氏の「あしたのジョー」の矢吹ジョーと,ヤマザキマリ氏の「テルマエ・ロマエ」のルシウス。どちらも雁皮和紙に墨で描かれている
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萩岩睦美氏の「銀曜日のおとぎばなし」より《おやつ狩り》。元は光に当たるとすぐ変色するカラーインクで塗られた絵だったが,変色しにくい画材で作者本人が再現している
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こちらも萩岩睦美氏による再原画。すでにスクリーントーンなどの画材が入手しにくくなっているため,御本人が手描きで複製したそうだ
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それらに合わせて,漫画家が作画の際に使用した切り抜きや写真などの資料を集めたスクラップブック,そして制作中に着ていたという衣服まで展示されているのも興味深い。その時代を覚えている人なら,クリエイターたちの息遣いや,当時の制作現場の雰囲気を感じられるかもしれない。
アニメの展示では,日本アニメーター・演出協会の大坪氏が展示について説明してくれた。氏は展示物について簡単に説明しつつ,企画,脚本,絵コンテ,作画といった制作の各工程で何を行うのか,そこでどんな中間制作物が作られるのか触れていった。
演出家によって描かれる,映像の設計図にあたる「絵コンテ」。これらは「わすれなぐも」(2012年 プロダクション・アイジー)の中間制作物である
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こちらは背景美術を描く資料となる「美術設定」
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ぱらぱらマンガのようにめくれる複製原画も展示されている
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展示物の中でも目を引いたのは,今はほぼ使用されなくなったセル画を描くための「セル」や,絵の具,トレスマシンなどだ。
これらを使う技術では現場レベルでも完全にロストテクノロジー化しているそうで,1990年代までにまとめられた記事や書籍が,今や一級の資料となっているという。この事実は,メディアの進化の速さと,記録することの重要性を痛感させる。
実際に触れる展示物として,新たにセルに描き直したもの
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アートカラーと呼ばれる絵の具
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今回の展覧会で印象に残ったのは,これらの分野のアーカイブ手法はまだ確立されたものではなく,知見や資料が広く求められているということだ。
一般のユーザーが所有している個人的なコレクション,例えば印刷物をまとめたスクラップブック,ゲームであれば攻略本やファンが制作したMODなども,貴重な資料となり得るのだという。
改めて,「のこす! いかす!! マンガ・アニメ・ゲーム展 in Tokyo 2025」は,国立新美術館で6月21日までの開催となる。単純に展示を見て当時を振り返るだけでも楽しめるし,これを機に文化を未来へつなぐ事業に何か協力できそうであれば,各団体に問い合わせてみても良いかもしれない。