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印刷2025/12/06 12:00

プレイレポート

創造と創作が前へ進む力になる。傷ついたアーティストの心の旅を描く2D探索アクション「Constance」

 2025年11月25日にPC(Steam)でリリースされたConstanceは,ドイツ・ベルリンを拠点とするインディーゲームスタジオ・Blue Backpackが手掛ける2Dアクションアドベンチャーだ。

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 同スタジオは,「Trüberbrook」で知られる独立系メディア・映像制作会社btfのゲーム部門として活動を始め,2025年にゲーム開発へ特化したスタジオとして独立。独自の物語表現やアート性に重きを置いた作品づくりを行っている。
 また,日本のパルコが立ち上げたゲームレーベル・PARCO GAMESがアジア地域でのサポートやパブリッシングを担当していることでも,耳にしたことのある人はいるだろう。

 絵筆を武器に創作で困難を乗り越え,その旅のなかで心に傷を負った自分自身に向き合うという独特のプレイ感覚のある「Constance」を,実際にプレイして体験したものを通して紹介しよう。

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創造と創作が現状を変え,困難を乗り越える術となる。人の心を描く2D探索アクション


 「Constance」の主人公は,アーティストとして創作活動を続ける女性・コンスタンスだ。創作そのものは好きだが,近ごろは仕事が多忙で自分の作品づくりに向き合う時間が取れず,心と体のバランスを少しずつ崩していく。そしてある日,ついにパニック発作に襲われてしまう。

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 気が付くと彼女は,現実とは思えない光景が広がる不思議な世界にいた。
 コンスタンスは「絵筆」を携えた旅人となり,現実世界へ戻る手がかりを求めて各地を巡ることになる。この世界には悩みを抱える人々が暮らしており,旅の途中で彼らの抱える問題,そして自身の心の傷と向き合うことになる。果たして,その旅路の先に待ち受けるものとは何なのだろうか。

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 「Constance」は,いわゆる“メトロイドヴァニア”と呼ばれるタイプの探索型の2Dアクションゲームだが,その枠にとどまらない独自の魅力がある。
 まず挙げられるのが,手描きアートで構築された冒険世界だ。

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 コンスタンスが迷い込んだ世界は5つのエリアで構成されており,午後のテラスや夕暮れの遊園地,夜の天文台など,多彩で美しい風景が広がっている。
 それらのビジュアルは情緒豊かで,新たなエリアに足を踏み入れるたびに,まるでまったく別の世界へ誘われるような驚きがあり,探索を進める楽しさをより強く感じさせる。

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 一方で,こうした美しい風景のなかには恐ろしい罠も潜んでいる。無数のトゲが生えた巨大な壁がそびえ,暗がりや有刺鉄線が行く手を遮り,闇に覆われた歯車が往復するなど,不気味さと美しさが同居するコントラストが印象的だ。

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 美しくも敵意に満ちた世界を駆け抜けるには,絵筆の力が欠かせない。
 この世界では,絵筆は敵を斬りつけるように扱う武器にもなるが,本来は彼女にとって“表現”の手段であり,想像力こそが前へ進むための灯りとなるのだ。

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 世界の各所にあるキャンバス(上写真)を確保して「ヒラメキ」を得ると,身体をインクのように変化させて狭い通路をすり抜ける「ダイブダッシュ」,絵筆を突き出して攻撃する「ペイントスタブ」,空中に浮かぶフックポイントを連続して駆け抜けられる「ペイントストローク」といった能力が開花し,コンスタンスの行動範囲は一気に広がっていく。

「ダイブダッシュ」はインクになって狭い地形を通り抜ける。触れた敵にダメージを与えるなどの強化も可能だ
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 それらのアビリティはアクションゲームとしての新たな動作そのものであり,使いこなすにはある程度のセンスが求められる。
 たとえば「下突き」は,空中から急降下しつつ絵筆を突き出し,敵やトゲ地形を利用してホッピングするように移動できるアビリティだ。

 この能力を手に入れて間もない段階で,「風に乗って流れてくる風船を,下突きのホッピングで飛び移りながら渡っていく」という場面がある。これが試運転としてはなかなかの難度で,アクションゲーム好きとしては腕が鳴るところでもある。もちろん,成功すれば気分は実に爽快だ。

「下突き」があれば,風船を飛び渡って先へ進める。能力とアクションの腕前が揃って初めて難関を突破できるのだ
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 なお,各アビリティは「ペイント」ゲージを消費し,ゲージが足りない状態で無理に使おうとすれば“汚染”となってダメージを受けてしまう。
 闇雲に連発するのではなく,状況を見極めて的確なタイミングで放つ必要があり,このあたりの設計もなかなか玄人好みだ。

 地形の隅によどんだ闇をペイントスタブで晴らし,その闇が復活するまでのわずかな猶予をフルスピードで駆け抜ける。トゲ地形の合間にわずかに開いた隙間をダイブダッシュで潜り抜け,ペイントストロークで高速移動しながら次のフックポイントを素早く探す……。そうした一連の動作が決まったとき,自分でもほれぼれするようなアクションが楽しめる。

「ペイントストローク」の入手は,行動範囲が一気に広がる瞬間だ。なお,こうした能力が必要となる地形は,「写真」を取ってマップに貼り付けておける
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 新しい仕掛けに触れるたび,そして新たなヒラメキを得るたびにワクワクが増していくし,ヒラメキのなかには既存アビリティを強化するものもあって,コンスタンスがテンポ良く成長していく手触りがとても心地よい。

 これらの能力が開放されることで探索範囲が広がっていくのはメトロイドヴァニアの文法的な部分だが,そこに“創作”というテーマと“アーティストであるコンスタンスその人”を巧みに重ね,探索アクションとして落とし込んでいるのが本作の独自の魅力のひとつだ。

こちらがその「写真」。2D探索アクションは「今は進めないけれど,後で戻ってこなければならない場所」がたくさんある。本作ではカメラを手に入れることで,そんな場所をマップ上に記録できるのだ。行ったり来たりで迷いがちなプレイヤーにはありがたい機能
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 敵もなかなか手強い。特にボスは攻撃パターンが多彩なうえ,攻撃の隙も限られているため,コンスタンスの能力をフルに使いながら,集中して避け続けなければならない。

頭上は往復する弾で阻まれ,地面からは今にもスパークが放たれようとしている。これでも序盤のボスだ
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 たとえば,空中を舞うトランプで攻撃してくる道化師のボス「ジェスター」。彼との戦いでは,伏せられた4枚のトランプが出現し,コンスタンスが選んだカードによって攻撃パターンが変化する。一連の攻撃を切り抜けて,ようやく反撃のチャンスが生まれるという具合で,記憶力と集中力が求められる戦いとなる。

カードを操り,さまざまなパターンで攻撃してくる「ジェスター」。手ごわい敵だが,それはそれとしてその攻撃方法が美しい
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 中には,一見するとまったくダメージを与えられないように思えるボスや,攻撃が激しすぎてチャンスが訪れないように感じられる相手もいる。
 しかし,ちょっとした気づきの積み重ねと,コンスタンスの能力を的確に使いこなす工夫によって,必ず活路は開ける。
 やられてはリトライし,またやられては攻撃パターンを覚え……といった試行錯誤を経て,ついに勝利をつかんだ瞬間には,緊張から解き放たれる爽快感と確かな達成感が湧き上がることだろう。

無数の弾幕でこちらを攻撃してくることも。どう避けるか,腕の見せどころだ
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 ボスを倒したコンスタンスは,「涙」と呼ばれるアイテム(?)を手に入れる。あるものは「再起の涙」,またあるものは「内省の涙」と,名前からして意味深で,どうやらただのアイテムではないようだ。すべての涙を集めれば,コンスタンスを現実世界へ戻す列車が動き出すという。
 その列車は戒めのようなものでがんじがらめに縛られており,これもまた象徴的な存在に映る。果たして,この世界は一体何なのだろうか?

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 そして本作最大の特徴が,コンスタンスの“心の傷”に向き合うシステム。彼女が心のバランスを失うに至った現実における出来事の数々が,プレイアブルな形で再現されているのだ。

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 たとえば仕事にまつわるシーンでは,プレイヤーが実際に彼女のデスクトップを操作し,多忙に追われる様を疑似体験することになる。
 コンスタンスがPCにログインした途端,上司から「ポスターのロゴを15%大きくして,20px上にずらしてほしい」といった単純作業の指示が飛んでくる。複数のファイルに同じ作業を施している最中に,今度は同僚から「動画のラフをクライアントに見せたいから,できている部分だけ書き出して送ってほしい」と連絡が入り,作業の優先順位が次々と入れ替わっていく。
 そこへアシスタントから別件の依頼が届き,それに対応していると,同僚からの「動画を早く」「クライアントが怒っている」といった催促が重なり,画面の中はたちまち混乱状態になる。

ファンタジックな冒険世界とは真逆(?)な現実が,イメージムービーではなくプレイアブルなシーンとして描かれる
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 皆が「すみませんが」「頼りにしている」「さすが」といった建前の言葉を並べながら,実際には自分の用事を押しつけてくるその理不尽さは,ゲームと分かっていても腹立たしい。シーンが終わる頃には,コンスタンスと同じようにどっと疲れが押し寄せてくる。

限界を超えてしまったコンスタンス。プレイヤー自身がプレイして体験するぶん,苦しさを共有している感覚や共感も大きい。そのぶん, シーンや言葉が自身の経験と重なってつらく感じる人もいると思うので,そうした要素に不安がある場合はプレイ前に頭に置いておいてほしい
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 個人や小規模チームが手がけるインディーゲームには,制作者自身の身の回りの出来事や自身が抱えるものをテーマを扱う作品も多い。またそうした感情を表現する際,イメージ的な演出や会話シーン,象徴化された非現実的な空間を歩かせるといった“距離のある手法”が採られることがしばしばある。
 そうした心の問題を扱う作品に見られがちな象徴的な表現を持ちながらも,一方で非常に“直截的”なアプローチも取っていることが印象的だったのがこのコンスタンスの過去の描写だった。

 それは(我々の)現実とほとんど地続きのようなシチュエーションであり,彼女の抱えてきた重さや混乱がじわりと自分の感覚にまで押し寄せてくる。
 このアプローチには,制作者のテーマへの向き合い方がストレートに伝わってくるような切実さと鋭さがある。インディー作品ならではの表現の近さと,感情に踏み込む深さが強く感じられた。

こちらはメリーゴーラウンドの絵を描く創作活動の一シーン。最初は自分で選んだ色で絵を塗れていたのだが,途中からはどの色を選んでもスモッグのような真っ黒に。そして線も上手く引けなくなり,描き直しも増えていく。コンスタンスの心境が伝わるシーンだ
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 しっかりとしたアクションの楽しさに加え,人の心を丁寧に描く物語性も光る。同じBlue Backpackの「The Berlin Apartment」に続くPARCO GAMESのパブリッシングタイトル第2弾となる本作は,ファッションやアートなど多様なカルチャーを支えてきたパルコらしい,創作への理解と洞察が選び取った一作と言える。

 なお4Gamerでは,TGS 2024出展時に本作のディレクターであるSebastian Drews氏に話をうかがったプレイレポートと,PARCO GAMESのキーマンのインタビューを掲載している。開発者の考えやパブリッシャとしてのPARCO GAMESの姿勢などが気になる人はこちらをチェックしてほしい。


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[2024/09/30 15:25]
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 アート性の高いゲームは,「雰囲気重視でゲーム自体の難度は控えめなのでは」という印象を抱かれがちだ。しかし本作の難度はむしろ高めで,しっかりとした手応えが味わえる。
 ではゲームに慣れていない人には難しいかといえばそうではなく,充実したアシスト機能も用意されている。それらを使えば,アクションに不慣れな人でもプレイ自体は快適に進められるはずだ。物語の部分はしっかりローカライズされているので,物語の細部までしっかり追えるのが嬉しい。
 少しでも気になったなら,ぜひ触れてみてほしい。コンスタンスの旅は,自分自身を見つめる旅としても,きっと心に残るはずだ。

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