前作で印象的だった,形を変える拳銃「サービスウェポン」を構えるシーンは,今回の試遊ビルドには一度も出てこなかったが,代わりに主人公が握っていたのは,音を立てて姿を変える近接武器だ。
そしてその武器を振るいながら,キャラクターは宙に浮き,空中をダッシュし,逆さまになった部屋の壁を渡り歩いていた。
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銃から近接武器へ。文字にすればただの武器変更に聞こえるが,本作で起きていたのはそれだけではない。
近接戦闘が,空中コンボと三次元的な探索と分かちがたく結びつき,「Control」というシリーズが三人称視点アクションRPGとして大きく組み替えられていた――というのが,試遊を終えての率直な実感だ。
本稿では,その変貌ぶりを実機で触れた範囲で紹介しよう。
本題に入る前に,前作「Control」の枠組みを手短に整理しておきたい。前作の舞台は,FBC※と呼ばれる政府機関の本部「オールデスト・ハウス」だった。コンクリートが打ちっぱなしのブルータリズム建築が延々と続く,閉鎖的で巨大な建物だ。
そこに「ヒス」という超常的な現象体が侵入し,主人公ジェシー・フェイデンがこれを鎮めていく――というのが前作のおおまかな流れである。
※FBC……連邦捜査局(Federal Bureau of Control)。超常現象や異常物体を管理・隠蔽する政府機関で,「Control」の世界観の中核を担う組織
その前作から,本作では3つの大きな変化が起きている。主人公が変わり,舞台が屋外になり,銃が近接武器に置き換わった。順を追ってみていこう。
本作でプレイヤーが操作するのは,前作主人公ジェシー・フェイデンの弟,ディラン・フェイデン(Dylan Faden)だ。
ディランは人生の大半を,オールデスト・ハウス内部での監禁と,昏睡状態のなかで過ごしてきた。彼にとって,ハウスの外の世界に出ること自体が初めての体験だ。
従って物語は,超常の謎を解くという軸と並行して,ディランが「人間らしさを学ぶ」過程に焦点をあてていく。世界を救う前に,まず人間として外界に触れることを覚えなければならない主人公,というわけだ。
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FBCがディランをどう扱ってきたかが,なかなかに後味の悪い形で示される。FBCは彼を「P6」という検体名で呼び,15歳になるまでのあらゆる行動を記録/監視していたという。
試遊ではFBCの協力者であるゾーイが,ディランが幼い頃に大切にしていたウサギのぬいぐるみ「ミスター・ワッフルズ」の名前まで把握していることが,何気なく示される。
たかがぬいぐるみの名前だが,それを当人以外が知っているという事実が,ディランの失われた過去と,彼を被験体として見てきたFBCの非人道性を一息に突きつけてくる。こういう湿った感情の置き方は,いかにもRemedyらしい。
そして衝撃的なのが,姉ジェシーが出てくるシーンだ。ハウスを脱出した直後,ディランは前作の主人公であるジェシーと会話する(幻影かもしれない)。ところが当のマンハッタンは変わり果てており,ジェシーから「手遅れだった」と告げられる。
脱出の高揚が即座に絶望へ反転するこの場面は,本作のトーンを象徴していた。
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舞台が屋外になったことは,本作最大の変化だ。前作の閉じたコンクリート建築から,開けたマンハッタンの街並みへ。Remedyは「一目でこのゲームだと分かるマンハッタン」を目指し,光の表現やアートスタイルをまるごと作り直したという。
その本気度を物語るのが,ロケハンの徹底ぶりだ。
アートディレクターのElmeri Raitanen氏とリードレベルデザイナーのAnne-Marie Gronroos氏によると,開発チームは2023年にプロのロケーションスカウトとともに実際にマンハッタンを訪れたそうだ。
Googleマップでは決して見られないような路地裏や,特異なアングルを現地で徹底的に拾い,それをゲーム内に反映させたという。
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ただし,本作のマンハッタンは現実の街並みのままではない。ここで効いてくるのが「共鳴※」という超自然的な力だ。
※共鳴(Resonant/Resonance)……本作のタイトル「Control Resonant」の由来にもなっている,現実を歪ませる超自然的な力。空間そのものを物理法則から引きはがしてしまう
共鳴の作用によって,マンハッタンの現実は幾何学的に歪んでいる。道路が垂直にそびえ立ち,家具が宙を舞い,テレビ画面が異世界へのポータルと化す。前作のオールデスト・ハウスでも空間の異常はたびたび起きていたが,それが今回は屋外の,しかもニューヨークの街を舞台に展開する。見慣れた都市が物理法則を失っていく光景は,それだけで強烈だ。
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ここからは本作の核心,戦闘システムを説明しよう。
前作が「射撃+投擲」を軸にしていたのに対し,本作の戦闘の主役は,ディランが手にする変形近接武器「アベラント・フォーム」だ。
この武器の面白さは,戦闘中に音を立ててダイナミックに形を変えるところにある。試遊で確認できた範囲では,素早い突きとリーチをいかすドリル/槍,重い一撃で敵をまとめてなぎ倒す巨大ハンマー,そして高速の連撃を繰り出す剣といった形態があった。状況に応じてこれらを切り替えながら戦う。
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武器フォームは複数用意され,試遊ビルドでは3種の戦闘アビリティ,武器フォーム,8つのタレントポイントを自由に組み合わせるよう案内されていた。ゲーム内でも複数のビルドを試すよう促される。
演出面で印象的だったのが,武器そのものが声を発することだ。このアベラント・フォームは「委員会(The Board)※」の具現化でもあるとされ,使用時に,低く響くような不気味な声を漏らす。ただの近接武器ではなく,得体の知れない存在を握らされている,という感触がつきまとう。
※委員会(The Board)……前作から本作世界観の根幹をなす超越的な存在。アベラント・フォームはその意思が形をとったものとされる
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そして近接戦闘は,単体では完結しない。「浮遊」や空中ダッシュ,ダブルジャンプを組み合わせることで,滞空したまま敵を切り裂き,そのまま別の足場へと跳び移る「三次元的な戦闘フロー」が成立する。
地上で殴って終わりではなく,浮き,斬り,移動し,また斬る。この縦方向への広がりこそが,「銃から近接へ」という変更を単なる武器替えで終わらせない仕掛けだ。
近接にしたから機動力を足したのではなく,立体的に動き回るために近接という選択をした,というほうが近いかもしれない。
戦う相手についても触れておこう。本作の敵勢力は前作よりも増えている。
1つは前作から引き続き登場する「ヒス(The Hiss)」だ。色は赤で,既存のものを腐敗・変化させる性質を持つ。戦闘では高速で,しかも空中移動を多用し,垂直方向に広く動き回る。さきほど触れた本作の三次元的な戦闘も,この縦に動く敵への対応という意味でも,理にかなっているだろう。
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もう1つが新勢力の「モールド(The Mold)」だ。こちらは独自の形状を持ち,地下鉄のトンネルなどから街を侵食してくる。「甘く誘惑的な匂い」で人間を惹きつけ,感染を広げるという設定で,地下のような閉所――息の詰まるような空間を主な生息域とする。
地上を縦横に飛ぶヒスと,地下の閉所から這い上がるモールド。動きの質も生息域も対照的だ。
この2勢力は色彩的に補色の関係にあり,戦闘中でも視覚的にどちらがどちらか明確に識別できるよう設計されている。混戦のなかで瞬時に敵を見分けられるという,実用と演出を兼ねた作りだ。
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ここまで紹介してきた「歪んだマンハッタン」や「重力の狂ったステージ」は,技術的な裏付けがあって初めて成立している。
従来のゲーム開発では,重力が狂ったようなトリッキーな地形を作ろうとしても,その場で動かして即座に試す,という工程が難しかった。本作の開発チームはここに新しいワールドエディターを導入している。鍵になっているのが「USD※」という仕組みだ。
※USD(Universal Scene Description)……シーン(場面)の構造を記述・共有するための技術。本作の新エディターはこれを採用し,複数人での同時編集やリアルタイムの編集を可能にしている
USDを採り入れたエディターでは,オブジェクトを動かしてその場でテストプレイできる。だからこそ,道路が垂直に立ち上がり,重力が狂ったステージ(Gravity Anomalies)を,現実的な手間で設計できるようになったというわけだ。
描画を担うのはRemedyのNorthlight Engineで,その性能は前作「Control」はもちろん,同社の「Alan Wake 2」を超え,Remedy史上最高になるという。
本作が巧みなのは,その技術がはっきりと日本の映像文化に向けられている点だ。開発チームは具体的な作品名を挙げて影響源を語っている。
まず,今 敏監督の映画「パプリカ」だ。ディランの精神世界に入り込む場面のノンリニアな編集や,不条理な空間どうしのつながり方は「パプリカ」から多大な影響を受けているという。
次に「新世紀エヴァンゲリオン」。ボス戦の攻撃パターンや,幾何学的な共鳴パターンの演出,巨大な顔――共鳴体との戦闘デザインには,強い影響が見てとれる。
そして黒澤 明監督。映像の構図や演出を,開発チームが深く研究した対象として挙げていた。
海外のAAAスタジオが日本の映像を,空間設計やボス戦,画づくりのレベルにまで具体的に落とし込んでいる。USDという無味乾燥な略語が,「今 敏的な歪み」や「エヴァ的なボス」を実現するための土台なのだと知ると,技術と芸術が地続きであることが腑に落ちる。
続いてはキャラクターの成長まわりにも触れておこう。
ビルドの調整は「ザ・ギャップ(The Gap)」と呼ばれる特殊な空間で行う。方向キー下の長押しでここへ入り,能力(アビリティ)の振り直し,いわゆるリスペックや,武器のアップグレードを行える。
強化素材は戦闘から得られる。ヘビー・ヒスのような手応えのある敵を倒すと「腐敗要素」などの素材が手に入り,それを使ってビルドを磨いていく。倒して,集めて,組み替える,というRPGらしいサイクルが回る。
前述したように戦闘アビリティ/武器フォーム/タレントポイントの組み合わせは幅広く,自分なりの戦い方を作り込む余地は大きそうだ。
そして舞台のマンハッタンは「避難区域(Evacuation Zone)」など,複数のゾーンに分かれており,それぞれが独立した小さなオープンワールドのように機能する。一枚の広大なマップというより,性格の違うエリアの集合体だ。
これらを合わせると,本作は同社史上,最も自由度の高い構造を持つ「広大なサンドボックス」になる,というのが開発チームの位置づけだ。
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今回の試遊で最も記憶に残ったのが,ゲーム中盤の手前にあたる山場ミッション「シンクホール(The Sinkhole)」だ。
舞台は深い縦穴である。穴のなかには逆さまになった部屋や,壁面に配置されたドアがあり,それらを「浮遊」で渡り歩いて攻略していく。空間そのものを問題にした垂直パズルだ。上下の感覚が曖昧になるなかで,どの足場に浮き移るかを判断していく。戦闘の歯ごたえも相当に強く,アクションとパズルの両面でゲームの面白さを担保する。
このミッションへの作り込みについて,本作のPRディレクターは冗談めかして,「dying inside(中身が死んでいく)」と表現していた。完成度に妥協できず,少しの不備を見ても“死にそうになる”ほど作り込んでいる,という趣旨だ。開発側の並々ならぬこだわりが伝わってくる。
最後に操作系を簡単にまとめておく。
試遊環境はPlayStation 5 Proのパフォーマンスモードだった。L1はインタラクトや会話開始のほか,重力異常への侵入(Enter Gravity Anomaly)に使う。L2,R1,R2に3種の戦闘アビリティが割り当てられ,○ボタンが回避とダッシュ,×ボタンがジャンプと急加速の「サージ(Surge)」を兼ねる。□ボタンが攻撃で,△がサブウェポンの使用だ。
タッチパッドでマップを開き,方向キー下の長押しでザ・ギャップに入る。空中での立ち回りが多いだけに,ジャンプと急加速を同じ×ボタンに重ねた割り当ては,慣れるとテンポよく立体機動につながっていた。
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「Control Resonant」は,前作「Control」から相当に大胆な組み替えを施した続編だった。主人公はジェシーから弟ディランへ移り,舞台は閉じたオールデスト・ハウスから歪んだマンハッタンへ出て,戦闘の軸は銃から変形近接武器アベラント・フォームへと変わった。
そしてその近接戦闘が,浮遊や空中ダッシュと結びついて三次元的な戦闘と探索を生み,複数の勢力を相手に,縦に広がるアクションが展開する。
技術的にはUSDとNorthlight Engineが重力の狂った世界を支え,その世界観は日本の映像文化を明確な源として据えていた。
なかでも筆者が強く感じたのは,本作のすべてが「縦」でつながっているということだ。垂直にそびえる道路,地上を飛ぶヒスと地下から這い上がるモールド,逆さまの部屋を浮遊で渡る「シンクホール」――空間の異常も,敵の配置も,戦闘も探索も,例外なく上下方向への意識を要求してくる。
「銃を捨てて近接にした」という大胆な選択が,この縦の設計と噛み合った瞬間に,前作にはなかった立体的な遊びへと反転する。Remedyが「パプリカ」の不条理な空間接続に惹かれたのは,必然だったのだろう。
あの「Control」が銃を捨ててどこへ向かうのか――その輪郭だけは,実機ではっきりと見えた試遊体験だった。
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