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市村龍太郎氏が新会社「ピンクル」で挑んだ,うん〇とお〇っこまみれのパーティーゲーム「プリッとプリズナー」インタビュー[TGS2025]
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本作は,イラストレーターのカナヘイ氏が描くかわいらしいキャラクターがうん〇して,お〇っこする,4vs.2の非対称型対戦ゲームです。4人側の「どうぶつ(動物)」は,2人側の「ロボット」に捕まらないよう,エリア内で食って出してのてんやわんやで脱出を目指します。
詳しいゲーム内容は,以下のプレイレポートにて。
カナヘイ動物たちが食う寝る出す! うん〇に着目した“排泄型”脱出アクション「プリッとプリズナー」でプリプリったよ[TGS2025]
![カナヘイ動物たちが食う寝る出す! うん〇に着目した“排泄型”脱出アクション「プリッとプリズナー」でプリプリったよ[TGS2025]](/games/933/G093339/20250926070/TN/022.jpg)
市村龍太郎氏が率いるピンクルの第1弾タイトルが,東京ゲームショウ2025に出展された。カナヘイ氏の描く小動物キャラと,うん〇に着目した“排泄型”脱出アクションゲーム「プリッとプリズナー」は,お下品なのにカワイイが勝る。
TGS会期中のこと,同社の代表取締役社長の市村氏にお話を聞いてきました。市村氏といえば,スクウェア・エニックスで「ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君」や「ドラゴンクエストIX 星空の守り人」などを手がけた,業界の大物プロデューサー。
それがまたなんで,うん〇にお〇っこなの?
「悔いなく死ぬために,1本1本のゲーム作りを考えて,自らが楽しみながら作品に向き合っていきたい」
そう言って本作に臨んだ,今のお気持ちを聞いてきました。
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なぜ,うん〇の発想をひねり出したのか
4Gamer:
試遊で「うんぴ」と「おぴっこ」をたっぷり出してきましたが,あらためて「プリッとプリズナー」はどんなゲームなのでしょう。
市村龍太郎氏(以下,市村氏):
これは世界初じゃないかと思っているのですが,本作は動物とロボットが主役の“排泄型”脱出アクションパーティーゲームです。
僕は「Dead by Daylight」などの非対称型対戦ゲームをけっこう遊んでいて,あのシステムに魅力を感じていました。そこで当初は「みんなでワイワイできる鬼ごっこゲームを作ろう」と考えたんです。
ただし,本作はDbDのようなガチな感じではなく,2Dのかわいらしい絵柄。例えば「Among Us」や「スプラトゥーン」のポップさを参考にして,より参加障壁の低い対戦ゲームを目指してきました。
4Gamer:
これまで非対称型対戦ゲームの制作経験はありましたか。
市村氏:
いえ,なかったです。でも僕はどんなゲームを作るにしても,だいたい「こういう風に作るべき」というお作法みたいなものを自分なりに培ってきました。前職のときも,べつにRPGだけを作っていたわけではなく,けっこういろんなことをやっていましたしね。
シリーズ本編以外では,常に違うジャンルを模索して作る。プロデューサーとしてもクリエイターとしても幅を持つために,いろいろなゲームを研究する。新しいものをゼロイチで作ったり融合したりするときは,ゲームのことを網羅的に知っていないと成功しづらかったので。
そういう意味では,今回もまたチャレンジです。
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4Gamer:
ではまず,「排泄」のアイデアはどこから出てきたのでしょう。
市村氏:
やっぱりそこ気になりますよね(笑)。
最初に対戦ゲームの構図を考えたとき,動物とロボットの対立が思い浮かびました。そして動物側のらしさを深掘りしようとして,「生き物ならではの要素ってなんだろう?」と考えたとき,うちで飼っている猫のことを思い出したんですよ。猫ってトイレでうんちしたあと,いきなりブワーっ! て走っていくんですよね。
4Gamer:
うちの子もそうでしたねー。
市村氏:
ですよね。それを見て「これかも!」と。うんちやおしっこって,どんな生物でも行うことで,ちょっとバカバカしい感じにすると子供が喜ぶんです。それはある種の“世界中で共通して理解される概念”であるため,この分かりやすさを武器にしようと思いました。
4Gamer:
話だけだとコンセプトが尖りに尖っていますが,それらをマイルドにまとめ上げているのが,このビジュアル性だと思います。
絵面に関しては,当初から想像できていたのでしょうか。
市村氏:
狙っていたのはそのとおりですが,実際にこうなったのはすべて,イラストレーターのカナヘイさんのおかげです。
僕が前職で手がけていたタイトルの交流用スタンプを,カナヘイさんに制作してもらっていました。僕にとってカナヘイさんは天才で,今回もコンセプトをフワッと伝えただけなのに,動物もロボットもうんぴも,こんなにもかわいらしくまとめてくれました。
4Gamer:
ラフの時点で「これだ!」ってなったんですか?
市村氏:
なりました。「かわいらしい感じで」と言っただけで,これが出てきたんです。修正もほぼなくて,最初にポンッと出されたデザインをそのまま使っているものが大半です。しかも,ただかわいいだけじゃなくて,動物ごとにちょっとクセもあって。全部カナヘイさんの手腕ですね。
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4Gamer:
モチーフとする動物はどうやって決めたのでしょう。
市村氏:
一応,動物といったらな代表例をピックアップしつつ,「スマートフォンなどにある絵文字にラインナップされている動物」で絞っていきました。あれはワールドワイドで選定されているため,そこを踏まえれば自然とみんなが知っている動物を外さないで済みますので。
4Gamer:
実に効果的な選び方。
市村氏:
もちろん,現状はローンチ時点で想定しているラインナップのため,ほかにも入れたい動物のアイデアはまだまだあります。
4Gamer:
もう一方,ロボットはモチーフはない感じですか。
市村氏:
ええ。ロボットのほうは「上半身と下半身の2パーツで構成してほしいです」とだけ伝えたら,これが出てきました。こちらも想像していた以上のかわいらしさで,カナヘイさんには感謝しきれません。
4Gamer:
おそらく,このコンセプトでやろうとしたら,良くも悪くもビジュアル次第で方向性が左右されてしまいますもんね。
あらかじめ,ものすごーくデザインを詰めていない限りはギャンブル性も高かったところ,初手の一発で勝ちきったみたいな。
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市村氏:
だからほんとカナヘイさんってすごいんです!
非対称型対戦ゲームは基本,世界観に程度の差はあれど,主流はホラーテイストです。爆発的に流行したためプレイヤー人口は膨大ですが,雰囲気や3D操作的に“遊びづらい人”はいたはずです。
そこでかわいいに全振りした絵柄と,うんぴとおぴっこのバカバカしさも合わせたことで,より気楽に楽しんでもらえると考えています。
4Gamer:
子供はウンチ好きですもんねえ。
市村氏:
好きですねえ。それに海外の人からも好評でしたよ。
4Gamer:
あれ。海外だと,うんぴとおぴっこの語はどうもじるんでしょう。
市村氏:
例えば,英語だとうんぴを「プーピー(poopie)」,おぴっこを「ピーピー(peepee)」としています。ほかにもいろいろと用意しましたが,今のところ他地域の方々も「おほーっ!」って感じのリアクションをしてくださいました(笑)。
4Gamer:
無事に伝わっているようで(笑)。
このテイストをきちんと伝えるのはキモですもんね。
市村氏:
そうなんですよ。今は十数言語に対応していきたいと思っているので,それぞれのローカライズにも力を注いでいます。
4Gamer:
施策段階では,逆パターンとして「リアルな猛獣vs.機械がシリアスな世界でうんち&おしっこバトル」は考えませんでしたか?
市村氏:
それはまったく考えませんでした。うんちをリアルに描くともう,ビジュアルとしては最悪だと思いますので(笑)。なんとかバカバカしくしてかわいらしく仕立てることだけを考えていました。
それと遊びやすさです。ガチの非対称型対戦ゲームは精神的にヒリつく感じが醍醐味なのですが,それは転じてストレスにもなりやすいんです。だから僕も長時間は遊べないタイプでして。
とくに捕まえる側が1人だと,プレイを盛り上げなければならないゲームマスター的な重圧感もあって,人によっては避けてしまいます。実際,逃げる側しか遊べないという人はわりといますし。
4Gamer:
そこで,ロボ側を2体にしたと。
市村氏:
はい。2人なら協力している感覚を味わえますし,「負けたのは俺のせいじゃないし!」って精神的な負荷もそらせるはずですので。
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4Gamer:
1人用モードもあるんですか。
市村氏:
あります。1人用の「キャンペーンモード」を用意します。
やっぱり,いきなりオンラインで挑むのは気後れする人もいるはずなので,1人で操作練習をしたり,好みの動物やロボットを探したりできるよう,1人用モードは必須と考えています。
4Gamer:
ここまでの開発期間はどれくらいだったのでしょう。
市村氏:
2年ちょっとです。2023年5月に独立してからすぐに作りはじめて,1年ほどで形にできていました。
ただ,SwitchとSwitch2への対応を急遽で進めたんですよね。それによりお子さんやご家族で遊ぶ人が増えるだろうと,ゲームの中身を「より分かりやすく遊びやすく」改良する必要が出てきました。
4Gamer:
まあ,ゲーム的には明らかにSwitch向けですしねえ。
課題の解決はスムーズでしたか?
市村氏:
正直,難航しましたね。ゲームサイクルもステージ設計もAIの調整も見直して作り直すことになったので。
同時に,開発工程に無駄があったり,余計なものもあったりしたので,それらを掃除をしていく必要も出てきました。つまり,ゲーム開発に社内調整にと加わって,ここ1年はかなり忙しかったです。
4Gamer:
それというのは,ピンクルが設立されて約2年で,第1弾タイトルともあって,最後の追い込みのやり方が整っていなかったとか?
市村氏:
はい,それでバタバタしていました。けれど今はそこもちゃんと整理できたので,あとはマスターアップまで一本道という感じです。
ゲームの出し方については,当初の想定と変わってしまいましたが。
4Gamer:
というのは?
市村氏:
本作は当初,昨今のゲーム開発の潮流である「ユーザーさんと一緒に作っていく」を実践するために,テストプレイの機会をたくさん用意して,皆さんの意見をフィードバックして,多くの人たちとコミュニケーションを取りながらクオリティを高めていくつもりでした。
いわば「アーリーアクセスで支持を得てから,満を持してメジャーデビュー」といったスローペースな戦略です。大規模開発だとこういうやり方がどうしても難しかったので,やってみたかったんですけどね。
4Gamer:
できなかった理由というのは。
市村氏:
SwitchならびにSwitch2での同時リリースを決めたからです。
PCでのSteam提供とは違い,しかも最新のSwitch2対応となると,完成されたコンシューマゲーム相当でお出しする必要がありました。ですから,スタート地点で気合の入れ方を変える必要があったんです。
一応,Steamでのβテストの結果がとてもよくて,手応えはあります。あとはプロモーションでの認知度が大事になってきますが,このままちゃんとやれば,いいものは出せるんじゃないかと思います。
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4Gamer:
ある意味,この場所(TGSインディーゲームコーナーのブース)のゲームたちは,そうしたボトムアップな売り方が主流ですもんね。
ついでに,市村さんは今のインディーゲーム市場をどう見ていますか。
市村氏:
なんだか深い深い質問ですね。
4Gamer:
例えば,このインディーゲームコーナーも,以前はブースの見た目からしてもっと手弁当な印象でしたが,今はもうメインホールの出展社と変わらないくらい手が込んでいる設営も多いです。
そこは出展社や協力会社のいろいろな努力の表れでしょうが,端的に,昨今はインディーパブリッシャがひとかみする例も増え,従来的な「1人で作ったゲームです」的な例と混ざっているかと思います。それこそ「プリッとプリズナー」も,インディーといえばインディーな分類ですが,じゃないと言えばそのとおりでもある中間,みたいな。
といった話もすでに新鮮味がなくなったのが現状のインディーゲームですが,大手会社を降りて飛び込んだ張本人としては,どのように見えていますか? 良しあしの話ではなく,所感的には。
市村氏:
おっしゃるとおり,昨今はインディーゲームのなかでも,個々人と企業が混在している状態にあると思います。昔は仕事しながら趣味でコツコツと作っていたゲームをデビューさせる場,といった見方が多かったですが,様変わりしましたよね。
向こうにも出版社系の人たちとか,東映さんに松竹さんに,さらにはパルコさんまでパブリッシングに進出しています。ですから開発段階で資金やサポートの差が徐々に生まれていきそうですし,インディーゲーム開発のパターンはさらに混在していくんでしょう。
そのうえで「大手のゲームじゃない」というだけで,一括してインディーゲームとくくられているのだから,もうこのひと言に定義を収められないでしょうね。だからか,スーパーインディーゲームだのハイパーインディゲームだのといった言葉もチラホラと聞こえてきますし。
4Gamer:
内容を省略化していったハイパーカジュアルゲームとは逆に,肉付きがいいほどハイパーになるほうが分かりやすくはあるかも。
市村氏:
でもここにいる人たちは,誰かが見つけてくれたらいいな,仲間が増えたらいいな,取材してもらいたいな,パブリッシャの目につかないかな,とか。僕らみたいにインディーゲームに興味を持った人がワーッと増えたのは,新しく戦える場所がやっと見つかったからだと思うんです。
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4Gamer:
確かに。思いは十人十色としても,趣味の遊び場から,人生の戦闘フィールドになり得るようになったのが最大の変化ですものね。
市村さんの場合,実際にやってみてどうでしたか。
市村氏:
今はまだ発売できていないのでなんとも言えませんが,あれですね。ゲームを作る楽しさは,小さな開発のほうがダントツにおもしろい。大きい組織で大型タイトルを作るダイナミックさは,大手でなければ体験できないことではあります。けれど,それを長年やっていると,現場からはどんどん離れていってしまうのが実情です。
人員や費用のプロジェクトマネジメントを管理しつつ,ゲームの中身にまで影響力を与えようとすると,だいたいは「寝ない」しかない選択肢がなくなるんです。みんな同じ悩みを持っていると思います。それをうまく楽しくやれる人はいいんですけどね。本来のゲーム作りに思いを残している人は,僕みたいに独立を考えるんじゃないかな。
インディーゲーム市場もこれからまだまだ加速していくでしょうし,ヘタに僕とかがうまくいった日には,「俺もやってみたいな」と思う人も増えるでしょう。これはゲーム業界の再生産といいますか。
4Gamer:
人によっては,インディーゲームを終着点とするのもヨシな感じに。
今はまだ遠い話ですが,方々のAIツールが今以上にまっとうに大活躍させられるようになったなら,個人でも中規模なゲームをコンスタントにリリースできる未来もくるかもしれませんし。
市村氏:
ですよね。そうなると本当に個人や才能の単位でスケールしやすい未来が訪れます。だから最近すごいなと思っているのが,さっき触れた出版社系の集英社ゲームズさんとか,講談社ゲームラボさんです。
個人の作家性をゲームにして,それが「都市伝説解体センター」のように大成功を収めたわけですから,”漫画編集として,個人作家を生かし,ゲームに仕立てる”みたいな動きができるぞと分かった。
当然,そこまで簡単じゃないとは身にしみて理解しているでしょうが,個人の作家性で戦わせる術は,彼らが圧倒的に強い。そのうちインディーゲームは「才能のあるゲームが楽しい」なんて考えも生まれそうだなと思ったので,自分もそこにダイブしたい気持ちが強まりました。
4Gamer:
市村さんも,己の作家性で勝負したいと?
市村氏:
自分の考えたゲームが,世にどれくらい通用するのか。やっぱりそれがエンタメの一番おもしろいところだと思うんです。だから,勝った負けたは置いといて,単純に力試しをしたいなって思ったんです。
4Gamer:
まさに市村さんは前職の退職時,自身のTwitter(現X)で「悔いなく死ぬために,1本1本のゲーム作りを考えて,自らが楽しみながら作品に向き合っていきたい」などとコメントされていました。
あれから2025年9月になった今,望みはかないましたか?
市村氏:
100%振りきれてやれています。だからすごく楽しいです。
この2年間は毎日みんなで机を囲み,プログラマーもデザイナーもワイワイ言い合いながら,少人数でスピーディに形にしてきました。そこには「ゲーム開発って本来こうだったよね」という感覚がありました。僕がずっと取り戻してみたかった,ゲーム作りの感覚です。
4Gamer:
ふむふむ。
市村氏:
以前のような大規模開発では,部署も細切れで,実際に作るスタッフたちの顔も見えなくて,それが現代の制作方法だと分かっていても,やっぱりストレスがありました。だからもう一度,原点に立ち返りたかった。こうしてスピーディにやればやるほど,ユーザーの皆さんとのコミュニケーションも取りやすくなって,ファンが求める理想も見えやすくなる。そういう体制を構築して,次へとつなげていく。
今はそうした理想を着実にやれてるので,そうですね。
とても楽しくゲーム作りをやらせていただいております!
4Gamer:
それはなによりです。本日はありがとうございました。
またうんぴできる機会がありましたら,お声がけください。
市村氏:
こちらこそぜひ!