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印刷2025/06/30 17:00

業界動向

Access Accepted第830回:大鑑巨砲主義の終わり――「Clair Obscur: Expedition 33」が与えた欧米ゲーム業界への影響

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 発売から2か月以上が経過し,ゲームの夏の盛り上がりで話題も落ち着いたが,ローンチまでそれほど認知されていなかったフランス産JRPG「Clair Obscur: Expedition 33」が,2025年のGame of the Yearなどと形容されるほど高く評価されている。その世界観やゲームシステムのユニークさについては言うまでもないが,この作品がたった33人のメンバーにより作られたことが,ゲーム業界の在り方そのものにも一石を投じることになった。


企業での労働に飽きたゲーム開発者の情熱で生まれたフランス産JRPG


 2019年に世界を襲った新型コロナウイルス感染症は,多くの人の人生を変えることになった。家族や友人などが亡くなったという人は多くにいるだろうし,仕事の在り方も変化し,終息後でも外に出る機会がめっきり減ったというような,心理的な変化もあるだろう。

 「Clair Obscur: Expedition 33」を手掛けたフランスのSandfall Interactiveを率いる,ギヨーム・ブロシェ(Guillaume Broché)氏もその1人だ。

 ブロシェ氏は,もともとディレクター志望で2014年にUbisoft Entertainmentに入社したが,その翌年にはMicrosoftに移り,ブランドマネージャーとしてXbox Oneのビジネスサイドに従事。さらに2017年にUbisoftに戻って,今後はアソシエイトプロデューサーとして「ゴーストリコン ブレイクポイント」や「ディビジョン2」などに関わった。

 その後は,未発売タイトルの脚本チームに加わって念願のクリエイティブな仕事を担うようになったが,コロナ禍で他人のプロジェクトをこなして生計を立てる生き方に違和感を抱き,2020年9月には一念発起してSandfall Interactiveを設立。ブロシェ氏が昔から思い焦がれていたという「ファイナルファンタジー」風のゲーム開発に乗り出した。

 ブロシェ氏が,必要な人材としてリストアップしていたフリーのクリエイターは15人ほどで,その多くはコロナ禍で仕事を失っており,ブロシェ氏の要請を快く引き受けてくれたという。

 さらに,リードライターになったジェニファー・スベッドバーグ=イェン(Jennifer Svedberg-Yen)氏は,もともとはデモ用の声優としてコンタクトを取った人物であり,作曲家のロリエン・テスタード(Lorien Testard)氏は自作音楽のシェアサイトであるSoundcloudで見つけてきた。最終的には,33人のメンバーによる「情熱」の賜物で,「Clair Obscur: Expedition 33」を作り上げたという。

 「Clair Obscur: Expedition 33」がどんなゲームだったのかについては,こちらの記事に詳しくまとめているが,ベルエポックの時代(19世紀後半から20世紀初頭の好景気のフランス)をモチーフにした世界観や,カットシーンが豊富なストーリー,そしてターン制バトルにパリィやダメージボーナスのタイミングを取り入れた斬新なシステムなどの作り込みが評価されている。

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 なんとか33はなぜあそこまで話題になったのか? 独特の世界観とゲーム性で注目を集めたSandfall Interactiveのデビュー作「Clair Obscur: Expedition 33」。JRPGの影響を感じるターン制バトルに,反応や構築力が問われるアクション要素を融合させた戦闘を特徴とした本作を,実際のプレイ体験を通して掘り下げる。

[2025/06/21 10:00]

 リリース後には,OpenCriticで184のメディアから100点満点で92点を獲得。Steam DBによるとシングルプレイヤー専用ゲームながら同時接続者数のピークは14万5000を超え,今でも2万人を超えるゲーマーが楽しんでいる。すでに「2025年のGame of the Year」の呼び声も高い

「Clair Obscur: Expedition 33」の開発コストは現在のAAAタイトルの10分の1ほどだった。世界観やゲームプレイのオリジナリティに見られるプロダクションバリューの高さが多くのプレイヤーを魅了した
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欧米のゲーム業界で主導権を握り得る開発のスリム化


 Sandfall Interactiveの33人というのはコアチームのメンバーであり,韓国にあるアニメーター集団やイギリスのモーションキャプチャスタジオ,ポーランドのQAテスト会社などへのアウトソーサーを含めると数百人に及ぶのは,そのエンドロールからも分かることだ。

 しかし開発のスリム化を実現したのは,「Sifu」「Pacific Drive」「Rematch」といった評価の高いインディー作品を連発しているパブリッシャ・Kepler Interactiveによるサポートがあってのことだ。

 「Clair Obscur: Expedition 33」が成し遂げた「小さなコアチームでプロジェクトに対する情熱を保ちつつ,AAAタイトルにも負けない作品に作り上げた」という成功は,現在のゲーム産業の在り方に一石を投じることになるだろう。

「Clair Obscur: Expedition 33」の制作が正式にアナウンスされたのは2024年6月のXbox Games Showcaseのこと。その後,発売直前まで大きなプロモーションはなかったが,発売後は瞬く間に話題となり,わずか3日間で100万本をも売り上げた
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 現在の欧米ゲーム産業の大手パブリッシャは従業員数が非常に多く,開発のリスクが高まっている。Ubisoft Entertainmentは1万8400人,Activision Blizzardは1万7000人,Electronic Artsは1万4500人もの従業員を抱える大企業だ。経営や広報活動などを行う人材も多く,常時複数のプロジェクトが進行しているために単純な比較にはならないが,看板タイトルが不人気だったり開発遅延したりしたときの経営への影響は計り知れない。

 Kepler InteractiveやDevolver Digital,Raw Fury,Annapurna Interactiveといった,インディーパブリッシャの昨今の盛況は「Clair Obscur: Expedition 33」を例を出すまでもない。
 必要な人材やアウトソーサーの照会,さらには広報活動やプラットフォームホールダーとのやり取りなど,開発の大きな負担になる雑務を代わりに担うことで,デベロッパの本来の力を引き出せていることが,昨今の成功につながっているのだろう。

 gamescom latam 2025で行ったインタビューの際に吉田修平氏も話していたことだが,こうしたインディーをサポートするパブリッシャのもとには,毎日何十何百というゲームの企画やデモが送られてくるらしい。その玉石混合の中から,優れたアイデアやテクノロジー,アートスタイル,そして情熱を持った作品を目利きし,同じ熱量で彼らの未来に投資するのだ。

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[2025/05/08 20:06]

 GamesIndustry.bizの記事によると,「Clair Obscur: Expedition 33」の開発コストは1800〜2800万ドルほどで,インディータイトルとしては高額ではあるものの,15年ほど前のAAAタイトルのコスト程度に収まっているという。

 現在のAAAタイトルの開発には数億ドルの開発費が必要であり,IGNは,期待の新作となる「Grand Theft Auto VI」の開発費が10億ドルをゆうに超えていることを伝えている。「CONCORD」や「スカル アンド ボーンズ」などからも分かるが,時間とコストを掛けても売れるゲームが作れるとは限らない。今回脚光を浴びることになった「Clair Obscur: Expedition 33」のようなビジネスモデルが,今後欧米のゲーム業界で主流になる可能性も決して低くはないだろう。

単なるJRPGへのノスタルジーに傾倒することなく,パリィやQTEの要素をターン制コンバットに盛り込んだシステムが高く評価された「Clair Obscur: Expedition 33」。人気になるのも納得の出来で,成功すべくして成功したゲームのように思える
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著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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