
インタビュー
[インタビュー]「勝利の女神:NIKKE」目標とするのは,FGOのように愛されるIP。ユ・ヒョンソク氏が学んだゲーム外施策のコツ
「勝利の女神:NIKKE」がIPとして成功するまで。“IP管理”に重きを置いた,グッズやイベントの制作事情[NDC25]
![「勝利の女神:NIKKE」がIPとして成功するまで。“IP管理”に重きを置いた,グッズやイベントの制作事情[NDC25]](/games/456/G045622/20250626063/TN/027.jpg)
Nexon Developers Conference 25で,講演「勝利の女神:NIKKEはいかにして成功したIPになったのか」が実施された。ゲーム開発以外のグッズ,イベント,二次創作などは,ビジネスである前にPowered by Loveであるという。
現地では講演終了後,SHIFT UPの「勝利の女神:NIKKE」(iOS / Android / PC。以下,NIKKE)のディレクターであるユ・ヒョンソク氏に,2媒体の合同インタビューで主題を深掘りさせてもらった。
グッズやイベント,二次創作などのゲーム外施策に対する考えや,IPマネジメントの一例として参考になることだろう。
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IPの拡張と管理のためのノウハウ
――最初に,先の講演で言い足りなかったことはありますか?
※同講演は分かりやすく丁寧な進行であったが,そのぶん時間が押してしまい,途中からは爆速で駆け抜けるほかなかったことから
ユ・ヒョンソク氏:
もっと話したいことがたくさんありました……(笑)。
先ほどはゲーム外施策について話させてもらいましたが,私が伝えたかったのはとにかく,「日本にはゲーム外施策のノウハウがたくさん蓄積されている」「一方,韓国ではこうした取り組みが発展途上の段階にある」「だから私なりの経験則を伝えたかった」というものでした。
――簡潔なまとめをありがとうございます。
ユ・ヒョンソク氏:
今回はとくに,日本のメディアさんとインタビューさせてもらうことも決まっていたので,正直,肩が重かったです。
今も結論として挙げましたが,日本こそIPとその運用が強い国です。私の説明が日本の業界の方々にどう受け取られるのか,間違ったことを言っていないかと,話し方にも気をつけたいと思っています。
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――とはいえ,NIKKEのIPパワーはもはや世界で十分に渡り合えていますし,我々もとても参考になる講演でした。
ちなみに,講演名は「いかにして成功したIPになったのか」でしたが,「ゲーム外施策のおかげで成功した」と「ゲームが成功したからゲーム外施策も活発化した」では大きく違います。この点について,今回の講演名はどのような意味合いで付けられたものなのでしょう。
ユ・ヒョンソク氏:
今日の講演でゲーム外施策のことだけを話した理由は,以前に“同じ題名でインゲームに関する講演をしていた”からです。
ゲームIPを成功させるには,ゲーム自体の成功が必須です。まずはゲームが支持されていることが大前提であり,いろいろな企画はそのうえで考えていくべきことだと思っています。
つまり本講演は,ゲーム外施策でIPを成功させたとか,グッズやイベントはゲームよりも重要だとかの主張ではなく,言ってしまえば「いかにして成功したIPになったのか(後編)」といった位置づけなんです。
日本の方々には分かりづらくてすみません。
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――なるほど。合点がいきました。
では主題を深掘りしますが,まずNIKKEのゲーム外施策は「社内で推進している」のか,「外部の打診で進めてきた」のか。実情は混ざり合っているかと思いますが,スタンスとしてはどうでしたか。
ユ・ヒョンソク氏:
おっしゃるとおり,そこはケースバイケースでした。
ただ,日本の業者さんはグッズでもイベントでもさまざまな工夫を凝らしているので,私たちはそのアイデアをたくさん学ばせてもらいつつ,自分たちなりの生かし方を考えることも多かったです。
――IPマネジメントの趣旨としては「ゲーム開発に注力したうえで,ゲーム内イベントにだけリソースを割くより,ゲーム外施策もスケジュールにはさむことで,IPをより隙間なく展開していける」といった狙いだったかと思いますが,この体制作りはどう進めたのでしょう。
ユ・ヒョンソク氏:
初期段階では,開発チームがIP展開の試行錯誤を主導していました。これは,韓国市場におけるIPマネジメントの専門的な知見や実践基盤が成熟途上にあるという背景から,開発チームが自ら取り組む必要があったためです。しかし,開発チームがゲーム開発に集中できる環境こそが最優先であると考え,専任の「IP運営管理チーム」を新設する決断をしました。
――結果,どうなったのでしょう。
ユ・ヒョンソク氏:
新チームの創設により,開発とIP展開の両輪が専門性を持って並走できる体制を構築できました。
開発チームはゲーム開発の深化に注力しつつ,IPチームはゲーム外施策の戦略的展開を推進する――この「相互補完的な専門分化」が,IPの持続的な成長と開発の高品質化を同時に実現する基盤となっています。
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――IP運用管理チームは,具体的にどんな仕事をするのでしょう。
ユ・ヒョンソク氏:
主な役割は,開発チームと外部業者をつなぐことです。
開発にはIP拡張のアイデア出しのために「キャラクターをこのように用いるのはどうか」と働きかけ,業者さんにはIP管理のために「NIKKEはこういう世界観だから,ここはこうしてほしい」と折衝する。
両者の間に立つ接着剤,などと言うとちょっとおかしいかもしれませんが,これまで本当に大きな役割を果たしてくれてきました。
――日本ではそうした存在を「潤滑油」と呼びますが,どうでしょう。
ユ・ヒョンソク氏:
ああ,いいですね。いい表現です(笑)。
まさにIP運用管理チームという潤滑油のおかげで,開発チームは業務負担が減り,ゲーム開発に集中しやすくなりました。
それにIP管理のスタッフたちは,ゲーム外施策を手がけたいという意志を持っているので,グッズやイベントのクオリティも徐々に上がっていきました。彼らが専門知識を培ってくれたおかげですね。
――壇上では,知見の深い日本業者を探すことが大切だと言っていましたが,NIKKEの場合はどのようにして業者を見つけましたか。
ユ・ヒョンソク氏:
そこはパブリッシャの自慢になっちゃうのですが,Level Infiniteさんがグローバルで幅広く活動している企業とあって,各種業界のネットワークを膨大に持っていらっしゃったんです。
私たちはLevel Infiniteさんに専門業者をおすすめしていただいたり,ときには直接紹介していただいたりしています。NIKKEはそうした手厚いサポートに大いに助けられてきたわけです。
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――パブリッシャ選びにはそういう利もあるわけですね。
グッズ類では,スポット参入したTCGも大人気だったそうですが,単体で新しく「NIKKE TCG」を作るといった夢は考えましたか?
ユ・ヒョンソク氏:
私はいろいろと妄想するタイプなので,一度は考えましたけど,簡単なことではないだろうと思っています。
今回,日本のTCG会社さんとさまざまなお仕事をさせてもらって分かりましたが,TCG市場は歴史が本当に長く,深く,成功させるための知見がとてつもなく多すぎます。本当にリスペクトです。
これはもう安易に参入できる領域じゃなさすぎて,軽はずみに挑んだところで,とても追いつけそうにないと確信しました。
――TCG市場は当たれば「お金(カード)を刷る」とまで言われますが,水面下の死屍累々はスマホゲーム並ですものね。
ユ・ヒョンソク氏:
そもそも私,TCGユーザーだったんですよ。
「ポケモンカード」なら第一世代のリザードンを持っていますし,「遊戯王OCGデュエルモンスターズ」でも最初期のデュエリストなので,TCG市場の需要や満足度,挑戦の難度などをよく知っているんです。
――それはまた,説得力のある経験ですね。
ユ・ヒョンソク氏:
ありがとうございます(笑)。
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――グッズ構想ではほかに,ボツ案などはありましたか。
ユ・ヒョンソク氏:
単純なクオリティ不足でボツになることは山ほどあるのですが,作りたいけどまだ追求が足りないものでいうと,「ラプチャーのグッズ」です。今はいろいろと試しているところで,うまくいけばグッズ化できそうなので,ラプチャー好きの方々は期待していてください。
――方向性としては,ゆるいぬいぐるみとかでしょうか?
ユ・ヒョンソク氏:
いえ。カワイイ系ではなく,ラプチャーらしいSF風味を生かすために,ハードなアートスタイルがいいだろうと考えています。
あくまで,現状の想定ではありますが。
――ちなみに,韓国のグッズ事情はどうなのでしょう。ファンのグッズ購買意欲は十分に高まっているとのことですが。
ユ・ヒョンソク氏:
売れる商品については日本とそんなに差はないと思われます。とくにゲーム内の印象深いストーリーをモチーフにしたグッズは,地域を問わずによく売れていて,韓国でも同じ傾向が見えています。
――キャラクター人気で言えば,やはりレッドフードですか?
ユ・ヒョンソク氏:
そうですね。ちょうど韓国の新世界百貨店でポップアップストアを開催しているのですが,ハイライト商品はレッドフードのセリフ「古いものほど,いいもんなんだ」をテーマにした,レコード盤とレコードプレイヤーでして。これがかなり売れているそうです。
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――その一方で,グッズ消費文化には差があるそうですが,韓国のゲーマーはグッズをどのように扱っているのでしょう。日本も割合で言えば屋内に飾る人が多数派ですが,外に持ち出す人にも違和感を覚えないくらいの環境ではあります。そういったところ,韓国ではどうなのか。
ユ・ヒョンソク氏:
日本におけるグッズ類は,痛バッグを代表とするファッション文化にまで組み込まれていますが,韓国では現状,外に持ち出すとしてもキーホルダーを付ける程度で,部屋を飾るインテリアやデスクテリアにとどまっています。日本でも同じように楽しむ方々は多いと思いますが,韓国ではグッズを外に用いる文化がまだまだない,という話ですね。
もちろん,なかにはグッズで着飾っている人もいます。弊社スタッフのなかにもメイドプリバティ(プリバティ:アンカインド・メイド)Tシャツを着ている人がいますので,やりたい人はやってはいます。
――あくまで私が思う古めな韓国観ですが,町中にゲームやアニメのイラストが普通にある光景は,まだ日本特有のものでしょうか。
ユ・ヒョンソク氏:
文化の浸透度合いは国ごとに異なる特徴があり,日本では公共空間でのサブカルチャー表現が生活に溶け込んでいますが,韓国では社会規範の特性上,そうした表現が表立って展開されるケースは限定的です。
サブカルチャーの認知自体は急速に広がっていますが,公共空間での表現方法については,社会全体で形成される慣習の違いが影響していると理解しています。
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――講演では,ゲームイベントに乗じて施策を打つのも効果的とされていました。NIKKEだとシリアス展開のほうが反響が強いでしょうか。
ユ・ヒョンソク氏:
そこは個別で見るより,「しょっぱいと甘い」の法則で考えています。この言葉は韓国でよく例えられる熟語で,日本語にするなら「シリアスとほのぼのの物語を交互に配置する」といったものです。
つまり,しょっぱいものを食べて,続けて甘いものを食べてと交互すると,よりおいしく感じられるという感覚のなぞらえです。
――理解できました。
ユ・ヒョンソク氏:
NIKKEの場合,ユーザーさんにはシリアスなゲームイベントで強烈な体験をしてもらいます。一方,メイドプリバティのようなイベントではほのぼのを味わってもらう。イベントの割合はシリアスが若干多めですが,いずれの場合でもグッズやオフラインイベントに用いるときは,しょっぱいものはしょっぱめに,甘いものは甘めにと展開することで,ゲーム内外でともに交互する体験を生み出せます。
コンサートなどでも,泣ける曲と楽しい曲の順番を考えてセットリストを組んでいるので,注目してもらうとおもしろいかもしれません。
――次は二次創作についてですが,まずオフラインイベントにおいては,公式主催とユーザー主催の違いをどのように認識していますか。
ユ・ヒョンソク氏:
大きな違いは,我々が直接介入するか否かにありますが,いずれも出展される創作物には大差ないと思っています。
ファンの方々が主催するイベントも,運営がとても上手で,進行もすごくスムーズでしたし,そこで見られる創作物も本当にびっくりするほどクオリティが高かったですしね。世界観についても,皆さんが自主的にコントロールして守ってくださっているのがよく分かります。
そのうえであえて違いを挙げるなら,ファン主催のイベントは,私たちも第三者の立場で興味深く見守って楽しめることでしょうか(笑)。
――では,ユーザー主催の非公式イベントは歓迎だと?
ユ・ヒョンソク氏:
はい。これからもどんどん開催していただきたいと思っています。皆さんにもそれを楽しんでいただるとよりうれしいです。
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――日本では過去に,さまざまな界隈において,二次創作や非公式イベントにまつわる許諾などで問題が起きることもありました。今はおおむね,ガイドラインで許諾範囲が制定されていますが,歓迎か黙認かはスタンス次第といったところ。こうした非公式関連のファン活動について,メリットやデメリットという観点だとどのように捉えていますか。
ユ・ヒョンソク氏:
二次創作に関してはある意味,ゲームやアニメなどにおける生態系のエコシステムの一部だと思っています。作品の人気だけで興味を引っぱっていくのは,やはり難しいことです。そこにファンの方々がなにかしらの創作物を公開してくれると,それだけで関連コンテンツが増えます。これはIPが拡張されるメリットそのものだと考えています。
一方でデメリットを防ぐためには,やはりガイドラインは必須です。それでもNIKKEは,広く受け入れる姿勢を取っていますけれどね。
――NIKKEの場合,なにが侵害にあたるのでしょう。
ユ・ヒョンソク氏:
まだ前例がないため,あくまで個人的な予想ですが,やっぱりNIKKEのキャラクターや世界観を,楽しさではない方向性で毀損されれば,たぶん「困ります」と伝えなければいけないと思っています。ただ,そういったケースはそれほど多くないと思うんですよね。
例えばNIKKEの代表的な二次創作に,ドロシーがモチーフの「DORO」(ドロ)がいます。DOROはパッと見でドロシーを想起させますが,決してドロシーではない。これがDOROという名で,原作キャラクターと酷似したデザインで公開されていたら,我々もなんらかの懸念を覚えたかもしれません。でもDOROはやっぱりDOROで,別のキャラクターです。
私たちもユーザーの皆さんも,それをはっきりと分かっている。だから私も楽しんで見ています。これで回答になったでしょうか?
――なんとなくの肌感が分かりました。
余談ですが,壇上では京都・嵐山駅とのコラボや,「アイドルマスター シンデレラガールズ」の展示会イベントに感動したとおっしゃっていましたが,ほかにもNIKKEで思い出深い施策はありますか。
ユ・ヒョンソク氏:
韓国や日本で開催されたオフラインイベントのうち,自分が直接訪問できたところはどこも非常に楽しかったですが,一番記憶に残っているものだと,日本でやったファンミーティングですね。
韓国ではファンミーティングというイベント形式自体,まだがなじみが薄いため,日本でああしたイベントをやれたときは,本当にうれしくて楽しかったです。NIKKEのことを愛してくださるファンの方々が,あんなにも足を運んでくださり,その熱量を間近で見させてもらえたので,私はついダンスまで披露してしまいました。
私が踊るようになったのはすべて,皆さんにもっと楽しい気持ちで帰宅していただきたいという思いがあったからですね(笑)。
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――それではお時間がきてしまいましたので最後に。今後,IP運用をとおして目指していく目標を聞かせてください。
ユ・ヒョンソク氏:
短期目標はいつも「次のイベントをがんばろう」です。シーズンイベントも周年イベントもコラボイベントも,どのような形式であろうと,すべてをいいものにすることが目先の目標です。
そこから長期的に考えたとき,NIKKEが世界中で一定の成果を上げ続けていくことは,企業として求められることではありますが,私個人が目標とするロールモデルは,FGOなんですよね。
――FGOというと,「Fate/Grand Order」?
ユ・ヒョンソク氏:
そうです。FGOは本当に愛されているIPです。FGOの関連グッズに喜ぶファンの姿もたくさん目にしてきました。私もあんな風に,今よりもっと皆さんと濃密な関係を紡いでいきたいんです。
私にとって現状のNIKKEは,うまく作れたから成果を上げられた,というものです。しかし,これからはそこを越えて,「みんなに愛されているのが誰にでも分かってもらえるゲーム」にしていきたい。
皆さん,今も十分に愛してくださっていますが,我々はもっともっと愛されるNIKKEを目指しますので,今後ぜひご期待ください!
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