
イベント
コミュニティの力で日本のカルチャーを世界へ――SHAKAさん,ストグラ,VTubingなどの話題が飛び出た,Twitch幹部が語る日本市場と今後の展望[TGS2025]
![]() |
コロナ禍をきっかけに爆発的な成長を遂げた日本の“ゲーム配信”市場。配信する側もそれを見る側も基本的に屋内で完結する手軽さと,娯楽が減少して時間を持て余しがちだった世相との相性の良さで,それまで撒かれていた種が一気に芽を出した感がある。コロナがある程度落ち着きを見せた今も,その勢いは衰えることなく,リアルイベントにまで広がってきている。
そんな日本の配信ブームの中で大きな存在感を放ち,ゲーマーにとって一気に身近な存在となったTwitchだが,正直な話,筆者はかなりのマニアでないと知らない配信サイトという印象だった。少なくとも,一昔前までは。
日本のサブカルチャーシーンでは,YouTubeかニコニコ動画かという時期が長く続いたこともあり,あくまで筆者の主観ではあるが,そこにTwitchが選択肢に挙がることはめったになかった。
しかし,今やゲーマーに「Twitchを知っているか」と聞けば,知らないほうが少数派に違いない。今回のTGS 2025では,日本のeスポーツ/ストリーマーチーム「ZETA DIVISON」とパートナーシップを締結し,出展を行っていたTwitchだが,彼らは今の日本市場をどう捉え,何を目指しているのか。詳しく話を聞いてきた。
Twitch
コミュニティの力で日本のカルチャーを世界へ
4Gamer:
本日はお時間をいただきありがとうございます。まずお二人の自己紹介をお願いできますか。
Lewis Mitchell氏(以下,Mitchell氏):
レディーファーストで!
![]() |
こんにちは。Mary Kishと申します。Twitchコミュニティのヘッド(責任者)をしていまして,コミュニティにお互いの存在を認識してもらう手助けや,Twitchというブランドを見つけていただくサポートを行っています。非常に楽しい仕事ですよ。
Mitchell氏:
Lewis Mitchellと申します。Twitch APACのコンテンツディレクターです。今,Maryから“コミュニティ”というワードが出ましたが,Twitchにとってクリエイターや視聴者を含むコミュニティは欠かせない存在といえます。その中で,私と私のチームの主な仕事はクリエイター側――いわゆるパートナーの皆さんをサポートすることです。
ご存知かもしれませんが,Twitchのクリエイターはアフィリエイトから始まり,条件を達成するとパートナーになります。日本にも彼らをサポートするローカルチームがいて,今回のTGSでも頑張ってくれています。
4Gamer:
では,アイスブレイクを兼ねて,今回のTGSでお二人が興味を引かれたブースを教えてください。個人的なもので構いませんので。
Kish氏:
とにかくたくさんのゲームがあって目移りしてしまいますが,「SILENT HILL f」(PC / PS5 / Xbox Series X|S)に興味が引かれました。ホラージャンルは自分がプレイするのも,ほかの人のプレイ配信を観るのも大好きなので。あとは「バイオハザード」シリーズの情報も多くて嬉しかったですし,「Ghost of Yōtei」も素晴らしい作品になるでしょうね。
Mitchell氏:
昔はFPSが好きだったんですが,ついていける年齢ではなくなってしまって(笑)。今はゆっくりした,スローペースなゲームが気になっています。なので,週末にインディーのタイトルを見て回りたいかな。
4Gamer:
ありがとうございます。Twitchは配信プラットフォームですが,TwitchConのようなオフラインイベントの開催や,TGSのような展示会にも積極的に出展しています。こうしたイベントにTwitchが参加する目的や意義はなんなのでしょうか。
![]() |
先ほどもお話ししましたが,我々はコミュニティを極めて重要なものと考えています。こうした場は,コミュニティの皆さんからさまざまな話を伺い,交流を持つ貴重なチャンスなのです。とくにTGSは,トップクラスのクリエイターから配信の視聴者まであらゆる層が集まる,我々にとってパーフェクトな環境であり,機会です。
Kish氏:
Twitchはゲームだけでなく,料理や雑談など,さまざまな配信が行えるプラットフォームです。ですが,何よりもコアにあるのはゲームだと思っています。ですから,日本で真っ先に来るべき場所がこのTGSなのです。コミュニティのメンバー同士が出会い,協力し合える場所でもあり,クリエイター同士がつながる場所でもある。これこそが,我々が求めている「Twitchコミュニティ」の姿ですからね。
4Gamer:
なるほど。日本市場はよくガラパゴスだと言われますが,日本コミュニティのトレンドは,世界的に見てどうなのでしょう。やはり,少し変わっていますか?
Mitchell氏:
あくまで我々の視点ですが,“大きな流れ”では違いはないと思います。弊社の発展の歴史を見ると,最初にFPSプレイヤーの皆さんが配信を始めて,そこからさまざまなゲームに広がっていきました。ただプレイスキルによるのではなく,エンターテイナーとして視聴者を伸ばしていったわけです。これは世界も日本も変わりません。
Kish氏:
Lewisの意見にひとつ付け加えると,世界的にもですが,とくに日本で急激に成長しているのが「VTubing」(VTuber)ですね。とくに活躍の場が広がっていて,我々としても嬉しく思っています。
4Gamer:
そうした日本市場に対し,Twitchとしてはどんなアプローチを行っているのでしょうか。
Mitchell氏:
弊社の中でも,日本は類を見ないスピードで成長している市場の一つです。そのため日本独自チームを置いて,さまざまなパブリッシャと協力関係を結んでいます。とくにここ数年,カプコンやバンダイナムコ,任天堂など,パブリッシャの皆さんの考え方が変わってきているのを強く感じます。もちろんクリエイターの皆さんとの協力関係があってこそですが。
Kish氏:
我々もコンテンツクリエイターの皆さんから,次に来るであろうトレンドを学んでいるのですが,彼らが直接交流する機会というのは,意外と多くないんですよ。住んでいる場所がバラバラですからね(笑)。
今夜行われる「Twitch Connect」もまた,そうした彼らをつなぐ場として我々が用意したものの一つです。趣味などの共通点を見つけて,メンバー同士につながりを作ってもらおうというのがその狙いになります。例えば女性を対象としたギルドでコラボ相手を探してもらったり……というのものですね。
4Gamer:
先ほどまでZETA DIVISONのブース内のラウンジでパートナーの皆さんと交流されていたようですが,日本のTwitchストリーマーの印象はいかがですか。
![]() |
Mitchell氏:
やはりクリエイターの皆さんの,「新たなコンセプトを模索し,提案していきたい」というクリエイティブな思いは,万国共通だと感じました。ゲームジャンルは異なっていても,考え方は共通するものがあります。
Kish氏:
「一つのジャンルを次のレベルに持っていく」ようジャンルを進化させる。これも日本のストリーマーの特徴ではないかなと思います。代表的な例を挙げるなら,ストリーマーのSHAKAさんです。彼はまさに「ジャンルを進化させる」1人ですし,日本国外でも「日本語は分からないけど,“SHAKA”は知っている」という人も多くいますから。それから「GTA RP」のスト……ストグラ?。
4Gamer:
はい,「ストグラ」ですね。
Kish氏:
「ストグラ」は「GTA RP」を次のステージへ進めた企画といえます。リアルイベントであれだけのステージを埋めるほどのファンを集めたのは,世界でも類を見ないことです。VTubingの躍進に代表されるように,非常に多くの皆さんが熱意を持っていて取り組んでいるのも,日本の特徴といっていいのはないでしょうか。
4Gamer:
では,日本の視聴者の印象はどうでしょうか。
Kish氏:
個人的には,1〜2人ほどのクリエイターの熱狂的なファンが多い印象ですね。彼らはこうしたイベントにおけるクリエイターとの交流でも,非常に大きな役割を果たしてくれる存在です。
Mitchell氏:
今回のTGSでも,SHAKAさんやk4senさんによるパネルディスカッションがありましたが,いずれも満員だったくらいです。それくらい熱心なファンが多くて,「自分が好きなクリエイターを応援したい」という,非常にポジティブなエネルギーを感じています。
4Gamer:
eスポーツはいかがでしょうか。この分野は,昔からTwitchの存在感が大きいと感じますが,今後,さらなる発展はあるとお考えですか。
Mitchell氏:
eスポーツそのものも,いまや大きな発展を遂げました。最初は「数十人で集まって50ドルの賞金」だったものが,今や「数万人のスタジアムを埋める会場で数百万ドルの賞金」といったものにまで大きくなったのです。
eスポーツの発展=Twitchの発展だった側面はありますが,最近の傾向としては,パブリッシャとの協力がトレンドになりつつあります。例えば過去のVCT(VALORANT Champions Tour)では,k4senさんのウォッチパーティーにメインチャンネルと肩を並べるほどの視聴者が集まりましたし,Twitch側でもDrops(一定時間ストリーミングを視聴するとゲーム内アイテムなどが配布される)のような取り組みも行っています。eスポーツのメイン配信と同時に,コミュニティを巻き込んだ施策にも力を入れているのです。
4Gamer:
先ほどもZETA DIVISONブース内のラウンジの話がありましたが,ZETA DIVISIONとの関係は今後も継続していく予定でしょうか。
Mitchell氏:
もちろん! ZETA DIVISONさんとのパートナーシップは,自然発生的に生まれたようなものなんですよ。今までの交流で培われてきたものがベースになっていますし,実際チームメンバーの多くがTwitchで配信を行っています。こうした流れからも,今回のパートナーシップ締結は“当然の流れ”といえます。
我々としても,「今までの取り組みを増幅させる」ものとしてパートナーシップには大きな期待を抱いていますし,ラウンジを訪れた皆さんには,交流を通してよりよいものを見つけてもらえたらと思っています。
![]() |
Kish氏:
彼らとのパートナーシップのもと,TwitchがTGS 2025に出展できたことを大変嬉しく思っています。ZETA DIVISONはここ数年で急成長を遂げ,非常に大きな成功をおさめました。そうした彼らとの協業は,大変素晴らしいことだと思っています。
ラウンジを訪れた皆さんには,ぜひリラックスして,ほかのコンテンツクリエイターとの交流を楽しんでいただきたいです。加えて我々に何を期待するのか? という問いへのフィードバックも,しっかりとうかがいたいですね。
4Gamer:
では,Twitchとして日本展開には手応えを感じていると考えていいのでしょうか。
Mitchell氏:
日本市場の成長は著しく,その点は“ハッピー”だと思っています。APAC地域の中でも,もっとも成長率が高い市場ですからね。ただ現状に満足はしていませんし,満足をする瞬間がくることもないでしょう。もっとクリエイティブなことをやりたいですし,もっとクリエイターを発掘していきたいと思っています。コミュニティ全体へのサポートも欠かせません。そのためには,マーケティングや,今回のような草の根的な,地道な活動が欠かせません。
4Gamer:
そのクリエイターの発掘には,どのような施策が有効だとお考えですか。一昔前に比べると,今は随分ゲーム配信のハードルが下がりましたが,最初の一歩を踏み出させるのは,そう簡単ではないですよね。
Kish氏:
おっしゃるとおりです。そういった意味では,我々にはコラボレーションツールというものがありまして,この分野に大きな投資をしています。コミュニティのメンバーが情報を共有し,より成長できるような取り組みです。
4Gamer:
コラボレーションがクリエイターの発掘につながる?
Kish氏:
現状,分かっているのは「コンテンツクリエイター同士が一緒に配信をしたり,チャットをシェアすると,2つのクリエイターのコミュニティがつながりやすくなる」ということです。こうして新しいクリエイターに興味を持ってもらうことが,コミュニティの拡大につながります。
また,継続して配信を行ってもらうために,教育的なサポートにも投資しています。クリエイターとしてのブランディングやマーケティングの手法,クリップを効果的に編集して共有する方法や,“口コミ”広げていく方法などを,具体例も交えながら共有するんです。ほかにもTwitchクリエイターキャンプなど,さまざまなサポートを用意していますし,これからも模索していきたいと思っています。
4Gamer:
なるほど。実は私も,Twitchで配信をしていたことがあります。だいぶん昔で,今はもうやっていないんですけど(笑)。
Mitchell氏:
それはもったいない! でもその当時に比べると,今はいろいろな部分が改善されていると思います。一度は配信活動をやめてしまった人も,ぜひ復帰してもらいたいです。もちろん,あなたもね(笑)。
4Gamer:
ありがとうございます(笑)。では最後に,読者に向けたメッセージをいただけますか。
Mitchell氏:
私がこの仕事を始めて3年が経ちますが,日本のコミュニティの皆さんは本当に素晴らしく,常日頃からインスピレーションを授けてくれる存在です。クリエイターの革新性やコミュニティの情熱もすごいですし,もっともっと日本市場を開拓したいと思わせてくれます。それに日本から世界に発信されるカルチャーも増えています。VTubingはまさにその典型です。今後もコミュニティへのサポートを継続しつつ,より多くの人がクリエイターとなれるように,「あと一歩」の後押しを行っていきたいと思っています。
Kish氏:
このたび締結したZETA DIVISIONさんとのパートナーシップを,大変光栄に思っています。今夜開催するTwitch Connectで,多くのクリエイターの皆さんに会えるのが本当に楽しみですし,日本の女性配信者を「Womans Guild」(女性ギルド)に招待できるのも嬉しく思います。とはいえ,こうした取り組みはまだまだ始まったばかりです。新たな試みには必ず学びがありますし,その学びを生かしながら,さらなるチャレンジをしていきたいと思っています。
4Gamer:
ありがとうございました。
![]() |
Twitch
- この記事のURL: