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掃除のローラー,船の舵輪,シャチ,めんこなど,ユニークな入力デバイスが目白押し。愛知工業大学ブースレポート[TGS2025]
愛知工業大学には「学生チャレンジプロジェクト」という制度があり,もの作りに挑戦する生徒を支援している。この制度を用いた取り組みの1つが,東京ゲームショウへの出展だ。
生徒たちが小規模の開発チームを結成して制作したゲームを出展していたのだが,入力デバイスがユニークなものばかりで,その発想には驚かされた。
日替わりで異なるゲームを出展しているのも面白く,会場を訪れた人たちからも注目を集めていた。本稿では,2025年9月26日に出展されていた6本のタイトルを紹介しよう。
「突撃 シャチの晩御飯」 入力デバイス:シャチ
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泳ぐ方向を左右に変えるためには,抱えたシャチを左右に傾ける必要があり,息継ぎの際には,グイっと頭を持ち上げる必要がある。この操作は直感的で,特に息継ぎで海面に上昇する際は一体感があった。
また,シャチを抱えたプレイ姿勢が,ゲーム内に登場するシャチの背に乗った少年とリンクしていたのも良かった。
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当初は実際の水を使ったゲームが構想されていたが,運用が難しいことから方向転換が行われたそう。プレイヤーが足ヒレを装着する方式などが試され,最終的には浮輪を入力デバイスとする形に落ち着いたのだという。
シャチのお腹にはマイコンが仕込まれており,角度を検知する。当初はセンサーの測定値に誤差が出たほか,画面内のシャチに反映されるまでにラグが発生するなどの苦労があったという。
現地で運用してみると,泳ぐ方向を変える際に“シャチ”を傾ける(ロール)のではなく,頭の向きを変える(ヨー)プレイヤーが多かったことも今後の課題であるとのことだ。
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「unbaRUNce!!」 入力デバイス:お盆とワイン,マット
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お盆に乗ったワイングラスという入力デバイスが目を引く本作は,ワインをこぼさないように運んでいくゲームだ。お化けやテーブルなどが迫ってくるので,足元のパッドを踏んで左右に避ける。
ユニークなのが,不安定さを表現するアイデアである。通常,お盆を持つには両手で左右からつかんだり,片手の手のひら全体で基部を支えて安定させる。しかし,本作のお盆は下に柔らかいペットボトルが取りつけられており,これをつかんで持つしかない。この状態で実際に足を動かして障害物を左右に避けると,お盆がグラグラ揺れるため。実にスリリングだ。
可愛らしいビジュアルと,お盆でワインを運ぶというオシャレな状況設定,直感的なルールにより,パーティーゲーム的な面白さがあると感じた。
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このようなユニークな入力デバイスが考案されたきっかけは,TV番組で「ロデオマシンにまたがり,お盆に乗せたピンポン玉を落とさないようバランスを取る」という競技を見たことだそう。
お盆に何を乗せるべきかは課題になったものの,教師から「こぼれたことが分かりやすい液体を使えばどうか」というアドバイスを受けてワイングラスを使うこととなった。
ペットボトルをお盆の基部に取りつけたのは,普通にお盆を持ったのでは,安定しすぎてしまうからだという。不安定にするためにお盆に重りを乗せる方法も考えられたものの,入手性の問題から,お盆の下にアタッチメントをつける方式になった。健康器具などさまざまなアイテムが試されたのち,現在のペットボトルに落ち着いたという。
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ワイングラスにはマイコンが仕込まれており,これが傾きを検出している。足元にはマット型のコントローラがあり,足で踏むことで左右に移動が可能だ。
ゲーム画面は左,中央,右の3レーンに分かれており,これを行き来して障害物を避ける。コントローラの中央にボタンはないが,中央レーンに戻ろうとして中央部分を踏むような例も多く見られたという。
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「舵のまにまに」 入力デバイス:舵輪
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プレイヤーは帆船を操り,ゴールを目指す。大きな舵輪を両手で回し,障害物を避けるのだ。舵輪をぐるぐる回すだけでも楽しいのだが,本作はそれだけでは終わらない。舵輪を回す際に握る取っ手が指定されるのだ。
握っていなければ,船の方向は変わらないし,どの取っ手を持つかの指定は刻々と変わっていく。自然と両手を交差させるなど,それっぽい手つきになる。舵輪を回す際のフィードバックに加えて,没入感を高めるためのうまい仕掛けだ。
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舵輪を入力デバイスに決定した理由は,回すと気持ちいいしカッコいいから。しかし試作の段階では,単に回転させるだけで面白みに欠け,改良の必要があった。
手応えを演出する既製品のトルクフィードバック機構を組み込むといった解決法もあったが,アイデアで勝負すべきだということで,「指定された取っ手を持った状態で舵輪を回さないと,船の方向が変わらない」というゲームデザインが考案された。
このアイデアにたどり着くまでには,「取っ手のそれぞれにアイテムが割り振られており,握ることで使える」「襲い来る波に耐えるため,指定された取っ手を握らなければならない」といったデザインも考えられた。しかし,どちらも操作がややこしくなり,取っ手を握る機会が限定されるということでボツになっている。
ロータリーエンコーダと静電容量式のタッチセンサーで,舵輪の回転とどの取っ手を握っているかを検出しており,これを1台のマイコンで処理している。
今回の試遊では,手の汗が少ないプレイヤーが舵輪を握っても反応しないことがあったという。また,筐体の構造上,タッチセンサーとマイコンをつなぐコードが長くなってしまい,検出にも影響が出るといった課題も浮かび上がったという。
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「インク&ウィッチ」 入力デバイス:ローラー
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プレイヤーは魔女となり,前方から流れてくるパネルに色を塗っていく。使うのは,掃除用具のローラー,いわゆるコロコロだ。画面内には3つのレーンがあり,これに対応した3枚の板の上でローラーをコロコロ転がすのである。
開始直後こそパネルの速度は遅いし枚数も少ない。しかし,ゲームが進むとペースも上がっていき,あちらのパネルをコロコロし,こちらのパネルもコロコロし……と忙しくなってくる。
ローラーを転がすのは楽しいし,腕が疲れてくるのも体感ゲームならではの面白みがある(個人的には,美術の授業で版画制作のため,ゴムローラーを転がしていた思い出がよみがえった)。
ここまででも一応体感ゲームとしては成立しているのだが,実はこのパネル,1枚1枚が絵を構成するドットの1つであり,ローラーで色を塗ることでドット絵が完成するのだ。
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本作の出発点は「今までにないようなインタフェースを使ってゲームを作ろう」という思いだったという。アイデア出しの中で掃除用具のローラーを使うという案が出され,単に掃除をするゲームではなく,色を塗るという要素が加えられた。
木の板は角度をつけた状態で設置されているが,当初は3枚が平面に並べられた形だっという。実際にプレイしたところ,どのレーンにパネルが来てもやっていることは同じであるため,左右の板に角度をつけて変化が演出された。
ローラーの中にはマイコンが入っており,どの板を塗っているかは角度で判断しているという。力がかかる板側に仕掛けがないのは,安定性につながっていると感じた。
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「ホッチキスガンマン」 入力デバイス:ステープラ(ホッチキス)
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西部劇のガンマンのように,両手に銃……ではなくステープラ(ホッチキス)を持って書類の群れに挑む。書類は仕事で使うものなので,ちゃんとした位置に針を撃ち込まなければならない。縦向きの書類は左上で留めるために左のホッチキスを使い,横向きなら右のホッチキス……と適切に使い分けなければならないのだ。
子供のころにホッチキスを空撃ちして怒られた思い出を持つ人も多いと思うが,本作のプレイ中は思う存分にカチカチしてもいい。ホッチキスのクリック感はそれ自体に気持ちよさがあり,何度でも打ちたくなる。
ここにガンマンごっこの要素まで加わっているのもポイントだろう。構えてみるとなんとなく武器っぽく,ただただ無心に連射してみたいと感じた。
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本作の入力デバイスとしてホッチキスが使われたのは,「ホッチキスを何度もカチカチできたら爽快だろうな」というシンプルな理由からだという。ホッチキスを打つ様子がショットガンの射撃に似ているということから,ガンマンがモチーフとなった。
タイトルこそ「ホッチキスガンマン」だが,意外にもエイムする必要はなく,検知するのはホッチキスを押したか否かだ。
ホッチキスの下部にある,針が押しつけられるプレート(クリンチャー)には2本のジャンパ線が配されており,プレイヤーがホッチキスを打つとドライバ(針を押し出す金属板)が電極に触れて通電,コードを通してPCに伝わる。つまり,ホッチキス本来の構造を生かし,最小限の改造で入力デバイス化しているというわけだ。
ホッチキスの下部にはケースが被されているが,これは入力検出用のコードを固定するため。ケースの中でホッチキスがズレるのを防ぐため,切った消しゴムが詰め込まれている。左右のホッチキスは書類の向きを見て使い分けるのだが,来場者からはとっさの判断が難しいという声もあったという。
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「めんこの刻」 入力デバイス:めんこ
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リアルの紙で作られためんこと,ディスプレイに映るデジタルめんこを組み合わせて遊ぶのが「めんこの刻」だ。自分は紙めんこを持ち,ディスプレイに叩きつけて,ターゲットであるデジタルめんこをひっくり返す。
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紙めんこは丸,三角,四角の3種が1枚ずつ用意されており,形によって衝撃波の広がりかたが違う。盤面にある自分のめんこに衝撃波を当ててひっくり返せると「友情コンボ」となり,さらに大きな衝撃波が広がって高得点のチャンスとなる。つまり,初手にどの紙めんこを選ぶか,次はどこにどの紙めんこを使うかという戦術性があるわけだ。
そして,ディスプレイの中では大きな衝撃波が波のように伝わり,無数のデジタルめんこが勢いよくひっくり返る。デジタルめんこの数は多く,現実でこれだけのめんこを扱うのは手間がかかるし,衝撃波の広がりかたが違うというフィーチャーも現実では扱いきれない。デジタルならではのゲーム的表現といえるだろう。
それでいて,紙めんこを叩きつける,アナログらしいフィードバックも気持ちいい。紙めんこには「武器」「寿司」「鳥獣戯画」と3種のデッキがあり,見た目にも面白い(能力は共通)。デジタルとアナログをうまく融合させたゲーム体験といえるだろう。
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本作は昔ながらの遊びをデジタルにするというテーマからめんこが選ばれた。相手のめんこをデジタルにすれば簡単にひっくり返せて初心者でも楽しめるだろう,ということで派手な展開が志向されたという。
紙めんこをディスプレイに叩きつけた際の衝撃は,マイコンボード「スクーミー」とセンサーが測定,カメラが位置と形を検知している。会場ではカメラが照明に影響されて紙めんこの検知が難しいことがあり,こちらは設置位置を工夫することで解決できたという。衝撃の強さ自体はセンサーで取得できているものの,ゲームには生かされていない状態で,これは今後の課題であるとのことだ。
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毎年ユニークな入力デバイスでインパクトのあるゲームを出展している愛知工業大学だが,完成するゲームが多いため,日替わりにしないと展示しきれない状態が続いているのだという。
これまでの東京ゲームショウでも,和傘+プロジェクションマッピングや鼻に指を突っ込むといった,ほかに例を見ないゲームが出展されていたので,興味のある人は過去の記事をチェックしてほしい。
「愛知工業大学」公式サイト
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