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堀井雄二氏がこれまでのゲーム開発を振り返る。韓国で行われた「ドラゴンクエスト」の講演をレポート[G-STAR 2025]
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堀井氏は,11月3日に「旭日小綬章」を受賞して,大きな話題になったばかり。しかも,韓国で講演するのは今回が初めてということで,会場には多くの来場者が集まった。多くはドラゴンクエストファンであり,「ドラゴンクエストが好きな人?」という質問には,大半が手を上げていた。
堀井氏が,これまでのゲーム開発を振り返り,さまざまな質問に答えた講演の模様をレポートしよう。
「ドラゴンクエスト」シリーズの生みの親である堀井雄二氏,芸術文化功労を理由に「旭日小綬章」を受章。ゲームクリエイターとして初
内閣府は2025年11月3日,今年度における秋の叙勲の受章者を発表した。「芸術文化功労」を理由に「旭日小綬章」には,「ドラゴンクエスト」シリーズの生みの親である堀井雄二氏が名を連ねた。ゲームクリエイターとしては初の受章となる。
まずは,「旭日章」(きょくじつしょう)の受賞について。感想を聞かれた堀井氏は,かつてのゲームは世間から冷たい目で見られていたことを思い出し,ゲームクリエイターが国に表彰される時代がきたことが感無量だと答えていた。
初代ドラゴンクエストが発売されたのは,1986年のこと。その原点を作ろうと思ったきっかけはなんだったのだろうか。
堀井氏によれば,当時はRPGがマニアックなもので,PCで遊ぶものだったため,それをアクションゲームばかりのファミリーコンピュータでやれば,絶対に受けると思ったという。
もともと,堀井氏は漫画家志望だったが,コンピュータに出会い,そのインタラクティブ性に惹かれた。そして「これを使って漫画を描いたらどうなるんだろう」と思ったのも,ドラゴンクエストを作ったきっかけの1つだそうだ。
ドラゴンクエストに地の文がほとんどなく,セリフで進んでいくのも,漫画がセリフで進んでいくからだという。セリフは地の文よりも読みやすいため,当時の硬派なRPGに対して,分かりやすくしたいという思いもあったようだ。
また,「Ultima」や「Wizardry」といったRPGは,自由度が高いぶん開発が難しい。そのため,ドラゴンクエストはレールに沿って遊べばいいという仕組みにしている。
続いては,勇者が魔王を倒す物語はどう考えたのかという質問だ。堀井氏は,RPGの面白さの1つに,戦って自分が強くなるこたあると指摘。そして強くなった自分がどうすればいいかを考えたときに,直感的に分かりやすく倒すべき存在として魔王を思いついたという。
初代ドラゴンクエストで最初から竜王の城が見えるのも,「あそこに行けばいいんだ」「どうしたら行けるんだろう」と,目標や興味を持てるようにしたいからだ。
なお,ドラゴンクエストIの企画は,10人ぐらいの仲間たちとアイデアを出し合ってできたものだそうだ。
当時,堀井氏が「プレイヤーがどう面白がるか」を考えていたのかという質問に対しては,名前について語った。初代ドラゴンクエストでは,自分が入力した名前を王様に呼んでもらえる。当時は見るだけの媒体だったテレビから,自分の名前を呼ばれることで,面白がってくれると思ったという。
そうした,プレイヤーを喜ばせたい,ワクワクさせたいとい思いは今も変わっていない。人の一番の遊びは人生を体験することであり,本でも映像でも,感情移入して違う自分を体験できる。ゲームは,それを表現しやすい媒体だと,堀井氏は話していた。
セリフも,プレイヤーの反応を考えて決めているという。分かりやすいのは,竜王の「世界の半分をやろう」といったセリフだろう。これに「はい」「いいえ」で答えられるというのが衝撃的だ。
「ドラゴンクエストII」の,やっと見つけたサマルトリアの王子に「いやー さがしましたよ」と言われるシーンも,「俺だよ!」というツッコミを想定して書いたという。
ドラゴンクエストの発売後,影響を受けてさまざまなRPGが登場してきたが,堀井氏から見て,それはどうなのかと聞かれた際は,「ライバルではあるけど楽しかった」と回答。自分で作ったものは中身が分かってしまうが,人が作ったものは純粋に遊べるからだ。
これまで刺激を受けたRPGについては,「ゼルダの伝説」を挙げていた。今でいうオープンワールドな作りが気に入ったそうで,最新作である「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」もかなり遊んだとか。
こうした話から分かるとおり,堀井氏は現役のゲームデザイナーであると同時に,ただ遊びたいプレイヤーでもある。
堀井氏といえば,ドラゴンクエストの前に,アドベンチャーゲームを手がけていたことでも知られている。「アクションなどを作りたいという気持ちはなかったのか」という質問には,物語を作りたいという欲求のほうが強かったと答えた。
続けて,ドラゴンクエストの物語をどう作っているかを聞かれると,「ある意味,魔王を倒すのは決まっているので,その中間でどういうことが起きたら面白いかを考えています」との答え。朝起きたら周りに誰もいなくなっているといったイベントなどが一例で,堀井氏はいたずら好きなので,プレイヤーにいたずらを仕掛けるようなイベントを盛り込みたくなるのだそうだ。
最初にエンディングが決まっていて,そこから逆算でゲームを作っていくのか,それともシナリオに沿って作っていくのかという質問には,シリーズによって違うとのこと。例として「ドラゴンクエストV」の結婚イベントを挙げ,真剣に悩んでほしいから作ったという。毎回,どういう遊びを提供するのかを考えているそうだ。
「ドラゴンクエストVI」の場合は,中盤以降で新しいマップを出すのではなく,序盤から行き来できたらどうかと,夢の世界と現実の世界を思いついた。
こうしたアイデアを楽しく考えられる堀井氏であっても,やはり形にするのはキツく,そのぶん,できあがったときの喜びはひとしおだそうだ。
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ちなみに,堀井氏はシナリオを夜中に書くタイプで,昼間はだらだらして,夜になると「やらなきゃ」とエンジンがかかるのだとか。夏休みの宿題も駆け込みで終わらせるといった,「明日できることは明日しよう」の精神だ。堀井氏によれば,集中するには何もしない時間が必要であり,その代わり,書き始めると早いそうだ。
これまでドラゴンクエストシリーズを作ってきて,印象に残る分岐点はどこかと尋ねられた堀井氏が挙げたタイトルは「ドラゴンクエストIV」だった。「ドラゴンクエストIII」が,社会現象になるほどの人気を獲得したことから,次回作への期待が高まり,プレッシャーに悩んだという。
そこで思いついたのが,キャラクターを立てて,章立てにして,仲間たちの人生を描いてみようというものだった。イベントも,キャラクターを掘り下げるようなものを用意した。
こうしたチャレンジによって,ドラゴンクエストのキャラクターはより魅力的になっていった。キャラクターが面白ければ,どう動くか見たくなる。プレイのモチベーションになるだけでなく,ストーリーがどんな話だったかは覚えていなくても,キャラクターは覚えているという人も現れることになった。
チャレンジという点では,「ドラゴンクエストX」も大きな存在だ。オンラインゲームとなった同作を,ナンバリングタイトルにするかについては本当に悩んだという。最終的には,より多くの人に遊んでもらいたい,それによってオンラインゲームの楽しさを知ってもらいたいという気持ちで,ナンバリングとすることになった。
次の話題は,最近発売された「ドラゴンクエストI&II」について。現代に原点をリメイクするにあたり,何を大事にしようと思ったのか聞かれた堀井氏は,HD-2D版「ドラゴンクエストIII」の後に出したことで,そのままリメイクするだけでは物足りないと考えたという。記憶は美化されるうえに,初代ドラゴンクエストはシンプルなゲームであり,イベントもセリフも,モンスターも少ないからだ。
そこで,美化された記憶の再現,つまり,当時,みんながこんなことを考えて遊んでいたと思うから,それを再現しようというアイデアが浮かんだそうだ。
また,「ドラゴンクエストII」では「あっ」と思わせるため,エンディングは久しぶりに自分でシナリオを書いたと話した。マップに自分で人を置いて,セリフを書いて……とやっていたのは,「ドラゴンクエストVII」あたりまでなのだそうだ。
「ドラゴンクエストVII」は,堀井氏にとって思い出深い作品だという。ハードがPlayStationに移ったことで,それまで容量との戦いだったROMカセットではなく,CD-ROMが使えるようになった。そこで,欲張って作ったらやりすぎてしまったという。
同作では,マップを集めたら楽しいのではないかという発想のもと,石板を集めて新しいマップに行くという流れにしたが,マップをぐるぐる回転させて石板を見つけるのは難しく,挫折してしまう人も多かった。そのため,2026年2月5日に発売されるリメイク作「ドラゴンクエストVII Reimagined」では,見つけやすくしているという。発売を控える本作について,堀井氏は「もうほぼできているので!」とコメントしていた。
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これまで,ずっとゲームデザイナーとして活動してきた堀井氏だが,モチベーションはずっと保たれてきたのだろうか。
この疑問に対して堀井氏は,ゲーム作りが辛いと思ったことはあっても,ここまで作ってきたのだから作り続けるしかないと回答した。多くの人に期待されているだけでなく,自身がゲーム好きなので,「こういう遊びを提供したい」と思い付いてしまい,それを形にしているのだそうだ。
ゲーム作りの楽しさは,個人の楽しさ,仲間と作る楽しさ,そして発売したあと,プレイヤーのフィードバックをもらう楽しさ,いずれも感じているという。とくに,今はネットで遊んだ人の声が読める時代であり,堀井氏はXやゲーム実況を見ながら,「自分の作ったゲームをこう遊んでいるんだ」と思っていると述べた。
ドラゴンクエストシリーズは,来年で40周年を迎える。堀井氏にとっては,作っているときは長く感じたが,思い返すとあっという間だったという。
ドラゴンクエストシリーズがこれまで愛されてきた秘訣は何かと問われた堀井氏は,「一種のコミュニケーションツール」であることを挙げた。例えば,レベルアップしたり,謎を解いたりしたことを友達に自慢する。お兄ちゃんにレベル上げを頼まれる。遊びすぎて親に怒られる。こうしたさまざまな思い出があるからこそ,ドラゴンクエストがあるのだ。
そして,こうした思い出をプレイヤーが覚えていてくれることは嬉しいと,堀井氏は話していた。
ドラゴンクエストシリーズに限らず,ゲームクリエイターとしてこれからやってみたいことを聞かれた堀井氏は,ChatGPTのようなAIを用いたゲームを挙げた。例えば,犯人捜しのミステリーを,AIの部下と話しながら進めたり,AIに聞き込みしたりといった具合だ。
また,VRにも興味があるそうで,新しいテクノロジーにも注目している様子だった。
最後に,会場に集まったゲーム開発者へのエールも送られた。
ゲーム開発者であれば,いろいろなゲームを作りたくて,たくさんのアイデアを持っていることだろう。しかし,難しいのは,頭にあるものをどのように形にするかだ。堀井氏は,とにかくそれを形にすることが大事だと考えており,失敗しても勉強になるので,外に出す工夫をしてほしいと語った。
堀井氏が手掛けたアドベンチャーゲーム「ポートピア連続殺人事件」は,堀井氏自身が絵を描き,セリフを書き,プログラムを書いた。実現のために必要なことを,少しずつ覚えていった。ただ,当時BASICで覚えた命令は4つだけだったという。
最初から分厚い本の内容すべては覚えられない。それはゲームの作り方も同じで,チュートリアルですべてを教えればいいわけではない。全部いきなり教えられても,面倒になるだけなので,少しだけ覚えて,あとは分かった気になって進めてもらえればいい。
まずは,とっかかりから作って広げていく大切さを説き,講演を締めくくった。
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