お気に入りタイトル/ワード

タイトル/ワード名

最近記事を読んだタイトル/ワード

タイトル/ワード名

LINEで4Gamerアカウントを登録
セガにおける,安心・安全な生成AIの社内活用とガバナンスとは?[CEDEC 2025]
特集記事一覧
注目のレビュー
注目のムービー

メディアパートナー

印刷2025/08/09 17:35

イベント

セガにおける,安心・安全な生成AIの社内活用とガバナンスとは?[CEDEC 2025]

 生成AIの可能性や便利さは多くの人が感じている。しかし,その利用における安全性の確保は,企業にとって大きな課題だ。

 2025年7月22日より開催されたCEDEC 2025のセッション「安心安全に生成AIを使おう!社内で運用中の生成AIのガバナンスをご紹介」では,セガが社内活用に向けて,どのように取り組み,どのような指針を掲げているかが語られた。

画像ギャラリー No.001のサムネイル画像 / セガにおける,安心・安全な生成AIの社内活用とガバナンスとは?[CEDEC 2025]


生成AIは見える化して使おう


 セッションの冒頭では,ふたりの登壇者の自己紹介が行われた。

 ひとりめは,セガのコーポレートデベロップメント本部 企画調査部 テクニカルディレクターを務める横島大志氏だ。「社内と社外技術(生成AI)の架け橋」役を務める氏は,さまざまなコンテンツプロバイダやSNSプラットフォーマーを渡り歩き,2012年にセガに入社。その後はユーザー周辺体験に着目した新規事業開発を経て,現在の役職に至っている。

画像ギャラリー No.002のサムネイル画像 / セガにおける,安心・安全な生成AIの社内活用とガバナンスとは?[CEDEC 2025]

 もうひとりは,技術本部 テクニカルディレクターと開発技術部 部長と技術統括室 副室長を兼任し,生成AI活用全般の課題にも取り組む矢儀篤樹氏だ。メインプログラマとしてゲーム開発に参加したのち,幅広いプロジェクトで技術サポートに従事してきた経歴を持つ。

画像ギャラリー No.003のサムネイル画像 / セガにおける,安心・安全な生成AIの社内活用とガバナンスとは?[CEDEC 2025]

 生成AIはすでに日々の業務に深く浸透している。チャットボット,画像生成,動画生成など,具体的な用途は多岐にわたる。矢儀氏は,ビッグテック企業がAIに巨額の投資を行い,市場が拡大している現状に触れ,「チャットボットに『ありがとう』と伝えるだけでも意外と電力を消費する」と,ユーモアも交えてその規模の大きさを伝える。

画像ギャラリー No.004のサムネイル画像 / セガにおける,安心・安全な生成AIの社内活用とガバナンスとは?[CEDEC 2025]

 生成AIは,メールの文案作成や翻訳,作業中のサジェストなど,多様な形で業務を支援する。矢儀氏は「今は生成AIが隣の席で一緒に仕事をしているような時代だ」と述べ,その存在が開発現場にとって身近なものとなっている現状を伝えた。

画像ギャラリー No.005のサムネイル画像 / セガにおける,安心・安全な生成AIの社内活用とガバナンスとは?[CEDEC 2025]

 このような状況の中で,セガが今の開発現場に提言するのが「生成AIは見える化して使おう」という考え方だ。具体的には以下の3点が重要という。

画像ギャラリー No.006のサムネイル画像 / セガにおける,安心・安全な生成AIの社内活用とガバナンスとは?[CEDEC 2025]

(1)使用状況の可視化
(2)利用ログの記録
(3)権利関係などの判断支援


 今やあらゆるツールにAIが採用されており,どこで使われているか分からないほど浸透している。だからこそ,その使用状況をしっかりと可視化することが,安心・安全な活用の第一歩となる。

 では,生成AIの活用は業務にどのような変化をもたらしているのだろうか。ゲーム開発以外の一般業務では,エージェント(チャットボット),翻訳,ナレッジの共有(長期運営するゲームでシナリオやキャラクターが重複しないようチェックする)といった用途がある。開発においては,コード生成,画像生成,モーション生成などを内部でのテスト用途に利用するケースが挙げられた。

画像ギャラリー No.007のサムネイル画像 / セガにおける,安心・安全な生成AIの社内活用とガバナンスとは?[CEDEC 2025]

 さらにサービス運営の領域での不適切な画像やテキストのチェック,プレイヤー補助といった活用や,究極的には物語やセリフの自動生成といった,新たな創造性の追求への期待も一部にあるという。

 開発フローごとの生成AI活用例として示されたスライドからは,もはやほとんどの工程でAIの支援を受けられることが分かる。

画像ギャラリー No.008のサムネイル画像 / セガにおける,安心・安全な生成AIの社内活用とガバナンスとは?[CEDEC 2025]


生成AIの利便性と,人の創造性の共存は可能


 セガは,生成AIとの共存において「利便性と創造性の共存は可能」という立場だ。AIで仕事を効率化できるだけでなく,そこで生まれた時間の余裕により,人間が新たな発想や体験を創造しやすくなる効果もあると見ている。

 だからこそ,誰でも安心・安全に使える環境が必要であり,前述した「見える化」などがその要となる。一部の専門家だけでなく,従業員全員が迷わず適切に使えることを目指し,「創造を支え,リスクに備える」ことを考えて取り組んできたという。

画像ギャラリー No.009のサムネイル画像 / セガにおける,安心・安全な生成AIの社内活用とガバナンスとは?[CEDEC 2025]

 そこで目指すのは,「安全なだけでなく,AIの力を最大限に引き出し,新たな価値を生み出す」状態だ。AIを野放図に利用することは情報流出だけでなく,AIのバイアスやハルシネーションによって問題が起こるリスクもある。そうではなく「危険性も把握しつつ接する」ことで真に活用できるというわけだ。 
 
 ただ,AIはユーザーが「気づかないうちに」使っているケースもありうる。だからといって守り一辺倒で創造性の拡張を閉ざしてしまうことや,使用できるベンダーやモデルを限定しすぎてベンダーロックイン(将来的な乗り換えが困難だったり,費用がかかりすぎたりする状態に陥ること)することも避けたい。では,どうすればこの課題に対応できるのだろうか。

画像ギャラリー No.011のサムネイル画像 / セガにおける,安心・安全な生成AIの社内活用とガバナンスとは?[CEDEC 2025]

 ここからは横島氏が,セガの具体的な取り組みである「生成AI委員会」の設立とその構成について語った。

画像ギャラリー No.012のサムネイル画像 / セガにおける,安心・安全な生成AIの社内活用とガバナンスとは?[CEDEC 2025]

 もともと開発側では早くから生成AIへの注目が高まっていたが,ChatGPTの登場以降は,開発以外の部署からも活用したいという声が上がったという。生成AI委員会は最初の取り組みとして,2024年4月に1ページにトップメッセージおよび禁止事項を集約しつつ「分からないときは窓口に問い合わせる」というシンプルなガイドラインを公開した。それが1年数か月後の現在では,すでに数ページにわたる内容に増えている。

 また,SteamなどのプラットフォーマーへのAI使用の開示義務も考慮し,社内審査会議と連携してコンプライアンスチェックも実施。生成AIに対する見解が世界の各地域ごとに分かれていることから,各地域の広報,法務のメンバーも巻き込んで,ガバナンス体制を構築している。

 生成AI委員会の中核を担うのは「窓口/調査」を担当する少数のメンバーだ。これは矢儀氏と横島氏が中心的役割を果たしているという。そこに関わる部門構成として,IT部門,教育部門,セキュリティ,法務,そして複数部門を横断したメンバーで構成される「セガAIタスクフォース」が挙げられた。

画像ギャラリー No.013のサムネイル画像 / セガにおける,安心・安全な生成AIの社内活用とガバナンスとは?[CEDEC 2025]

 タスクフォースの主な活動内容は以下のとおりである。

(1)各部署からの相談対応
(2)各種AIツール開発
(3)最新AI情報の収集および調査
(4)デューデリジェンス(要望を受けてからフィードバックまでを担う)


 前述のとおり,生成AI委員会は生成AIを活用するための社内共通ルールを「ガイドライン」として発信している。その内容は,ガバナンスの枠組み,トップメッセージ,生成AIと著作権,利用可能なサービス・利用条件など多岐にわたる。

画像ギャラリー No.014のサムネイル画像 / セガにおける,安心・安全な生成AIの社内活用とガバナンスとは?[CEDEC 2025]

 そしてこのガイドラインは,常に更新を続ける必要がある。なぜなら,これまで問題なく使えていたツールにAIによる機能が加わるだけで,それが安全に使えるかどうかの検証が必要になるためだ。ただ,このガイドラインではあえて「使用可/使用不可」といった明確な線引きはしていないという。

 特に,ガイドライン公開当初は社内の生成AIの利用実態を把握するために,問い合わせベースで各部門が何を求めているのか,事実の把握から始めたという。そこから運用の改善や今後の提言などを検討し,結果としてガイドラインが更新されていくという流れだ。

画像ギャラリー No.015のサムネイル画像 / セガにおける,安心・安全な生成AIの社内活用とガバナンスとは?[CEDEC 2025]

 また,実際のAIの利用に際しての支援も積極的に行われている。「これはOK,これはダメ」と一律に判断するのではなく,例えば「検証用途ならOK」「試作なら大丈夫」といったように,現場との対話を通じて,社外のAIに与えてはいけないデータを共に考えていくという姿勢だ。なお,企業間契約の社内向けサービスについては利用審査が不要とされており,契約済みのツール(AzureやOpenAIなど)はホワイトリストで明示されている。

 続いて問い合わせを受けた際のワークフローも紹介された。ガイドライン公開当初は,社内からの問い合わせはシンプルなものが多かったというが,「公開から時間が立つにつれて利用者側が事前に準備を整えるようになるなど,意識の変化が見られる」と矢儀氏は語った。

画像ギャラリー No.016のサムネイル画像 / セガにおける,安心・安全な生成AIの社内活用とガバナンスとは?[CEDEC 2025]

(1)問い合わせ
生成AI委員会あてに,ツール名・用途・業務目的などの情報を添えて相談

(2)調査
サービス規約のチェック。エンタープライズ契約などにより規約が緩和される場合もあるため,ツールの提供元ともコミュニケーションを取る。

(3)検証
試験環境やデモアカウントで業務フローへの組み込み,仮運用での情報漏洩リスクや業務影響を検証する。問い合わせ元の開発スタジオと共同で行うこともある。

(4)打ち合わせ
利用者側のニーズに合わせて,安全な使い方を検討したり,別の安全なツールを提案したりする。

(5)コンプラチェック
最終的に法務・情報セキュリティ・社内ポリシーとの整合を確認。

(6)回答
これらをもとに利用の可否や注意点を含めフィードバック。

 さらに利用NGなパターンの例も示された。サービスやツールの規約,生成AIに対する世論が変化しうるため現段階のものと前置きしつつ,以下が挙げられた。

画像ギャラリー No.017のサムネイル画像 / セガにおける,安心・安全な生成AIの社内活用とガバナンスとは?[CEDEC 2025]

■権利が移る
アップロードした時点で著作物の権利がベンダーなどに移ってしまう条件がある場合。

■ガバメントアクセス
特定の国家において,有事の際に第三者からのアクセスがされる可能性があるもの。

■オプトアウト不可
学習に使わせない設定ができないもの。

■出力に帰属先がない
出力物の由来や根拠が不透明なもの。

■利用目的が不明確
入力データの第三者への提供がありえるため。


実運用で見えた課題と今後の展望


 セッションの終盤,生成AIの実運用で見えてきた課題と今後の展望が語られた。実運用で見えた課題としては,以下のようなものが挙げられた。これは新しい技術である生成AIの進化の速さ,運用においての課題を再確認したような形だ。

画像ギャラリー No.018のサムネイル画像 / セガにおける,安心・安全な生成AIの社内活用とガバナンスとは?[CEDEC 2025]

■ツールごとの違い
似たような機能でも,ツールごとにポリシーが異なり,大雑把な判断ができない。

■技術課題の多さ
ツールの脆弱性対応など,技術的に未熟なサービスへの対応が発生しやすい。

■変化・進化の速さ
新しいツールが次々と登場し,既存のツールの仕様変更や規約変更も頻繁なため,検討し直す必要がある。

■リスク管理の難しさ
「ツールAに対して『これに限定するならOK』と伝えても,その限定条件が抜けてツールAはOKとほかに伝わってしまう」といった課題がある。

■情報追いきれない問題
新規ツールやポリシー,技術的制限など読み解くべきものが多く,利用までのハードルが高い。

■判断が人に依存しがち
チームで議論し判断しているが,ナレッジの蓄積や相談窓口の集中により,現状一部の人に依存している。意思決定の「見える化」も課題と認識している。

 これらの課題を踏まえて,今後の展望として以下の点が示された。使い方を野放しにするのではなく,目的や範囲,責任を設計。かつ利用状況を見える化することでトラブル防止および改善指針を得る。そして最終的には全員が判断できる環境をつくることを目標とするという。

 安心・安全に生成AIを使うためには,従業員全体が安全性に対する要点を理解している状態が望ましい。その状態を目指す支援体制を整える必要があると,セガは考えているわけだ。

画像ギャラリー No.019のサムネイル画像 / セガにおける,安心・安全な生成AIの社内活用とガバナンスとは?[CEDEC 2025]

 横島氏はセッションの締めくくりに,「生成AIはもはや触らずにはいられない技術であり,使おうと思ってなくても業務に浸透してきている。これは開発以外の部門も例外ではない。創造性とリスクコントロールはトレードオフではないと捉え,設計,判断,支援によって共存を探り続ける」と語った。

画像ギャラリー No.020のサムネイル画像 / セガにおける,安心・安全な生成AIの社内活用とガバナンスとは?[CEDEC 2025]

 矢儀氏は「この発表内容はどこの組織や会社でも使えるように作ったつもり」と前置きしつつ,クリエイター側からも委員会の負担を減らすべく動いてくれている傾向は,セガという会社の文化であることを補足する。ただ,「ガイドラインをなるべく少なくして運用する」「専任の窓口を設ける」ことなど,組織の文化に合わせて運用するためのヒントを述べていた。

画像ギャラリー No.021のサムネイル画像 / セガにおける,安心・安全な生成AIの社内活用とガバナンスとは?[CEDEC 2025]

「CEDEC 2025」公式サイト

4Gamer「CEDEC 2025」関連記事一覧

  • 関連タイトル:

    講演/シンポジウム

  • この記事のURL:
4Gamer.net最新情報
プラットフォーム別新着記事
総合新着記事
企画記事
スペシャルコンテンツ
注目記事ランキング
集計:08月08日〜08月09日