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「殺陣」の3要素とは何なのか。バトルシーン制作のノウハウをモーションアクターが語る![CEDEC 2025]
ゲームのカットシーンの殺陣やバトルシーンの作り方に関する同講演では,ゲーム開発における動きの専門家であるモーションアクターが担う仕事とその具体的なノウハウが共有された。
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講演を行った株式会社モーションアクター代表の杉口秀樹氏は,ゲーム開発者から「1対1,1対複数,複数対複数といったバトルシーンの創り方が分からない」という相談をよく受けるそうだ。
映画やドラマの世界では,アクション部がキャラクターやシチュエーションに応じて構成を練り,ディレクターと密に連携してシーンを作り上げることが一般的だが,ゲーム業界ではまだそうした取り組み方は少ないという。
そんなゲーム制作の現場に「バトルシーンの創り方」を共有し,その一助としてもらうことがこの講演の狙いだ。今回登壇したのは杉口氏と同社に所属する金子起也氏,Mao氏の3人である。
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モーションアクターの仕事とレベル別の制作
杉口氏によれば,ゲームクリエイター側は「どうすればカッコよくなるのか」「流れや正解はあるのか」「どんなパターンがあるのか」「オリジナリティを出すには」「そもそも何から着手したらいいか分からない」といった多くの疑問を抱えているという。
どこまで専門家に頼るべきか,どうすれば最善の結果が得られるのか,その共有がうまくできていないことを自分たちの課題と捉えている。
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そこで杉口氏は,「レベル1 丸投げする」から「レベルMAX アクターには頼らん!!」まで,ゲーム開発とモーションアクターの連携度合いをレベル分けして紹介するという。
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続いて,モーションアクターの仕事についてのビジョンが説明された。おおまかには以下の3点である。
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- 「高度な身体表現」イメージの実現化をサポートする
- 「モーション・ロジック」キャラクターに魂を吹き込むためのロジックを提供する
- 「ファンタジック・アイディア」共に幻想的なアイディアを生み出す
これらは,モーションアクターが肉体で培ったものをベースに,クリエイターと共にアクションを「共創する」存在であることを表している。
そして今度はレベル表に,「コミュニケーション」「費用」「依頼者のレベル」などを加えたものが示された。これを見ると,「費用」と「依頼側が担うこと」がトレードオフの関係となっていることが分かる。
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レベル1はアクション監督込みのコースであり,依頼側の労力は最小限で済む。レベル10であれば依頼者がアクション監督となり,アクターに具体的に依頼する形だ。
そして気になる「レベルMax」とは,依頼者自身がアクターも兼任するという,“究極の形”と呼べるもの。……そこまでいくと「クリエイター自身が肉体で表現するコンテンツ」にもなるが,それはそれで興味が湧く。
最も基礎的なレベルである「丸投げする」場合でも,最低限の枠組みは必要となる。
スライドには「場所」「武器の有無」「殺陣の時間」といった項目が挙げられた。具体的な例として,銃を持った女性と素手のゴリラが廊下で戦うというバトルシーンが演じられた。
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この最低限の構成だけでも一連のアクションの土台が完成し,それをベースにイメージに合わせて修正を加えていくことが可能となる。
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レベル5では,技,動き,カメラワーク,ギミックの使い方,感情の変化など,クリエイター側のこだわりをより詳細に盛り込む状態となる。このレベルになると,動きには明確なドラマ性が加わってくる。
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そして,実際の仕事で最も多いパターンだというレベル10では,リハーサルスタジオで動きを徹底的に作り込み,Vコン(映像によるコンテ)などを作成してから,キャプチャースタジオで効率的にキャプチャを行う流れが紹介された。
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最終的な「Max」レベルは,開発者が自らモーションアクターの道へ進むことにも相当する。これは表現としては究極の形だが,実行の難度はきわめて高い。
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カッコいいバトルシーンに必要な3つの要素
続いて,「カッコいいバトルシーンに必要なもの」というスライドが表示された。杉口氏によれば,殺陣は攻撃,被ダメ(被ダメージ),回避の三要素で成り立つという。「ここに大切なことのすべてがあります」と氏は強調する。
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これらは「アクション」と「リアクション」と言い換えることもでき,その組み合わせから無限のバリエーションが生まれる。例えば,攻撃を受けた側のリアクションのリアリティによって,ダメージの大きさの印象が劇的に変化する。
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もし軽めのジャブを受けたにもかかわらず,体が大きく吹っ飛ぶようなリアクションをすれば,エネルギーのやり取りのリアリティが成立せず,不自然な印象を与えてしまう。そのほかにも,重心の崩し方,風穴/貫通系のダメージ,部位の欠損など,さまざまなダメージ表現があることが伝えられた。
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ファンタジー的なダメージ表現の例としては,杉口氏が得技である「攻撃を受けて体が分裂する状態」を演じるという。本当にそんなことが可能なのか?
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もちろん,これはあくまで「茶番」であり,いろいろな“やられパターン”を見せるための前フリであった。
続いて,回避の例が3人によって実演された。こちらはダメージを受けなかった状態を表現するアクションだ。
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「スウェイ」上半身を傾ける |
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「パリィ」はじき返し |
なかでもアクロバットな動きは,攻撃,回避,ダメージの全般に組み合わせることが可能で,バク転しながらの回避,被ダメージ,キックなどの例が示された。
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また,「相打ち」(お互いに攻撃+被ダメ)「カウンター」(回避+攻撃)「回避失敗」(回避+被ダメ)など,複数の要素を組み合わせるパターンもある。
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理論に基づいたロジックとエモーション
杉口氏は,これらの理論を理解していれば,演出を膨らませるうえでの目安となるとした。
攻撃と回避を組み合わせた段取りからスタートしつつ,カメラワーク,ワイヤーアクションなどを駆使することで,アニメや特撮に見られるような「能力バトル」のアクション場面を作り上げることも可能となる。
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株式会社モーションアクターの公式YouTubeチャンネル(リンク)では,こうした知見が詰まった数千種類ものリファレンス動画が公開されており,それらは基本的にフリー素材として使用可能だという。
基礎アクション,ワイヤーアクション,ダメージモーション,武器操作などの各種体験会も開催されており,2D,3D問わずアニメーションに携わる人であれば,「実際を知ったうえでウソをつく」大切さはよく知っているはずだ。
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最後に杉口氏は,バトルシーンを作る目的とは,爆発的な感情を繊細に描き,キャラクターを立てることだと伝える。「我々の仕事はモーションだが,その中で"エモーション"を描かなくてはならない」と,モーションアクターの心構えを語り,講演を締めくくった。
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「CEDEC 2025」公式サイト
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