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「ゲームデザイン教育のためのゲーム」に,目から鱗のアナログ的手法など,興味深い展示の数々[CEDEC 2025]
じゃんけん×鬼ごっこ 2vs.2対戦3Dビデオゲーム
東京工芸大学の中村隆之氏と山根雄飛氏が出展していたのは,頭に「グー」「チョキ」「パー」がついたキャラクターを操作して,自分が勝てる手の相手キャラを捕まえる2対2のチーム対戦型ゲーム。追いかけられながら自分の手を変えるアイテムを取って逆襲……といったプレイの様子はなかなか楽しそうだ。
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だがCEDECだけに,単に面白いゲームとして出展されているわけではない。これは「ゲームデザイン教育のために作られたゲーム」で,大学の授業やゲーム企業の研修で活用されている。カメラの視点やキャラのスピード,アイテムの効果など,さまざまな調整が可能になっているのが特徴だ。
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試遊させてもらったところ,最初は自キャラを後方から捉えるカメラを右アナログスティックで操作しながら相手を追いかける3Dアクションゲームとなっていた。だが次のゲーム開始前に視点を見下ろし型にして,キャラのスピードを上げると,カメラ操作も不要になって2Dゲームライクに。
授業や研修では,こういったさまざまなパラメータやゲームのルールを調整することで「みんなで楽しめるパーティーゲーム」「腕が物を言うeスポーツ」という2種類のゲームを作るという。
興味深いのは,そういったプレイ感はさまざまな要因の組み合わせで生まれるため,複数のチームが同じ目標に向かって挑戦しても,調整はバラバラになること。例えば「キャラのスピードを上げる」という調整は,画面に映っている範囲が狭ければ運の要素が強くなってパーティーゲームになり,広くなれば微妙な操作が勝負を分けるeスポーツ寄りになっていくという。
ゲーム企業の研修では,業務でこういった作業を行うプランナー職よりも,グラフィックスアーティストなどから,「ゲームデザインがどんなものであるか理解が深まった」という声を聞けるそうだ。
ポータブル振動収録装置
スクウェア・エニックスの山本雄飛氏と徳武魁人氏は,ポータブル振動収録装置のデモを行っていた。
これは,さまざまな物にセンサーを当てて動かすことで,コントローラ用の振動を収録するもの。「FINAL FANTASY VII REBIRTH」では,エレキベースの弦の上を滑らせたものがジップライン,ニンテンドー3DSを開いたときのものが射的ミニゲームの振動に使われたという。
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コントローラの振動は,ソフトウェア上で波形を調整する方法で制作されることもあるが,この装置を使えば,それっぽい振動をわずかな手間で作れる。
振動収録装置自体は以前からあったが,今回出展されたものは電池駆動が可能で,収録できる場所が広がったとのこと。こちらを使って収録されたバイク運転時の振動なども会場で確認できた。
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割と弱めの振動が多いような気がしたので,バトルで武器を使ったときの衝撃などに使えるのかと聞いてみると,大きな衝撃はセンサーのしきい値を超えてしまうため,波形をいじる方法のほうが手っ取り早いとのことだった。
デジタル地図開発プラットフォーム
マップボックスが出展していたのは,位置情報ゲームなどで利用する地図の開発用ソフトウェア。地形や道路,建物などはもちろん,店舗情報や気候,混雑状況といった約170のレイヤーから任意のものを選択して利用できる。すでに「信長の野望 出陣」や,「ドラゴンクエストウォーク」などで採用されている。
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位置情報ゲーム開発の場合は,ゲーム内でプレイヤーが立ち寄るポイントの出現エリアについて,開発会社と綿密な調整を行うとのこと。立ち入ってはまずい場所には,そもそもポイントを出現させない設定にするわけだ。
担当者に,将来的な展望を聞いてみると「あくまで地図会社としてですが」という前置きのあとに,「もっと気候データを利用できるといいなと思います」とのことだった。リアルタイムの天候反映だけではなく,過去の気候データを参照して,例えば雨が多い地域に水属性のキャラを出やすくする,といったことは可能だそうだ。
また,ゲーム以外では,電動レンタルバイクなどでの活用法として,気候や混雑状況によって料金をリアルタイムで変動させるといったことも考えられるとのことだった。
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社会福祉施設向けのレクリエーションゲーム
東京国際工科専門職大学の小野憲史氏らが出展していたのは,「大玉送り」というゲーム。4人のプレイヤーが協力して大玉を移動させていくもので,ボタンは1つだけと非常にシンプル。正直に言ってしまうと,ゲーマーとしては少々物足りない気もする。
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これは社会福祉施設でのプレイを前提としたもので,実際に学生が社会福祉施設に通ってニーズを探ったり,フィードバックを受けたりしながら完成させたそうだ。
その結果,勝ち負けによってトラブルが発生するのを防ぐため協力型を採用し,固定画面かつ1ボタン操作など,極力シンプルな内容で,できるかぎり多くの人が楽しめる作りを意識したゲームとなった。
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小野氏は「その施設でしか楽しめないゲームかもしれないが,遊ぶ人たちの声をしっかり聞いて開発すれば,9割方はいいものになる」と,ターゲット層を意識することの重要性を語っていた。
電気を使わないインタラクション
NTTの安 謙太郎氏が出展したゲームは,遊ぶ人がなかなか絶えない人気ぶりだった。まずは動画でプレイの様子を確認してほしい。
プレイヤーがペンで描いた軌跡を,ステージに敷き詰められた棒状のブロックが上に飛び出す形で再現し,それによってステージ上のボールをゴールまで導くゲームとなっている。
「センサーで読み取ったペンの軌跡をデータ化して,ブロックの動きに反映させているのか」と思うかもしれないが,ブロック自体は電気ではなく,磁力で動いている。
回転している黒いベルトのようなものは,フェライト磁石のマグネットシートで,N極側が上を向いている。プレイヤーが持っているペンは強力なネオジム磁石で,これをマグネットシートの上に走らせると,その部分だけS極に書き換えられる。
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そして,敷き詰められた棒状ブロックの底面には,小さいマグネットシートがS極を下にして貼り付けられているので,S極同士となった部分に反発力が生まれてブロックが浮く,という具合だ。ちなみにマグネットシートのベルトは,1回転する前にN極へ戻される。
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構造としてはとてもシンプルだが,ブロックによって軌跡が表現される様子はインタラクティブアートのような雰囲気もあって,思わず見入ってしまう。簡単な文字なら読み取れるぐらいの解像度があるので,メッセージボードとしても利用できそうだ。
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「ブロックをもっと小さくして,たくさん敷き詰めれば,解像度も上がりますよね」と安氏に尋ねてみると,「実はそれがなかなか……」という返答。磁石同士の間隔が狭くなると干渉が発生してうまく軌跡を表現できず,干渉を防ぐために磁力を弱めるとブロックが持ち上がらない……という問題が発生するそうだ。
その点は少々残念だが,この仕組みの特筆すべき点は,開発もメンテナンスも低コストなこと。ブロックの部分はスチレンボードとマグネットシートで作られており,かかった費用は200〜300円程度だという。“書いた文字を再現して表示するディスプレイ”が,アナログ手法かつワンコインにも満たないコストで作れてしまうのは,なかなか驚きだった。
「CEDEC 2025」公式サイト
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