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スマホ向けハイパーカジュアルゲームの売上は広告が命。面白法人カヤックの新卒4名がわずか1年間で1000万DLを実現するまでの苦労を告白[CEDEC 2025]
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登壇したのは面白法人カヤック(以下,カヤック)の鬼頭俊一氏,郭 子靖氏,北村麻奈氏,そして谷川ユウジ氏の4人。カヤックはSNSの広告などでも見られる,シンプルで直感的に遊べる「ハイパーカジュアルゲーム」ジャンルに2019年に参入しており,2024年2月までに全タイトル累計で10億ダウンロードを達成したという。
登壇した4名は2024年に新卒で入社したメンバーで,この1年で彼らが作ったゲームのダウンロード数はなんと1000万超。そこに至るまでに経験したトライ&エラーの数々を,リレー形式で説明した。
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11日間で勝負が決まる,カヤックのハイパーカジュアルゲーム作り
カヤックが手がけるハイパーカジュアルゲームのビジネスモデルは,作品の広告出稿と作品で表示される広告収入の差額によって成り立っている。薄利多売であるため,より多くのユーザーにプレイしてもらうため,年齢や国籍などを特定しない作品が求められる。
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作り方はかなり特徴的で,企画,プロトタイプ開発,広告制作までを1人ないし2人で1週間かけて行い,それを広告と共に一部に向けてリリースし,4日間でどの程度ダウンロードされたか(=ニーズがあるか)で本開発に入るかを決定するというもの。
企画のうち90%が,本開発へは進めない。登壇したメンバーの企画も,45本作ったうち本開発に進めたのは5本のみ。こうして本開発に進んだゲームは2〜3か月かけて本格的に作り込み,上記の広告収支により黒字化したら,いよいよ全世界に向けてリリースと広告展開を行っていくことになる。
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ちなみに本開発に入るためのダウンロード数は350人以上,また全世界配信に至るまではリリース初日の広告費回収率50%が基準で,北村氏はこれを「2つの大きな壁」と称した。
さらにゲームのアップデート(講演では一部を「改善」と呼称)についても数値で評価され,ストアの機能を使ってユーザーの半分にアップデートしたものを配信し,半分はアップデートなしのものを配信。そこでもしアップデートした側の収益が悪かった場合は,そのアップデートは実装しないと,かなり徹底している。
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こうしたカヤックのハイパーカジュアルゲームの作り方に基づいて,新卒の開発者4名は1年目で合計1500万ダウンロードを記録するゲームを作り上げた。
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「面白い」の正体を探す,新卒開発陣のトライ&エラー
ディレクターの郭氏はこの経験を経て,自身がどんな成長を遂げたのかを語った。
入社からいきなり実務を任された郭氏は,何を扱ったゲームが広告でウケるのかを先輩から教えられたという。中でもSS級に注目を集める「銃」と「人体(ラグドール)」を題材にしたタイトルは,カヤックでもメガヒットを飛ばしていたので,その両方を使えば最強のゲームが作れるという考えに至った。
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ところが実際に企画してみると,上記のダウンロード数350人の壁を突破できずに終わってしまう。当時の郭氏は,それがなぜダメだったのかを意識しないまま,いくつか作品を作ったものの,それらもまた基準を通らなかったとのこと。
このままではディレクターとして先に進めないと思った郭氏は,上記の「人体」を改めて取り上げ,これがどうなったら面白いのかをしっかり考え,「トム&ジェリー」や「ルックバック」といった既存の作品を参考に開発した「Kissing Now」というゲームがついに基準を通過した。この作品は,のちに1200万ダウンロードを記録する大ヒット作となったのだが,それまで基準を通らなかった作品と何が違ったのかを自己分析したところ,入社時に言われた「企画とは,何がやりたいかが伝わらないといけない」という言葉を思い出して,それを実践したことだったという。
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それまでは漠然と「面白そう」を考えていたことを,実際の制作経験で「何が面白いか」を思考するようになったことが自身の大きな成長につながったと郭氏は述べ,新卒クリエイターがいきなりトータルディレクションを行い,成長しながらメガヒットゲームを生み出せるのがハイパーカジュアルゲームだと力説した。
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普段は時間をかけて遊ぶゲームが好きだというエンジニアの鬼頭氏は,その正反対の位置付けにあるハイパーカジュアルゲームを作ることに不安があり,最初に作ったゲームはやはりダウンロード数の基準を通過できなかった。自分がゲーム好きだから,やりたいことをたくさん盛り込んだが,広告で面白さが瞬時に理解できないゲームは,広告がすぐにスキップされてしまうというのだ。
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そこで「(ゲームの)魅力を伝えるには,(広告で見せられる)最初の5秒が命」ということを意識し,要素を絞ってゲームの魅力をシンプルに伝えることを心がけた。次の作品は,ユーザー数が少し伸びたそうだ。
絞り込んだ要素をゲームに昇華するため,それらを自分でやってみるという試みを行い,実際に体験したことを作品に落とし込むと,ユーザー数はさらに伸びた。自分がハイパーカジュアルゲームを作るには,この作り方が合っていると考え,以降,そうした作り方を実践している。
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エンジニアの谷川氏はインターン時代にカジュアルゲームに出会い,そのジャンルの第一人者だと思ったカヤックに入社したという。その後,9本の作品が広告テストを通らずモヤモヤしていたところ,郭氏から「おなら」をテーマとした「Fart Man」という企画をもらい,それがついに広告テストを通過した。
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開発には北村氏も加わり,新卒3名で世界配信に向けて本開発をスタートした。60日間で実に35回のアップデートを重ねてブラッシュアップしたが,結果,黒字化に至らず開発中止になってしまった。
原因として,アップデート後の週末の結果が良かったことを参考に週明けにアップデートに着手したものの,なぜかそれが収益アップにつながらない。反応に時間的なズレが生じていると考えていたが,1週間経っても収益は低いまま。そこで改めて比較のためのアップデートをしてみると,アップデート前の内容のほうがユーザーのプレイ時間が長くなっていたという。
データを勘違いした原因は,週末と平日のデータが大きく乖離していたためで,週末に長い時間プレイされた結果を鵜呑みにしてしまったが,週末とそのあとの平日のデータを合わせてみると,アップデート前のほうが長く遊ばれていることが判明した。週明けに即対応していたため,それに気付かなかったのだ。
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また,大事にすべきゲームの肝となる部分を固められず,新たな要素を盛り込んだことが如実に裏目に出たこともあった。ハイパーカジュアルゲームは仕様書がほぼない状態で開発されるため,本開発における改善内容は,その場その場で決められる。ある日谷川氏は,新しい要素をゲームに組み込んだところ,ユーザーのプレイ時間が大幅に減ってしまったのだ。
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その根本的な理由は,ゲームの肝となる部分を固めないまま進めてしまったことにあり,プレイヤーの期待を裏切ってしまったことにあった。広告で期待したものと違う新しい遊びは,むしろ期待を裏切ることになる。ユーザーの期待に応えるという視点がいつの間にか抜けていたことを,大いに反省したそうだ。
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これらの反省を踏まえ,「データは鵜呑みにせず,常に疑う!」「プレイヤーの期待に応えるゲームの肝を先に固める!」という2つの教訓のもとに開発したゲーム「Spring Lancer」は待望の全世界公開を達成している。
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数値を伝えるだけの報告係ではない,作品に愛を持ってサポートするのがマーケターの役割
最後はマーケターの北村氏が,本開発での失敗談を明かした。北村氏の主な仕事は,全世界公開されたゲームの広告の配信量や方法をコントロールすること。数字の分析によりビジネスの可能性を広げ,さまざまなゲームをプレイヤーに届けるために尽力している。
谷川氏の話にもあるように,ゲームの本開発からはマーケターも参加する。この段階ではビジネスのためではなく,改善中のデータを取ってプレイヤー数を増やすことを目的に広告を調整している。
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合わせて,ゲームがビジネスとして成立するかのKPI分析も行う。ポイントになるのは,開発側とマーケター側でKPIの視点が異なる点だ。開発側はプレイ時間を,マーケターは広告費の回収率を重視しており,互いの視点が異なるため,数値が良くても両者の見解が食い違い,改善の評価が一致しないことがある。
谷川氏の話に出た「Fart Man」がその一例で,そもそも北村氏が開発側のKPIを理解しないまま,自分が見ている数値を報告するだけだったと当時の自分を反省した。
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そこで気づいたのが,ゲームへの「愛」が足らなかったということ。愛があれば,開発側のKPIをちゃんと理解しようとするし,愛があればただ数値を報告するだけで終わるはずがない。それに気付いてからは,ゲームの新バージョンを自分もプレイして,改善の状況を開発に聞き,互いの数値をつなげて認識がずれる原因を考えるようになったという。
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開発側は,短期的に改善を進めることで視野が狭くなってしまう場合がある。それに対しマーケターは長期的な視点から俯瞰して見る立場にあり,愛を持って改善を導くパートナーだと北村氏は述べた。この仕事は本当に難しく,感想と事実,意見を分けて何を伝えるのかが大事で,まだまだ精進中だという。
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こうした4名のトライ&エラーの繰り返しが,1000万ダウンロードという結果につながったと郭氏は言う。大の大人が一丸となって本気で向き合うことがカヤックのハイパーカジュアルゲームだと力説し,セッションを締めくくった。
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