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チャンネル登録数だけ見ても,ビジネス案件に合致したゲーム配信者には出会えない。ストリーマーの実情を統計データで見る[CEDEC 2025]
本講演は,現代のゲームビジネスにおいては無視できなくなった,「ゲームの実況配信」における統計データの実情を見て,そこからなにを読み解くべきかを解説したものだ。
近年は単に「案件」などと呼ばれ,企業と配信者(ストリーマー)が協力して商品や作品のアピールをすることも珍しくはない。だがそういったときにデータをどう見るべきなのか。双方の知見が得られる講演だ。
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動画配信≠ライブ配信。似て非なる両者では,確認すべき数字も違う
登壇したのは配信技研 取締役の中村鮎葉氏だ。氏は「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズのプレイヤー活動を経て,現在は同社でライブ配信ビジネスの最前線に立っている。
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本講演はまず,中村氏が以下のスライドで提示し,「どちらが動画配信者で,どちらがライブ配信者でしょうか」というクイズを出した。
つかみからしてユニークな展開でスタートだ。
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結論としては,1枚目が動画配信者で,2枚目がライブ配信者だという。注目すべきは服装(と全体的な雰囲気)で,実は動画配信とライブ配信では文化圏が意外と異なるらしい。
というのも,派手で目を引く“キャラ作り”が行われがちなのが動画配信で,逆にライブ配信は自然体……要は“普通”な場合が多いとのこと(もちろん例外もあり,最近は両者の違いも少なくなってきたとか)。
なぜこの話がされたかというと,よく混同されるが「動画配信とライブ配信は別物である」という前提のためだ。
従って,講演のテーマである統計データに関しても,動画とライブでは見るべき要素が異なるという理屈である。
続いて中村氏は,ライブ配信の時代による移り変わりに触れた。例えば2014年以前のライブ配信は,企業が主導して番組を作り,タレントなどを出演させ,新作やアップデートについて紹介する放送が主流だった。
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それから2019年まで時代が下ると,様相もガラッと変わる。今「ライブ配信」と言われてパッと頭に浮かぶような,配信者が1人で画面に向かってゲームする,現在の普遍的なゲーム実況の絵面に変化した。
具体的な変化は,番組モノから個人配信へ,短尺モノから長尺モノへ,そして進行も台本を前提とした流れから,個々人の自然体を見せる流れへと変わったことにあり,この変貌が大きいのだという。
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しかし2019年ごろ,環境に大きな変化が生まれた。動画サイトの存在感が非常に大きくなり,広告代理店が「動画チャンネルそのもの」や「チャンネル登録数」を最重要視することになったからだ。
以降,企業がビジネス案件のためにYouTubeの配信者を探すときは,チャンネル登録者数が基準となり,それを確認できる登録者数ランキングなどが主要な参考要素として扱われるようになってしまった。
結果,企業と配信者のミスマッチ(齟齬)が起こってきたそうだ。
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なぜ齟齬が発生したのか。それは前出のように動画とライブでは(専門家から見れば)異なるものになるからだ。
具体的には,ライブ配信者を探すとき,影響力を求めてチャンネル登録者数で選ぶのはそぐわないそうだ。
ではなにを見るべきなのか。そこは「視聴時間」に注目したいと中村氏は語る。視聴時間とは要するにユーザーの合計滞在時間であり,野球に例えるならOPS(On-base plus slugging)のようなもの。単純に打率などを参考にするのではく,より(影響度や活躍度の)直感に近いものを得られるのが視聴時間ではないか,と考えているそうだ。
理由としては,チャンネル登録者数は先行者がまず有利であり,動画再生数なら(ライブ配信者ではなく)動画投稿者が有利であり,端的に影響力の高い大型事務所の参考値が有利になってしまう。
これは,“今”ファンに愛されているチャンネルを探すのに,不向きではないかというわけだ。
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ゲーム関連企業にとって,市場を適切に調査したり,誰に案件を任せるか考えたりするのはとても重要な問題だ。
そこで単にランキングを見て選ぶのではなく,ファンを中心とした人のつながりや,Authenticity(中村氏は「まごころ」や「本当に(そのコンテンツが)好きな心」と訳していた)も見てほしい。
というのが,中村氏の望みだそうだ。
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日本のライブ配信の市場は,想像以上に大きい
次に中村氏は,日本国内のゲーム実況ライブ配信の「市場規模」について簡単にまとめていった。
氏によると,日本語環境はライブ配信において“世界の列強”とも言える規模を誇っているという。
具体的には,2020年には国内ゲーム実況ライブ配信の視聴時間が30億分に達し,それが2025年には140億分にまで膨れ上がったとのこと。
2020年当時は,新型コロナウイルス感染症の影響下で,巣ごもり需要によりゲーム配信とその視聴機会もグッと増えたと言われている。だが現在はもとに戻るどころか,5倍近くも増えているわけだ。
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言語別でも,市場が飛び抜けて大きい英語を除くと,日本語はなんと2番手につけており,世界的にも十二分に規模が大きいことが分かる。
各配信における有料や無料,視聴場所の違いなども関わるが,これは映画館の合計視聴時間150億分に匹敵する数値であり,秘められた可能性はとても高いと言えよう。中村氏が「日本のデータを見たら,スゴいと思ってほしい」と語っていたのも,印象に残った。
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同時接続10人以上のチャンネルは,上位のたった5%
続いて中村氏は,映像配信における「動画チャンネルとゲームタイトルの関係」について語っていった。
前述のとおり,氏は視聴時間が重要だとしたが,そのランキングだけ見て終わりにもしてほしくないという。
例えば配信時間を見ると,ランキング上位はかなり長いことが多く,実際にそれが主流となっている(月100時間以上がザラ)。しかも配信時間が長いほど人気を維持しやすいという,統計的な裏付けもあるそうだ。
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このあたり,上位の配信者が全体の視聴時間をどれだけ占有しているかについてだが,これはトップ20でも「20%」ほどであるという。これを調べた中村氏は,感覚として“少ないな”と感じたそうだ。
つまり,ランキングに載っていない文化圏のほうが80%と圧倒的に広く,上位の寡占率は想像よりも低いことを示していると言える。
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さらに実際のゲーム配信者数でも,日本国内ではだいたい20万チャンネルほど動いているそうだが,その中でCCU(同時接続者数)が10以上なのは,1万チャンネル程度の上位5%にすぎない。これがCCU100以上となると,4000チャンネルまで減って上位3%まで絞られるそうだ。
視聴側はよく気楽に,大手以外のチャンネルを「過疎」扱いすることがある。だが実際は,CCUを二桁にするだけでも相当に難しい界隈……というのがデータを見るだけで分かる。
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中村氏によると,この「CCU100以上のチャンネルは4000(2%)ほどしかない」という事態は,ビジネスに大きな影響を与えるようだ。
というのも,企業がなんらかのビジネス案件を考える場合,当然この2%の中で頼むのが安パイとなるが,実際は特定の組織や集団などが多数のチャンネルを同時運営していることが多々ある。
そのため,実際に動いてみると選択肢は想像するよりもせまく,結果としてスケジュールが何か月も埋まっていたり,すでに別の企業の影響下にあったり,なんてことが珍しくないそうだ。
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一方,ゲームタイトルのランキングは配信者とは事情が異なり,トップ20のタイトルが約半分を占めるなど,寡占化率が非常に高い。
それらは海外発のタイトルが多いが,ランキングを見ただけだとどういったブームが起きているのか把握しづらいため,別途調べたり,AIなどに尋ねたりして,事情を確認したほうがいいとのことだ。
とにかく,最初に見える分かりやすい値に飛びつくなということか。
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気になる人が多いはずの収益に関しては,中村氏自身は“あまり儲からない”と思っているそうな。氏が手探りでいろいろと調べてみたところ(といっても300チャンネルほどにヒアリングしたのだとか),だいたい視聴時間1万分(ユーザーが1万分滞在)で1ドル程度。
上記の値には投げ銭(スーパーチャットなど)や広告,サブスクリプション料金なども含まれており,さらにプラットフォーマーの取り分もあるので,配信者が実際に得られる収益はさらに小さくなる。
この数字の受け止め方は人によるだろうとしつつも,中村氏は前述のように,これをあまり大きい値とは考えていないと述べた。
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「需要」という神話を乗り越えて
講演が進むと,中村氏は「需要」という言葉に対して,実際のデータと自身の経験に基づいて語っていった。
なんらかの行動を起こす際,よく商業的な成功,あるいは人気を得ることを目的として「需要の有無」を先に考慮することがある。
ゲーム実況の例を挙げるなら,「需要があるゲームの配信をしたほうが(配信者の)人気が上がるはず」という考え方だ。
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結論として,これは否定されている。2022年に配信技研が公開した論文「配信者は人気ゲームに乗り換えたほうが視聴者数が増えるのか?」にて,ゲームタイトルの人気度(配信時間)と,平均同時視聴者数は無関係(相関がない)だという結果が出ているようだ。
しかしその一方で,長い時間配信すると視聴者数が増える(チャンネルが成長する)という現象は確認されている。
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中村氏は「視聴者が見たがっている(=人気がある)○○をプレイすれば,(チャンネルが)伸びる」という考え方は迷信であり,こういった“需要神話”は正解ではないと口にした。
逆に言えば,ほかのメディアからの影響が少ないライブ配信では,配信そのもので流行を起こすしかない。つまるところ,自分自身がきっかけとなり,「心から好きでプレイしているゲームの良さを熱心に伝えた結果,ブームが生まれる」くらいの心づもりでいるべきだそうだ。
「文化自給率」と「土着チャンネル」という考え方
最後に中村氏は,これは初出しの情報だとして「文化自給率」という概念について触れていった。
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文化自給率とは,「面白いゲームタイトル文化圏」をデータ的に測れないかと考え出したもので,新作や今現在勢いがあるゲームを(つまみ食い的に)プレイするのではなく,“そのタイトルだけ”にほぼ特化した「土着チャンネル」(視聴時間の95%以上が1タイトルのもの)が多いタイトルほど,自給率が高いと仮定したものだという。
実際に,2024年9月から11月にかけてPvPタイトルで計算した文化自給率が,以下のようになる。
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上記グラフを見ると,全体の視聴時間はタイトルによって大きく異なるが,土着チャンネルが占める割合も大幅に違うことが分かる。
さらに言えば,土着のチャンネルが生み出した視聴時間は,上位の3つを除けばほぼ同じ。つまり「APEXもポケモンユナイトも大差ない」という見解であり,これらは競技シーンの大きさもだいたい同じくらいなのではないか,と予想しているそうだ。
おそらく,土着チャンネルの視聴時間こそがタイトルのコア層であり,競技シーンに結びつきやすい数値だということ。対して非土着チャンネルの数値は,今現在勢いがあるゲームがつまみ食い的に見られた時間……言ってしまえばタイトル支持力よりも配信者のチャンネル支持力で形成されているだけ,という見方かと思われる。
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さらに土着チャンネルそのものについて調べると,19.1万チャンネルのうち,15.4万チャンネルが1タイトルで配信されていたらしい。
中村氏は「全体の81%のチャンネルがどこかの土着チャンネルだった」と,この調査結果をまとめていた。
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そして中村氏の仮説としては,自給率が高いゲームほど競技シーンが盛んであり,新しいインフルエンサーが生まれやすく(スライドでは「下剋上構造がある」と書かれていた),前出のAuthenticityがありそうだ……という感覚を持っているそうだ。
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またこれらとは別に,心理学の「人数が少ないコミュニティのほうが共同体感覚が高い」という知見が,ライブ配信にもなにか使えないかと考えて,実際にデータを取ってみたとのこと。
すると,平均同時接続者数が少ないほど,商品を紹介したときのクリック率が上がることが分かったそうだ。もちろん,規模が大きいチャンネルほど視聴者の絶対数が多いので,クリックの総数は多くなる。だが実質的にはテレビのような存在に近くなり,「(お金をかけたときの)コストパフォーマンスが悪いのではないか」と中村氏は考察した。
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結論として,ライブ配信者を活用するビジネスで市場調査をするなら,ただランキングを眺めるだけでは不十分であり,実際に注目すべき優先順位は「クリック数 > 視聴時間 > チャンネル登録者数」だとした。
締めとして中村氏は,「(チャンネル登録数より)視聴時間」「(ライブ配信の規模はみんなの想像以上に)日本は列強」「(ゲームコミュニティを単に数字として見ない)Authenticity」の3つの言葉を覚えておいてほしいと語り,講演を締めくくった。
「CEDEC 2025」公式サイト
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