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においを手軽に制御するTensor Valveテクノロジーが創出する新たな価値[CEDEC 2025]
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印刷2025/08/05 17:35

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においを手軽に制御するTensor Valveテクノロジーが創出する新たな価値[CEDEC 2025]

 2025年7月22日より開催されたCEDEC 2025では,ソニー クリエイティブインキュベーション部門 嗅覚事業推進室の木村圭佑氏によるセッション「においを手軽に制御するTensor Valveテクノロジー 〜嗅覚にアプローチした新たな価値の創出〜」が行われた。

木村圭佑氏
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ソニーが目指す嗅覚テクノロジーの価値

医療現場などで活用される「NOS-DX1000」


 ソニーが掲げるPurpose(存在意義),「クリエイティビティとテクノロジーの力で世界を感動で満たす」という言葉からセッションは始まった。この文脈において,五感の中で最も研究が進んでいないとされる嗅覚は,だからこそ大きな可能性を秘めているという。
 鼻腔からの刺激は嗅神経を通り,脳の各部位に作用することで,本能や感情,記憶を刺激しうるものだ。このことから,ソニーは視聴覚と同じように,嗅覚テクノロジーによる価値提供も可能だと考えている。

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 では,感動を届ける情報提示に必要なものとは何か。木村氏は,その要素として「複数同時に制御できること」「明確にON/OFFできること」を挙げた。光や音ではこれが可能となっているが,においではどうだろうか。

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 ここで,ソニーが2016年に発売した,5つの香りを持ち出してダイヤルで切り替えて楽しむ製品「AROMASTIC」が紹介された。AROMASTICをさらに進化させ,においの複数同時制御への取り組みを進めた結果,マルチアレイ化することで30種類のにおいを電磁的に制御できる技術が誕生したという。

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 この技術とVRを組み合わせた試みも紹介された。毎年テキサス州オースティンで開催される,音楽や映画,インタラクティブ(テクノロジー)の祭典SXSW2019で展示されたデモだ。VR空間で「テトリス エフェクト」をプレイするものだが,ラインを消すことで花の香りがする仕組みを導入している。
 さらに,テトリスを達成すると別の花のにおいに変わる演出を行ったところ,95%の参加者が体験に満足し,その半数が極めて満足したという高い評価を得ている。

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 また,もう1つの要素である「明確なON/OFF」については,カートリッジの密封化によって,においを漏らさず,提示時のみの開閉によって実現された。

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 前述のにおい制御技術は,医療現場における「嗅覚測定」の課題と結びついた。認知症やパーキンソン病の発症前の初期段階では嗅覚低下が起こりやすいため,嗅覚測定によって判定することで早期の対応が可能となる。
 しかし,従来の嗅覚測定には3つの課題があった。

1.複数のにおいの提示に時間や手間がかかる
2.におい漏れの問題
3.結果を手で記入すること


 これらの課題を解決すべく,におい制御技術は「Tensor Valve」へと進化を遂げた。

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 Tensor Valveはソニー独自開発のワイヤ式リニアアクチュエータバルブアレイであり,強いにおいも漏らさない密閉機構,複数のにおいの瞬時な切り替え,タブレットによるにおい制御とデータ記録を可能にした。

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 Tensor Valveの技術を搭載し,50人以上の医療関係者からのフィードバックを取り入れて誕生した「NOS-DX1000」は,医療現場や研究用途を中心に活用されている。

においのカートリッジを変えることで,食品・品質管理・研究用途向けにも活用される「NOS-DX1000」
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“においのスピーカー”Grid Scentの登場


 ここまでは前提となる技術的な経緯が語られたが,技術を応用した新しい試み「Grid Scent(グリッドセント)」へと話が移る。

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 Grid Scentのコンセプトは「においのスピーカー」だという。Tensor Valveを搭載し,においをオンデマンド(必要な時に必要なだけ)に,かつ複数のにおいを互いに邪魔することなく空間に提示できる。
 1モジュールにつき,1つの香料カートリッジを搭載し,カートリッジは工具不要,ワンタッチで交換可能だ。
 Grid Scentの名称は,空間内に自由に配置できること,自由に連結して数を増やせることから名付けられた。

 Grid Scentの主な特徴は以下の3つだ。

1. においの強さや種類の自由度

 小型モジュール構造のため,香りの数や強さを自由に組み合わせられる。例えば,花と草の香りを合わせて「花と草の香りが混じる,実際の野原のようなイメージ」を演出することなどが可能となる。

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2. 設置環境の柔軟性

 環境や距離に応じて,自在に設置できる点も特徴だ。ファンの風量などを調節すれば,においの届く範囲やスピードも変えられるため,部屋や通路の広さ,人が歩いているのか,座っているのかといった用途に合わせて,柔軟な設置と調整が可能となる。対象から50cm〜2mの範囲で使用できるという。

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3. 多彩な制御方法

 制御にはThread(低消費電力でメッシュネットワークを構築できる無線通信規格)での通信が便利だ。また,制御部である「Grid Scent Hub」はUART(2つのデバイス間でシリアル通信を行うためのハードウェアプロトコル)通信や,OSC(主に音楽やマルチメディアアプリケーションにおけるリアルタイムデータ通信のために設計されたプロトコル)通信もサポートしている。
 さらに,WebUIを実装しており,ブラウザから簡単に制御できる。

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 これらにより,Grid Scentやファンに対し,「においを5秒出す」「ファンを70%の出力で回す」などの細やかな制御が比較的容易に行えるという。

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Grid Scentが創出する「においの演出」事例


 続いて,Grid Scentによる具体的な「においの演出」事例が紹介された。

事例1: Memories of Another Worlds with Grid Scent

 暗闇に設置されたドアの開閉によって,映像や音,においを切り替えることで,さまざまな場所につながった臨場感を味わえる。「どこでもドア」のような技術デモだ。

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事例2: CES2025での展示

 世界最大の技術見本市であるCES2025では,ディスプレイに囲まれた空間で「The Last of Us Part II」の世界を体感するデモに導入された。この世界を象徴するクリーチャー,クリッカーのにおいをキノコなどで表現した「嫌なにおい」や「焦げたにおい」などをゲームの展開に合わせて放出し,臨場感を高める試みだ。
 何らかの気配や恐怖といった人間の本能にアプローチする演出である。

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事例3: 蜷川実花展 Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠

 虎の門ヒルズTOKYO NODEで開催された「写真家・映画監督の蜷川実花展 Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠」でも活用されている。Grid Scentは“桃源郷”を思わせる展示で使われ,来場者の歩きや動きに合わせて複数の香りを届けた。

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事例4: におい展PLUS+

 イオンモール高岡にて開催中(8月26日まで)の「におい展PLUS+」でも,Grid Scentが活用されている。普通の炭酸水がウイスキーの香りによってハイボールに感じられる体験,ランダムで出てくるにおいを当てるクイズ,映像と香りを組み合わせた没入体験などが楽しめる。

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 Grid Scentの今後の活用イメージとしては,ゲームや映像に合わせた演出のほか,香りを組み合わせた広告などの用途が考えられるという。木村氏は,Grid Scentに興味を持った方はウェブサイトのフォームから連絡してほしいと呼びかけ,セッションを締めくくった。

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CEDEC 公式サイト

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