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ビットコイン10万ドル突破がゲーム業界に問いかけるもの――暗号資産の制度化とゲーム業界の未来
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印刷2025/07/05 13:28

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ビットコイン10万ドル突破がゲーム業界に問いかけるもの――暗号資産の制度化とゲーム業界の未来

 2024年から2025年にかけて,ビットコイン価格は劇的な上昇を見せた。それ以前,2022年夏から24か月を見ても価値が4倍に跳ね上がり,ついに10万ドルの大台を突破。一時は10万9000ドルに達し,現在も10万8000ドル付近で推移している。

 この歴史的な価格上昇の背景には,従来の「テック愛好家の投機対象」から「制度化された投資商品」への変貌がある。そして,この変化はゲーム業界にも重要な示唆を与えている。

 IVS2025で開催された「IVCファイヤーサイドチャット:ビットコイン10万ドル突破、その先に何が来るのか?」では,暗号資産投資会社IBCのパートナーである田中章雄氏(元Adobe Asia投資責任者),JT Law氏(元投資銀行家),Ann Chien氏(元Foxconn CVC)が,ビットコイン価格上昇の要因と今後の展望について議論した。本稿では,彼らの分析をもとに,ゲーム業界が直面する新たな局面を考察する。

左から田中章雄氏,JT Law氏,Ann Chien氏
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 ビットコイン価格急騰の起点は,2023年10月にBlackRockなどの大手金融機関がビットコイン ETFを申請したことにあるという。2024年1月,アメリカのSEC(証券取引委員会)が,スポットビットコインETFを承認すると,価格は2万8000ドルから4万6000ドルへと急伸した。

※ETF(Exchange-Traded Fund):証券取引所で売買される投資信託。スポットビットコインETFは,実際のビットコインを保有し,その価格に連動する金融商品

 「今日のビットコイン価格の動きは過去とは異なり,購入層の変化が特徴です」と語るのはIBCの共同設立パートナーである田中氏だ。田中氏はAdobe Asiaでベンチャー投資を担当し,2008年にHeadline Asia(旧Infinity Ventures)を創業した経歴を持つ。

 従来のビットコイン保有者構成は,大きく変化している。全体の約50%は黎明期から大量のビットコインを保有し続けている個人投資家たちだが,新たな参入者が市場を牽引しているという。特に注目すべきは,ETFが全供給量の約7%を保有し,BlackRockやFidelityなどのWall Street企業が中心となっていることだ。

 「BlackRockのビットコイン ETFは現在,同社にとってS&P 500インデックスETFを上回り,最大の収益源となっています」とLaw氏は説明する。Law氏は投資銀行での経験を持つIBCパートナーで,伝統的な金融市場の視点からWeb3業界を分析している。

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 ETFの総価値は,2024年1月の承認から19か月で1500億ドルに達し,BlackRockにとって最も早くスケールアップしたETFとなった。低手数料(0.25%)で市場に参入したBlackRockやFidelityは,高手数料(2%)のGrayscale Trustに代わって市場シェアを獲得している。

 ビットコイン価格上昇のもう1つの要因は,政治的支援の拡大だ。2024年秋のトランプ大統領当選により,アメリカ政府のビットコインに対する姿勢が大きく変化した。

 「Bitcoin 2025」カンファレンスでは,James David Vance副大統領が基調講演を行い,「ビットコインを長期的に持続可能な資産クラスにする」という方針を表明した。同カンファレンスは過去に例を見ない規模で開催され,ホエールパス2万1000ドル,産業パス4000ドルという高額なチケットが販売された。

※ホエールパス:Bitcoin 2025カンファレンスの最高級参加券。「ホエール(whale)」は暗号資産業界で大量保有者を指す用語で,富裕層向けの特別待遇が含まれる最上位チケットのこと

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 「今年のBitcoin 2025が以前と違ったのは,より多くの政治家が参加していたことです」とChien氏が説明した。JD Vance氏,Eric Trump氏,Donald Trump Jr氏に加え,ホワイトハウス関係者,上院議員,下院議員が多数参加し,従来の「暗号資産コアサポーター」中心のイベントから様変わりしたという。

 政府レベルでも変化が見られた。アメリカは2025年3月に戦略的ビットコイン準備計画を発表し,他国や企業もこれに追随する動きを見せている。UAE政府は約4億3000万ドル相当のビットコインをETF商品を通じて購入するなど,政府や年金基金によるビットコイン保有が拡大しているという。

 個人投資家や機関投資家に加え,企業によるビットコインリザーブ戦略も注目を集めているそうだ。その代表例がMicroStrategyで,1000億ドル以上の時価総額を持つ同社は,50万以上のビットコインを保有している。

 「このモデルは,既存事業で成長が見込めない企業にとって,ビットコインを帳簿価格に反映させ,企業価値を正当化する手段として注目されています」とChien氏は分析した。

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 日本でも同様の動きが見られる。MetaPlanetは日本初のビットコインリザーブ企業として,MicroStrategyのモデルに倣った戦略を展開している。

 さらに注目すべきは,NASDAQ上場企業Nakamotoの動向だ。同社の創業者David Bailey氏はビットコインカンファレンスの主催者であり,トランプ大統領の暗号資産顧問も務める。Nakamotoは最近,ビットコイン購入のために7億5000万ドルを調達した。

 「Trump Media Groupもビットコインリザーブ会社を設立するなど,ビットコインを大規模に購入するための資金調達を行う企業が持続的な買い圧力を生み出しています」とChien氏は指摘する。

 ビットコイン以外の注目テーマとして,ステーブルコインの制度化が挙げられる。Law氏によると,「ステーブルコインは暗号資産業界黎明期から存在し,かつては不安定な時期もありましたが,現在は厳しく規制され,機関化が進んでいます」。

 Tetherが最大のステーブルコインである一方,アメリカや日本では新たにライセンスを取得し,1対1の準備金証明を持つ規制されたステーブルコインが登場している。

 特に注目すべきは,Circle(USDCの発行元)のIPO成功だ。同社の株価がIPOから9倍に上昇したことで,ほかの暗号資産関連企業の株式公開への関心が高まっている。

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 一方で,ミームコイン市場には複雑な現実がある。Dogecoin,Trumpコインなどのミームコインは,依然として月に5000万ドルの収益を上げているが,Chien氏は「ミームコイン取引で利益を出しているのは10%未満のトレーダーに過ぎず,90%が損失を被っている」と指摘する。

 「個人的な見解として,ミームコイン市場は縮小する傾向にあると予測しています」とChien氏は語った。それでも,多くの既存暗号資産プロジェクトと比較して,ミームコインは依然として収益性のあるビジネスだと評価されているそうだ。

 ゲーム業界においても,Web3ゲームブームの挫折を経て,より持続可能なビジネスモデルの構築が求められている。MetaPlanetのようなビットコインリザーブ戦略は,ゲーム企業にとっても新たな選択肢となり得るかもしれない。

 また,ステーブルコインの制度化は,将来のP2E(Play-to-Earn)ゲームやDAOゲーム開発,NFT課金システムの基盤となる可能性がある。より迅速で安価な取引を可能にするインフラの整備が進むことで,ゲーム内経済は,単なる「遊びの中の数値」から,リアルマネーとつながる持続可能なエコノミーへと進化するかもしれない。

 そのとき求められるのは,単なる「稼げるゲーム」ではなく,制度化された経済圏の中で成立する遊びの設計だろう。暗号資産が制度の中で定着しつつある今,ゲーム業界もまた,金融リテラシー,規制対応,インフラ選定といった観点を無視できなくなってきている。

 IBCパートナーたちの分析が示すように,こうした暗号資産の成熟は,ゲーム企業に「新しい経済をどう設計するか」という問いを突きつけているのかもしれない。

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