
イベント
GENDAの片岡CEOが語る「世界一のエンタメ企業」への道筋――M&Aで年間60%成長,7年で売上1000億円を達成した戦略とは
初日には,GENDAの片岡 尚氏を迎えての「片岡社長が語る“GENDAのエンタメ世界NO.1宣言”〜GENDA流 M&Aグロース戦略〜」が行われたので,その様子を紹介する。
本セッションは,元大和証券の丸尾浩一氏がIVSのアドバイザーとして企画する「この人の話を聞け」シリーズの第2弾だ。GENDAの代表取締役社長である片岡氏からは,創業わずか7年で売上高1000億円という,日本のスタートアップ史上最速記録を樹立した同社の戦略が明かされた。
![]() 左から丸尾浩一氏,片岡 尚氏 |
講演はまず,片岡氏による自身のキャリア説明から。1995年のイオン入社から始まった氏の社会人人生,エンタメ事業への配属を希望していたものの,最初の2年間は家電売場(ジャスコ鳥取店)での勤務を余儀なくされたという。しかし諦めることなくイオンの役員に直談判し,念願のイオンファンタジーへの配属が叶ったそうだ。
そこからのキャリアは,まさに快進撃だった。店舗スタッフからエリアマネージャーを経て,三重県,岡山県,愛知県(名古屋)で勤務。その後は,海外事業の責任者として単身マレーシアに乗り込んだ。2013年3月からはイオンファンタジーの社長を5年間務め,最後の1年間はイオンシネマの運営会社社長も兼務。イオンのエンタメ事業全体の責任者として辣腕を振るった。
![]() |
特筆すべきは,マレーシアでの実績だ。たった一人で立ち上げた小さな会社を,7年間でマレーシア,ベトナム,カンボジア,インドネシア,フィリピン,中国に380店舗ものアミューズメント施設を展開する規模まで成長させた。しかもそのうち340店舗は,イオンのショッピングセンター以外での出店だったという。
イオンファンタジー社長時代には,5年間で時価総額を5倍の1300億円まで成長させるという離れ業も成し遂げている。この経験が,後のGENDAでの急成長の礎となったことは想像に難くない。
![]() |
2018年5月,片岡氏はファンド会社であるミダスキャピタルの吉村英毅氏と共にGENDAを創業した。吉村氏とはその6年前から「遊び友達」として付き合いがあり,「ファンドを一緒にやろう」と誘われていたが,「エンタメしか興味がない」と断っていたそうだ。
しかし「エンタメの会社も一緒に作りましょう」と言われ,ミダスエンターテインメントという社名で,資本金250万円(片岡氏は100万円の自己資金を出資)からスタートした。
当初の事業はゲーム機のレンタルビジネス(レベニューシェアモデル)で,年間60億円程度の売上と3億円程度の利益を見込む堅実なものだった。しかし片岡氏は,そこからさらに世界一のエンタメ企業を目指す。
![]() |
世界一になるためには「20年で1万倍の成長が必要だ」と試算した片岡氏は,これを「5年で10倍の成長を4回繰り返す」ことで達成しようと考えた。具体的には毎年1.6倍(60%)の成長を目標とし,そのうち10%はオーガニックグロース,残りの50%はM&Aによって達成するという戦略を立てたのである。
ちなみに創業の翌月には早くも最初のM&Aを実行しており,通常のスタートアップとは一線を画す,攻めの経営姿勢を鮮明にした。
![]() |
2020年4月,新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が発令され,ゲーム機レンタル事業の売上がゼロになるという危機に直面。多くの企業が守りに入ったが,片岡氏は逆に攻めに転じた。
そのタイミングで舞い込んできたのが,セガ エンタテインメント(セガのゲームセンター部門)の売却相談だった。コロナ禍でアミューズメント施設が苦しむなか,片岡社長はM&Aを決断。契約締結時には若干の資金不足という綱渡り状況だったが,セガ側の理解も得て何とか乗り切ったそうだ。
「コロナが明けたら確実に売上が戻る」――この確信のもと,従業員を一人も解雇せず,店舗も閉鎖することなく乗り切った。結果的にこのM&AがGENDAの大きな転機となり,急成長への道を切り開くことになった。
片岡氏は当時を振り返り,「リスクを取らなければ大きなリターンは得られない。ただし,計算されたリスクでなければならない」と語る。セガ エンタテインメントのM&Aは,計算されたリスクテイクの好例と言えるだろう。
2023年7月,GENDAは東証グロース市場にIPO(新規公開株式)を果たした。IPOまでに11件のM&Aを完了させた。
「創業から7年間で合計48件のM&Aをすることができました」と片岡氏は振り返る。このうち失敗と考えるものはわずか2件で,いずれも小規模な案件だったという。この驚異的な成功率の背景には,綿密な戦略と実行体制がある。
GENDAには5人のM&A専任チームがおり,彼らは毎日ソーシング(案件探し)とエグゼキューション(実行)に集中している。常に10社程度のM&A案件を同時並行で進め,年間400件ほどの情報が入ってくる体制を構築。160社ものM&A仲介会社と付き合いがあるという。
![]() |
M&Aの基準について片岡氏は,「売上高,EBITDA※1,時価総額の3つの指標で世界一を目指すことを重視している」と説明する。
さらに重要なのは,「1株あたりの利益(EPS)が必ず伸びるM&A,およびそのための資金調達しか行わない」という鉄則だ。これにより市場からの信頼を維持し,継続的な資金調達を可能にしているという。
実際,IPO時に100億円(新株発行50億円),その後100億円,さらに180億円と,3回の資金調達で合計380億円以上を調達したそうだ。
※1 EBITDA:企業価値評価に用いられる指標の一つで,「Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization」の略
最終的なM&Aの決め手は「事業の将来性,人材(残ってくれるか,能力や熱意),そして価格(バリュエーション)」の3つを総合的に判断することだという。「何か一つだけ良くても,ほかに致命的に良くないことがあると無理」と片岡氏は強調する。
興味深いのは,M&A仲介会社との関係性を重視し,値切り交渉をしないという方針だ。これにより良い案件が優先的にGENDAに持ち込まれるようになっているという。
M&A成功の秘訣として片岡氏は「高すぎる金額で買わないこと」と「どんどん数をこなすことで上手になること」の2つを挙げた。
![]() |
現在のGENDAの事業は,ゲームセンター480店舗,「カラオケBanBan」390店舗,映画配給会社のGAGAなど多岐にわたる。売上の約65%はゲームセンター事業が占めているが,GENDAの視野はそこに留まらない。
海外展開もすでに始まっている。アメリカでは4件のM&Aを実施し,無人ゲームコーナー約1万3000か所とゲームセンター100数十店舗を取得。売上高にして約450億円分の事業規模となる予測が出ている。
今後の主なターゲット地域は「まずアメリカで柱を作り,次にヨーロッパと東南アジアにも同じような柱を作っていく」という。イオン時代に東南アジアで築いた実績と人脈が,ここでも生きてくるかもしれない。
セッションの最後,片岡氏は改めて自身のビジョンを語った。「世界一のエンタメ会社を作りたいという信念は創業期から変わっていない。本気で世界中の人々の人生をより楽しくしたい」――この言葉には,単なるビジネスの成功を超えた,より大きな使命感が込められている。
2040年までにSony,Netflix,さらにはDisneyをも超える規模を目指すという目標は,一見すると途方もない夢物語に聞こえるかもしれない。しかし創業7年で売上1000億円を達成し,48件ものM&Aを成功させてきた実績をみると,それは決して不可能ではないと感じる。
![]() |
日本のエンタメ業界は長らく内向きだと言われてきた。しかしGENDAのような企業が世界を視野に入れて急成長を遂げている姿は,業界全体に大きな刺激を与えるだろう。M&Aという手法を武器に,日本発の世界的エンタメ企業が誕生する日は,そう遠くないのかもしれない。
片岡氏が率いるGENDAの挑戦は,始まったばかりだ。資本金250万円で始まった小さな会社が,いつの日か本当に世界のエンタメ業界の頂点に立つ――そんな未来を想像できるということ自体がエンタメとも言える。
自己資金100万円の出資が2万倍になったという片岡社長の成功体験が,次世代の起業家たちにも大きな勇気を与えるかもしれない。GENDAこれからの展開にも注目していきたい。
「IVS2025」公式サイト
- 関連タイトル:
講演/シンポジウム
- この記事のURL: