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シンポジウム「ゲームクリエイターをクリエイトする」2日目レポート。世界中のゲームアーカイブにおける現状と課題から見えてくるものとは?
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印刷2025/06/12 08:00

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シンポジウム「ゲームクリエイターをクリエイトする」2日目レポート。世界中のゲームアーカイブにおける現状と課題から見えてくるものとは?

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 ビデオゲームは誕生して以来,産業としての拡大と進歩を遂げた。商品として消費されるだけではなく,昨今では文化としての価値も重んじられるようにもなった。

 そこでいま,世界各地でこれまでに発表されたゲームをアーカイブし,歴史として未来に伝える作業が活発に行われている。アーカイブしたゲームを博物館や美術館で展示する試みも増えている。

 しかしゲームのアーカイブには,映画や美術などほかのジャンルとは異なる,ゲームならではの課題も多い。企画展をするにしても,ただゲームの映像やソフトやハードの現物を展示すれば成立するわけではない。というのも,ゲームは実際にプレイヤーがコントローラやキーボードを操作し,体験することで初めて成立する文化だからだ。

 では日本で,これからゲームを歴史として保存しようと思ったとき,どのように課題を解決できるのだろうか? 東京藝術大学(以下,東京藝大)はシンポジウム「ゲームクリエイターをクリエイトする」を3月29日,30日にかけて開催。30日に行われた「文化保存としてのゲームアーカイブ」では,国内外からアーカイブを進める関係者を招聘し,ゲームを保存する活動の現在地がまとめられた。

藝大がビデオゲームのアーカイブを考える理由


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八谷和彦氏
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中川大地氏

 シンポジウムの冒頭では東京藝大の先端芸術表現科の教授であり,芸術情報センター長を務める八谷和彦氏と,モデレーターを務める評論家の中川大地氏が登壇。今回,東京藝大でゲームのアーカイブに関するシンポジウムを開いた意図を説明した。

 東京藝大では2026年4月より,新たに大学院映像研究科内にゲーム&インタラクティブアート専攻の開設を予定している。そこで本格的なゲーム教育に向け,学生がこれまでのゲームの歴史を参照できるゲームアーカイブを大学内に開設する構想があるのだという。

 本格的なアーカイブ開設の試験段階として,2024年には「PLAY! 藝大ゲーム図書館計画(Lv1)」という展覧会を開き,その方向を探っていた。しかし,このときに展示されたゲームのハードやソフトは八谷氏の私物がほとんどであり,東京藝大では展示什器の制作のみに展示用の予算を使ったという。

 今回のシンポジウムでは,実際に世界で博物館を運営する人物,民間でアーカイブを進めている人物から知見を募ることで,より具体的に藝大のアーカイブ構築を進める意図があるようだ。

日本の教育機関におけるアーカイブ


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井上明人氏

 そんな教育機関におけるゲームのアーカイブを推し進めているのが,立命館大学である。同大学の映像学部にて准教授を務める井上明人氏は,現在の立命館大学で進めているアーカイブの現状について解説した。

 立命館大学は早い段階でゲーム研究を行ってきた大学でもあり,ゲームを文化保存する方向も積極的である。ただ,当事者である井上氏は「完璧にやっているというより,いろいろな問題があるなかで少しずつ解決しながら前に進んでいる感じ」というのが実感だという。

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 立命館大学では主にハードのほか,ゲーム専門誌の保存を行っている。また,アーカイブしたソフトをプレイするためのエミュレータも常備している。これらはさまざまなハードの特徴を反映したエミュレータであり,実機でプレイする感覚を重視したものだという。

 立命館大学がゲームのアーカイブ活動を始めたのはかなり早く,1998年ごろからスタートしている。アーカイブ活動の初期には,立命館大学と同じ京都にある任天堂と協力関係にあったことが活動に大きく寄与した。同社からソフト一式を借りたり,ファミコンの開発責任者だった上村雅之氏が教員となって学生を指導したりする流れもあったそうだ。また現在では,ゲーム産業の重要人物から歴史を伺うオーラルヒストリーをまとめるプロジェクトも進行しているという。

 そんなアーカイブ活動であるが,井上氏が課題に挙げたのは,「ゲームソフトの保存活動をどこまで広げるか」である。ゲームソフトは日本のコンソールに限っただけで約4万本が存在しているが,現在の立命館大学では約1万本を保存するに留まっている。「人的にも,金銭的にも保存活動を行うのは大変」と,井上氏はその困難さを語った。

アメリカ・ストロング遊戯博物館の現状


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ジョン=ポール・ダイソン氏
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リンジー・クラノ氏

 続いてアメリカで最大のゲーム保存活動を行うストロング遊戯博物館の事例が紹介された。同博物館の副館長を務めるジョン=ポール・ダイソン氏と,学芸員のリンジー・クラノ氏が登壇し,ゲームの展示という観点からアーカイブの運用について語った。

 ストロング遊戯博物館は現代のビデオゲームを中心に,19世紀のアナログゲームからおもちゃまでを展示している施設だ。ニューヨーク州北部のロチェスターに本拠を構えている。アーカイブが始まったのは2003年。博物館名に“遊戯”と名付けられているとおり,アナログからデジタルまで人間の遊びにまつわるものを包括的に集めて展示しており,その所蔵品は約60万点にも及ぶ。

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 来場者は博物館に展示されているゲームを自由に体験できる。ゲームを実際に遊べる方針をとっているのは,「展示では学ぶだけではなく,遊べることが重要である」ためだとクラノ氏は説明している。博物館では,たとえばコンソールゲームが進化する歴史について展示を行う場合,その内容を言葉で説明するのではなく,実際にゲームを遊べるようにすることを重視している。

 膨大なアーカイブに依拠する濃密な展示によるものか,2024年のストロング遊戯博物館の来場者は約70万人を記録するほどの人気を誇っている。来場者の半分以上は子供であるとのことだから,気軽にテーマパークへ足を運ぶような気持ちで行ける場所なのかもしれない。

 ストロング遊戯博物館は,ゲームにはさまざまな展示方法がある以上,「どのように見せるか」を常に気にしているのだそうだ。

 たとえば「パックマン」ひとつ展示するにしても,多様な切り口がある。「パックマン」の文化的な背景も含めた見せ方をするのか,クリエイター自体の背景をフォーカスしたものにするのか,その当時のテクノロジーにフォーカスするのかによって,見せ方は変わってくるだろう。ストロング遊戯博物館は,個別のゲームの背景を加味したうえで,実際にゲームを遊んでもらうことで来場者に歴史を伝える方針をとっているのだ。

ヨーロッパのケースに学ぶ


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徳山由香氏

 ヨーロッパのケースについては,アートキュレーターかつ研究者である徳山由香氏が解説を行った。徳山氏は専門である現代美術の観点から,ドイツやフランスをはじめとしたヨーロッパ各国のビデオゲーム博物館を調査した結果を発表している。

 徳山氏がヨーロッパの調査から,東京藝大によるゲームアーカイブの計画について「アーティストを育てる場におけるアーカイブが,ゲームを産業として捉えるのか,それともアート,文化人類学の観点から捉えるのか。また,ゲームを保存することを優先するのか,それとも遊べる展示を行うことを重視するのか」と,どこに理念を置くかが重要になると指摘する。

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 そこで徳山氏はポジショニングマップを作成し,ヨーロッパ各地の博物館がどのようにビデオゲームを取り扱う傾向があるかを紹介した。厳密な分類ではなく,オーバーラップする部分はあると断りながら,マップでは横軸を「ゲームの保存」「インタラクティブな展示」の対称を,縦軸には「ゲーム産業側の価値」「アートや文化人類学としての価値」の対称を設定している。

 徳山氏はこのマップを元に,各地の展示がどういう傾向があるかについてを検討する。たとえばスイス・ゲーム博物館はゲームを文化人類学的なものと評価し,アーカイブを保存するとともに遊べる展示を行うというバランス感覚があり,ゲームを古来からの人間の文化,芸術として評価する傾向があるという。

 逆にフィンランド・ゲーム博物館の場合は,展示と保存のバランスは同じながら,ゲームを技術と文化からなる産業として評価した見せ方をしているという。これは国がゲームを主要産業として評価しているためだ。ノキアなどの大企業だけでなく,多くの中小ゲームカンパニーがあることからも理解できる。

 フィンランドは暗く過酷な寒さがあるゆえに,室内で出来るコミュニケーションメディアとしてかつてはボードゲームやカードゲームが多く普及し,今ではビデオゲームが親しまれている。博物館が産業としてビデオゲームを評するのも,そのような環境の影響が大きいそうだ。

 興味深いのはエストニア・ゲーム博物館の話である。同博物館は「ゲームとは経験だ」というスローガンを持つため,上のマップ上では保存よりも遊べる展示に比重が傾いている。スタンスはアート,文化人類学寄りの展示とのことだが,徳山氏によれば「旧ソ連に属した歴史を持つ国ゆえに,海賊版のゲーム展示もある」のだという。このあたりの情報に関しては徳山氏が執筆したnoteに詳しい。

 ビデオゲームの歴史とは,プラットフォーム企業が市場を整備したオフィシャルなタイトルやハードだけが紡いだ歴史ではないはずだ。海賊版のほかModやハックロムなど,権利としてはアウトだが,そこでクリエイティブを磨いてきたクリエイターも少なくない(たとえば「UNDERTALE」を開発したトビー・フォックス氏も,ゲーム開発の初期は「MOTHER2」のハックロム開発を行っていた)。その意味でも,エストニアの博物館の事例には,アーカイブの役割について考えさせられるものがあった。

コンソール中心主義をいかに脱するか


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 シンポジウムの第二部では,民間や企業,有志団体がどのようにアーカイブ活動を行っているかが語られた。

 民間のアーカイブ活動で代表的な団体が,特定非営利活動法人のゲーム保存協会である。協会の代表を務めるルドン・ジョゼフ氏が登壇し,どのように運営しているかを解説した。

 ルドン氏はフランス人として,90年代から日本のゲームの収集とデータベース化を始めてきた。実に30年近くにわたってアーカイブ活動を進めてきた実績を持ち,「当初は文化だから残さなくてはいけないと言っても伝わらず寂しい思いをした。しかし長い活動のなかで,ゲームは文化という認識が一般的になった」と,その変化を語った。

 ゲーム保存協会の活動は非営利である。ルドン氏はその理由として「学術的で,公的な文化保存活動だから」と説明する。アーカイブ活動を営利活動にしてしまうと,売れるか売れないかで保存する資料を判断するようになってしまう。ルドン氏が活動を始めた当初,ゲームのアーカイブ保存を公的に行っていた先人は世の中におらず,ゼロから始めるしかなかったという。そこでアーカイブがもたらす将来の公益性を考えた場合,「保存活動は非営利でなければ成り立たない」という考えにたどり着いた。

 そのためゲーム保存協会の活動は「基本的には赤字の活動」という。活動を存続するのも難しければ,集めた資料を保存するのも難しい。

 ゲーム保存協会では,ソフトやハードのほか,攻略本も含め,「資料をリマスター(再生産)できる」ほどの精度で保存しているという。なかでもカセットテープやフロッピーディスクのような磁気媒体のソフトは特に劣化が早く,保存が難しい。そこで協会では各国の技術者と連携し,高度な専門技術で保存しているという。

 そんなルドン氏が日本の保存活動の問題として,「昔の資料がなくなっていく危機感が足りない」と指摘する。ルドン氏によれば,「古いソフトでも,少し探せば手に入るという認識」それ自体が問題だという。

 というのも,日本のゲームのこれまでに生み出してきたゲームの半分以上が,実はコンソールのゲームではなくPCのゲームだからである。PCゲームこそ,劣化しやすいカセットテープやフロッピーディスクによるソフトがほとんどなのだそうだ。

 ルドン氏はそんな日本のPCゲームを「作品数が多く,日本にしかないプレイ環境に恵まれたPC関連の資料は海外のアーカイブに保存を頼れない。日本にしかないゲーム文化資料」だと指摘する。そのため,希少性の高いソフトとして今まさに保存活動を進めているという。

 特にルドン氏の指摘で重要と感じたのは「どこのアーカイブでも話題の中心がコンソールになっている」という点だ。どうしても任天堂やソニーのハードがゲーム産業の中心になり,PCゲームのように周縁に位置するゲームが視界に入りにくいという問題がある。ゲームを歴史として保存を考える場合,確かに非コンソール作品は無視できないはずだ。

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堀井直樹氏

 非コンソール作品の周縁化に関しては,有限会社エムツー(以下,エムツー)の堀井直樹氏からも指摘があった。エムツーは主にアーケードゲームなどをコンソールに移植し,後世に伝える仕事を行う企業である。堀井氏はルドン氏の講演とは真逆に,エムツー代表の立場から営利企業としてアーカイブを扱うことについて解説した。
 
 堀井氏によれば,営利企業がアーカイブを行う理由はふたつあるという。ひとつは社史を残すためで,ふたつめはコンテンツをビジネスとして再利用するためだ。基本的に商売になるかどうかで判断するため,博物館のようなアーカイブはなかなか難しいという。

 そのため,堀井氏も専門的なアーカイブについては「国や有志団体が行ってほしい」と話す。このあたりは先述のルドン氏の「非営利でなくては成り立たない」という指摘どおりである。結局,営利企業がビジネスとしてアーカイブを扱うと,「『ドラゴンクエスト』シリーズが何度も移植されるように,人気タイトルだけが何度も現行ハードに移植される」という状況にならざるを得ないのだ。

 また堀井氏はアーカイブ活動について興味深いことを語っている。アーカイブで海賊版の扱いをどうするかだ。

 たとえばゲームソフトが著作権法で保護される以前,「スペースインベーダー」はコピー基板が大量に作られたという。ただ,それらは単にオリジナルをコピーしたというだけではないらしい。ゲームを稼働する遊技場で目立つために改造が行われ,ほとんどオリジナルのゲームといっていいようなものまで出てきていた。そのため,単に法律が出来る以前のアンフェアな行為とも言い切れず,クリエイティブな歴史のひとつとして考えられるのではないか,という提言だ。

有志によるゲーム博物館運営の現状と課題


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池上巌氏
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トトロ大嶋氏

 最後に有志団体アーケードゲーム博物館計画から池上巌氏トトロ大嶋氏が登壇。いかに有志でゲームの博物館を作ろうとしてきたかが語られた。

 アーケードゲーム博物館計画は2000年頃より,埼玉県を拠点として活動している任意団体である。団体のメンバーはレトロゲームを好む40代〜50代で構成されており,主にアーケードゲーム機を収集する活動を行っている。

 団体の大きな特徴は,アーケードゲームのなかでも大型体感ゲーム機を中心に収集していることだ。団体が活動をスタートした当時,アーケードゲームの基板や筐体を所有する人は少なくなかったが,空間を取る大型体感ゲーム機を集める人は皆無だったという。

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 大型体感ゲーム機は90年代のゲームセンターで隆盛していた。しかし,設置面積を取られる問題から,流行が過ぎたあとは解体されたり,東南アジアなどに輸出されたりと,処分されることがほとんどだったそうだ。

 そこで団体は積極的に大型体感ゲーム機を収集するようになる。ゲームを処分したいゲームセンター側と大型体感ゲーム機を集めたい団体の利害が一致することで,活動は拡大。2004年には博物館を目指して収集を続けられるようになった。

 そんな有志団体として,博物館を作る計画には課題がいくつもあった。真っ先に挙がったのは場所と資金の課題である。

 団体はもともと無料で機材を置いていた店舗の閉業に伴い,置き場所の確保に迫られたことから,マスコミを通じて「貴重なゲームがこのままでは失われてしまう」とアピールを行った。これをきっかけに,埼玉県にて空きスペースを格安で貸してくれる有志に出会った。そのスペースを保管場所として借りることができたのだが,格安とはいえ「賃料は団体のメンバー同士で出し合ってまかなえるレベル」で,有志ならではの難しさをにじませた。

 ふたつ目の課題は「何を残すのか」だ。保管する場所も時間も限られているなかで,団体としては「ファン目線でこれだけは残したい」と思うタイトルにこだわっているという。

 続く課題として,過去のアーケードゲームを遊べる状態を保つための修理がある。70年〜80年代のアーケードゲームを修理しようと思っても,もはや部品がないケースは少なくない。団体としては知恵と工夫で何とかしているが,それでも限界があるという。

 最後の課題は「計画の今後を託せる先を見つける」ことだった。団体のメンバーは活動を始めた当初は20〜30代だったが,25年に渡る長い活動のなかで高齢化し,続けていけるかを考えなくてはならなくなった。メーカーが積極的に保存活動を行っていなかったアーケードゲーム機を保存することはできたものの,今後の継続は難しいという。

 団体は「これらの価値を見出してくれるところに,活動をつなげることがいま一番大きなテーマ」と語るが,講演を聴く限りでは委託先は見つかっていない模様。「国などがアーカイブとして残してくれることがベスト」と,講演をまとめている。

周縁化されたゲームも含め,どこまで保存していけるか


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 講演で感じたのは,やはり現状のゲーム産業の内部でアーカイブを行っていくことは困難である,という事実だ。

 文化保存活動はビジネスとバッティングしてしまう。非営利や有志でやるにしても,資金的な限度があり,長い活動が困難になる面もある。こうした問題解決として,今後は東京藝大のようなアカデミアや,国の介入などが選択肢に入ってくるのかもしれない。あらためて,ひとつの文化が歴史となり,未来に残していくことがどれだけ難しいかを考えさせられる。
 
 また今回のシンポジウムで痛感したのは,ゲームの歴史がどうしてもコンソール中心になりやすい問題である。

 日本のゲーム産業は,任天堂やソニーといったコンソールのプラットフォームホルダーがハードの開発だけではなく,ソフトの流通や品質管理も行うことで今日まで発展してきた。だがそれゆえに,歴史をまとめる際,PCゲームなどコンソール以外の領域について考えが及びにくい状況が生まれている。

 文化の歴史とはビジネスとして成果を出したものだけに縛られないはずだし,海賊版やModからのちのゲームデザインに影響を与えたゲームが出てくることもある。権利関係から考えればデリケートな領域も,どこまで保存の対象にするか検討する必要があるのだろう。

 つまり,ある文化をアーカイブして歴史を紡ぐにしても産業の中心ではなく,周縁の領域もどこまでカバーできるかが課題になるということだ。正直,ゲーム産業側から考えるとイリーガルなものを認めることは難しい。その意味でも,法的に問題を抱えている部分をどこまでアーカイブしていくかを考えるのは,アカデミアが介入すべきトピックかもしれない。

 ゲームは商業的な文化として拡大を遂げたが,いままさに文化として残していく段階に来た場合,何をしていくべきか――。数多くの観点が提示されたシンポジウムとなった。
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