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AIコンシェルジュロボ「ミライア・リンクス」は,大阪万博では触れずに健康を測定しているが,ゲーム業界では一体なにを?[TGS2025]
こちらは現在開催中の別イベント「EXPO 2025 大阪・関西万博」の大阪ヘルスケアパビリオンにも出展中で,心拍や血圧などの健康情報を“触れずに解析する”というアクティビティで話題を博している。
しかし,TGSに持ち込まれたということは,ゲーム業界での活用法も見出されているということだろうか?
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☆「ミライア・リンクス」プロフィール
生年月日:2024年10月13日
身長:153cm
趣味:人間観察
特技:人の未来を応援すること
弱点:いっせいに話しかけられると時々混乱する
モチーフフラワー:カルミア/花言葉「大きな希望」
【名前の由来】
ミライア(Miraiya):変化し続ける世界で、私たちが提供する技術が、新しい価値やよりよい社会をつくる力になりたいという願いが込められている。
リンクス(Links):人と人との絆や、世界を結びつける架け橋という意味が込められている。つながりが広がることで皆が多様な世界観を持ち、協力して未来を紡いでいくことを目指している。
CV:佐藤みゆ希(ケンユウオフィス所属)
まずは,ミライア・リンクスの概要をおさらいしよう。
本プロダクトは,Studio51のグループ会社スマートロボティクスが開発した広告ロボット「AdRobot」に,ビジネスパートナーであるOSTechのデジタルコミュニケーションプラットフォームを搭載したデジタル端末で,音声や文章による顧客サポートを目的としている。
この広告ロボットの標準仕様で搭載されているAIキャラクターが「ミライア・リンクス」であり,親しみやすいアニメ調のビジュアルと高度な会話機能で,さまざまなサービスを提供する。
特徴とされるのは,以下のとおり。
・感情表現が豊かな3Dデジタルヒューマン技術
・多言語音声に対応した音声入出力インタフェース
(対応言語:日本語,英語,フランス語,韓国語,中国語)
・専門性を付加する検索拡張生成技術を含む複数の生成AI技術
・各種業界における人手不足の課題解決に向けた業務サポート
・生体情報解析AIを搭載した非接触バイタルセンシング機能
(利用者の心拍,血圧,血中酸素濃度,血糖値,乳酸値を測定)
簡単にまとめると,「いろいろ教えてくれたり,触れずに健康を見てくれたりする,受付・相談役のAIさん」といったところだ。なお,中性的なミライア・リンクスの性別は「どちらの可能性もある」らしい。
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近年,ゲーム業界でも“AIコンパニオン”といった言葉を耳にするようになった。これは「PCやスマホに常駐してくれるAIキャラクター」であり,(技術ではなく)外観の体裁としては,AppleのSiriにガワをかぶせたもの,もしくはChatGPTやGrokなどの生成AIをキャラ付けしたものなどといえる。ようやく時代が追いついた「伺か」である。
話を戻して,ミライア・リンクスに関しては冒頭で書いたとおり,大阪万博での出展事例とサービス内容,AIコンシェルジュロボットという名目からして,どちらかというとゲーム領域外の幅広い界隈に向けて開発されたものと捉えていた。それこそ「来店受付用AI」などだ。
しかし,出展しているのはTGS。ただ単に,ゲーム領域外での活用をおすすめするための導線作りにやってきたわけでもないだろう。こちらの市場でもなにか一案があるから飛び込んだ,と見るべきだ。
なんていう推察から,同社ブースで狙いを聞いてきた。
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ブーススタッフに話を聞いたところ,ゲーム的なアプローチの目玉として,現在は非サーバー接続型の「ローカルモデル」を準備中とのこと。こちらはゲーム風にミライア・リンクスとの会話を楽しむ,コミュニケーションがウリのプロダクトになるようだった。
とはいえ,現状は開発段階にある。ゆくゆくは市場に送り出されるかと思われるが,そのころには「AIと会話を楽しむゲーム」だけではアピールポイントも弱くなっている気もする。完全にゲーム特化でいくのかも定かではないが,エンターテインメントとしての工夫が求められそうだ。
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本体の(サーバー接続型)ミライア・リンクス自体についても,これからの展望を尋ねてみた。
まず,このブースには多数のゲームメーカーが足を運んだようだ。そのきっかけも大半は「万博で知りました」という人だったらしい。筆者もその1人だから,理由としてはよく分かる。
商材としては,この大きな端末込みで提供されるという。形状的にはデカいスマホのようなものである。そのため,「スマホ版も提供できるのでは?」と聞いてみると,明確な回答は得られなかった。
機能としては前述した会話や案内,質疑応答,非接触型の健康診断機能「バイタルセンシング」とあるが,「やりたいこと」は多いという。例えばゲームを搭載する,一緒にゲームを遊ぶ,ゲームをする姿を眺めてくれる,ゲーム外でもやろうと思えばできることはいくらでもある。
そもそも持ち前のバイタルセンシング機能自体,もともとは医療系での活用を目指して搭載したとのこと。そこがブレないようゲームに用いるとしたら,恋愛チックな対話をして,「ねえドキドキした?」とか言われながら心拍を測られる体験などだろうか(ただの想像だ)。
ゆえに「じゃあどうするか」の取捨選択が現状の壁のようだ。どこに向けて,どれを特化するか。顧客が使いたいと思える分かりやすさが必要と考えると,ミライア・リンクスの未来は今が岐路にありそう。
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そのうえでだ。私はミライア・リンクスが「広告ロボットのAdRobotである」という点に着目していた。こうした巨大端末をボディとするAIキャラクターが,駅構内でデジタルサイネージのように並んで設置され,他社の広告を紹介する存在になる可能性もあるのではないだろうか。
これはゲームメディアのゲーム部分ではなく,広告を取り扱うメディア部分としての着眼点である。どちらかというと職業病だが。
実際,広告ロボットと名を冠していることから,その用途も想定しているらしい。動かしやすいデジタルサイネージでいて,AIキャラクターという関心を引くフックもある。そこで「おすすめのゲームを教えて」などと聞くと,ピックアップされたPVが流され,いい感じに解説も挟んでくれたりする,なんてのはどうだろうか?
顧客が接触する利用時は少数客にしかリーチできないだろうが,エンゲージメントだのプレゼンスだのという言葉を巧みに取り扱う人であれば,それなりの価値が見いだせそうである。
言ってしまえば“駅に置ける4Gamer”だって一案になる。うちだけでなく,どの会社もサイトもフィジカル広告媒体を外部に置けるようになるかもしれない。
そのときは,せっかくだし,自分たちでキャラクターを作ってだ。
などという話までいくと,ミライア・リンクスを置き去りにいて,広告ロボットの特徴だけにフォーカスされてしまうか。類例としても「広告カバンを背負って動くバイト」に近いし。けれど,これをわざわざ開発する体力が余りあまっているところなどそうはいないだろうから,新たな広告機器のリース機材として見ると,おもしろいかもしれない。
などというフラッシュアイデアが飛び交うたび,関係者らは「じゃあどうするか」の堂々巡りを繰り返してきたのだろう。
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昨今はAI乱世時代。AIコンシェルジュにAiコンパニオンなど,各自が度胸でブルーオーシャンに飛び込んでいき,用語が統一されていないのもあって,ピンとこない現状につながっている。
シンプルに分かりやすいイメージが形成される時勢になるまでは,しばらく広大な青い海を泳ぎながら,派手な柄物を着て大声で叫び,誰かに届くのを期待するほかない。その姿が優雅な遊泳者に見えるか,救助を求める後戻りのできぬ者に見えるかは,見え方と結果次第。
幸い,大阪万博という巨大クルーザーに乗って抜きん出たミライア・リンクスは,この乱世を一抜けするための勢いがついている。
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