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うちわやヘビ,映写機にホイップの絞り袋,お好み焼きの手触りが新たな地平を拓く。変わり種ゲームコントローラが集結した「make.ctrl.Japan13」レポート[BitSummit]
うちわやヘビ,映写機にホイップの絞り袋,果てはお好み焼きといった品々とゲームの連動が,唯一無二のプレイフィールを生み出す。
うちわを見せてファンサをもらう「こっち向いて担当」
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とりのこやの「こっち向いて担当」の入力機器は“3枚の推しうちわ”とカメラである。プレイヤーはアイドルグループの「レオ君」を担当するヲタ子となり,推しうちわ(応援うちわ,推し活うちわ,デコうちわなど)を見せて,ファンサ(ファンサービス)してもらう。
推しうちわは,アイドルへの思いや,して欲しいファンサをつづったメッセージ入りうちわのことだ。舞台上のアイドルに視認してもらうため,大きめのうちわに派手な装飾を施すことが多い。
涼を取るのが通常のうちわの使用用途であるのに対し,推しを応援して熱気を生み出すのが,推しうちわの使命といえる。
ゲーム画面ではレオ君のグループがコンサートをしており,彼がときおりがこちらを向くと,「ファンサチャンス」が訪れる。
このとき,画面に表示される指示(オタクとして,どのファンサを求めるかの心の声だろうか?)に従い,「指ハートして」「撃って」「指さして」という3種の推しうちわから正しいものをカメラにかざす。うまくいくと,レオ君がほかでもない自分にファンサしてくれるのだ。
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コンサートを眺め,ファンサチャンスの訪れを待ちつつ,ここぞとばかりに推しうちわをかざす。このサイクルがなんとも楽しい。
正しい推しうちわをすばやく選び,レオ君がファンサをしてくれると,「推しが応えてくれた!」と気持ちが盛り上がってしまう。
コントローラである推しうちわは,柄を機械学習したAIが,現在カメラにかざされている種類がどれであるかを判別し(あらかじめ学習したパターンのどれに近いかを判定),レオ君に届けてくれるという仕組みだ。興奮のあまり推しうちわを振りまくったりすると検知が難しくなる。
なお,実際のアイドルの応援でも「まずは推しうちわを振り,アイドルの注意を引き,動きを止めてメッセージを見てもらう」というプロセスが重要だそうで,現場のリアルが再現されているといえそうだ。
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本作を制作した,とりのこやのとりこっこ氏はアイドルのファンで,実際にファンサを受けたときにうれしく感じたことが開発のきっかけになったという。「推しうちわを使い分け,いろいろなファンサをしてもらう」というゲームデザインは企画時に完成していたが,カメラ使用により,周囲の照明や環境が認識率に影響する課題は残っているそうだ。
ちなみに,本作では3枚の推しうちわを使い分けるが,実際の現場で多くのメッセージを飛ばしたい場合,ページをめくれる「カンペうちわ」を使うのが主流であるという。ただ,ゲーム的な面白さとファンタジーの表現のため,今回は複数の推しうちわを用意したとのこと。
開発者の楽しい体験がそのままゲームに仕立てられた,とてもポジティブな1作。うちわを振る行為自体が面白いうえ,ファンサというご褒美までもらえるのがうれしい。個人的には,前述した「まずは推しうちわを振って注意を引き,動きを止めてメッセージを見てもらう」というプロセスも,ゲームで完全再現されたならより楽しくなりそうに思えた。
ずっしり重いヘビでとぐろを巻き,ライバルと戦う「トグロイド」
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Wataru Nakano x MIYAZAWORKSの「トグロイド」でプレイヤーが手にするのは,ヘビだ。2人のプレイヤーは互いにヘビ型コントローラを操り,相手の体力を先に奪ったほうが勝利となる。
ヘビの頭をつかんで持ち上げ,プレートの上で「とぐろ」を作るとパワーがたまる。パワーがたまったとき,ヘビに付いた引き金を引くとビームが発射され,相手のヘビを攻撃できる。パワーはとぐろをキレイにまくほど増加するため,美しいとぐろ作りが重要になる。
しかし,対戦相手もこちらを攻撃してくるため,とぐろの見た目に固執していると劣勢になることも。彼我の体力を見比べつつ,ときには美しさよりも早さを取ったとぐろ作りを重視するなど,駆け引きもある。
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ヘビはずっしりと重く,ヘッドが無表情であることも相まって,リアルなヘビを持ち上げているかのような感覚になってくる。
重いヘビをぐるぐると動かし,とぐろを巻いていくという動きも普通はしないだけに,手に伝わってくるフィードバックが新鮮だ。
なお,特殊なデバイスを使ってパワーを溜め,それを消費して相手を攻撃する,というゲームデザインでピンときた人もいると思うが,本作はブランデーグラスをくゆらせてライバルを視線で攻撃するゲーム「ボス,ブラインド,ブランデー」を手がけた,中野 亘氏の作品だ。
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本作の開発は,センサー系を手がけるMIYAZAWORKSの宮澤卓宏氏が,体重計コントローラを買ったことがきっかけになったという。
活用法を探す宮澤氏に対し,中野氏が「とぐろをキレイに巻くと,その重心は真ん中にくるのだろうか?」という疑問を発したことから,とぐろを巻くゲーム「トグロイド」が作られることになった。
プレートの裏には重量バランスを見るセンサーが取り付けられおり,ヘビのほうにも1メートルのステンレスチェーンが入っていて,500グラム分の重量で,前述したような心地よい重さを実現しているようだ。
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リアル映写機を操作する「シネマオペレーター」
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プレイヤーが映画館の映写技師になるのが,愛知工業大学の「シネマオペレーター」である。映画館では,曜日と時間帯によってスケジュールが決まっているため,それにあわせて映画を上映していく。
映画を上映するには,映写機に正しいフィルムのリールをセットし,スイッチを入れればいい。映写機とリールはどちらも本物だ。リールをはめ込む,スイッチを回すといった動作には実物ならではの手ごたえがあり,映写機が光って回るだけでも心が躍る。
しかし,この映写機はどうも調子がよくない(という設定の)ようで,上映中は観客から「スピードが速すぎる」「遅すぎる」といった苦情が入る。プレイヤーはそうした声に応じて,映写機のダイヤルを操作して,ちょうどいい速度に合わせなければならない。
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映写機というと,なんとなく形は知っていても,実際に触れる機会がそうそうない機械である。それだけに,本物を操作するドキドキがあり,スイッチやダイヤルの手触りにも圧倒的な説得力がある。
本作でリアル映写機が使われている理由としては,「ゲームに絶対使われない機械であり,これを採用することで,ゲームに対する新たなアプローチができるのではないか」と考えたかららしい。
上映している映画の種類は,映写機に取り付けられたカラーセンサーで,リールごとに異なる色を検知している。そして,映写速度は調整つまみの角度をマイコンでチェックしている。
こうした仕組みにより,画面上の映画館では,セットしたリールに合わせた映画が流れ,調整つまみを回すと映画のスピードが変化する。リアルとバーチャルの融合がユニークだ。
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本作の見どころは,リアル映写機を改造してゲームに使っているところにあるが,モーターやランプなど,ゲームの演出に必要な映写機の動作を阻害しない形で,センサーをどう設置するかが大変であったという。
絞り袋を思いっきり押して生クリームを直飲みする「whip it up」
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愛知工業大学の「whip it up」では,絞り袋から生クリームを直飲みする,背徳的な喜びを味わえる。もちろん,絞り袋はリアルの実物だ。絞り袋をシェイクしてクリームを作り,手で握ってグイグイ絞り込むと,画面の絞り袋から勢いよく生クリームが飛び出す構造である。
絞り袋は,つかんで絞ると圧力ゲージのマーカーが上昇し,離すと下がっていく。絞り袋を押したり離したりし,マーカーを一定の範囲内にとどめれば,飛び出る生クリームの量も多くなって得点もアップする。
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絞り袋には,振られているかどうかを角度でチェックするセンサーと,絞られていることを検知する圧力センサーが仕込まれている。
そして,テーマが“絞り袋からの生クリーム直飲み”という,誰もが一度は夢見るロマンあふれる行為であることが,面白さを加速させる。実際の絞り袋を振り,絞ったり離したりする際のフィードバックもあって,口の中になんとなく甘味の幻を感じてしまうのだ。
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そんな「whip it up」は,缶スプレー型生クリームを直飲みするという動画からヒントを得て作られたという。当初は缶スプレーが使われる予定だったが,教授に見せたところ「生クリームなんだから,絞り袋を使ったほうがいい」とアドバイスを受け,現在の形になったそうだ。
お好み焼きがデバイスとなった「お好み焼き体験ゲーム コテの名人」
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目の前でおいしそうなお好み焼きを焼く,それが東京工芸大学 中村研究室の「お好み焼き体験ゲーム コテの名人」だ。プレイヤーは両手にコテを持ち,画面の指示に合わせて,お好み焼きをひっくり返す。
ただし,うまくやらないとお好み焼きは崩れてバラバラになってしまう。バランスとタイミングを取り,形を保たせる腕前が必要だ。
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デバイスの“お好み焼き”は3×3の実体パーツで構成されており,磁石でゆるく組み合わされている。パーツのそれぞれに内蔵されたホールセンサーが互いの位置をチェックしており,力加減を誤ると本当にバラバラになってしまうのだから,プレイ中のインパクトは大きい。
そして,加速度センサーが裏返ったかどうかを検知し,つながったままで裏返すと成功になる。本作には3つの難度が用意されているが,デバイスを調整するわけではなく,コテの大きさで決まるのが面白い。
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make.ctrl.Japanには毎年,趣向を凝らしたデバイスが出展される。アイデアの豊富さと,工夫を凝らした実装は驚かされるばかりである。来場者も実に楽しげで,早くも次の開催が楽しみに感じられた。
「BitSummit」公式サイト
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