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ネクソンほどの企業でも,グローバルなビッグゲームを作らないと生き残れない。危機感と目標が語られた基調講演をレポート[NDC25]
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NDCは,ゲーム開発者による経験やノウハウ共有の場,ゲーム開発志望者の学びの場として,2007年に始まったイベントだ。最初は小さな社内勉強会だったが,韓国最大規模のゲーム開発者向けカンファレンスに成長し,ネクソン内外のさまざまな開発者が登壇するイベントとなっている。
講演は一般公開され,4Gamerでも何度か取材したことがあるが,コロナ禍によりクローズドなイベントに。今年は,2019年以来,6年ぶりのオフライン・一般公開での開催となった。さまざまな分野で,合計49のセッションが予定されている。
4Gamerでは,NDC25のセッションのうち,現地で日本語通訳が行われたものを,ピックアップしてレポートしていく。本稿ではイベントのスタートを飾ったオープニングスピーチと,基調講演の模様をお届けしよう。
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イベント開幕の挨拶に登壇したネクソンCEOのイ・ジョンホン氏は,少数の大型IP中心の市場再編が加速し,ユーザーの期待も高くなっているなか,こういうときだからこそ「基本に集中すべき」と語る。いくら技術が進化し,市場が変わっても,結局ユーザーは面白いゲームを求めている。それを何度も実感してきたイ氏は,ネクソンを率いるなかで一貫した基準として守り続けているそうだ。
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常に面白さという本質に寄り添うために努力し,その面白さを伝えるために工夫する。この努力と工夫こそが,ネクソンの戦略なのだという。
ネクソンの作るゲームが誰かの日常の癒しとなり,また楽しみとなり,人生に長く残る特別な瞬間となることがある。ゲームの持つ特別な価値を思い返し,お互いの気づきを共有する場にNDCがなることを願っているとして,スピーチを終えた。
続いて基調講演に登壇したのは,NEXON Koreaの副社長であり,NEXON GamesのCEOでもあるパク・ヨンヒョン氏だ。今年の基調講演のテーマは「ビッグゲームを作る理由」。ここでいう“ビッグゲーム”は,そのまま“大作”ということではなく,よりグローバルに展開する大型タイトル的な意味合いだ。
パク氏は,今後ネクソンが生き残るためには,このビッグゲームを作らなければならないと説明する。
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韓国のゲーム業界を振り返ると,過去では開拓と拡張の時代を経てきたという。最初は未開拓地であり,その市場にローカル企業がそれぞれの専門分野によって,それなりに市場を占めてきた。文化や市場の問題で,韓国の外に進出するのは稀な時代だ。リーディングカンパニー同士の競争は激しくなかったが,それぞれの分野で一生懸命やっていた。
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そこで開拓してきた会社が,ネクソンを含む現在のリードプレイヤーだ。ただ,現在はライブサービス型のゲーム,パッケージゲームいずれも停滞の時代に陥っている。韓国といえば,ゲーム業界へのネットカフェの影響が大きな国だが,プレイ率ランキングを見ても,昔のゲームばかり。Steamにおいても,新しいゲームのランクインは限られている。
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また,モバイルゲームは,大きな危機がゲーム市場の外から来ているとパク氏は説明する。ゲーム市場の規模自体は成長しているものの,モバイル市場で見たときに,ゲームが占める割合は減っているのだ。YouTubeやTikTokの売り上げがゲームを抜き,脅威となっている。モバイル市場において,ゲームのライバルはほかのゲームではなく,ゲームをする時間を奪うほかのサービスというわけだ。
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一方で,パッケージゲームは,モバイルゲームとは状況が違う。限られた時間を争うのではなく,良いゲームを作れば市場で戦えるからだ。
とはいえ,AAAタイトルの開発コストは,急激に増加している。例えば,2018年に発売された「Marvel’s Spider-Man」の開発費は1500億ウォン(1億ドル)。これが2023年の「Marvel's Spider-Man 2」になると,3倍以上の4619億ウォン(3.15億ドル)にものぼるそうだ。
2020年の「コール オブ デューティ ブラックオプス コールドウォー」にいたっては,1兆1840億ウォン(7億ドル)であり,マーケティングコストを考えると,2000万本は売る必要がある。失敗すれば会社に大打撃を与える,ハイリスクな規模になっていることが分かるだろう。
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こうした状況下で,ローカル(グローバル展開をメインとしていない)ゲーム会社が占めている市場は,飽和状態にある。そのため,シングルゲームがライブサービスの要素を持っていたり,次回作がライブサービスそのものになっていたりと,ほかの市場を狙い始めた。ならば,守りに徹底するのではなく攻めにでるべきであり,それはネクソンも例外ではないというのが,パク氏の考えだ。
そして,その攻めの施策となるのが,規模の大きな会社しか作れない大規模なゲーム,つまりはグローバル市場で戦えるビッグゲームというわけである。パク氏は,中国や欧米はすでにビッグゲームに取り掛かっているとし,成功したタイトルの例として,「黒神話:悟空」や「キングダムカム・デリバランスII」を挙げた。
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出遅れて“後発組”となったネクソンだが,まだ可能性はあるはずだとパク氏は続けた。韓国は,シリコンバレーのような開発コストが高すぎる状況にはなく,ライブサービスの経験も豊かだ。Kカルチャー(韓国のポップカルチャー)を持つことも強みと言える。ビッグゲームのためのノウハウも,蓄積されてきた。
しかし,こうした強みも今後薄れてしまうものであり,攻められる機会は数年しか残されていない。今こそネクソンは,荒波の待つ大海原へと漕ぎださなければならない。
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ネクソンレベルの大きな会社であっても,そうした危機感を抱いているわけだが,いざビッグゲームの開発に乗り出してみると,いろいろな問題にぶつかったという。これまでさまざまな大作を手がけてきたネクソンだが,それは韓国市場に特化した大作であって,グローバルに戦えるビッグゲームを作るには,これまでの知識だけでは到底足りなかったというのだ。
ここで例として挙がったのが,ゲームの売り方だ。韓国のライブサービスゲームの場合,通常はティザーを公開して事前登録を開始し,発売に近づくにつれ,動画などを頻繁に公開するというマーケティング手法を取る。この期間は,2か月程度だ。
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しかし,グローバルなゲームの場合,公開されるタイミングはもっと早い。例えば「ディビジョン」は,2016年に発売される3年前,E3でゲームプレイシーンを公開している。
ここでパク氏が注目すべきとしたのが,最初からゲームプレイを見せていることだ。これはつまり,「こういうゲームですよ」「面白そうですよね」というメッセージを投げかけているわけだが,これを公開できるということは,開発に負担がかかる施策を取っているということでもある。発売から何年も前の,見映えもよくない状態で,プレイできる形のものを作らなければならないのだから,その準備にコストがかかっているであろうことは,想像に難くない。
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韓国の開発者としては,「なぜ,1度きりのトレイラーのために,そこまでコストをかけるのか」「2か月でやればいいんじゃないの」「見映えがよくなってから作ればいいんじゃないの」と考えがちだ。しかしこれは,マーケティング効率の良い韓国ならではの考えだという。
韓国は土地が狭く,さらにソウルを中心に人口密度も高い。江南の地下鉄に広告を出せば,それだけで数十万人に見てもらえる。短時間で物量を集中させることで, 露出度を一気に上げられるというわけだ。
一方,グローバル市場はそうではない。広範囲に人が散らばっていて,世界的な大都市であっても,ソウルより人口の少ないところは多くある。そうした市場で新規IPを売ろうと思ったら,ユーザーが気になって,メディアに記事を出し続けてもらえるようなトレイラーが必要なのである。
そうした展開が得意なのが中国であり,「原神」などを例に挙げつつ,ネクソンも数年前からゲームを見せて期待感を出していかなければならないと,パク氏は説明した。
確かに負担のかかる施策ではあるが,開発力を温存して潰れるか,それとも命懸けでやって生き残るか,答えの決まった二者択一だと,強い言葉でまとめていたのが印象的だった。
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また,ビッグゲームは制作においても,新しいチャレンジになることが多いという。例えばゲーム全般のクオリティについて。ネクソンは,AAAタイトルの開発経験こそないものの,これまでのノウハウや,プレイする側としての経験などから,海外の見本となるタイトルを参考にすれば,ついていけると考えていたそうだ。ただ,パク氏が思っていたよりも,それは簡単なことではなかった。
既存のゲームで培ってきた経験が,むしろ邪魔になることがあるというのだ。
分かりやすいのが,ゲーム中の会話シーンの作り方である。ネクソンは,コストパフォーマンスに優れたストーリーテイリングに慣れている。インパクトの強いシーンは派手に,そうでないところは会話中心でシンプルに表現するなど,分かりやすく作る。
対して,グローバルに展開するゲームのストーリーテリングは映画のように繊細で,ただセリフを言うだけでなく,視線や表情,仕草も含めたお芝居が展開される。
こうした細かな部分で追いつこうと思ったとき,過去の経験が無意識のうちに,目標となるイメージを歪めてしまうことがあり,苦労しているようだ。
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ビッグゲームの制作において,開発チームの人数の問題も発生する。パク氏によれば,最も効率の良い人数は40人程度であり,それぐらいならメンバー同士がお互いをよく知っていて,結束力も高いという。しかし,この規模では作れるゲームに限界があるため,人数を増やさなければならない。
とはいえ,人数を増やすと組織を維持するコストは増し,同じビジョンやクオリティの基準を共有することも難しくなってくる。これが,ネクソンにとってまだ見たことのないビッグゲームとなると,なおさらだ。
海外のビッグゲームは,組織の働き方からして異なる。ある会社を例に挙げると,ステージ1は中国支社,ステージ2はインド支社といった具合に,担当を大きく分けて,各支社に任せて作る方式を取っているという。この場合,例え全体の人員が1000人を超えるようなことになっても,各支社に投入される人員は100人程度であり,結束力が失われない。
また,ある会社は,700人以上の開発者を,10人や20人規模の小さい組織に分けて開発するそうだ。職務別に分けるのではなく,それぞれの組織にいろいな職を配置して,1つのコンテンツを作らせる。そうすると,各組織が結束できるため,力が発揮できるというわけだ。
ただ,こうした手法を真似したところで,ネクソンは状況が違うため,うまくいくかは分からない。確かなのは,初めてのチャレンジには新しい方法が必要であり,問題を乗り越えてビッグゲームで市場を攻めていかなければならないということである。
パク氏は今回のNDCについて,こうした問題を解決するため,お互いの教訓を分かち合い,進むべき方向を考えるきっかけになることを願っているとし,基調講演を締めくくった。
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