
プレイレポート
[プレイレポ]戦闘要素を排除した日常系RPG「Petal Runner」は,ひと夏の友情物語をピクセルアートで描く
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Brandon James Greer氏が手がける本作は,ゲームボーイカラー風の4色ドット絵で描かれるオープンワールドアドベンチャーRPGだ。「スライス・オブ・ライフ」(日常系)RPGというジャンルを標榜し,戦闘要素を排除したゲームデザインが注目を集めている。パブリッシャはiam8bitのゲームレーベルiam8bit Presentsだ。
本作の魅力は,レトロな見た目とは裏腹に,現代的で洗練されたストーリーテリングにある。主人公のカーリと相棒のペット「キラ」が織りなす物語は,単なるノスタルジーに留まらない深みを持っているように感じた。短い時間ではあったが,実際にプレイできたので,その感想をお伝えしよう。
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本作の舞台となるのは「サファイアバレー」と呼ばれる太陽の光あふれる近未来都市だ。この世界では,花から生み出される新エネルギー「リープセル」が普及しており,それによって最新世代の人工ペット「ハナペット」たちが動いている。
ハナペットはデバイス内で飼われる小さなバーチャルペットだが,十分なリープセルを与えれば実体化し,人々と共に暮らすこともできる存在だ。
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主人公のカーリは,相棒であるハナペットのキラと共に,このリープセルを届ける配達員「ペタルランナー」になることを目指す。物語は,カーリとキラのひと夏の冒険という形で展開し,彼らが街のさまざまな地区を巡って配達の仕事に挑戦していく中で,成長と巣立ちのドラマが描かれていく。
ゲームの進行は,各地区にあるペタルランナー支部を訪れて配達業務の訓練を積み,認定バッジを集めていくという形式だ。戦闘要素はなく,代わりに多彩なミニゲームや日常的なインタラクションを軸にしている点が独特だ。
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各支部には指導者(メンター)がおり,メンターごとに異なるミニゲームやクエストが用意されている。ハナペットを世話したり,一緒に体操や音楽ゲームを遊んだりといった配達以外の日常パートもあり,ほのぼのとしたエピソードが展開する。
本作のグラフィックスは,ゲームボーイカラー風のドット絵スタイルだ。画面は4色程度の限られた色調で表現されているが,この極限まで絞られたパレットが生むレトロ感が,作品全体の雰囲気を特徴付けている。
興味深いのは,エリアごとに基調となるアクセントカラーが設けられている点だ。繁華街エリアではネオンピンクや紫がかった色合い,自然豊かな地区では緑系統の色合いといったように,地区ごとに異なるカラーテーマで世界が彩られる。エリアごとに雰囲気が変わり,限られた色数ながらも単調さを感じさせない工夫がなされている。
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このカラーリングは「ゲームボーイカラー時代のJRPGへのラブレター」だそうで,懐かしさと新鮮さを両立させたグラフィックスに仕上がっている。背景や建物,小物のひとつひとつに至るまで緻密に描き込まれており,ドットの解像度以上に情報量の多いビジュアルが実現されている。
1990年代アニメ風のカットシーンやキャラクターデザインも見逃せない。会話シーンでは登場人物ごとにドット絵と調和したイラスト風のキャラが表示され,細やかな表情で感情が伝わるようになっている。物語の重要な場面ではアニメーションする演出もあり,レトロな中にもドラマティックさが感じられる。
特に印象的なのは,主人公がバイクに乗る滑走シーンだ。トレイラーのラストでは「AKIRA」のバイクスライドシーンへのオマージュがドット絵で再現されており,日本アニメへの愛情とセンスの良さがうかえる。
チップチューン調のBGMもグラフィックスと相まってゲームボーイ時代を彷彿とさせる雰囲気を醸し出しており,レトロゲームファンにはたまらない演出なのではないだろうか。
物語のテーマはカーリとキラの友情であり,1人と1匹が共に大人になっていく過程が,ノスタルジックなタッチで描かれる。しかし,この心温まる設定の裏には,より深い物語が隠されているようだ。
実際,カーリとキラは長年連れ添った幼馴染の間柄だが,キラは初代モデルのハナペットゆえに旧式のバッテリーしか使えず,入手や修理が困難になってきているという問題を抱えている。この設定は,技術の進歩と旧世代の機器の運命という現実的なテーマを内包しており,単なる友情物語以上の深みを予感させる。
かわいらしい設定の裏に,不穏な謎が潜んでいるのかもしれない。今回の試遊では分からなかったが,物語の背後には一筋縄ではいかない謎やドラマも用意されていそうだ。
2人は配達の旅路で新たな仲間や依頼人と出会い,季節が「青春の夏」から「大人の秋」へ移り変わるように成長していく。主人公と相棒のペットが共に成長し,時に「手放すこと(letting go)」を学んでいくというテーマは,普遍的なものだろう。
本作の大きな特徴のひとつは,伝統的なRPGにある「戦闘」が存在しないことで,配達業務中のイベントもミニゲームなどで表現される。
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物語のテンポは基本的に穏やかでスローライフ寄りになると予想されるが,それが本作の持つ「日常系」という独自性を際立たせているのだろう。
この点で本作は,近年注目を集めるコージーゲームの流れとも呼応している。戦闘やタイムアタック的な制約がない分,自分のペースで街巡りや交流を楽しむプレイ感は,「どうぶつの森」などに通じるものがあるかもしれない。とはいえ本作は明確なメインストーリーを持つ。
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かなり思い切った設計のRPGだが,「Petal Runner」はSNSやコミュニティで好意的な反応を集めている。公開されたトレイラーには「見ているだけでワクワクする」「グラフィックスの制約を逆手に取ったクールな作品だ」といったコメントが寄せられ,レトロなビジュアルと心温まる雰囲気への支持が目立つ。
特に「携帯機でこそ映えるはず!」という声が多く,「Switch版がほしい」という要望が多いようだ。実際Steamフォーラムでは開発者が「現時点ではPC版のみだが,発表をお楽しみに!」と前向きな返答をしている。
「Petal Runner」は,ゲームボーイカラー風の4色ドット絵という制約を逆手に取り,独自の世界観と物語性を構築している意欲作だ。戦闘要素を排除し,日常的なインタラクションと配達業務を軸にしたゲームデザインは,従来のRPGとは一線を画す新鮮さがある。
レトロなビジュアルでありながら,キャラクターの動きや画面遷移は非常になめらかで,昔ながらの見た目と現代的な快適さを両立している点も注目に値する。
現時点ではPC(Steam)版のみが発表されているが,日本語を含む8言語に対応予定であり,UIや字幕が日本語化される見込みだ。リリース時期は2026年とまだ先だが,すでに多くのファンがウィッシュリストに登録しているようだ。2026年のリリース時には,インディーゲーム界隈で話題を呼ぶタイトルになるかもしれない。
![]() Summer Game Fest: Play Daysに出展されていた「Petal Runner」試遊台。メインホールの入口付近にあり,常に誰かがプレイしていた |
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