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[インタビュー]山中拓也氏×毛利泰斗氏×村上一馬氏鼎談――「MILGRAM」「ビバレン」「フラメモ」から見るYouTube原作の今
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印刷2025/05/28 18:00

インタビュー

[インタビュー]山中拓也氏×毛利泰斗氏×村上一馬氏鼎談――「MILGRAM」「ビバレン」「フラメモ」から見るYouTube原作の今

 アニメでもゲームでもない。ここ数年,YouTubeを主な舞台に展開されるボイスドラマや音楽などを通じて,作品の世界観を表現する“YouTube原作”のコンテンツが,すっかり定着してきた。

 そうしたなか,2025年に5周年を迎えた「MILGRAM」のプロデューサー山中拓也氏が,「このジャンルで活躍するプロデューサー同士で鼎談がしたい」と4Gamerに企画を持ち込んだ。氏の希望により,「VS AMBIVALENZ」毛利泰斗氏「フラガリアメモリーズ」村上一馬氏という2人のプロデューサーを迎え,話を聞く機会が実現した。

 YouTube原作コンテンツならではの面白さや制作の舞台裏,さらには抱える課題までを赤裸々に語った約2時間の鼎談。3万字弱の大ボリュームでお届けするので,ぜひ最後まで楽しんでほしい。

左から村上一馬氏,山中拓也氏,毛利泰斗氏
画像ギャラリー No.001のサムネイル画像 / [インタビュー]山中拓也氏×毛利泰斗氏×村上一馬氏鼎談――「MILGRAM」「ビバレン」「フラメモ」から見るYouTube原作の今

◇━━━━━━━━━━━━◇
もくじ
◇━━━━━━━━━━━━◇

お互いの作品のこだわりと「ここがすごい」
 「MILGRAM」
 「VS AMBIVALENZ」
 「フラガリアメモリーズ」

制作・運営をとおして気づいたこと
 予想外だったこと
 印象に残っている出来事

YouTube原作を取り巻く環境
 なぜゲーム化しなかったのか
 YouTube原作コンテンツの未来

お互いに聞きたいこと
 ボイスドラマ(ストーリー)の見せ方の工夫
 「MILGRAM」の制作過程は?
 「ビバレン」のクリエイティブコントロール
 3DCGライブをとおして感じたこと

YouTube原作,プロデューサーならではの“あるある”トーク
 ジャンル名がほしい!
 プロデューサーの定義
 プロデューサー陣からのメッセージ

※タップorクリックでジャンプします


「MILGRAM」公式サイト

「VS AMBIVALENZ」公式サイト

「フラガリアメモリーズ」公式サイト



お互いを尊敬し,刺激し合うプロデューサーたち
「ここがすごい!」と驚いたポイントとは?


「MILGRAM」プロデューサー・山中拓也氏。プライベートでよく観るYouTubeチャンネルは幅広くジャンルを問ず。女性向けの美容系コンテンツなどもチェックしているという
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4Gamer:
 本日はよろしくお願いいたします。錚々たるメンバーが揃いましたが,今回の企画は山中さんが発起人となって進めてくださったんですよね。なぜ,このような鼎談を開こうと思われたのでしょうか。

山中拓也氏(以下,山中氏):
 いきなり真面目な話になってしまうのですが……今,僕たちが手がけている,主にYouTubeを原作としたコンテンツって,アニメやゲームのようにジャンルとしての“名前”がまだ存在しないんです。それが,文化として定着しづらい要因の1つになっていると感じていました。

 こうした作品を展開している皆さんも,きっと似たようなことを考えているのではと思い,「MILGRAM」の5周年にかこつけて,お集まりいただけたらと。こうした背景をユーザーの皆さんにも知ってもらうことに,意味があると考えたのが今回のきっかけです。

4Gamer:
 なるほど。実は,今日ここで初めて顔を合わせる方もいらっしゃるんですよね。

毛利泰斗氏(以下,毛利氏):
 はい。山中さんとは,これまでにオンラインでお話しさせていただいたことがあるのですが,村上さんとは今回が本当に初めてなんです。

村上一馬氏(以下,村上氏):
 そうなんです。山中さんとは,山中さんが仲村宗悟さん,沢城千春さんと一緒に配信していた番組「メゾン・ド・カオス」と,「フラガリアメモリーズ」(以下,「フラメモ」)がコラボしたのがきっかけで,知り合いました。とはいえ,こうしてじっくりお話しするのは,今日が初めてなんです。

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「VS AMBIVALENZ」総合プロデューサー・毛利泰斗氏。YouTubeは幅広く視聴しているが,とくに好きなのは生き物系YouTuber。現在ハマっているのはプレミアリーグで,週末の一番の楽しみだという
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「フラガリアメモリーズ」プロデューサー・村上一馬氏。YouTubeでは,灘中・灘高の卒業生によるグループ「雷獣」をよく観ているという。村上氏いわく,「喋りが面白くて,飽きない」とのこと

4Gamer:
 そうだったんですね。ではさっそくですが,お互いの作品にどのような印象を持たれていたのか,お聞かせください。

毛利氏:
 僕は,ライバルというか,競合だと感じたことはあまりないですね。結局,ファンは“一推し”にいちばん時間とお金を使うので,それを横取りするのは難しいと思うんです。そういう方には「VS AMBIVALENZ」(以下,「ビバレン」)を“次に楽しむ作品”として受け取ってもらえたらと思っていて……。

 「MILGRAM」や「フラメモ」でやられていることを参考にさせていただくこともありますし,僕自身のスタンスとしては,競合というより“理解者”に近いです。

村上氏:
 僕も,感覚としては近いですね。ユーザーがどこを気に入っているのか,何が魅力的なのかを構造的に分解して,それを自分たちの作品にどう取り入れたら良くなるか,など考えたりしています。

山中氏:
 分かります。意外と,ユーザー層ってあまり被っていないんですよね。とくにうちの場合は女性キャラも登場することもあって,お二人のコンテンツに比べると,男性ユーザーが多いほうかなと。作品の描き方としても,男女どちらかに寄った表現はしないように意識しています。今回お誘いしたお二人はそれぞれ違う畑のスペシャリストなのでお話聞けるのとても楽しみです。

4Gamer:
 ありがとうございます。では次に,皆さんが手がける作品でのこだわりや,お互いに感じた「ここがすごい!」というポイントについてうかがっていきたいと思います。



「ユーザーの感情を大きく動かしたいんです」(山中氏)
「MILGRAM」で得られる体験の強烈さとは

【「MILGRAM」とは】

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 2020年4月28日に始動した,音楽プロデューサー・DECO*27氏と,「Caligula -カリギュラ-」などで知られるゲームクリエイター/脚本家・山中拓也氏による,視聴者参加型の楽曲プロジェクト。

 視聴者の役割は,「ミルグラム」の看守「エス」。罪を犯した10人の囚人に対し,MVやボイスドラマなどから真相を考察し,「赦す/赦さない」をジャッジしていく。その結果に応じて,囚人たちの人格や物語の展開が変化していく。

 2025年2月からは,いよいよ最終審判となる「第三審」がスタートしている。



山中氏:
 「MILGRAM」で一番意識しているのは,体験の“強烈さ”です。どれだけユーザーの感情を大きく動かせるかという部分に,常に気を張っているんですよ。もしそれに満たないクオリティであれば,たとえ公開時期がズレてでもリリースしない,という判断をすると思います。

 みんなが社会のなかで“当たり前”としてスルーしてしまっていることを,作品として形にしてもう一度意識してもらいたいというか。フィクションでありながら,それを目の前に具現化することで,あらためて「自分はどう感じるか」「どういうことに感情が動く人間なのか」ということに気づくような体験にしたいんです。

村上氏:
 普段の議論では言いにくいような選択を,あらためてしっかり考えさせてくれる作品ですよね。

山中氏:
 分かりやすい例としてよく挙げるのが,アマネ(桃瀬 遍)という12歳のキャラクターです。悪いことをしたこの子を「12歳だから赦す」のか,「12歳でも赦せない」と思うのか――これは本当に人によって分かれます。

 判断する人が生まれ育った環境によっても変わるし,公開される情報のどこを重要視するかによっても変わるじゃないですか。たとえ同じ「赦さない」という結論でも,どこをどう赦していないのかは人によって違うものだと思います。

 こうしたニュースは現実にもあることですが,やっぱり“自分ごと”としてはなかなか捉えづらい。でも,作品のなかで“好きなキャラクターが抱える問題”として目の前に現れたら,否応なく向き合うことになります。僕は,ユーザーの皆さんが「MILGRAM」と出会う前と後で“違う人間”になっているような,そんな変化を引き起こしたいと思っています。


4Gamer:
 少し突っ込んでお聞きしたいのですが,当然,山中さんのなかにも「アマネを赦すか,赦さないか」という気持ちは生まれるわけですよね。それは,作品づくりに影響しないのでしょうか。

山中氏:
 僕自身の現段階の結論としては,究極「身内だったら全部赦す」なんですよ。人生において,愛する人であれば,僕はすべてを赦すと思っていて。

 「MILGRAM」を運営していても感じることなんですが,人が人を赦すかどうかって,実際は罪の内容や重さではなくて,「どれだけ反省しているか?」「どれだけ反省の色を見せるか?」が重要だったりします。対象に対しての感情の部分がとても大きいなと。それこそ,人によって答えが違って当然だと思うんです。

 例えば,自分の子どもが罪を犯したとしたら,僕はきっと信じるし,かばうと思います。「MILGRAM」に登場するキャラクターたちは,すべて自分が生み出した存在なので,僕の立場からすると,「全員赦す」になってしまうなと思います。そういう考え方もアリということで。

4Gamer:
 なるほど……! では毛利さんと村上さん,「MILGRAM」について「ここがすごい!」と思っている点について教えていただけますか。

毛利氏:
 「MILGRAM」は,「ビバレン」の1年ほど前にスタートしていたので,意識しないわけがありませんでした。僕たちも投票を軸にした企画だったので,どう運営されているのかはかなり参考にさせていただきました。結果的にシステムはまったく違うものになりましたけどね。

 作品としては,やはり楽曲とMVの表現が本当に素晴らしいなと思っています。キャラクターの考察ができるし,キャラクター同士の関係性も見えてくる。キャラを推している人にも,考察が好きな人にも刺さるものを提供されているのが,羨ましくもあります(笑)。YouTube発のコンテンツとして,その歴史には確実に深く刻まれる作品だと思っています。

村上氏:
 僕も同感です。「MILGRAM」は,まずコンセプトがとても刺激的ですよね。キャラクターの情報を知るためのMVが,レンズのような役割を果たしている点が面白いと思います。

 第一審と第二審で「思っていたのと違った!」という情報が出てきたり,そのクリエイティブのコントロールの巧みさがすごいなと。楽曲もMVも非常に水準が高くて,山中さんとDECO*27さんの化学反応が本当に素晴らしいと感じています。

山中氏:
 ありがとうございます。こうしてお話ししていると,これをやるのがどれだけ大変か,お互いに分かり合えるのがうれしいですね。



「リアルタイムでキャラが成長する過程を楽しんでほしい」(毛利氏)
“選択”のなかに宿る「ビバレン」の優しさ

【「VS AMBIVALENZ」とは】

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 2021年9月15日に始動した,“二者択一”をテーマにしたバーチャルアイドルオーディションプロジェクト。作中で展開される密着型アイドルオーディション「VS AMBIVALENZ」では,練習生たちが共同生活を送りながら,課題曲に取り組んでいく。

 最終オーディションでは,同じイメージカラーを持つ2人(キャストは兼役)のうち,1人が一般投票によって選ばれ,勝ち残ったメンバー7人でグループを結成。その結果を受けて,2023年4月に「XlamV(クランヴ)」がデビューした。

 2025年5月現在は,セカンドシーズンがスタートしている。




毛利氏:
 コロナ禍だった2020年ごろに,「Nizi Project」など,アイドルオーディションブームが来ていたんです。それをキャラクターコンテンツにも取り入れてみてはどうか,という着想から「ビバレン」の企画がスタートしました。

 リアルタイムにアイドル候補生であるキャラクターたちが切磋琢磨し,アイドルとして成長していく過程を楽しんでもらいたい……というのが,こだわりであり,頑張ったポイントですね。

 SNSには候補生たちが運営するアカウントもあり,稽古に励む姿などを日々見ることができます。YouTubeで公開するボイスドラマでは,課題曲に取り組む様子や楽曲への想いが描かれ,その楽曲はMVとして実際に視聴できる形になっています。

 誰がデビューするかというゴールが企画として最重要ですが,ファンの皆さんには,何よりその“過程”を楽しんでいただきたいんです。中間発表にやきもきしたり,ドキドキしたりする――そんなプロセスそのものをエンタメとして届けることを,いちばん大切にしています。

4Gamer:
 「MILGRAM」と「ビバレン」は,どちらも投票形式ですが,「ビバレン」では“選ばれた人”と“選ばれなかった人”が生まれます。ファンにとっては悲喜こもごもだと思いますが,毛利さんは,キャラやユーザーすべてを幸せにすることは可能だと思いますか。

毛利氏:
 実は企画当初,キャストさんは別々にする予定でした。でも,シリーズ構成の関根アユミさんから「さすがにそれはエグい」とご指摘をいただいて,いまのシステムを提案いただき,二者択一のオーディション方式が誕生しました。

 それでも,「負けた子が報われることって,なかなかないよな」とは思っていました。リアルなオーディション番組でも,負けた子がその後どうなったのか,終わった直後は注目されても,1年後には分からなくなっていることも多いですよね。現実の人間なら,それも納得できる部分はあるんですが……。

 山中さんもおっしゃっていたように,キャラクターは僕たちが“生み出した存在”です。だからこそ,僕たちに責任があると思うんです。デビューできてもできなくても,応援してくれたファンも含めて,全員ができるだけ幸せになれるように――その努力は,しなくてはいけないと考えています。

山中氏:
 やっぱり,「ビバレン」は優しいなと思うんです。近いようでいて,うちとはまったく違う。

 アイドル候補2人のうち1人が落ちるシステムでも,同じ声優さんが演じているので,声優ファン目線でも脱落の衝撃が緩和されているというのは,“ちょうどいいフィクション感”というか。スリリングだけど,きちんと安全装置が用意されている。エンタメとしての手厚さを感じます。

 「MILGRAM」はそのあたりを望んで無視しているので,“確実に楽しめる”という保証はできないんですが,その点,「ビバレン」は,バランス感覚が本当に優れているなと感じます。

4Gamer:
 確かにそうですね。村上さんは,「ビバレン」についてどのように感じていらっしゃいますか。

村上氏:
 実は,うちの社内にもファンがいまして(笑)。よく「この楽曲をぜひ聴いてください!」とおすすめされるんですが,とにかく楽曲のクオリティが高い。それに,グラフィックスのセンスもすごくおしゃれだなと感じています。

 アプリボットさんが,アプリゲーム開発を母体にされている会社というのもあるかもしれませんが,ボイスドラマでもスチルが非常に効果的に使われている印象があります。テキストの出し方1つとっても,クリエイティブに対する意識や感度の高さを強く感じました。

毛利氏:
 いや,めちゃくちゃうれしいです……!

山中氏:
 村上さんもおっしゃっていましたが,「ビバレン」は同業目線でみるとリソースのリッチさが驚異的ですよね。すべてにおいてクオリティに一切のブレがない。

 「MILGRAM」は,各クリエイターがそれぞれの感性で最大戦力を出し,全力で走って,ゴールに同時にたどり着く――みたいなつくり方なんですけど,「ビバレン」はそれを“組織的”に実現している感じがします。

 音楽もビジュアルもすべてが統一感を持っていて,どの要素もクオリティにバラつきがない。これは本当にすごいことだと思います。あと,チームの皆さんがすごく仲が良いという話も聞いていて,それもステキですよね。

毛利氏:
 そうですね,仲は良いと思います(笑)。

山中氏:
 関根アユミさんを中心にシナリオチームを構成している良さが出ていると思います。「MILGRAM」は,僕が1人で脚本を書いていて……孤独な戦いです。

 とはいえ,全体を1人で把握しているぶん,ユーザーの心理誘導を細かくコントロールできるという利点もあるんですが。「ビバレン」や「フラメモ」のように,チームや組織として機能させる難しさを知っているので,本当にすごいなと感じます。



「ユーザーとサンリオキャラクターの関係や思い出を大切にしたかった」(村上氏)
あえて“擬人化”にしなかった「フラメモ」のこだわり

【「フラガリアメモリーズ」とは】

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 2023年9月23日に始動した,サンリオが“人型キャラクター”で贈る,新世代の本格ファンタジー。

 主(ロード)であるハローキティなどのサンリオキャラクターに仕える騎士(フラガリア)たちは,「謎の存在『シーズ』から世界を救ってほしい」という願いを受け,立ち上がる。

 物語は,YouTubeで公開されているボイスドラマで楽しめるほか,フラガリアたちの内面に迫る楽曲MVも多数展開中。さらに,リアルイベントではサンリオキャラクターが登場することもあり,多角的な展開が特徴となっている。




村上氏:
 「フラメモ」の世界観は,“ハローキティをはじめとした,サンリオキャラクターを守る騎士たちの物語”です。サンリオキャラクターをモチーフにした新キャラクターのプロジェクトを立ち上げようと考えたとき,“擬人化”のアイデアも出なかったわけではありませんでした。

 ただ,やはり僕たちは,ユーザーの皆さまとサンリオキャラクターとの思い出を大切にしたかったんです。小さいころからハローキティのぬいぐるみと一緒に育ってきたような人たちにとっては,それぞれに特別な関係や想いがあるはず。だからこそ,擬人化して一括りにすることで,解釈を制限するようなことはしたくないなと。

 だったら,ユーザーの皆さまと近しい目線を持ち,彼らを“守る存在”として描くのがいいのではないかと考えました。「ハローキティたちを守る騎士」という立場にすることで,より寄り添える,温かい作品にしたい――そこが,プロジェクトメンバーがいちばんこだわったポイントです。

毛利氏:
 とにかく「フラメモ」は,この企画を立ち上げて,ここまで展開されていること自体が本当にすごいと思います。0から1を作るオリジナル作品ももちろん大変なんですが,自由度が高いぶん,ある意味ではやりやすいところもあるんですよね。

 一方で,世界でも屈指のサンリオキャラクターというIPを使って,新たな顧客層に向けた作品を立ち上げるというのは,本当に難度が高いはず。キャラクターを“騎士”という形に落とし込んで,多数のイラストレーターさんを起用しながら個性を引き出していて……発表されたときに「やられた,すごい」と素直に思いました。リスペクトしかないです。

4Gamer:
 では,山中さんは「フラメモ」について,どんな印象を持たれましたか。

山中氏:
 世界観の保ち方が,本当に繊細だなと感じました。サンリオキャラクターを“世界の中心”として尊重する姿勢を,騎士キャラもユーザーも含めて,まるごと制作に組み込めているのがすごいんですよ。そこを丁寧に扱える繊細さは,村上さんの性格にも表れていると思います。

 それと,実は僕,「フラメモ」のオフラインイベント(2024年8月開催「フラガリアメモリーズ 1st LIVE & FAN MEETING 〜Wish is ...〜」)にもうかがわせていただいたんですが――キティちゃんが登場した瞬間,何なら一番っていうくらい客席が沸いたんですよ。

 サンリオキャラって,日本に住んでいる人々にとってDNAレベルで“カワイイ”が刻み込まれている存在だと思うんです。騎士やキャストを観に来たお客さんもいるなかで,「キティちゃんで一番沸く」という現象は「フラメモ」が大事にしてきた空気を美しくあらわしているなと感じました。

村上氏:
 すごくうれしいです! ありがとうございます。

4Gamer:
 ところで皆さんのプロジェクトは現在,どれくらいの規模で運営されているのでしょうか。

村上氏:
 社内のチームという意味では,いまは10人くらいですね。

毛利氏:
 うちは,コンテンツ制作,MD,音楽などすべての部門を合わせると,トータルで20人いかないくらいでしょうか。

山中氏:
 「MILGRAM」は,企画,設定,脚本,作品の本編の展開に関しては僕1人で担当しています。楽曲とMVは,DECO*27と,彼が代表を務めるクリエイターチーム・OTOIROが手がけていて,その他,本編クリエイティブ以外の部分。つまり全体の窓口やWEB展開,グッズ周りを株式会社アルマビアンカが担当してくれています。

 今どきの商業的な観点で言えば,もっと展開のスピードを上げたほうがいいのかもしれません。でも,僕は“関わるクリエイターが納得できるクオリティでつくるべきだ”と思っていて。それを犠牲にしてまで動かすものではないと感じています。関係者全員が商業的価値よりも作品ファーストで考えていて,それが許される環境でものづくりができているというのがとても恵まれた環境だと思います。

4Gamer:
 おそらくですが,ファンのなかには「それだけの人数で作ってるの!?」と驚く人も多いのではないかと思います。ゲームだと,もう少し規模が大きくなるのかもしれませんが……。

山中氏:
 そうですね,自分も本職はゲームの人間なのでそこの差は強く感じています。制作側の規模感を絞って表現ができるというのは,YouTube原作ならではの良さかもしれませんね。

毛利氏:
 そうですよね。うちも初期は3〜4人で運営していました。ただ,キャラクターの人数やグループ,楽曲の数が増えてくると,どうしてもそれだけではまかないきれなくなってしまって。

 とはいえ,僕としてはできるだけスモールチームのように,スピード感を持って施策を決定・実行し,アウトプットしていきたいと考えています。だから,チーム規模が拡大した現在も,意思決定スピードが落ちてないかは常に気にかけていますね。

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制作・運営をとおして気づいたこと
各タイトルが受けた,意外な反響とは?


4Gamer:
 「MILGRAM」がスタートして5年,「ビバレン」が4年,「フラメモ」が今年で2年が経ちますが,これまで展開していて,とくに驚いたことはありますか?

山中氏:
 「MILGRAM」に関して言うと,やっぱり“海外で話題になった”ことですね。完全に国内向けだと思っていましたし,日本のユーザーだけを想定してつくっていたんです。

 実際,「赦す/赦さない」の天秤というテーマも,“日本人だからこそ分かる感覚”を前提にしていた部分があって。でも,YouTubeのアナリティクスを見てみると,アクセスのうち約半分が海外からだったんです。

毛利氏:
 えっ,それはすごい。どのあたりの国なんですか?

山中氏:
 アメリカ,韓国,タイ,フィリピン,インドネシアあたりが多いですね。たまにアラビア語でチャットが投稿されることもあって,生配信中にキャストが反応できない場面もありました(笑)。

 僕がこれまで手掛けてきたゲームというメディアは,販路が設定されているので,想定外の地域で話題になるということが起こりえないんですよ。でもYouTubeは,想像していない場所にも自然と届いていく。これはこのジャンルならではの“夢”だなと感じました。

 ただ,言語が異なることで,どうしてもコントロールしきれない部分もあります。MVの歌詞については,チーム内でちゃんと翻訳しているんですが,僕のシナリオは有志の方が訳してくださっていて,そのぶん,細かいニュアンスがうまく伝わらないこともあるようです。それに,国によって社会問題も大きく違います。海外ファンダムで議論されている内容が,日本人からすると馴染みのない文化や価値観だったりもします。

 その影響で“海外のユーザーの投票が結果に影響してしまうのでは”と,国内のユーザーが不安に思うケースもあるようですね。

村上氏:
 なるほど,確かにそれはありますよね!

山中氏:
 国内のユーザーのなかには,「ちゃんと理解して投票されているのかな」と,やきもきしている人もいるかもしれません。でも僕は,「それも“社会”だな」と思っているんですよ。きっと実際に国内で起きた事件が海外で語られる際に同じことが起きる。それってまさに,現代社会が抱えているモヤモヤやジレンマ,割り切れなさそのものでもあって。予想外だけど,ミルグラムという一種社会を模したコンテンツのなかでは正しい在り方だなと感じました。

毛利氏:
 なるほど……! でもそれを“受容できている”山中さんがすごいと思います。普通は,あまりにも極端な想定外が起こると,制作側がそれを防ごうとするものじゃないですか。そこすらも楽しめるのが,すごいです。

山中氏:
 もちろん,フェイク画像を作って作品意図を歪めて捏造するような動きや,大きく作品の枠を外れて問題化している場合に関しては,度が過ぎる場合は止めに入ります。でも,人間が自然に起こす動きであれば,基本的には“よし”としています。今の社会をそのまま映すべきだと思いますし,本作に対してどんなスタンスのお客さんも,極端な話「MILGRAM」のことを嫌いな人すらも,作品の舞台装置のひとつであるというのが「MILGRAM」の根本の考え方でもあるので。

村上氏:
 いや……芯が強すぎますね(笑)。でも確かに,プロジェクトやキャラクターは,世の中に出した(公開した)時点で,それは少なからずユーザーのものでもあるという側面はありますよね。どう受け止めるかは,ユーザー次第。「MILGRAM」はそれを徹底して突き詰めている感じがします。

山中氏:
 自分も普段の作品であれば,もう少しキャラクターを守るという動きを意識するとは思います。でも「MILGRAM」の場合は登場人物たちがどうユーザーに反応されるかも含めて作品のひとつなので,自分の心の動きを含めた現象自体を楽しんでもらえたらいいなという気持ちです。

4Gamer:
 先ほども話に出ましたが,日本と海外では年齢感覚もそうですし,宗教的な価値観も大きく違いますよね。

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山中氏:
 大いにあると思います。各キャラクター、現実で起こり得る問題を抱えているのですが,感覚や捉え方も国によって全然違うんですよね。

 でも,海外で反応が良いからといって,海外を意識して作品の内容を寄せるということはありません。「MILGRAM」に登場する囚人たちは,みんな日本の文化圏で生きてきた日本人なので,そこのリアリティが海外の方にも楽しんでもらえる要因だと考えています。そこに恣意的な”海外目線”を取り入れる必要はないし,求められてもいないと思っています。

4Gamer:
 ちなみに毛利さんの……あっ,少し放心状態のようですが,大丈夫ですか?

毛利氏:
 いや,あまりにもすごい話だったので,ちょっと“食らって”しまいました(笑)。「ビバレン」で予想外だったことといえば……やはり,“投票って生き物なんだな”ということですね。

 「この子は人気が出るんじゃないか」とか,「この展開やパフォーマンスなら票が集まるだろう」といった想定が,まったく通用しない。なので,制作側の僕たちも,ある意味で投票結果を“1つの楽しみ”として見ていたところもありました。

 正直,票が偏ってしまったら,1年続くオーディションとして面白さがなくなるんじゃないか……と心配していたんです。でも,どの子たちも,脚本担当をはじめ,関わる皆さんが本当に丁寧につくり上げてくれたからこそ,想定外な票の動きが生まれたのかなと。実際に動かしてみて,本当に驚かされましたね。

4Gamer:
 なるほど。実は私,韓国のサバイバル番組が大好きで,アイドルやダンス系からヒップホップ,料理ものまでいろいろと観ているんですが,番組のなかには「この人はこう見せたいんだろうな」という演出や,いわゆる“悪編”(悪魔の編集)がよくありますよね。あれが面白いときもありますが,こうしたコンテンツでは,そう単純にはいかないですよね。

毛利氏:
 そうですね。オーディション期において“平等”というのは,かなり意識している部分ですが,ファンから「この子は悪く描かれてる」や「出番が少ない」とお叱りを受けることはあります。ただ,ドラマを最大限に描くためには,ある程度そうした見え方になってしまう場面もあって……。その意味での“差”が出ることは,やむを得ない部分もあります。

 でも,「アイドルになりたい」という共通の目標だけは,きちんと全員に持たせてあります。だからこそ,そのなかで誰を選ぶかを“迷ってもらう”ことに,意味があると思っているんです。

 それと,パフォーマンスや歌割りに関しては,できるだけ平等になるように心がけています。でも,そこばかり気にしすぎると,どうしても面白さが薄れてしまう。例えば,ラップパートは,得意な子が担当すべきだと思うんですよ。そこを無理に平等に割ってしまうと,音楽的なクオリティや,“聴いた時の納得感”が失われてしまいます。

 やっぱり,そのあたりのバランスを取るのはすごく難しいです。一時期はナーバスになったこともありましたし,今でも繊細に扱うべき課題だと感じています。

4Gamer:
 難しい問題ですね。村上さんにとって,「フラメモ」で“予想外だったこと”は何でしょうか?

村上氏:
 当初から,「フラメモ」をとおしてユーザーの皆さんに,ゆくゆくはサンリオやサンリオキャラクターをもっと好きになってもらえたらいいなという想いがありました。

 プロジェクト公開の際には,SNSで1日1キャラずつキャラクターを発表していったんですが,商品展開や露出が比較的少ないサンリオキャラクターがトレンド入りすることもあって。そのキャラクターをずっと好きでいた方々が,すごく喜んでくれたんです。その反応を見たとき,「微力ながら作品からサンリオへの恩返しができたかもしれない」と思って,驚きと同時にとてもうれしかったですね。

 それから,先日ピューロランドで初めてのイベントを開催したんですが,「今日,ピューロランドに初めて来ました!」というお客さまが意外と多くいらっしゃって。サンリオやサンリオキャラクターにポジティブな形で還元できているのではないかと感じています。

毛利氏:
 それは素晴らしいですね! IPの拡張も目的の1つとしてあった企画だと思いますが,それがこんなに早い段階で形になっているのは,本当にすごいことだと思います。

山中氏:
 もし「フラメモ」が“擬人化”という選択肢を取っていたら,その展開は生まれていなかったかもしれませんよね。元のサンリオキャラクターを“立てた”うえで構成されているからこそ,これだけ自然で良質なサイクルが生まれたのだと思います。

 でも,これ……何度も言いますが,めちゃくちゃ勇気のいる判断だったと思うんです。主であるサンリオキャラがいて,それに仕える騎士がいるという構造は,説明が1つ増えるぶん,世界観を理解してもらうための“導入のハードル”はどうしても上がりますよね。でも,そこを乗り越えたからこそ,今の健全なサイクルがある。すごく綺麗だし,それを実現したのは同業者目線で本当にすごいと思います。

4Gamer:
 では,これまでに最も印象に残っているのは,どのような出来事でしょうか。

村上氏:
 「フラメモ」は2023年9月にプロジェクトを発表し,同じ年の11月には「アニメイトガールズフェスティバル(AGF)」に出展しました。事前告知はせずサンシャインシティの噴水広場で初楽曲のMVを流したところ,その場にいたお客さんが大きな歓声を上げてくださって。あの瞬間,企画の立ち上げからそれまでに積み重ねてきたものが報われたように感じましたし,自分たちにとって大きな励みになりました。

 もちろんその後も,より大きな会場や,出演者の多いイベントを開催させていただいていますが,あのときの感動は今も強く心に残っています。自分のなかではとても特別な出来事ですね。

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[2024/12/03 12:00]

4Gamer:
 やっぱり,直接お客さんの反応を見るのは,まったく違いますよね。

毛利氏:
 この仕事をしている人間としては,完全に同意です。本当に“すべてが報われる瞬間”ですよね。

山中氏:
 間違いないですね。同じ流れになりますが,「MILGRAM」もやっぱりイベントが強く印象に残っています。2024年1月に開催したライブイベント(MILGRAM LIVE EVENT「hallucination」)ですね。

 うちのイベントって,MCが一切なくて,“尋問”と呼ばれるドラマパートと楽曲だけで構成されているんです。それをキャラクター9人分連続で披露するという,約2時間,緊張感を保ったままのステージでした。

 お客さんを前にする初めてのイベントだったので,囚人服を模した衣装でキャストさんが登場するたびに歓声が上がって,その光景を見ながら「“MILGRAM”のお客さんって,本当にいたんだ!」って思いましたね(笑)。

毛利氏:
 分かります! ネット発のコンテンツだと,そういう感覚になりますよね。

山中氏:
 ファンの皆さんって,こういう人たちなんだな……と,目の前で見ることができたのも印象的でした。でも,いちばん「僕がやってきたことは間違っていなかった」と感じたのは,客席から上がった“悲鳴”ですね。

4Gamer:
 歓声ではなく,悲鳴ですか?

山中氏:
 そうなんです。そのイベントは昼夜2公演で,昼が第一審,夜が第二審というスタイルでした。第一審で赦されたキャラが,第二審では調子に乗っていたり,人格が変わっていたりと,さまざまな精神的変化を見せるんです。そのなかで,一番手であるハルカ(櫻井 遥)が第二審に登場して最初に発した一言――その瞬間,客席から歓声ではなく,小さな悲鳴が聞こえたんですよ。

 その客席の冷え方に,こちらの狙いがしっかり伝わっている,という実感があって……制作者としては,冥利に尽きるものがありました。「わーっ」「きゃーっ」といった歓声になってもおかしくない場面だったと思うんですが,ちゃんと“恐怖”として受け止めて,没入してくれていた。それだけ深く作品に入り込んでくれている良いお客さんがついてくださっているんだなと感じて,心からうれしかったです。

4Gamer:
 イベントならではの醍醐味ですね。ちなみに,客層としてはいかがでしたか。

山中氏:
 やっぱり,海外の方がいらっしゃったのは,とてもうれしかったですね。すごく気合が入っていて,コスプレまでして参加してくださった方もいて,感激しました。

 僕が以前手がけていた作品に「Caligula-カリギュラ-」というタイトルがあるんですが,あれもボーカロイドという文化のおかげで,国や言葉の垣根を越えて広がっていったという実感がありました。「MILGRAM」も,DECO*27の作る音楽がその役割をしてくれている。ボカロ文脈の果たした功績に助けられているのだと思います。

4Gamer:
 では毛利さんにとって,「ビバレン」で最も印象に残った出来事は何でしょうか。

画像ギャラリー No.007のサムネイル画像 / [インタビュー]山中拓也氏×毛利泰斗氏×村上一馬氏鼎談――「MILGRAM」「ビバレン」「フラメモ」から見るYouTube原作の今
毛利氏:
 「ビバレン」はコロナ禍にスタートしたプロジェクトだったこともあり,僕自身も「本当にファンの方って実在しているんだろうか?」という感覚をずっと抱いていました。だからこそ,2023年9月に初めてファンミーティング(「VS AMBIVALENZ 1st ファンミーティング」)を開催したとき,「本当にいた……」という喜びと感動がありました。これは山中さんと同じですね。

 ただ,それ以上に今でも強く印象に残っているのは,ファーストシーズンの最終結果発表を生配信で行ったときの出来事です。先ほどもお話したように,「ビバレン」ではキャストさんが兼役を務めているため,自分の担当するキャラのうち片方はデビューできて,もう片方はデビューできないという結果が,その場で初めて明らかになるんです。

 だから,生配信中に結果を受け取った瞬間,「やったー!」とも言えないし,「残念でした……」とも言えない。そういった何とも言えない“絶妙な空気感”が,会場全体に満ちていて……。

 視聴者の方々にも,その空気はきっと伝わっていたと思います。キャストさんのなかには,実際に涙を流された方もいらっしゃって。あの一瞬の生々しさも含めて,とても印象的な出来事として残っています。

山中氏:
 実際のサバイバル番組の最終結果って,“敗者に対してどうケアするか”で印象が大きく変わると思うんですよね。

 最近見た2つのオーディション番組でもそこの扱いが明確に違っていて,片方は合格者発表の瞬間にもう「いなかった」かのように合格者に焦点があたりつづける。もう一方は合格者に「ちょっと待ってて」と伝え,まず敗者に焦点を当てる。

 個人的な好みとしては,負けた瞬間に人間の芯の部分が出ると思うので,後者の見せ方が好きだったんですが,本当に繊細な判断が必要だなと思います。

4Gamer:
 個人的には,応援していた人が落選した瞬間,急に“その場にいない人”のように扱われて,カメラに映らなくなるのがすごく寂しくて……。

 とはいえ,かと言ってその人が悲しむ姿を見るのも辛くて。複雑な気持ちになりますよね。「自分の力が足りなくて,この人を合格させてあげられなかった」みたいな後悔が生まれることもありますし。

村上氏:
 確かに,みんながみんな「落ちた人も映してほしい」って思っているわけじゃないですよね。

4Gamer:
 そうなんですよね。ただ悔しがるくらいならともかく,なかには号泣する人もいれば,呆然と立ち尽くす人もいて。そういう姿を見ると,こっちまで胸が締めつけられるような思いになります……。

山中氏:
 そうか……だったら,なおさら“見せたくなる”なぁ。その命の輝きを(笑)。


YouTube原作を取り巻く環境とは?
「なぜゲームにしなかったのか」と,このジャンルのこれから


4Gamer:
 最近は,すぐにゲーム化せず,皆さんのようにYouTubeを中心に展開するスタイルも増えてきましたよね。

山中氏:
 いや,今ってゲームを作るのが本当に難しい時代になっていますよ。かかる予算がまったく違ってきているし,とくに女性向けジャンルは苦労している印象がありますね。

4Gamer:
 そうなんですよ……! どうして,こうした状況になってしまったんでしょうか。

山中氏:
 やっぱり,開発費の高騰が大きいですね。一昔前なら,例えば1億円以下で作れたようなタイトルでも,今では5億,10億と普通にかかってしまう。

 そうなると,利益を回収するためには,新しい挑戦的な企画を出す余地がなくなってきて,どうしても堅実なものばかりになってしまう。チャレンジが難しい空気感が,今の市場にはあると思います。

村上氏:
 スマートフォン自体の容量やスペックも限界に近づいていますが,スマホゲームは今も継続的にリリースされ続けています。ただ,そのなかで生き残っているタイトルが長く遊ばれているぶん,新しくアプリを出してもインストールすらしてもらえないという,非常にシビアな状況なんです。

 ユーザーの時間もお金も有限ですし,「興味はあるから,いつかやろう」と思っているうちにサービス終了……なんてケースも珍しくないですよね。だからこそ,まずは作品そのものを好きになってもらうことを最優先する――そういうスタイルにせざるを得ないのかなと考えています。このあたり,アプリボットさんはどう感じていらっしゃいますか?

毛利氏:
 弊社はスマホゲーム領域が主力事業で,僕自身もキャリアのスタートはゲームプランナーでした。それゆえに「簡単に出すべきではない」という意識はむしろ強くなっています。やはり,開発にはとても時間がかかりますから……。

 もちろん,作れるなら作りたい気持ちはあります。ただ,その「時間」ってイコール「お金」でもあるので,どうしても慎重にならざるを得ません。その点,YouTubeというプラットフォームは,ゲームよりも短いスパンでアウトプットできるのが,最大のメリットで,ビバレンの発信拠点として適切だと判断した理由です。

山中氏:
 開発に多額の投資が必要になるぶん,どうしても“安牌”を打たなきゃいけない空気感が出てくるんですよね。ゲームでは,市場に受け入れられる“分かりやすい大衆性”が求められがちです。もう味が分かっているリメイク作品ばかりが話題になる現状は,未知の味を作るオリジナルにとっては逆風でもあるといえます。

 一方,YouTubeであれば,先に言ったとおり工夫次第で見せたいものだけに集中して規模をコントロールできるので,もっと攻めたテーマや挑戦的な内容にも踏み込める。その“自由度の高さ”は,YouTube原作ならではの強みだと思います。

毛利氏:
 「ビバレン」は,アイドルコンテンツとしてはもう“最後発”と言っていいほどの時期に立ち上がったんです。だからこそ,このジャンルに参入するには相当な勇気が必要でしたし,これを最初からゲームとして展開しようとは,とても思えませんでした。

 山中さんもおっしゃっていたように,YouTube企画だからこそ攻めた内容ができるというのは確かにあります。一方で,ゲームでも最近は“インディー”が盛り上がっているように,プロダクトアウト的な発想の企画が受け入れられる土壌が整ってきた印象もありますし,僕らもゲームへの挑戦を簡単に諦めるべきではないと思っています。

 ただ,YouTube企画も自由度は高いですが徐々に求められる制作コストがインフレしているように感じていて,今後はそれも課題の1つになるかもしれません。

山中氏:
 それは感じますね。でも「フラメモ」とか,間違いなくゲームに向いている世界観だと思いますよ。

村上氏:
 そうですね。“いつかゲーム化を”という夢は,もちろんあります。ただ,アプリゲームですとサービス終了によって起こり得るIPへの影響も理解しており,お客さんの目線に立つと,早々にゲーム化するよりは長く安定した運営をしてほしいと思うんです。だからこそ,立ち上げの段階で“まずはしっかり作品を育てる”という方針に決めたんですよね。ここは丁寧に向き合っていきたいと,今でも思っています。

4Gamer:
 ちなみに「MILGRAM」もゲーム向きの題材にも見えますが,ゲームにしなかったのは,なぜだったのでしょうか。

山中氏:
 僕自身,過去に手掛けたゲームでも「究極の選択」みたいなものを何度もテーマにしてきたんです。例えば,「この人を救う代わりに世界は滅びます」みたいな“天秤”を提示するような選択ですね。

 毎回すごく良い反応をいただけるんですが,その一方でずっと感じていたことがあって。これって本当の意味での“究極”ではないよな,と。なぜかというと,ゲームでは,プレイヤーが“やり直せてしまう”からなんです。

一同:
 ああ……!

山中氏:
 どれだけ刺激的な選択肢を用意しても,ユーザーは「あとでほかの選択肢も見よう」と思いながらプレイするんですよ。あくまで究極の選択は「どっちを先に見るか?」にしかなっていない。

 セガさんがリリースしていた「シン・クロニクル」というゲームはそこに挑戦していて,プレイヤーの端末ごとに取り返しのつかない選択肢を用意するという設計でした。思想として僕はとても素晴らしいと思うんですが,結局実況動画等で違う展開も見れてしまうんですよね。それは優しくはあるんですが,選ばなかった一方が存在する時点で,究極の選択ではないんです。

 YouTube原作かつ,MILGRAMのシステムであれば,本当に“取り返しのつかない選択”を成立させられるんですよ。視聴者の選択は一度きり。100%の不可逆性――“絶対にやり直せない究極の選択”を描ける。その後に残るなんともいえない感情はそうでないと生み出せない。これは「MILGRAM」をYouTubeでやって良かったと思う点で,この形式を選んだ最大の理由かもしれません。現実だって,取り返しのつかないことばかりですよね。だからこそ我々は現実に苦悩するので。

4Gamer:
 すごく納得しました。“一方的に提示される物語”だからこそ成り立つ究極の選択なんですね。別の選択肢が気になるユーザーは,二次創作で描くしかないかも……。

山中氏:
 そうなんです。むしろ,二次創作で“もう1つの可能性”を埋めてくれたらうれしいです。「この人が赦されていたら,どうなったんだろう?」――そんな想像が広がっていったら最高ですよね。そういうところから新たなクリエイターは生まれてくるものなので。そうして「MILGRAM」の世界を,もっと楽しんでもらえたらいいなと思っています。

4Gamer:
 お話をうかがっていると,現時点ではYouTube原作コンテンツに多くのメリットがあるように感じます。では皆さんは,このジャンルが今後どうなっていくとお考えですか。

毛利氏:
 僕の感覚だと,以前よりこのジャンルの新規立ち上げは減ってきているように思います。もちろん,出てきていても自分たちが気づけていないだけかもしれませんが……。でも,そこも含めて,YouTubeの世界ってすごく深さを持った“多様化”が進んでいるんですよね。

 自分たちの知らないところで新しい表現,新しいジャンルが次々と生まれている。そういう流れのなかで,僕たちが今やっているような“音楽を軸にしたYouTube原作もの”が,この先どうなるかは……正直,全く同じ手法で新規企画を立ち上げるのは難しい側面があると思っています。

山中氏:
 完全オリジナルの企画をゼロから立ち上げるのは,今かなり厳しくなってきていると感じます。毛利さんがおっしゃったように,YouTubeの仕様が日々変化するというのも大きいですね。例えば,動画が「おすすめ」に表示されなければ,そもそもユーザーに届かないんです。おそらく今「MILGRAM」を立ち上げたとしても,当時と同じ結果にはならないんじゃないかと思うくらい。

 SNSで告知して,いつも見てくれるファンがリンクを踏んでくれるだけでは広がっていかない。アルゴリズムに乗って,自然にリーチが伸びる構造がないと,どうしても拡散力が弱くなります。そのアルゴリズムもどんどん変化していますし……共通して言えるのは,投稿頻度の高さなんですが,それはクオリティを引き換えにする部分もあるので。だからこそ,「フラメモ」のように“サンリオ”という強烈なフックがある作品はすごく強いなと感じます。

毛利氏:
 そうなんですよね。すべての制作コストが上がってきているというのもあって,リソースを注ぎ込むには,相当な責任者の覚悟と資本力が必要になると思います。また変わりゆく“YouTubeならではの強み”をどう生かせるかが,今後のヒットの鍵になるんじゃないでしょうか。

山中氏:
 「フラメモ」はどうですか? 始まって2年ですが,YouTubeを乗りこなせている感覚はありますか?

村上氏:
 うーん……難しいですよね。YouTube展開という視点で言えば,最近は「二極化」が進んでいるように感じています。

 1つは,ロイヤルユーザー向けにクオリティを徹底的に突き詰めた“重厚なコンテンツ”。そしてもう1つは,大事なポイントを押さえたスピード感のある“フットワーク軽めのコンテンツ”。この2つに,はっきり分かれてきている印象があります。前者は,ユーザーにまとまった時間や思考のリソースを割いてもらう必要があるので,新規参入のハードルは高い。そのぶん,後者のようなライトなコンテンツが増えているのかなと。

 あとは,今後の展開として考えられるのは,「新しいプラットフォームの登場」ですね。新しい場が生まれるたびに,そこに最適化された新しいコンテンツが立ち上がっていく。そしてまた次の波が来て……そうやってジャンルが広がっていくような気がしています。

山中氏:
 たぶん,収益まで含めて考えるなら,海外を視野に入れないと難しいと思いますし,YouTubeそのものの広告収入だけで黒字になることは,まずあり得ないですね。グッズ展開はマストですし,「MILGRAM」は運良く海外に広がっていったのですが,意図的に海外に広げていくのは相当難しい。

 YouTubeだけを観て楽しんでいるお客さんって,お金を払うことに慣れていないんです。そこはゲームのお客さんとは属性が異なる。おそらく後発のYoutube原作コンテンツが苦労しているのはそこで。だから,視聴回数や登録者数といった目に見える数字と,「そのコンテンツがどれだけ儲かっているか」は,まったく別の話になっていると思います。

毛利氏:
 ぶっちゃけ,今日いちばん聞きたかったのは,その話題なんです。皆さんもおっしゃっていたように,このスタイルで運営するのって,やっぱりけっこう大変ですよね。供給をし続けなければいけないし,そこには絶対にコストがかかる。

 もちろん,赤字を許容できるようなプロジェクトや企業なら別ですが,基本的にどんな会社でも収益は気にされているわけで……。皆さんが,どうやってやりくりしているのか,そしてどういう考え方で運営されているのかは,ぜひお聞きしたいと思っていました。僕自身,そこは常に課題として抱えている部分でもあるので。

山中氏:
 僕から先にお答えしますね。「MILGRAM」は収益のことをあまり考えていないんですが,ありがたいことにグッズがすごく売れています。グッズを制作してくれている会社としても,「このコンテンツを続ける価値がある」という状態ですので,そのあたりは安心していただければいいのかなと思っています。誰かが損してたり,不幸になってたりはしないです。

 ただ作品としても利益が出れば,その分を次の制作にぶちこんでしまうようなチームなのでクリエイター自身への還元という意味では,皆さんがイメージするほどじゃないのかなと。少なくとも僕個人の話でいうと,この作品をやって「潤った」と感じることは一切ないですね。

毛利氏:
 えっ! 本当ですか? 衝撃だな……。

山中氏:
 僕のモチベーションでいうと,利益より「面白いもの作るぜ!」という気持ち優先コンテンツですね。そういう意味では同人サークル的な気持ちかもしれません。僕は「MILGRAM」以外にもゲームやアニメの仕事もあるので,生きるぶんにはそっちでなんとかなりますし。

毛利氏:
 「ビバレン」の場合,1stオーディション期間とデビューグループ誕生してからでは大きく違っていて,初期のオーディション期間は大赤字が出ており火の車状態でしたね。

 その後,作品の拡がりと共にようやく数字は伴ってきましたが,山中さんがおっしゃったように,入ってきた分は次の挑戦に投資していく考え方を僕らも持っているので,会社に入るお金はそんなに多くないというか……。

 でも腐ってもサラリーマンですし作品を代表する立場だと,売上や利益という“数字”は非常に重要です。数字がすべてではないけれど,他者から見たときやっぱり評価の基準の1つにはなります。僕は作品を末永く続けていきたいからこそ,数字にはこだわりたいですし,常に悩んでいます。

村上氏:
 難しいところですよね。僕は,少しずつユーザーを増やして,いつか来る大きな展開のために最大化できればと思っています。

毛利氏:
 出口を決めるのって,本当に大切ですよね。終わりが明示されていないコンテンツはそこが難しくて……。それこそ,海外に根付くような活動をしていくとか,先ほども話に出た“強み”を磨いていくとか,そうやってチャレンジし続けていくべきかなと。

4Gamer:
 長い目で見ることも必要なんでしょうね。現状,皆さんの作品は,どのくらい先までの事業展開を考えていらっしゃるんですか?

毛利氏:
 事業計画的な話でいうと,1年半から2年くらいですね。「ビバレン」の場合,デビューという一旦の区切りはありますが,もちろん,デビュー後も活動は続いていきます。

村上氏:
 「フラメモ」は3〜4年といったところですが,やっぱり細かな部分は変わることもあるので,そのときのステータスに合わせていく形になると思います。

山中氏:
 「MILGRAM」は第三審で終わりなので,お二方と違って物語はすでにクライマックスに向かっているところです。その後の展開については,あまり考えていなくて,本編をきれいに閉じることに集中しています。


お互いに聞きたいことを質問!
赤裸々に語り合う,プロデューサーたち


ボイスドラマ(ストーリー)の見せ方の工夫
4Gamer:
 せっかくの機会ですので,お互いに聞いてみたいことがあれば,ぜひお願いします。

山中氏:
 では僕から……。YouTube原作の弱点だと思うんですが,ボイスドラマって,聴かれない人も多くないですか?

毛利氏:
 そうなんですよ。この物語をアニメでやれていたらな……と思うことはあります。YouTubeでボイスドラマを観たり聞いたりするのって,普段からYouTubeを楽しむユーザーにとってそもそもちょっとじれったいんですよね。でも作品として見せるべきだし,場所としてはYouTubeが最適だとも思っていて……そのジレンマは,めちゃくちゃあります。

山中氏:
 楽曲の再生回数に比べて,ボイスドラマはガクッと落ちますよね。物語を聴くという行為のハードルは想像以上に高い。それもあって,うちの場合,ボイスドラマはYouTubeに上げていないんですよ。「ドラマを聞いている人」と「聞いていない人」がいるということを前提にシステムを組みました。ドラマを聴かずに「赦す/赦さない」を判断するというにも自由。“そういう看守もいる”ということを作品の舞台装置として取り込んでいます。

毛利氏:
 なるほど,それは正しいかも。

山中氏:
 ただ,文学的には正しくても,商売的な話は別なんですよ。楽曲もドラマも同じプラットフォームにあったほうがいいはずなんです。僕は最近,YouTubeのショートアニメ(「ネガティヴハッピィ」)を作っているんですが,2〜3分の動画なら視聴回数も伸びていくんですよ。

 でも,「MILGRAM」でやっているような15分以上のドラマになると,ガクッと下がるはずなので,別の方法で物語を読んでもらう仕組みがないと心配ですよね。おそらく,ドラマを見なくてもいいように許容する「MILGRAM」の仕組みが,解のひとつだと思うんですが,すべてのコンテンツに使える手ではない。そのあたりって,どういう課題感をお持ちですか?

村上氏:
 YouTube原作の良さは,お客さんとの足並みを揃えやすいところだと思うんです。それこそ,さっき山中さんがおっしゃっていた“不可逆性”みたいなものですね。そこはすごくいいなと思うんですが……。これがもしアプリゲームのシナリオだったら,プレイする体験のなかにストーリーがあるので,ちゃんと“進んでいる感覚”があるんですよ。

 でも,YouTube原作だと新しく入ってきてくださった方の目線ではアーカイブを視聴するような感じもあり,意外と一緒のペースで歩めていないのかなという気もしています。毎週更新されるものをリアルタイムで一緒に見られるかというと,そこまで時間が取れない方も多いでしょうし,課題としては大きいですね。

4Gamer:
 長く運営しているアプリゲームでも,同じ課題がありますよね。ストーリーが増えれば増えるほど,追いつける人が減っていくという。

村上氏:
 ですよね。だからこそ,それなりに歴史がありながら,いまだに新規ユーザーが入ってくるようなコンテンツには,ヒントがあるんじゃないかと考えています。みんながみんなストーリーを読んでいるわけではないけれど,それでも好きになるきっかけがある。それはきっと,世界観やキャラクターの情報を,自分たちなりにキャッチできるものが散らばっているからなんだろうなと。

 「このキャラクターはこういう背景があって,こう成長して……」という情報が,ストーリーを全て読まなくても理解できるようなものがあると,参入しやすいのかもしれないですね。

山中氏:
 キャラクターを示す,食べやすい“何か”さえ受け取ってもらえればOKな状態にするっていう感じですかね。なるほど……。

村上氏:
 もう1つ感じるのは,今はコンテンツが増えすぎて,お客さんにとって一番の価値が“時間”になっているということです。これまでは「たくさんあるなかから好きなものを選べる」という感覚でしたが,増えすぎたことで選べなくなり,口コミで“ハズレじゃない”と分かるものや,より人気のあるものに人気が集まっているように感じます。

 だからこそ,僕は「クオリティが第一」の時代に戻ったとも感じています。瞬間的ではなく,しっかりと質の高いものを作って,お客さんが“好きになって人に勧めたくなる”ようなものを届ける。妥協せずに制作することが,自分たちがやるべきことなのではと思ってます。

毛利氏:
 僕も同じですね。うちはボイスドラマのことを,あえて「ドキュメンタリードラマ」と呼んでいますが,オーディションプロジェクトとしては彼らの想いを知る物語を知ってこそ,「投票したい」と感じてほしいんです。だから,たとえ再生回数が1になったとしても,続けていきたいと思っています。

 ドラマを見なければ理解してもらえないことも多いはずですし……もちろん,ショート動画など,手を変え品を変えて視聴されやすい表現に挑戦をしていくつもりではありますが,村上さんのおっしゃるように,「自分たちが面白いと思えるもの」を作る,ただそれだけだなと。数字が可視化されるのはYouTubeの残酷なところですが,その痛みも伴いながら続けていくしかないと感じています。

山中氏:
 そもそも,YouTubeのUI自体が“続き物の物語”を見るのに適していないという問題もありますよね。どこから見ればいいのか,分かりづらいという。だからこそ,さっき話した「ネガティヴハッピィ」は,どこから観ても楽しめる単発のシチュエーションコメディにしているんです。「MILGRAM」の経験を経て,現状の最適解はこれだなと理解しつつも,何かしら続きもののしっかりしたドラマを展開する方法は探していきたいですよね。

村上氏:
 キャラクターだけが好きとか,音楽は聴くけどドラマは観ていないという方も,立派なファンですよね。だから今は,消費されにくいくらい突き詰めた音楽や物語を作って,心を動かすことで「フラメモ」を“好きなように”楽しんでもらえたらと思っています。



「MILGRAM」の制作過程ってどうなってるの?
村上氏:
 では,僕から質問してもいいですか? 「MILGRAM」って,第一審で情報を出し,その結果を受けて第二審へ……という流れですよね。それってすべてのパターンを想定して準備しているのか,それともユーザーのリアクションを見ながらドライブしているのか,ずっと気になっていて。

山中氏:
 「赦す」「赦さない」のパターンの組み合わせ,樹形図的なものは始まる前から頭の中で作ってあります。ユーザーの反応は,どちらかというと“考察がどこまで進んでいるか”を確認しながら,ボイスドラマの会話内容に少しずつ反映させています。設定上も視聴者の声が囚人たちにはなんとなく聴こえているという形なので,双方向感が出てくれるといいなと。

 例えば,このキャラが赦されて,このキャラが赦されないとこうなるみたいな横軸の化学反応も最初に設計しています。ちょうど先日も,大きな展開があったところなんです。

 ただ,これを公開するにあたっては,正直「MILGRAM」自体が想定よりずっと大きくなってしまったことに,ビビっていました(笑)。頭のなかで最初に構想していたときは,元々の自分のファンの方というか,ハイコンテクストな遊びを楽しんでくれる人たち向けの企画のつもりだったんです。

 今回のように「キャラが◯◯しました」という展開があると,文脈を好む人なら「それはそうなるよね」「それって社会の縮図だよね」と作品が何を伝えようとしているのかを理解しようとしてくれるけど,もちろん「好きなキャラがどうにかなっちゃうのは嫌」というリアクションも当然ですよね。

 理屈がどうあれ,“快/不快”で物事を判断されるのは仕方のないこと。それは規模が大きくなればなるほどですし,キャラへの愛ゆえのことだと思います。だからこそ「このまま計画通りに出して大丈夫かな……」と。まぁ,やめませんでしたけど。

村上氏:
 なるほど,そこも“生きたコンテンツ”という感じがしますね。あと,「MILGRAM」ってMVも本当にすごいじゃないですか。あれはどのように話し合って作っているんですか?

山中氏:
 僕がコントロールしているのは情報の出し方だけです。キャラ設定と,「この審判ではどこまでの情報を出したいか」「勘のいい人ならこのあたりに気づくだろう」といった立体的な構成を伝えています。映像のテイストや構成などは指定せず,OTOIRO(DECO*27氏のチーム)には,クリエイターがいちばん力を発揮できる形で自由にやってもらっています。

村上氏:
 ということは,山中さんの想像を超えるものや,予想を裏切るようなMVが上がってくることもあるんですね。

山中氏:
 そうなんです,まさにそれです。クリエイター同士が互いにブレーキをかけないからこその爆発力があるんです。実は,第三審のとあるMVを観たとき,自分の生み出したキャラクターの人生をこう表現してくれるのか,と感動してちょっと泣いてしまいました(笑)。DECO*27とも,「ここをこうしよう」みたいに示し合わせることはなくて,お互いに完成形を出し合う関係なんですよ。僕自身,合議制でいいものが生まれるとは限らないと思っているところがあるのかもしれません。

毛利氏:
 これはもう真似できないですね……天才たちの遊びという感じです(笑)。



「ビバレン」のクリエイティブコントロールってどうしてる?
村上氏:
 では,「ビバレン」にも質問させてください。どの楽曲もハズレがなくて,アプローチがそれぞれ違うのに,すべておしゃれに仕上がっていて……。クリエイティブのコントロールがすごいなと,いつも感心しています。コンセプトやイラストなどの制作フローは,どのように設計されているんでしょうか?

毛利氏:
 ファーストシーズンでデビューした「XlamV(クランヴ)」については,先に楽曲を制作し,そのコンセプトをもとにイラストを制作するという流れになっています。オーディション期間中は,僕自身がかなり音楽プロデューサー視点で方向性を出していたのですが,デビュー後は彼らは“アーティスト”になったと捉えていて,僕が細かく方向性を示すのは違うなと感じたんです。

 そこで音楽専門のチームを立てて,楽曲制作や戦略に至る舵取りを委ねる形にしました。とても気合の入った経験値豊かなメンバーが揃っていて,毎回クオリティの高い楽曲を仕上げてくれるんですよね。

 また,MVなどの描き下ろしイラストはキャラクターデザインを担当してくださっている風李たゆさんが初期段階から関わってくださっていて,描く原画の構図力が本当に天才的なんです。風李さんの描いた原画を元にそこから社内を中心としたイラストチームで丁寧に仕上げていくというパターンが多く,安定して高いクオリティを出せているのかなと思います。


村上氏:
 なるほど……。では,ボイスドラマが今の形になるまでに,やはり試行錯誤はあったのでしょうか。

毛利氏:
 それすごく話したかったんです(笑)。先ほども出ましたが,ボイスドラマをどう再生してもらうかには,ずっと向き合い続けています。実は最初のオーディション時は,1話につき3〜4枚の場面写を描き下ろしていたんです。ノベルゲームのスチル的な見せ方を意識していたんですが,やはりコストがかかりすぎてしまって。

 そこで,キャラクターのアイコンを動かし情報量付加するスタイルに変えて,スチルは1話に1枚,最もお話的に見せたい場面だけに絞ることでスチルのクオリティも上げていきました。それと,YouTubeって意外と無音で見る人や音を聴き逃すケースが多いと思っていて。なので,左下にチャットのようにセリフを表示させて,視聴者の物語への理解を助けるようにしたんです。1つ前のセリフが見えると,「今,何て言った?」ってなったときにも分かりやすいですし。

村上氏:
 確かに! 前後のやり取りが見えると,視聴者にとっても親切ですよね。人にも勧めやすいと思います。

毛利氏:
 はい。何度も作っては壊し,変えては壊し……を繰り返して,ようやく今のスタイルに落ち着きました。

山中氏:
 本当に手厚いですよね。限界までお客さんの手触りを高めていくという精神が素晴らしいと思います。

毛利氏:
 あと,スチルに関しては,毎回担当される各話の脚本家さんに指定してもらってるんです。構図も含めてお願いするんですが,脚本家によってその指定の仕方も違っていて,それもまた面白いですね。

4Gamer:
 そうなると,かなり早い段階でシナリオを作る必要があるんですね。

毛利氏:
 もちろんです。収録もあるので,前倒しで準備はしていますが……とはいえ,そこまで長期スパンというわけでもなく,わりと短いスパンで動いている感じです。

村上氏:
 すみません,「ビバレン」についてもう1つだけ。2024年に行われたDJイベント「LISTENING PARTY」についてもお聞きしたくて。すごくいい企画だなと感じました。

毛利氏:
 あっ,それもご存じだったんですか!? うれしいです(笑)。「ビバレン」はスタートがちょうどコロナ禍だったので,キャストさんにご出演いただくリアルイベントがなかなか実現できなかったんです。1年ほど運営していくなかで,ファン同士が交流できる場がないことを課題に感じていて……。

 やはりコンテンツの成長には,お客さんの団結力やつながりの強さが必要だと思い,皆さんが集まれる機会をライブなどの大規模な興行とは棲み分け,別で作りたいと考えました。ただ,キャストさん主体のイベントになるとスケジュールを押さえるのは簡単ではないので,僕らが持ち得る資産でもある音楽を主体にしたイベントを定期的に開催できないかと考え,たどり着いたのがDJイベントだったんです。

 ご来場くださる方に楽しんでいただけるよう,リミックスバージョンの楽曲を初披露したり,グッズの販売を行ったりと,いろいろ工夫を凝らしました。爆音で音楽が鳴り響くなか,ペンライトや光り物を振りながらファンが音楽に浸り,盛り上がっている光景を見たとき,「やって良かった」と素直に感じましたね。

 実は「ビバレン」って,コーレス(コール&レスポンス)を想定した楽曲があまりなかったんですが,イベントではお客さんがとある曲に対して完璧なコーレスをしていて。「どこで練習してきたの!?」って思うくらいで(笑)。それもうれしかったですね。

村上氏:
 なるほど! 実は僕たちも,先日サンリオピューロランドで開催したイベントで,フラメモ楽曲のサビ部分をつないだDJメドレーを実施しました。サンリオキャラクターがDJを務めてくれたのですが,会場の皆さんがすごく楽しんでくださって。「ビバレン」は,こういった楽しみ方をいち早く形にされていた点が本当にすごいなと。先見の明があるなと感じました。



3DCGライブがもたらす可能性と,これからの課題
山中氏:
 「フラメモ」や「ビバレン」では,すでに3DCGライブを実施されていますよね。キャストさんが実際に衣装を着て歌うのも素晴らしいのですが,本質的には“キャラクター自身がステージに立ってパフォーマンスする”ことがひとつの理想形だと思うんです。3DCGライブは事前収録が可能という点に加えて,ほかにも多くのメリットがありますよね。実際に開催してみて,いかがでしたか?

毛利氏:
 「ビバレン」は,アイドルのオーディションからデビューまでを描くコンテンツなので,デビュー後の展開としては,やっぱり“3DCGライブ”が一番ふさわしいゴールだと感じました。ファンにとっても,ずっと応援してきた“推し”に向かって,実際にペンライトを振れる瞬間って,絶対に必要な体験だと思うんです。

 ……とはいえ,実際にやってみると,やはりめちゃくちゃコストがかかりました(笑)。初めての取り組みも多く難易度は高かったですが,それでも得られたものは大きかったです。とくに印象的だったのは,ライブ後に新曲を発表した際,ファンの皆さんが「この曲をライブでどうパフォーマンスするのか楽しみ」と感じてくれたこと。ライブをやるまでには存在しなかった“体験への期待”が生まれ,コンテンツの可能性が広がった実感がありました。

 ただ今後は,単にライブを開催するだけではなく,自分たちらしい魅せ方――“このコンテンツならではのライブ”をどう形にしていくかが課題だと感じています。

村上氏:
 僕も3DCGライブをやってみて,本当に良かったと思っています。やはりボイスドラマだけでは,キャラクターの“解像度”や“立体感”を感じにくい部分がありますが,3DCGライブでは“その場にキャラがいる”という実在感をしっかりと伝えることができます。

 「フラメモ」はファンタジーな世界観を持つ作品でありつつも,ボイスドラマの特性上ファンタジーらしさを表現できる場面が少なかったんです。だからこそライブでは,例えばキャラが舞台袖から登場して退場するのではなく,“パーティクル(粒子)とともに現れ,パーティクルとともに去る”といった演出を用いました。自分たちの世界観をきちんと反映できたことがうれしかったですね。

 もちろん毛利さんもおっしゃっていたように,ビジネス的な難度は高いです。でも,いったんモデルを作ってしまえば,その後は繰り返し活用していけますし,継続的に公演を行えばコスト面も相対的に抑えられ解決していけるはず。これからも続けていきたいと考えています。

山中氏:
 なるほど。キャスト全員を揃えてツアーを行うのとは,また違ったハードルがありますよね。でも,3DCGライブなら会場と機材とデータさえ揃えば,地方公演も現実的になりますし。キャラクターが“自分の街に来てくれた”という実感をユーザーが得られるって,本当に大きな価値ですよね。

4Gamer:
 公演時間をあらかじめ設定できるのも大きなメリットですよね。よっぽどのトラブルがない限り,時間通りに進行できますし。

村上氏:
 アニメだと,楽曲中やセリフ中のカット割りって決まったものになりますよね。でも3DCGライブでは,「この場面で別のキャラはどんなリアクションをしているんだろう」といった楽しみ方ができるんです。

山中氏:
 そうそう。舞台と同じように,観るたびに違った発見があって,作り甲斐がありますよね。

毛利氏:
 その“視線の自由さ”は,僕たちが一番こだわったポイントでもあります。ステージにいる7人のうち誰か1人が話しているときに,ほかの子がどんな表情をしているか……ファンの皆さんはすごく注目してくれているんです。だからこそ,しっかり作り込みました。

 ただ,数年前ならいざ知らず,今や3DCGライブ自体は“当たり前”の存在になりつつあります。贅沢な環境ではありますが,それだけに,さらに突き詰めた独自の表現を追求していく必要があると感じています。

村上氏:
 それは僕もすごく感じています。ユーザーの皆さまが求めているのは必ずしも“リアルさ”だけじゃないと考えています。例えば,技術者目線ではテンションが上がるような精巧で派手な動きでも,ユーザーからすると「そういうところは求めていない」と感じられることもあると思います。そうした“温度差”をちゃんと見落とさないようにしながら進めていきたいです。


YouTube原作ならではの“あるある”
プロデューサー同士だからこそ共感できるトークも!


山中氏:
 ところで,さっき「公開していいですよ」って連絡が来たんですが,「MILGRAM」の数字的なところを話すと,これまで投票数が約274万票。累計アクセス数が2000万くらいだそうです。

毛利氏:
 やばい。桁が違う……!

山中氏:
 僕も数字見て,すごいなぁって感じです。「MILGRAM」はYouTube原作ものとしては比較的後発ななかでも成功していると言われています。でも,この数字のすごさって,ジャンルを隔てると伝わらないんですよね。漫画なら何万部とか,ゲームならランキング1位とか,分かりやすいじゃないですか。

 ところが,“YouTube原作”というこの対談の便宜上使っている呼称の野暮ったさも含めたジャンルの未成熟さゆえに,どれだけすごいことをしてもアニメやゲーム好きに届きにくいんです。韓国のWeb漫画が「ウェブトゥーン」と名乗ったように,誰かがジャンル名を付けないと,この問題は解決しないんじゃないかなと思ってます。

毛利氏:
 確かに,「YouTube原作」っていう呼び方はイケてないですよね。

山中氏:
 YouTube原作のなかにもいろいろあって,「MILGRAM」や「ビバレン」,「フラメモ」でそれぞれジャンルが違うかもしれませんが……。このあたりに悩んだ人たちが一度名付けたのが「メディアミックスプロジェクト」なんですけど。

村上氏:
 ですね。とはいえ,お客さんには伝わりにくい言葉なんですよね。「『メディアミックス』って結局なに?」みたいな。皆さんがどれを見ればいいのか分かりにくいので,ズバッと一言で表現できたほうがいいんじゃないかとは思います。

山中氏:
 うちは「視聴者参加型音楽プロジェクト」と言ってはいますが,それがジャンル名かというとちょっと違いますしね。YouTube原作のジャンル名を提唱するのは,やっぱり僕らのような個人クリエイターではなく,企業の方々にぜひ(笑)。

毛利氏:
 いやいやいや! 僕は誰かが作ってくれたら乗っかります。

村上氏:
 うちも後発なのでちょっと……(笑)。ここは4Gamerさんが名付けてくれたら良いのでは?

山中氏:
 確かに,こういうのってメディアが名付けることも多いですしね。

4Gamer:
 全員が「どうぞどうぞ」状態になってるじゃないですか(笑)。でも,4Gamerもゲームメディアとはいえ,こうしたコンテンツも取り扱っていますし,ジャンル名は欲しいところですね。……すごく興味深い話の途中ですが,そろそろお時間のようです。

毛利氏:
 あっという間ですね。山中さんとはお仕事上でご一緒させてもらってオンラインでお話したことがありましたが,実際にお会いしてみると,少しイメージが変わりました。

山中氏:
 脚本家としてお仕事いただくときは我を出さないですからね。自分のプロデュース作品だと好き放題しているというだけで……。

毛利氏:
 もちろん良い意味ですよ! いろいろお話してみて,めちゃくちゃ優秀な方だなと思いました。脚本だけを担当されている場合でも,作品のことをきちんと咀嚼している印象があって,それがすごく伝わってきました。

山中氏:
 僕の強みは,脚本家でありつつプロデューサーでもあるところだと思っています。作品が何をやりたいのかをプロデュース目線で理解しながら脚本が書ける,それがほかの方の作品に脚本家として参加するときには生きてくるんだと思っています。

 でも,さっきのジャンル名の話にも通じますが,「何をやってる人ですか?」と聞かれたときに,自分の肩書きをどう名乗るか,いまだに悩むところはあります。今は「ゲームクリエイター/脚本家」と言っていますが……「プロデューサー」って名乗ると,ちょっと現場感がなくなる気がしませんか? 実際,ダルマに目だけ入れて何もしてない人もいるし(笑)。

毛利氏:
 それは確かに。会社によっても,プロデューサーの定義って若干違いますしね。

山中氏:
 一般的には,プロデューサーって予算を決めたりスケジュールを組んだりする人のイメージがありますよね。エンタメ業界だと,いわゆる“コンセプター”に近い役割の方も多いですが。

毛利氏:
 コンセプトを作る能力は,絶対に必要ですよね。僕も本当は,5つも10個も並行してコンテンツをやりたいくらいなんですが,1つの作品に深く入り込むタイプなので,頑張っても2,3作品が限界です。

村上氏:
 僕もそうですね。「あれも見たい」「これも見たい」と思ってしまう,ちょっとわがままなところがあるのかもしれません(笑)。

山中氏:
 でも結局,脚本とプロデュースの両方を握っていないと,自分が理想とする作り方や見せ方はできないんですよね。「MILGRAM」も,もしほかにプロデューサーがいたら,たぶん今の形ではできていないと思います。自分の理想の物語を描くためには,脚本も書いて,プロデュースもして,なんなら音響監督までやって……ということが必要なんじゃないかと。

毛利氏:
 僕も,ずっと音響監督をやってました。立ち上げのときは,脚本や音楽にもガッツリ関わってましたし。当時は「なんで自分が本職じゃないことまでやってるんだろう」と思ったこともありましたが,今日のお話を聞いていて,それも自然な流れだったんだなと納得しています。

4Gamer:
 では最後に,皆さんの担当作品でやってみたいことがあればお聞きしたいです。

村上氏:
 まだ夢の段階ではありますが,「フラメモ」では生オーケストラの演奏で朗読劇をやってみたいですね。お客さんをしっかり満足させられるくらいの熱量と企画力がないとできないので,いつかは……という感じですが。

毛利氏:
 めちゃくちゃいいですね! 「ビバレン」は,さっきも話したような3DCGライブの表現をもっと突き詰めていきたいです。現在はダンスの表現に力を入れていて,楽曲もダンスが映える曲を多く作っています。3DCGのダンス表現は正直限界もあるのですが,難しいからこそ,そこに価値を作れるんじゃないかなと。ちょうど5月末に行うセカンドライブでもいろいろ挑戦をしているので,引き続き頑張っていきたいです。

山中氏:
 「MILGRAM」はクライマックスに向かっていて,今までは1つ終わるとまた次の制作に……と注いでいたリソースから少しずつ解放されているところです。ありがたいことに,「MILGRAM」で「こういうことをやってみませんか?」とお声がけいただいても,今は本編でいっぱいで手が出せませんみたいな状態だったんです。そのあたりも徐々にできるようになってくるのかな。個人的には舞台とか,マーダーミステリーとか,相性いいのかなと思ってます。

毛利氏:
 ストーリーが終わってもコンテンツは続くということですよね。ファンはめちゃくちゃうれしいと思います。

山中氏:
 はい。今ならやれますよ! というタイミングが来ると思うので,これを見ている人のなかでそういった企画をお持ちの方は,ぜひ手を挙げていただけたらうれしいです。

4Gamer:
 それでは,読者に向けてメッセージをお願いします。

村上氏:
 「フラメモ」はいま展開しているボイスドラマが佳境でして,秋から新章がスタートします。物語としては最初のピークを迎えているところなので,ぜひ今からでも観ていただけたらと。

 また,5月23日からは2.5次元舞台(「ミュージカル『フラガリアメモリーズ』〜純真の結い目〜」)も上演されます。プロジェクト全体が盛り上がっているタイミングなので,見やすいところや興味を持った部分から入っていただけるとうれしいです。

毛利氏:
 こうしたプロジェクトは本当にいろいろな人が関わって作っていて,そういう努力を見せたいということではないのですが,「こんなことがあった」「こう思っていた」と伝えることで,少しでも共感してもらえたらと思い,このインタビューに参加させていただきました。

 これを読んでくださった方には,僕らの想いを受け取っていただき,「ビバレン」からしか得られない“栄養素”のようなものを,今後も届けられるよう頑張っていければと思います。

山中氏:
 僕がこのインタビューを企画したのは,「新しいジャンルで頑張っている人がいるぞ」ということを,「MILGRAM」に注目してくれている情報感度の高い方々に伝えたかったからです。

 まだジャンルとして名前がない分,僕たちの作品以外にも,すごく面白いものが次々と生まれている場所でもあります。「MILGRAM」が頑張っていることが,そうした盛り上がりに貢献できたり,皆さんが面白いものを見つける手助けになったらうれしいなと思っています。

4Gamer:
 本日はありがとうございました!

――2025年4月8日収録

「MILGRAM」公式サイト

「VS AMBIVALENZ」公式サイト

「フラガリアメモリーズ」公式サイト

  • 関連タイトル:

    MILGRAM(メディアミックスプロジェクト)

  • 関連タイトル:

    フラガリアメモリーズ(メディアミックスプロジェクト)

  • 関連タイトル:

    VS AMBIVALENZ(メディアミックスプロジェクト)

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