
インタビュー
「Ghost of Yōtei」クリエイターインタビュー。時代劇と西部劇の文脈で描かれる北の大地での復讐劇,日本の文化と北海道の美しさへの思いを聞いた
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13世紀末の対馬(対馬島)の元寇をモチーフとした“ゴーストオブ”第1弾「Ghost of Tsushima」からがらりと時代と場所を変え,その物語の舞台は関ヶ原の戦いから3年後の蝦夷地(今の北海道)へ。篤という流浪人が家族の仇「羊蹄六人衆」を追う復讐劇が描かれる。
詳しくは先行プレイレビューを読んでほしいが,記録のない時代だからこそ自由にそして大胆に,日本の歴史や文化に向き合った趣きある物語と,時代劇×西部劇風の娯楽作品としての雰囲気が共に息づく独特の作品となっていた。
そんな本作について,発売前にSucker Punch Productionsのクリエイティブディレクター・Jason Connell氏にオンラインでインタビューをする機会を得た。
日本を舞台に物語を描くこと,北海道という舞台,インスピレーションを得たという時代劇と西部劇について聞いたので,本稿でそれをお届けしよう。
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「Ghost of Yōtei」公式サイト
「Ghost of Yōtei」で力強く描かれるのは,北の荒野の復讐譚――シンプルかつ痛快な剣劇と静かな趣が共に息づく時代劇アクション

詳細な記録がない時代の蝦夷地だからこそ描かれた,剣豪ものと西部劇が重なり合う大胆な世界観。純粋な娯楽作品でありながら,余韻や趣が心に残る,Sucker Punchが贈るゴーストオブ第2弾「Ghost of Yōtei」の魅力を伝えたい。
4Gamer:
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「Ghost of Yōtei」の先行プレイの機会をいただきまして,日本の剣豪ものと西部劇が融合したような独特の世界観にすっかり引き込まれ,メインストーリーのクリアまでプレイしました。
Jason Connell氏:
メインストーリーの最後までですか。ありがとうございます。それは嬉しいです。
4Gamer:
私は時代劇や西部劇が好きなのですが,本作から“イタリア製ウエスタン的な時代劇”の雰囲気を感じました。黒澤映画を下敷きにしながらも,セルジオ・レオーネやコルブッチ,さらに三池崇史やクエンティン・タランティーノという,影響しあう時代劇や西部劇の文脈のようなものですね。
「Ghost of Tsushima」では海外的な「サムライ&ニンジャ映画」の要素を強く感じましたが,本作ではどのような考えで物語や作品世界を作ったのでしょう。
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Jason Connell氏:
私たちはサムライの時代劇もウエスタン映画も好きで,影響を受けてきています。
おっしゃるとおり日本の時代劇と西部劇は,50年,60年,70年と互いにインスピレーションを与え合ってきたものですよね。アメリカの映画監督ジョン・フォードの西部劇があって,そのジョンフォードの影響を受けた黒澤 明の時代劇作品があり,それに感銘を受けたセルジオ・レオーネが西部劇の名作を作り上げたように。
それは私たちゲーム制作者にもつながっている部分はあると思います。
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「Ghost of Tsushima」から「Ghost of Yōtei」へと進むとき,李相日監督の「許されざる者」※を観たんですが,それが私の視野をすごく広げてくれました。
北海道は広大で,美しくて,壮大です。この土地のトーンや雰囲気を探求し,新たなゴーストオブの物語を描きたいと。
当時の蝦夷地はまだ詳細な記録もなく,この地で暮らす人も少なかった。いろいろとアイデアを出して1600年という時代を設定しましたが,そんな想像の余地のある蝦夷地にプレイヤーを連れていくことはとても面白いと思ったんです。
※1992年に公開されたクリント・イーストウッド監督・主演による同名の西部劇映画を,明治時代初期の蝦夷地を舞台とした日本の時代劇としてリメイクした日本映画。2013年9月に公開された
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4Gamer:
それは記録が少ない「空白の地」だからこそ,自由な物語作りに適していたからでしょうか?
北海道を舞台とした作品だと,最近だと「ゴールデンカムイ」やそれこそ「許されざる者」のような明治期以降の話が多いですが,時代を限定せずさまざまな時代をリサーチして取り入れているのでしょうか。
Jason Connell氏:
イメージとしては「世界や物語にできるだけ日本的なものの本質を持ち込むこと」を大事にしながら,そのうえで蝦夷地という「広大で果てしない場所にいるような感覚」を加えるという考えです。
「Ghost of Tsushima」のとき,対馬の歴史や地理について詳しく知らなかったという人は多かったと思います。
北海道は世界的にも観光地として有名で,映画や小説の舞台になることも少なくありませんが,歴史的な背景をモチーフにした大作やゲームはまだあまりありません。
だから,このアイデアを実現することは,私たちにとってすごくワクワクするものでした。
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時代劇と西部劇の要素の話もですね。先ほどセルジオ・レオーネの名前もあがりましたが,物語だけではなく美術や音楽などにもそういう味わいは入れています。私たちは,そういう“ちょっとしたミックス”が好きなんです(笑)。
それでも,中心にあるのは「Ghost of Tsushima」から変わらず,日本という土地と文化に敬意を示し,祝うような部分ですね。その中に小さな彩りとして,そのほかの映画の表現や音楽といった作品の文化を入れているようなイメージです。
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4Gamer:
映画的な表現というと,冒頭で篤が泥だらけで苦境に陥る場面が印象的でした。
それはフランコ・ネロ演じる“ジャンゴ”のようで,「レオーネじゃなくてコルブッチだったか」という。
Jason Connell氏:
ああ,なるほど(笑)。嬉しいですね。私もそのシーンは大好きなんです。
あのシーン全体がそれこそ「許されざる者」のような時代劇や西部劇と,北海道という日本の北の果ての雰囲気のようなものの影響が色濃く出ている場面かもしれません。
4Gamer:
タイトル名にもなっていて,作品の象徴としても登場する羊蹄山についても聞かせてください。
日本にはいろいろな土地に渡った人が地元の山を富士山に見立てて呼ぶ郷土富士というものがあります。
蝦夷富士と呼ばれる羊蹄山はその一つとして有名な山で,大げさな話になりますが作品全体が世界に向けたエンターテイメントの中における郷土富士なものもあるのかなと感じました。
どういう思いで羊蹄山(ヨウテイ)を作品の象徴にしたのでしょう。
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Jason Connell氏:
興味深い質問ですね。実は私たちは,羊蹄山に「蝦夷富士」という呼び方があることを知らなかったんです。
それこそ(正式発表のあった)1年くらい前にちゃんと知りましたが,そう呼ばれることついては,ゲーム開発のリサーチで北海道を回ったときにおのずと感じていたものだったかなとも思います。
資料収集の旅で北海道の各地を回りましたが,洞爺湖から羊蹄山を見たときの感動は忘れません。「これはすごい」と,大きなインスピレーションを受けました。
火山活動によってできた洞爺カルデラから見える羊蹄山の形は独特で,周りに山がないから余計に大きく,高く,壮大な印象だったんですね。
そして,それでいて孤独で,ひとりで立っている――それが物語の主人公である篤のイメージにすごく重なったんです。
彼女は人生の中で大切な人をすべて失って,孤独の中でその物語が始まります。でも同時にとても強い存在で,多くのものを背負っている。洞爺湖から見上げた羊蹄山はその象徴になるだろうと,私はこのつながりをとても気に入りました。チームとしても同じだったと思います。
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4Gamer:
羊蹄山が象徴であることは,富士山のイメージを重ねられるというところでの意図はなかったと。
Jason Connell氏:
ええ。富士山を意識して「そうしよう」としたわけじゃないんです。
富士山は日本全体のシンボルですけど,北海道で暮らす人にとって,羊蹄山もまた特別な存在であると。そしてそれは,私たちのように別の土地からやってきた人間にも強い印象を残してくれました。
あとから調べて知りましたが,羊蹄山は成層火山という富士山と同じカテゴリの山でもあって,それで似ているというのもあるんですね。
残念ながら私は本物の富士山をまだ見たことがないのですが,ただこう話していると,無意識のうちになにかつながりがあったのかもしれないと思えます。
4Gamer:
発売前のネタバレを避ける意味でも言及が難しいのですが,篤の家族や斎藤のルーツに,富士山に近い地域があることを感じさせます。
歴史好きだと,なおさらさきほどの羊蹄山と富士山とを結びつけて思いを巡らせたくなるのですが,そこにもとくに強い意図あったわけではないと。
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Jason Connell氏:
そうですね。先ほどもお話ししたとおり,私たちはさまざまな作品や文献,文化などいろいろな影響を受けています。
その関係でそう見える部分があるのかもしれませんが,その部分に関してはとくに意図的なつながりはなかったと私自身は思っています。
でも,もしかしたらどこかで誰かが「実はちょっとそういうつながりを考えていた」と言うかもしれないので,むしろその質問は私も開発メンバーやリードライターにしてみたいと思うくらいです(笑)。
だからこそ今こうして指摘されてみると,「もしかしたら潜在的にはそういうつながりがあったのかも」とも思えて,すごく面白いですね。
4Gamer:
篤が追う羊蹄六人衆のボス・斉藤のデザインに込められた意図について教えてください。
赤備えの鎧に虎の刺繍の陣羽織からは彼のルーツをイメージしたものを感じられます。そして六人衆の動物モチーフは,どんな考えがあってのことなのだろうと。
Jason Connell氏:
キャラクターもさまざまなものからの影響が出るところではありますが,斎藤と羊蹄六人衆は完全にオリジナルで考えたキャラクターたちであり,直接参考にしている人物はいません。
動物のモチーフについてですが,私たちはインスピレーションを常に自然の中から探しており,世界中の人たちがイメージできるような形で羊蹄六人衆それぞれの設定につなげました。
例えば「蛇」は,その性格から蛇を思わせるような設定をしており,ゲーム内で出会った瞬間からそう感じられるように意図しています。
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4Gamer:
戦闘とアクションについてですが,刀,二刀流,大太刀,槍,鎖鎌,種子島といろいろな武器種があり,時代的にも宮本武蔵やその物語に出てくる武芸者たちのようなラインナップにも感じました。
今回のアクション設計は,武士よりも「武芸者」的な印象がありましたが,どのような考えで作られたのでしょう。
Jason Connell氏:
多様な武器は篤が羊蹄六人衆に立ち向かうための力を引き上げるためのもので,真に迫るデザインやアニメーションにしつつ,戦闘ではそれぞれの特長を感じられるようになっています。
いろいろな武器を試していただきたくて,ゲームデザインも戦闘中に武器を切り替えながら戦うようなものになっていますが,人によっては1種類の武器を磨き続けるというのも楽しいと思います。
宮本武蔵がそうであったように,篤は勝つためには型にはまらない方法も使います。その中には,我々が気に入っている二刀も含まれます。宮本武蔵がお好きであれば,サイドストーリーの「天下無双の武蔵」はぜひチャレンジしてほしいですね。
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4Gamer:
篤の主人公像はどのように決まったのでしょうか? 見た目の話だと,三味線を持つ姿からはマリアッチのギターやバスカーが楽器を抱えて歩くようなイメージが浮かびました。
Jason Connell氏:
答えはふたつあります。
ひとつは,私たちは「アンダードッグの物語」を描くのがすごく好きだということです。「Ghost of Tsushima」の仁も,ある意味ではアンダードッグでした。そして篤も,間違いなくあの世界ではアンダードッグなんです。
周りの人々は,彼女がそんなに強く戦えるとは思っていないし,彼女を過小評価している。だからこそ,彼女の人生の中にあるトラウマが,その復讐の物語を突き動かすことになる。それがとてもよく噛み合っていて,私たちはそこが気に入ったんです。
もうひとつはゴースト――「怨霊」の物語です。民間伝承に出てくる怨霊というものがすごく刺激的で,彼女のキャラクターを作るときの一部になりました。
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三味線を背負わせるというイメージについてですが,まず弦楽器というのが,この作品で目指しているトーンや雰囲気に合っているように思えたんです。
これはさっき少しお話ししたこととも関係しますけど,私たちは音楽をキャラクター表現のひとつとして使っているんです。
前作では仁が尺八を持っていました。彼はそれをゲームの中で携えていて,少しだけ使うことができましたよね。そこには機能や目的がありました。今回のゲームでも,違う楽器を持たせることで,仁とは異なる雰囲気を出しつつ,この世界観に合ったものを選びたいと考えました。
そこで,彼女の母親が生前に三味線を教えていた,という設定を作ったんです。そうすれば,母とのつながりを感じられるし,プレイヤーもそのキャラクターにより強く感情移入できる。母はもういないけれど,その存在と関係性を築くことができる。三味線は,そのための機能にもなっているんです。
ゲームプレイ的にも,曲を覚えたり,環境にちょっとした楽しい変化を与えたりできます。でも,根本的にはこのように,作品の世界や篤のいう人物を描くものとして生まれたものですね。
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4Gamer:
さっきもちらっとそのシーンの話をしましたが,一度死んだと思った篤が立ち上がるシーンが印象的でした。あれはどういう考えで作られた場面なんでしょう。
Jason Connell氏:
実際にプレイしてみていただきたいので,ネタバレになるようなところは避けたいのですが,ゴーストオブという作品の導入としての型のような部分です。
境井 仁には,浜辺で死を迎える瞬間がありますよね。そして彼は目を覚まして戻ってくる。自分の中で戻ってくる力を見つけて。そしてやるべきことをやる。今回も同じなんです。
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一度死に,ほとんど永遠のように感じる瞬間があって,そののちもう一度チャンスが与えられる。やるべきことをやるための,もう一度のチャンスですね。
人によってはそれは大きな瞬間になって,精神的な意味を持つかもしれない。ある人にとっては文字通りでそこで終わるかもしれない――私たちはそこを限定していませんが,ゴーストオブというゲームにおいてはそれが物語の始まりであり,ゴーストとなった主人公の伝説が生まれる瞬間なんです。
だから私にとって,このゲームのオープニングで一番大事な瞬間かもしれないと考えています。
4Gamer:
本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました。最後に日本のゲームファンにメッセージをお願いします。
Jason Connell氏:
ゲームのテーマや舞台というのもあって,日本のプレイヤーの皆さんには本当に気にかけていただけていて嬉しいです。私たちも皆さんの気持ちや届けられる意見を大事にしています。
そんな日本の皆さんには,私たちが作り上げた作品世界を旅していただきたいですし,美しく描かれたロマンのある蝦夷地の風景を見てほしい。そして篤の復讐の旅――彼女が北の大地を旅していくその物語にワクワクしていただけるたらと願っています。
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「Ghost of Yōtei」公式サイト
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- プレイ人数:1人
- 戦国時代
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- 企画記事
- ライター:高橋祐介
- 編集部:Junpoco

(C)2024 Sony Interactive Entertainment LLC. Developed by Sucker Punch Productions. Ghost of Yotei is a trademark of Sony Interactive Entertainment LLC.

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