
インタビュー
「星砂島物語(Starsand Island)」インタビュー。外にあるものを求めるのではなく,自分の中にあるものを見つめてほしい[TGS2025]
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長いあいだ都会で過ごしていた主人公が,故郷「星砂島」に戻り,島の住民や島そのものと忘れられない時間を過ごす姿を描く本作は,KickStarterのクラウドファンディングで目標額の3倍以上となる31万1566ドル(約4600万円)もの資金を集めて話題となった。
スローライフシムや農業シムなどと呼ばれるジャンルは近年人気が高まっていて,新作も続々と発表されているが,そんな中でもひときわ高い評価を受けている本作について,プロデューサーのRichardo Wang氏にインタビューしたので,その模様をお届けしよう。
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心安らぐ島で暮らすスローライフシム「星砂島物語」,2026年2月1日に発売。デモ版を10月8日にリリース。クローズドアルファテストも予定

Seed Labは,「星砂島物語」(原題:Starsand Island)を2026年2月1日に発売すると発表した。発売へ向けて,10月8日に本作のデモ版がリリースされるほか,クローズドアルファテストが実施される予定だ。詳細は近日告知される。
4Gamer:
東京ゲームショウの最中でお忙しい中,お時間をいただきありがとうございます。「星砂島物語」のお話に入る前に,Seed Labの設立経緯や,どんな企業なのかを教えていただけますか。
Richardo Wang氏(以下,Wang氏):
Seed Labは,KINGSOFTとSeasun Gamesの投資で設立された企業ですが,開発やパブリッシングについては独立していて,完全に私たちが動かしています。「星砂島物語」の前には,双極性障害をテーマにした「Biphase」(外部リンク)というタイトルを2021年にリリースしました。
「Biphase」も「星砂島物語」も,人々が生活する中での不安を解消するための作品となっていて,そういったタイトルをより多くの人に届けたいと思っています。
4Gamer:
2つのタイトルは一見するとまるで雰囲気が異なりますが,共通の理念のようなものがあるんですね。東京ゲームショウのブースでは,たくさんの人が「星砂島物語」を試遊していると思いますが,反応を見ていかがですか。
Wang氏:
とても多くのフィードバックをいただきました。主にビジュアル面やNPCとのインタラクティブ,DIYシステムが好評で,NPCとの感情的な接触を作れるポイントをもう少し増やしてほしいという要望もいただきました。そういったものをゲームの中に反映していくつもりです。多くのプレイヤーから認めていただいてすごく嬉しいですし,開発チームも自信がつきました。
4Gamer:
SNSなどでも話題ですし,クラウドファンディングでも目標額の3倍を達成されたということで,かなり高い評価を受けていると思いますが,Wangさんご本人としてはどのあたりが本作の魅力として評価されていると感じますか。
Wang氏:
主に3つあると思っていて,1つめは癒しのビジュアルです。自分も含めて,開発チームには1990年代生まれが多く,上海美術映画製作所※とジブリの作品に大きな影響を受けていて,「星砂島物語」でも,そういったクリアな癒しのコミック表現を使っています。
※1957年に設立された中国のアニメ制作会社で,その前身の会社には日本のアニメ監督である持永只仁氏が関わった。1960年代に公開された「大暴れ孫悟空」で知られるほか,2023年配信開始のウェブアニメ「中国奇譚」は中国で大ヒットし,2025年に日本でも公開されている
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4Gamer:
風景が美しいですし,日本のプレイヤーも受け入れやすいテイストのグラフィックスだと感じます。
Wang氏:
もう1つは自由にNPCとの関係を深められるところです。今までのゲームのような,プレイヤーが一方的にNPCを攻略していくのではなく,NPCのほうからもアプローチしてくるようになっていて,そのストーリーには,中国の哲学的な要素も含めた,深い意味を持たせています。
4Gamer:
哲学的な要素がちょっと気になりますが,先に3つめを教えていただけますか。
Wang氏:
3つめは自由に選べて,しかも関連性がある職業システムです。本作にはさまざま職業が用意されていて,1つに専念しても,複数をこなしてもいいのですが,たとえば牧畜で飼育する動物は,雑草を食べてくれて農業にも役立つといったように,ほかの職業の分野ともつながりがあります。
4Gamer:
実際の職業も,その範囲が完全に独立しているわけではありませんしね。
Wang氏:
「星砂島物語」は,プレイヤーに見えているものすべてを自身で制作できるように開発を進めています。これも中国における自給自足の歴史を反映させたものですが,もちろん中国に限らず,例えば日本や北欧のスタイルをゲーム内で表現することも可能です。
4Gamer:
私も試遊しましたが,本当に自由度が高くて,思い思いの暮らしができそうです。さきほど話に出た,哲学的な要素について,詳しく教えてもらえますか。
Wang氏:
現在の社会は欧米の影響を大きく受けていて,消費主義が盛んです。多くの人が,「いい仕事についてもっと稼ぎたい」「いい部屋に住んでいい車に乗りたい」といったように,今の自分にないものを満たすために,外へ外へと多くを求めながら生きています。
それと対照的なのが,中国の道教※です。これは,今の自分を楽しめば,自然と物事が解決し,いい体験につながるというものなんです。
※儒教,仏教と並び,中国の三大宗教(三教)に数えられる教えで,老子の思想を基礎としている。中国のみならず世界中で親しまれている太極拳にも,道教の教えが取り入れられている
4Gamer:
「星砂島物語」の主人公が,都会での仕事を辞めて,生まれ故郷に帰ってきたという設定も,そのあたりからなんですね。
Wang氏:
ゲームでの具体的な話になると,「星砂島物語」では,農業に専念しているだけでも,その収穫物が自分たちの食材になったり,牧畜での飼料になったりします。釣りの餌も畑から手に入ります。そういったように,外へ外へと求めなくても,自分の中にあるものだけですべてが解決していくような世界が,本作のコアコンセプトとなっています。そして,人生におけるすべての選択に意味があるということを,プレイヤーのみなさんに伝えたいと思っています。
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4Gamer:
そういう教えの上にゲームがあると。自分の生き方を問われているような気になってきます。
Wang氏:
もう1つ,物事の本来の姿に注目してほしいとも思っています。これも道教なのですが,1つの物事を続ける中で,「成功」もしくは「成長」のどちらかを手に入れられます。
「星砂島物語」では,例えばスイカやカボチャを育てていると,たまにものすごく大きなものが収穫できます。そういったものは,服装や家具の素材になって,思わぬところで生活が豊かになります。これが「成功」です。
一方で,作物を育てていると,害虫が発生したり雑草が作物の養分を奪ったりといった事態に遭遇します。そういったように,物事には明と暗の両面があるんですが,プレイヤーが自身でトラブルを解決して手に入るのが「成長」です。
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4Gamer:
成功して成長するのではなく,トラブルを乗り越えて成長するというのは,まさに実際の人生と同じかもしれません。
Wang氏:
ただ不満を漏らしているだけでは何も進みませんから,プレイヤーはメンタルを保って,解決策を探さなくてはなりません。ときには運良く成功的に解決できることもありますし,失敗の中から経験を得て次に向かう,ということもあります。そのどちらも,私たちがプレイヤーのみなさんに届けたい生き方になります。
4Gamer:
確かにそのどちらもあるのが人生ですね。
幸運にも大きな作物が収穫できたら,単に収穫量が増えるのではなくて,農業とは別のところで役立つというのは,なんだか意図しないことばかりで妙にリアルというか。
Wang氏:
中国の古い言葉に「無心插柳柳成蔭」というものがあります。「なんとなく柳の苗を植えたら,涼しくて心地よい日陰ができた」という意味です。そんな風に,自分では気付いていないかもしれないけれど,すべての物事に意味と使い道がある,という中国の伝統的な考えもゲームに反映させています。
4Gamer:
さきほどのお話に出た,一方通行ではない好感度システムについて聞かせてください。ライフシムや恋愛シムといったゲームの多くでは,主人公が恋愛対象の居場所を探しては積極的に話しかけたり,プレゼントを贈ったりする必要があって,個人的には1人で“空回り”しているような気分を覚えることもあるのですが,Wangさんもそのように感じていたのでしょうか。
Wang氏:
そうですね。ゲーム世界は現実社会に似せて,プレイヤーに没入感を提供する必要がありますが,主人公が一方的に話しかけたり,プレゼントしたりしないと関係が深められないのは,リアルではないと思います。
本作が影響を受けている「どうぶつの森」をプレイしているとき,広場でほかの動物からあいさつされたり,自分の家の郵便受けにほかの動物からのプレゼントが届いたりすると,すごく「愛されている」という感情を覚えます。自分たちも,そういった先人の知恵を取り入れたいと思いました。
4Gamer:
極端な話になるかもしれませんが,ほとんど会話を交わしていないようなNPCが,主人公の行動を見ているうちに好意を持って,ある日突然「好きです」と言ってくるようなこともあるのでしょうか。
Wang氏:
そういった直接的な愛情表現は,欧米的なものですので,「星砂島物語」にはちょっとそぐわないと思っています。本日お話ししてきたように,本作のベースとなっているのは,アジア的な思想や慣習,価値観ですし,開発チームにいるメンバーもアジアの人たちが多いので,恋愛についても,少しずつ感情の度合いを深めていくアジア的なものがふさわしいと思います。ゲームの中では,出会って,知って,そして最終的に愛が生まれるという,大きく分けて3つの段階を踏んでいくことになります。
4Gamer:
統一された世界観を作るにあたっては,そういったところまで気を配っているんですね。
Wang氏:
例えば,主人公が都会に出る前からの知り合いは,こちらの姿を見れば話しかけてきますし,NPCが住んでいる家の近くでちょっと目立つようなことをしていると,そこから接点が生まれるかもしれません。そういった最初のトリガーはありつつも,その後は自然な進み方が一番いいのではないかと思っています。
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4Gamer:
確かに,いきなり告白されるよりも,それくらいの距離感のほうがリアルですね。
ところで,ここ数年,「星砂島物語」以外にも,農業シムやスローライフシムなど呼ばれるジャンルで話題作が続いていて,今年だけで見ても,「Dinkum」がヒットし,「パルファーム」が発表されるなどしています。もちろんそれぞれに舞台設定やゲーム性などの違いはありますが,なぜ農業シムやスローライフシムが求められているのか,思い当たることがあれば教えてください。
Wang氏:
社会が転換期に来ているからではないか,と思うことがあります。さきほども話しましたが,現在の社会では,お金で手に入るもの,外付けのものによって成功を定義する,欧米的な価値観が浸透しています。ただ,経済は減速傾向にありますし,そういった欧米的な価値観,消費主義に対して疲れを感じた人が,自分の精神世界や伝統的な生き方に目を向け始めているのではないかと思います。
4Gamer:
SNSのキラキラ投稿に疲れた,みたいな話はそういうことなんでしょうね。
Wang氏:
また道教の話になるのですが,「天地人」という思想があります。人々は天,つまり日の出から農作業を始めて,日が沈むころに終える。農作業は地から生まれる食材となって,人々の生活に十分なものを提供する。その3つの調和を表すものです。
実際のところ,人が生きるために必要なものは,それほど多くはないと思います。食べれば生きられますし。なのに,欧米的な価値観には,「求めても得られない」という苦しさがつきまといます。そこから抜け出して,自分の中にあるものを見つめ,自給自足の生活を送るスタイルが再評価されているのではないかと思います。
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4Gamer:
「都会の生活に疲れて田舎でスローライフ」というのはよく聞く話ですが,“西洋と東洋の価値観”“自分の外と中”という視点は興味深いです。
Wang氏:
補足しますと,「天地人」の天は父を表していて,物事を動かすルールを定める存在です。「日が昇れば仕事をする」といのもそのルールの1つです。地は母,慈愛を表し,私たちを無条件に受け入れてくれます。なので,私たちは地上で家を建て,川からの水を使って農作業をし,そこから得た農作物を食べて生活できます。天と地の子供である人が社会を作り,天災が訪れたら団結して立ち向かいなさい,という教えでもあります。
4Gamer:
そのあたりもゲームに反映されているのでしょうか。
Wang氏:
はい。ゲームの中の設定として,深夜の2時になったら必ず寝ないといけない,というものがあります。自分自身の経験ですが,しばらく徹夜仕事が続いて疲れが抜けず,大変だったときに,「ルールを尊重していないから罰を与えられたんじゃないか」などと思いました。
プレイヤーの中には子どもたちもたくさんいるので,自然のルールを尊重してもらいたいと思っています。
4Gamer:
ゲームの話とは思えないほどの深い内容になってきた感がありますが,Wangさんが目指す世界には,ほかにもさまざまな考え方が反映されていそうですね。
Wang氏:
「星砂島物語」では,人と自然と動物の協調関係についても模索したいと思っています。消費主義社会においては,人々の物欲を満たすために大量のゴミが発生し,自然が破壊されていますが,人の物欲のために自然を破壊する必要があるのでしょうか。動物との関係においても,動物のことをリソースではなく,命として考えてほしいと思っています。
多くの人が自分を主体として,自然や動物を自分たちの所有物のように捉えているかもしれませんが,動物や自然にとっては,彼らこそが主体のはずです。どうすれば人と自然と動物が協調してこの世界で生きられるのか,プレイヤーのみなさんも考えてほしいです。
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4Gamer:
ここまでのお話をうかがって,ブレがないというか,Wangさんの強い思いの上に,本作の世界が作られていることが分かりました。まだまだ聞きたいことがあるのですが,お時間のようですので,最後の質問にさせてください。2026年2月1日のリリースが決定しましたが,残り約4か月で「星砂島物語」をどのように仕上げるか,意気込みをお願いします。
Wang氏:
一番大事なのはゲームプレイですので,まずはバグが出ないように,ポリシングと最適化を頑張ります。また,またNPCのストーリーにもより豊富に,プレイヤーの心を動かす物語を追加したいですし,DIYにおいても各国風情を感じる要素を増やす方向で動いています。中国でも日本でも,田舎に足を延ばして,そのアイデアを得るための取材をしましたので,それを生かして,各国のプレイヤーにとっての「大地の母の慈愛」をお見せし,癒しを感じるようなものにしたいと思っています。
4Gamer:
ありがとうございました。
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