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印刷2025/08/08 17:30

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ゲームに狂気を取り込む開発体制の重要性を説く,「VRゲームの未来 売れ筋作品のカリギュラ性と開発者の狂気」レポート[CEDEC 2025]

 「CEDEC 2025」では,VRゲームに関する講演も行われている。その一つが2025年7月22日に行われた「VRゲームの未来 売れ筋作品のカリギュラ性と開発者の狂気」だ。

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 この講演では,売れているVRゲームに共通するという「カリギュラ(狂気)性」をキーワードに,こうした発想を生み出す組織づくりの大切さが語られた。では,ここでいうカリギュラ性とは,果たして何なのだろうか。MyDearestアートチーム エフェクトデザイナーの池田博幸氏が持論を語った。

MyDearestアートチーム エフェクトデザイナーの池田博幸氏
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自由度と狂気を取り込むゲーム開発と,発想を排斥しない組織作り


 2016年の「VR元年」から9年経った現在,VRゲームには「VR酔い」「機器の装着」「コンテンツ不足」「映像では魅力が伝わらない」といった課題があるという池田氏の指摘から,講演はスタートした。
 現在アメリカに住む10代の少年少女の30%以上がVRヘッドセットを所有しているとする調査結果があり,VRゲームでヒットを狙うには,こうした層に訴求することが重要だという。そのうえで,古典的な目標達成型より,プレイヤーが遊び方を創り出せる自由度の高いものが望ましいとした。

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 現在ベストセラーとなっている「I am Cat」「I Am Security」「NightClub Simulator VR」は,それぞれ“プレイヤーが猫になって自由に過ごす”,あるいは“クラブのセキュリティとして来場客にボディチェックする”,また“ナイトクラブに遊びに行く”という内容になっている。

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 これらのVRゲームが売れ続ける理由として,自由度の高さやインタラクティブ性の高さなどが思いつくが,池田氏は「カリギュラ行為(過激な行為)」ができることが人気の秘密だと指摘する。
「カリギュラ」とは,“禁止されることにより,かえって惹きつけられる”という心理現象をさす言葉だ。池田氏は,このカリギュラ――つまり“禁忌的で現実で行えないからこそ,ゲームで実行したくなる”行為こそが,カリギュラ行為だと定義した。

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 前述した3作品はいずれもアートスタイルが可愛らしく,一見するとカリギュラ行為とは無縁に見えるが,だからこそクリーンなイメージとのギャップが大きく,思わず人に伝えたくなるからこそ,人気が拡大したという。
 カリギュラ行為について,ゲームの中では禁止も推奨も明示されていないものの,しかし誘導は行われており,プレイヤーはいつしか禁忌を犯す面白さに気付くのだそうだ。

 なお,ここでいうカリギュラ行為は,イコール残虐行為ではない。
 いわばルールを越える快楽であり,あらゆるゲームにカリギュラ行為が存在していると池田氏は指摘する。例えば「テトリス」のようなパズルゲームは,物理や時間の法則を無視してオブジェクトを操作する。対戦ゲームでは敵を打ち倒し,RPGでは他人の家に無断で押し入ってアイテムを盗み出す……といったように。これらはどれもカリギュラ行為なのだとか。

 そこにはゲームだからこその「ルールを超える快楽」「安全地帯のカタルシス」があり,そうのうえカリギュラ行為を現実で犯してはならないことを改めて知る「禁忌の再確認」が存在するという。ゆえにフィクションの中で禁忌から解放されるカリギュラ行為は,ジャンルを問わず“ゲームの柱”なのだそうだ。

池田氏曰く,「安全地帯のカタルシス」とは,漫画「賭博黙示録カイジ」に登場する利根川が他人に危険な真似をさせ,自分は安全地帯から見物するときの喜びのようなものだという
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 一方で,ゲームにカリギュラ行為を組み込むには,開発者が安心して発想できる体制が必要だ。ゲームの中での暴力行為や禁忌をどう制御するか,開発者に想像力を発揮してもらうこと,そして発想されたカリギュラ行為を排斥しない少数精鋭の体制が重要になるという。

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 こうした発想のもとで作られたのが,池田氏も携わる「MAD SURGEON -Goblin Hospital-」だ。外科医となって被験者たちを魔改造していくという内容だが,被験者を自ら改造を志願しているゴブリンに設定し,血しぶきもリアルになり過ぎない表現にするなどでレーティングへの配慮を行っている。
 このように,カリギュラ行為をゲームに取り入れるうえでは「最初から縮こまらない」ことが大事であり,発想の自由度は開発に携わる人数に反比例すると池田氏は語っていた。

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 氏は今後のVRゲームについて,AIとの融合,コントローラを使わない新たなインタラクション,視覚と聴覚をパーソナライズすることでVR酔いが克服されるといった進化が起こると予想する。
 VRゲームの進歩は留まることはない。そのうえで池田氏は,開発者に対し「1回はタブーを超えよう」と呼びかける。新しい魅力は,狂気と倫理の境界線で生まれるが,開発者自身が禁忌の箱を開けた自覚を持っていなければ,戻ってこられなくなってしまう。倫理を理解しつつ,挑戦を恐れない心が必要だと講演を締めくくった。

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 講演のお題こそVRゲームではあるが,本講演のキモはゲームで遊ぶことの楽しさや,面白さとは何かという本質に迫るものと感じられた。とくに開発者の発想を排斥しない,心理的安全性を保った開発体制の構築は,カリギュラ行為の追求に限らず重要であり,多くの開発現場で参考にできる内容といえるのではないだろうか。

CEDEC 公式サイト

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