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「ELDEN RING」「DEATH STRANDING」の映画化はなぜ期待できるのか? 新時代の映画づくりの旗手・スタジオA24について語ろう
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となれば,先日(2025年5月23日)映画化が発表されたばかりの「ELDEN RING」や,先月の4月8日にマイケル・サルノスキ氏の監督起用が明かされた「DEATH STRANDING」の映画化にも身構えてしまうかと思うが,ちょっと待ってほしい。これらの制作を手がけるのは,映画ファンにはもはやおなじみの映画配給/制作スタジオ・A24(エー・トゥエンティーフォー)だからだ。
本稿では同スタジオが映画界でどんなポジションなのか,A24がこれらのゲームを映画化すると「どう期待できるのか」を,映画好きのゲーマーとして話したいと思う。
「ELDEN RING」の映画制作が決定。A24が脚本/監督にアレックス・ガーランド氏を迎えプロジェクトを始動

バンダイナムコと,映画製作配給会社A24は本日,アクションRPG「ELDEN RING」の映画化プロジェクトが始動したと発表した。映画化にあたり,脚本/監督にアレックス・ガーランド氏を迎え,プロデューサーは原作の世界観を構築したジョージ・R・R・マーティン氏や,ピーター・ライス氏らが担当する。
映画「DEATH STRANDING」,監督・脚本に「PIG/ピッグ」「クワイエット・プレイス:DAY 1」などで知られるマイケル・サルノスキ氏を起用

コジマプロダクションのオープンワールドアクションADV「DEATH STRANDING」を原作とする実写映画の監督・脚本を,ホラー映画「PIG/ピッグ」「クワイエット・プレイス:DAY 1」などで知られるマイケル・サルノスキ氏が担当すると,アメリカのDeadlineが報じた。
A24は2012年に設立された新興のスタジオながら,世界的な人気と海外の主要映画賞の常連になるほどの評価を獲得した,映画ファンにとって見逃せない存在となっている。
日本でも「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(Everything Everywhere All at Once 2022) ,「ミッドサマー」(Midsommar, 2019),マーベルじゃないほうのシビル・ウォー「シビル・ウォー アメリカ最後の日」(Civil War, 2024)などが映画ファンの枠を超えて話題となった。
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設立の経緯などを深く掘り下げるとそれなりの文字数になるのでそれは別の機会にするとして,ここではA24を語るうえで重要なポイントである4つを話したい。
1つめは,3人の創業者は映画界でキャリアを積んできたプロデューサーたちで,確かな審美眼を持ち,大手会社の映画づくりにフラストレーションを抱えていたこと。2つめが,その彼らが若手監督に大きな自由を与えることで,そのクリエイティビティを存分に発揮させたことが挙げられる。映画に芸術的な深みを追求するのはもちろん,しっかりと観客を楽しませてきたことも大きい。
3つめは,最大のポイントであろう既存の人気ジャンルの「アタリマエ」を見直して,整理・拡張した「新たなアタリマエ」を確立してきたこと。
A24は,ホラーや青春映画,ヒューマンドラマといった既存のジャンルのアタリマエを見直し,尊重しながら繊細に,ときに鋭くアップデートしてきた。ジャンルの枠を守り……いやときに逸脱していたような気もするが,これまでの「力強い」文法を生かしつつ,新たな視点や面白いお話の構造,それらを反映した映像を持ち込んできた。
そうして生まれた“新しい何か”が受け手に「これからのニュースタンダード」と評価され,それまでそのジャンルに馴染みがなかった人までも引き込んできた。
ゲームで例えるなら「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」がそれまでのゼルダやオープンワールドゲームを見直したようなものだろうか。ゲームファンにもなじみのありそうな映画でいうなら,「ダークナイト」(2008)や「シン・ゴジラ」(2016)などが行った,ジャンルやシリーズ作品を捉え直す試みに近いかもしれない。
作家性にしっかり向き合いながら,観客が楽しめる作品を世に送り出す。A24は,そうした誠実な映画づくりを続けてきたスタジオだ。その姿勢が多くの映画ファンからの支持を集めているが,作品自体は決して万人受けするものではなく,評判を聞いて手を出してみたものの,「思っていたのと違う」と感じることも少なくないかもしれない。
それでも,ジャンルの枠組みを見直し再定義することで,従来のファンを深く満足させると同時に新たなファン層を獲得してきたことは確かだ。こうした傾向を見るに,たとえA24の作品に馴染みがなくても,一度チャレンジしてみる価値は十分にあるだろう。
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4つめは,A24が起用する監督たちはゲームネイティヴな世代も多く,作品からはゲーマーにとっても何か“分かる”と思えるモノが自然に出ていると感じられるのも,今回あらためて紹介した理由だ。
アリ・アスター監督が「ミッドサマー」で描く北欧の謎めいた“因習村”や心理ドラマは,日本のアドベンチャーファンにとっても大好物だろう。ガウェイン卿が緑の騎士と対峙するデヴィッド・ロウリー監督作品「グリーン・ナイト」は,みんな大好きファンタジーRPG魂(ソウル)といった風情。6月6日に日本公開を迎えるタイ・ウェスト監督の「マキシーン」(MaXXXine, 2024)は,ゲームのモチーフにもなりがちな,若い世代にはある種“異世界”のように新鮮に映るであろう1980年代が舞台のクライムドラマだ(といっても80年代もすでにお馴染みのテーマになってきた感はあるが)。年季の入ったゲーマーであれば「グランド・セフト・オート・バイスシティ」を思い出すよね? という雰囲気もある。
そして彼らよりは少し上の世代になるが,アレックス・ガーランド監督の「シビル・ウォー アメリカ最後の日」は,ドラマ性のあるサバイバル系シューターのノリもある。そんなA24は,あらゆる種類の,そして新たな形のホラー作品を世に送り出していることも,ホラー・ミステリー好きのゲーマーに伝えておきたい。
映画「異端者の家」は,ゲーマーに刺さる“密室脱出×サイコロジカルホラー”な一作だ。対話と選択がキーとなるA24の注目作をゲーマー視点で紹介

A24製作の映画「異端者の家」は,密室での対話と選択を軸に,極限の心理戦が展開されるサイコロジカルホラー作品だ。ホラーゲームや脱出ゲーム,人狼といった推理系の駆け引きが好きなゲーマーなら感性をくすぐられるであろう体験が待っている。そんな本作をゲーマー視点で楽しめるポイントを中心に紹介しよう。
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もしそうした作品のテイストが好みでなかったとしても,バリー・ジェンキンス監督の「ムーンライト」(Moonlight, 2016),グレタ・ガーウィグ監督の「レディ・バード」(Lady Bird, 2017)といった人間ドラマを観ると,大きな感銘を受けるのではないかと思う。
そんなA24の真骨頂は,気鋭の才能を,適切な題材と結びつけるところにこそあると思う。
映画「ELDEN RING」の監督・脚本を「シビル・ウォー」「エクスマキナ」を手がけたアレックス・ガーランドが担当するのはちょっと意外性があって楽しみだし,映画「DEATH STRANDING」の監督・脚本が「PIG/ピッグ」「クワイエット・プレイス DAY 1」のマイケル・サルノスキというのは,ゲームの深遠なテーマを,静けさの中に情感をたたえた映像で表現してくれそうだ。
だいぶ簡単に説明したが,A24は単に流行を追うのではなく,監督の作家性を尊重し,ジャンルの「アタリマエ」を再定義したスタジオだ。そしてインディペンデントな精神をもちながら賞レースでも存在感を放つその作品は,実際に大手の映画賞で多くの作品が受賞およびノミネートされている。
映画好きのゲーマーとしては,「ELDEN RING」「DEATH STRANDING」の映画を期待して待ちつつ,A24が作り出す作品群にも注目して観てほしいと思う。「A24」というスタジオ名は,今後ゲーマーもさまざまな場面で目にする機会が増えていくかもしれないからだ。
なお日本ではパートナーシップを結んでいるハピネットファントム・スタジオが国内配給を担当し,公式サイト(リンク)とXアカウントを(@A24HPS)を運営しているので,作品の情報はこちらもチェックするといいだろう。
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「マキシーン MaXXXine」公式サイト
「A24」日本公式サイト
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