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「龍が如く」シリーズはなぜ,ハイペースでタイトルをリリースし続けられるのか?[CEDEC+KYUSHU 2025]
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本稿では「『龍が如く』シリーズ20周年 超ハイペースでタイトルをリリースし続けるエンジニアチームの秘密」と題されたセッションをレポートする。セッションには,龍が如くスタジオの技術責任者を務める伊東 豊氏と,同スタジオにてドラゴンエンジンの開発リーダーを務める厚 孝氏が登壇した。
冒頭では,伊東氏が「龍が如く」シリーズとそれを生み出す龍が如くスタジオを紹介し,どれほどハイペースでシリーズ作品をリリースしているのかを年度別で振り返った。
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年度別にタイトルを紹介していく中で伊東氏は,2011年発売の「バイナリードメイン」が龍が如くスタジオとしての最初の作品であり,力を入れて開発を行ったタイトルだったと語る。
しかし,思った通りの結果が出ず,シリーズ展開などには至らなかったと振り返り,「最新技術を使って一生懸命作っても,受け入れられなければ続かないということを,より強く感じた」と述べていた。
続けて伊東氏は,龍が如くスタジオの内製であるドラゴンエンジンが2016年の「龍が如く6 命の詩。」から使用されていること,以降のタイトルはドラゴンエンジンを利用していることを紹介した。
また,2019年の「龍が如く7 光と闇の行方」のゲームシステムがアクションゲームからコマンドRPGとなっていることにも言及した。ユーザーにコマンドRPGが受け入れられたことで,それ以降のナンバリングタイトルはRPG,スピンオフや外伝などのタイトルはアクションゲームとして交互にリリースしていった。
そして,2023年11月9日に発売された「龍が如く7外伝 名を消した男」と,2024年1月26日に発売された「龍が如く8」は,どちらも新タイトルでありながら,ひとつのチームで開発を行っていたことが明かされた。
発売時期が約2か月しか間が空いていないこともあって,「他社の人に話しても信じてもらえなかった」と伊東氏は話していた。
さらに,内製のタイトル数としては2025年が過去最高となっており,ハードなスケジュールで開発を行っていたという。こうしたリリースペースの結果,20年間で龍が如くシリーズのみで40本以上(リマスターを含む)。内製だけでも約30本という驚きの数になったわけだ。
では,どうしたらこんなことができるのだろうか。
本題に入るにあたり伊東氏は「ここからの話は王道ではなく邪道のような,ちょっと常識はずれで心配されるような内容のものもあるため,あえて今まで外部で話をしてこなかった」と前置きする。
しかし,20年間リリースをし続けた,一定の成功は収めたのではないかという思いもあり,今回その秘密を明かすことにしたそうだ。
それは“常識にとらわれない効率化”と“エンジニアに最適化した組織運営”だという。
簡単に言うと,効率化によって業務のスピードを上げて,それを組織運営によって維持・継続・成長させるといったもの。単純な内容に聞こえるが,伊東氏によるとその中身がちょっと特殊だそうだ。
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まず,“常識にとらわれない効率化”について。これは以下の6項目に分けられ,伊東氏がそれらを順に紹介していった。
1.ルールを決めない
2.先のことは後で考える
3.属人化を悪としない
4.プログラマーをディレクターに
5.並行開発はマスト
6.自家製エンジンを使う
1.ルールを決めない
伊東氏によると龍が如くスタジオは,アーケードゲーム中心の開発部門と家庭用ゲーム中心の開発部門が統合されて生まれた事業部だそう。
開発環境や開発方法などもアーケードゲームと家庭用ゲームとで異なる部分が多く,特にプログラマーは育ってきた環境がまったく違うため,使用OSや使用言語,使用ツールなどが違う中,それでも一緒に開発を行うにはどうしたらいいのかと悩んだようだ。
悩んだ末,エンジニアにとっては自分が慣れた環境で作業するほうが作業効率が上がるはずと考え,“多様化を受け入れてみる”という結論に行き着いたという。「細かいルールは決めない」「コーディング規約は撤廃」「他人に迷惑をかけなければOK」という会社によっては驚きとも言える方針を示したのだそう。
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その結果,細かく煩わしいコーディング規約がなくなったことで日々のストレスがなく,誰かが実践していて良いと感じられたもの(より良い効率化や使いやすいツール,環境など)は自然と周囲に広がっていった。実際20年間,大きな問題も発生していないそうで,成功が証明されている。
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2.先のことは後で考える
ここでは「龍が如く」の初期システム設計を例に話が進められた。「龍が如く」の基本的な流れは,街を歩いていろいろな人と会話をし,敵が絡んできたら戦闘を行い,その道程でイベントシーンが入るといったものだ。
しかし,同じシステム上でこれらすべてを動作させることは相当大変で,すべてを網羅したシステムを設計すると何年かかるかわからない。そのため,それぞれをバラバラに作ってつなげることにしたという。
その結果,見た目がほとんど同じように見える景色も,アドベンチャーパートとバトルパートではまったく別のデータに読み替えており,極端に言ってしまえば別のゲームを作っているようなものだった。そうして無理やりつないで作られていったのが初代「龍が如く」だったという。
これは非効率なのでは? と思う人もいるかもしれないが,「そもそも効率とは,かけたコストに対しての成果であり,すべて汎用的なシステムを開発するコストと,バラバラに作ってそれをつなげるコストを考えたときに,どちらが効率が良いかという話です」と伊東氏は述べていた。
続けて伊東氏は,ゲーム開発は未来が不明確な仕事で,仕様や方針が変わることは日常茶飯事,プラットフォームや開発環境が変わることもあると語る。
そうなれば時間をかけて設計したシステムが使われることがなくなるかもしれないし,ゲームが世に出なければ,売れなければそもそも次はないと伊東氏は続ける。
そうした思いから龍が如くスタジオではとにかく手を動かして,目の前の作品を完成させることが優先されたのである。
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3.属人化を悪としない
多くの場合,属人化は良くないと言われがちだが,現在の開発環境において,技術や知識に関しては担当者がいなくなったとしても大抵のことはどうにかなると伊東氏は話す。
一方で,経験や感覚といった面はマニュアル化や引き継ぎがしにくく,これらは属人化せざるを得ないため,龍が如くスタジオでは思い切って属人化を許す方針にした。その結果,新規タイトルでも最初から効率よく作業が進むようになり,この人に相談すればいいという安心感も生まれ,属人化を許してきた成果があったことを述べた。
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4.プログラマーをディレクターに
ここではリマスタータイトルの増加を例に進められた。リマスター版は新ハードへの対応やグラフィックスのアップデート,それらを含めた作業コストの見積もりなど,技術的な判断が求められるケースが多いという。
そこで龍が如くスタジオでは,リマスター元のプロジェクトに関わっていたプログラマーにディレクターを担当させるという形をとってきた。その結果,早くて正確な判断もでき,効率化の面では大きな成果を残している。「これに関しては本当にオススメです」と伊東氏は語っていた。
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5.並行開発はマスト
龍が如くスタジオのエンジニアはワンチームで複数のタイトルを同時に開発しており,それによる並行開発がなければ,ここ10年のタイトルはあのペースでのリリースはできていなかったと伊東氏は話す。
そもそも並行開発のきっかけは開発規模の肥大化と開発期間の長期化にある。加えてプラットフォームのアップデートによる開発環境の仕切り直しが発生すると更に厳しく,年1本のリリースが難しくなっていたことが大きな要因だったのだという。
並行開発を実施する前は外部の会社を使う,内部のチームを2チームに分けて開発するといった形を試してみたようだが,どちらもクオリティ面などの問題からうまくはいかなかったという。
伊東氏は悩んだ末,なんとプログラマー総掛かりで同時に2つのプロジェクトを進めるという驚きの決断を下した。
もちろん周囲からは心配の声もあったが,「絶対やります」と断言したそうで,失敗していたら今ここにいなかったかもしれないと話していた。具体的には「龍が如く0 誓いの場所」「龍が如く極」「龍が如く6 命の詩。」は並行開発を行っており,それ以降,龍が如くスタジオでは並行開発がスタンダードになったとのこと。
並行開発によるメリットや効率化についてはスライドの通り。中でも情報共有のしやすさや人員移動が必要ない点は大きなメリットで,そこから時間の有効活用による効率化も実現できる。
現在ではエンジニアだけでなく,プランナーやデザイナーなどの並行開発も増えており,ノウハウの蓄積によって確固たる成果が残せていると伊東氏は述べた。
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6.自家製エンジンを使う
ここで龍が如くスタジオの自家製エンジンであるドラゴンエンジンを厚氏が紹介した。
ドラゴンエンジンは2016年から使用されている龍が如くスタジオの内製ゲームエンジンで,現在ではさまざまなプラットフォームに対応している。龍が如くシリーズ10周年を迎えることを期に,それまでバラバラだったシステムをまとめて,今後10年戦える下地を作ろうと開発されたものだという。
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ドラゴンエンジンの特徴としては,まず複数のワーカースレッドで個々に登録されたジョブを並列で実行する仕組みを持ち,非常に柔軟性の高い“スケーラブルなマルチスレッドジョブ実行フレームワーク”が挙げられる。
これに関わる特徴としては,ロジックのみではなく描画コマンド生成も全て同じワーカースレッド上で分割して動いているため,同じフレーム内でこのワーカースレッドが並列して描画コマンドを生成している仕組みが挙げられた。
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次に挙げられたのは“開発初期から運用される自動化サイクル”だ。こちらの詳細についてはスライド内のURLから該当記事を読んでもらうほうが良いとのことだが,ポイントとしては開発の初期から本サイクルを回せることにあると厚氏は話す。
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ゲーム開発中は,随時新しく作られた仕組みなどが入ってくるため,それらがしっかりと動いているのか,問題がないのかといったことをこの自動サイクルで検出することができる。本サイクルの仕組みとしてはアサートが多めに入っていると考えていいそうだ。
続いては“コンテンツ製作を支えるツール群”ということで,内製されたレベルエディタやシーケンサーツール,エフェクトエディタなどが紹介された。こちらは個々のツールについての詳細は割愛されたが,いずれもジョブフレームワークで動かすように最適化されている点がメリットとなっている。
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最後は“開発速度の秘密”として,デザイナーやアーティストが作ったデータやプログラマーが作るソースコードの互換性が挙げられた。
厚氏によるとデザイナーやアーティストが作ったデータはドラゴンエンジンになる前からデータを蓄積しており,極端に言うとPS3時代のデータも互換性があるという。ここは大きな資産にもなっているとのこと。
また,ソースコードについてはプラットフォームや世代を超えても同じソースコードを利用しやすくなっている。
コンパイルエラーやソフトウェアのバージョンアップによって起きうるエラーなどに対しては,標準ライブラリやSTLを使わず,自分たちのコントロール下に置いているドラゴンエンジンが持つ内製ライブラリやテンプレートライブラリを使う。これにより多くのエラーを未然に防げ,結果的に作業の効率化を図ることができるそう。
こういった点は内製であることによる大きなメリットとなっており,“高い互換性と継続性”を実現している。
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ほかにも厚氏は,開発時に一番よく使われるビルド構成はローカルPCのみでもフルビルドが5分強で終わる軽量なビルド環境を特徴として挙げていた。
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最終的に決められた容量に収められているのかといった観点から見る,実用的なリソース管理方法も紹介された。
厚氏によると,龍が如くスタジオでは,デザイナーが作るモデルやテクスチャといったリソースをカテゴリという単位で管理しており,このカテゴリはデータ作成者と概ね一致している。これによって問題の検出と責任の所在が明確化できるとしている。
また,ヒープメモリは処理ごとにカテゴリ分けをしているが,アロケータは内製しており,特徴的なデバッグ支援機能として解放済みメモリの情報履歴を持っているほか,メモリがふんだんにある環境に限られるが,遅延解放チェックなども簡単にできるようになっている。
以上のようなことから,開発速度の秘密という点においては,ドラゴンエンジン側に特別な仕組みがあるわけではなく,細かいことの積み重ねにより,環境に慣れた熟練のスタッフの力が大きいということだった。
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ここからは,本題に対して挙げられたもうひとつの回答“エンジニアに最適化した組織運営”について再び伊東氏が紹介を行った。
伊東氏は,龍が如くスタジオ(事業部)には,職種別に7つの部門(プランナー1部・2部,デザイナー1部・2部・3部,プログラマー部=エンジニアチーム,企画戦略部)が存在していることを紹介した。
部門が分けられていることで,エンジニアが自由に動ける環境になっており,エンジニアに特化した組織が作りやすくなっていると伊東氏は話す。具体的な取り組みの例として挙げられたのは,「深夜勤務,休日出勤の禁止」「有志による技術研究チームの設立」「エンジニアチームの全員出社」である。
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深夜勤務,休日出勤の禁止については,健康面のケアとして大きなポイントではあるが,エンジニアだけに限った話ではないかもしれない。ただ,AIやネットワーク,ゲームエンジンなどに分けられた有志による技術研究チームによるミーティングや発表会は,それぞれの情報共有や研究開発の促進,モチベーションの上昇やチームワーク向上などに大きく役立っているようだ。
全員出社に関しては,コロナ禍を抜けた際に全員にアンケートを行った結果,出社したほうが効率が良いという意見が多かったという。また,若手社員からは出社することで不明点や疑問点をすぐに聞けるため,仕事がしやすいという意見が圧倒的に多かったという。
そんな龍が如くスタジオのエンジニアチームは,入社後1年間は研修期間とし,その間に企画立案からプログラミングを行いゲームを完成させ,作品の発表も行うという。
伊東氏は,龍が如くスタジオはスキルよりも将来性に重きを置いており,研修期間で学びながら仕事の楽しさを感じてもらうことが大きく,ゲーム制作経験の有無は問わず,中途採用,業界未経験でも先述した将来性を見て積極的に採用すると述べた。
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なお,採用後のエンジニアチームの評価方法については,エンジニアひとりひとりの目指す場所や個々の目標を把握しながら評価を行うことで働きやすい環境を作っていけるとし,それが結果的にチーム全体のパフォーマンスの最大化につながると話した。
最後に伊東氏は,本セッションの内容に関して「だいぶ常識外れなことを言っていることもあったかもしれませんが,こういう形で成功している組織もあるのだと思ってもらえれば」と話し,「自分たちのチームに合った方法を見つけることが素敵な未来につながると思います」とセッションを締めくくった。
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伊東氏の言葉のように一般的ではない部分も見られたが,組織のあり方は千差万別。こういった組織の在り方もあるというひとつの参考例として,取り入れられる部分は取り入れ,自組織ならではの在り方も大事にしながら,面白いゲームを面白く開発できる環境が増えることを願いたい。
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