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JP UNIVERSEのゲームUGCプラットフォーム「竜宮国」が標榜する新しいクリエイターエコノミーとは。ピクシブ,ニコニコとのコラボ企画も発表[TGS2025]
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このイベントには,ピクシブ 執行役員 CPOの清水智雄氏,ドワンゴ ニコニコ事業本部 本部長/ 社長コミュニケーション推進室 室長の渡邉隆輔氏,JP UNIVERSE ジェネラルマネージャー 兼 「竜宮国」プロデューサーの門田瑛里氏が登壇。トーク形式で各社のクリエイターエコノミーに関する取り組みを披露するとともに,JP UNIVERSEが2026年夏にリリースを予定しているRPG型ゲームUGC(User Generated Content,ユーザー生成コンテンツ)プラットフォーム「竜宮国」の概要が紹介された。
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またイベントの終盤には,JP UNIVERSE 代表取締役の田畑 端氏が登壇し,「竜宮国」を中心に同社の取り組みを紹介した。
クリエイターエコノミーの現在地
今回登壇した3名が所属する各社は,それぞれクリエイターエコノミー,すなわち個人のクリエイターがオリジナルのコンテンツや商品を制作・発信し収入を得ることにより,主にWeb上で形成される経済圏に関するビジネスに取り組んでいる。
トークの最初のテーマは,「クリエイターエコノミーの現在地」だ。ピクシブが運営する作品コミュニケーションサービス「pixiv」は,現在世界におけるユーザーが1億人を超えており,作品総数は約1.5億で,1日におよそ2万作品ぐらいずつ増えているという。それらの作品はイラストや漫画,小説といった少なからず手間がかかるものであり,清水氏は「創作をする人達が活発に活動していることの証明」と表現した。
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そうした作品群の中で,もっとも分かりやすいクリエイターエコノミーの事例として示されたのが,ピクシブのマーケットプレイス「BOOTH」における,VRワールド用3Dモデルの取扱高である。2023年から2024年にかけてほぼ倍増しており,2025年はさらに伸びる見込みとのこと。
清水氏は「新しい表現をする場で新しいアバターという,それまでなかったものを作るクリエイターと,それを楽しむユーザーの交流が生まれ,これだけのお金が実際に動いているということは非常に注目すべきポイント」と指摘した。
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加えて,今はスマートフォンでも画像や動画を作成できるため,クリエイターになるハードルが極めて低くなっている。一歩踏み出せばクリエイターを名乗れる時代がコロナ禍以降さらに勢いを増しているとの見解を示し,それが現在のクリエイターエコノミーの活性化につながっていると語った。
続いてドワンゴの渡邉氏は,同社が手がける動画サービス「ニコニコ」について,クリエイターが自己表現の場として活用するのはもちろんのこと,それをユーザーやファンが単に観賞するだけではなく,「コメント機能」を使って参加することを大事にしてきたと説明。そうすることによって,コメントを見た人が共感したり,クリエイターが「自分もそこに共感してもらいたかった」と感じたりして,感情の重ね合いが生じ,ひいては共創という形でクリエイターエコノミーが形成されていくというわけだ。ドワンゴ内では,そうした共感と共創のシナジーを言語化し,「共快感」と呼んでいることも紹介された。
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門田氏は,JP UNIVERSEでは,ゲームが消費されるものから,ユーザー自身がゲーム内のコンテンツを生成する場,場合によってはそれによって収入を得る場に変化していると捉えていることを紹介。そうしたUGCを生み出せるプラットフォームはかなりの人気を誇っており,たとえば「フォートナイト」の2024年度におけるユーザーへの配当額が550億円,また「Minecraft」のマーケットプレイスにおけるUGCのダウンロード数が約17億件に上ることが示された。
さらに「Roblox」はユーザーの過半数が10代であり,若い世代を中心に,ゲームは消費するものではなく自分で作っていくというものという認識になっているのではないかという見解を示した。
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現在のクリエイターエコノミーが持つ課題
続いてのテーマは,「現在のクリエイターエコノミーが持つ課題」だ。渡邉氏は,誰もがクリエイターを名乗れる場や環境が整ってきたのは確かだが,自身のクリエイティブだけで生活できるほど収入を得られるかという部分においては,以前より厳しくなっていることを指摘した。
ビジネスとして展開していくのであれば,コンテンツの見せ方やクリエイターとしての露出といった商業的なことも考慮しなければならず,巨大なプラットフォームに参入したとしてもなかなか日の目を見られない状況が続き,結局は辞めてしまう結果になるというわけである。
その意味では,現在のクリエイターエコノミーを形成するプラットフォームには,持続可能性が求められていると続けた。ニコニコであれば大きな収入を得られなくとも,創作活動をしていくうえでの最低限の対価を得られたり,自分の活動に共感してもらえるファンを見つけやすかったりするため,「どこかがそうしたプラットフォームを作らなければならないとすれば,我々がやる」とも話していた。
清水氏は,誰もがクリエイターになれるということは,作品数が非常に多くなることを意味すると指摘。そうなると人の目に留まることが難しくなり,たとえば1〜2週間かけて描いたイラストでも,わずか数妙しか見てもらえず,人々の目はすぐ次のイラストに移ってしまうかもしれない。それは今に始まったことではないが,競争は激化しているし,コンテンツのジャンルも増えて可処分時間の奪い合いになっていることから,自身の作品の価値を高めたり,あるいはファンを増やしたりする努力が必要になる。
そうした状況下で重要になるのは,「作品の中に表現されているクリエイターの世界観をどのように伝えるか」ということであり,それが今後の課題になると清水氏は述べた。ビジュアルがきっかけで知ってもらったコンテンツであっても,最終的には世界観やキャラクターにハマってもらって,より深く関わってもらえる仕組みが,どんなジャンルでも必要になるのではないかという持論が示された。
実際,pixivで有名になりファンの多いクリエイターは,セルフプロデュースに長けているとのこと。しかし,そうではない大半のクリエイターのために,自身が少し参加・利用するだけで世界観が広がったり,認知度が上がったりするような仕組みが求められている。
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門田氏は,ゲームがイラストや動画,音楽などの要素を詰め込んだ総合エンターテイメントであると表現し,クリエイティブとしてはハードルが高いことを指摘した。
また,プログラミングやモデリングなど,専門知識やスキル,ノウハウが必要な分野もあり,それがクリエイターエコノミーを形成するうえでの課題であると語った。
その一方で,最新のツールや技術を用いて,ユーザーが自身のクリエイティブを世界に向けて発信していける支援をしたいと考えていると述べ,JP UNIVERSEが手がける「竜宮国」ではRPGに遊びと創作を融合させて,ユーザーが自身の手でゲームの世界を拡張していける体験を提供していきたいと展望を示した。
クリエイターエコノミーの未来と可能性
「竜宮国」は,RPGとUGCが融合したゲームプラットフォームだ。門田氏によると,誰もが自身の作ったコンテンツやアイデアを持ち込んでゲームの世界を作成できるという。その一例として,pixivで扱われている3Dモデルをアバターとして持ち込むこともできるし,イラストに描かれたキャラクターをストーリーの根幹的な存在に仕立てることも可能なことが挙げられた。
また,ニコニコに投稿された動画をイベント化したり,ボーカロイドの楽曲をBGMにしたりすることもできる。「竜宮国」は,そうやってユーザー達が作ったコンテンツで形成された世界をRPGのように冒険し,さらに世界を広げていくようなプラットフォームであるという。リリースは先述したとおり,2026年夏を予定していることも発表された。
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渡邉氏は「竜宮国」を活用する例として,ニコニコのサービス「ニコニ・コモンズ」を挙げた。このサービスは,クリエイターが自身の作品の利用条件を定めて公開できるもので,第三者がそれを素材として利用することにより,二次創作を活発化させる仕組みである。素材を提供したクリエイターには対価も提供されるため,背景や効果音といった限定的な分野に特化している人も活躍可能で,「竜宮国」とは相性が良くワクワクすると話していた。
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清水氏は,3Dモデルを作成可能にするピクシブのプロジェクト「VRoid」について,「実はアバターを作るだけでは面白くない」と明かす。すなわち,使う場所がないと3Dモデルを作る意味がないので,自身の作ったアバターを使える場所として利用できるだけでも「竜宮国」には大きな意味が生ずると説明を加えた。
さらには,ユーザーそれぞれの解釈による「竜宮国」の世界観を踏まえたキャラクターを作り出せる可能性が生ずる。そして,そうしたキャラクターが「竜宮国」のルールに則って,オフィシャルな存在として採用される可能性もある。それらは,クリエイターのモチベーションを上げるには十分すぎるほどであり,大きな価値であると清水氏は指摘した。
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門田氏からは,すでに「竜宮国」はpixivおよびニコニコと連携したコラボ企画を進めていることが紹介された。ピクシブとは技術提携しており,上記のとおりVRoidとして作成した3Dモデルを「竜宮国」のアバターとして活用できる。
またpixivでは,ユーザー同士が設定や世界観を共有してイラストなどのコンテンツを投稿するイベント「pixivファンタジア」を展開しているが,その「竜宮国」バージョンを実施する予定とのこと。
まだどの程度まで落とし込めるかは未定だそうだが,清水氏は「自分の作ったキャラクターで参加できるだけでなく,自分が考えたストーリーやキャラクターがオフィシャル化する可能性が生ずる,夢のような企画」と表現していた。
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ニコニコとのコラボ企画では,「竜宮国」のプレイ画面にコメントが流れるようになる。コメントの中には,RPGのコマンドのように機能するものも含まれる予定とのこと。
さらに例年開催されるイベント「ニコニコ超会議」にて「竜宮国総選挙」を実施し,ゲーム内のルールを決めることも予定しているという。
渡邉氏は,ユーザーがただ見るだけ聞くだけではなく,参加して一緒に作っていく部分に,リアルで友達と遊んでいるかのような感覚を実現できる可能性があると期待を述べた。
また,クリエイティブやコンテンツを一緒に作っていくうえで,「共創」だけでなく「競争」して互いに高め合うことも大事な視点であると指摘。ランキングや地位で上下関係を作ることも重要な要素となるため,設計の時点で考えることが広がっていくのではないかと語った。
さらに現在の国内ゲーム人口を見ると,シニア層の占める割合が増加しているため,そうした人々の居場所になることも視野に入れるといいのではないかとも話していた。
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清水氏の「ユーザーの作ったコンテンツをできるだけ多くゲームに反映してほしい」という旨のリクエストには,門田氏が「プレイしていると,きちんとサジェストされる仕組みを検討している」と回答。クリエイターファーストで,多くのユーザーが楽しめるプラットフォームにしていきたいと意気込みを述べた。
また当初は日本とアジアを中心に展開し,そこからグローバルに広げていくとの展望も語られた。
ゲームクリエイター 田畑 端氏 トークセッション
イベントの終盤には,JP UNIVERSE 代表取締役の田畑氏が登壇し,まず「竜宮国」の開発進捗を報告した。それによると現在はプロトタイプが完成し,α版を開発中だという。ここからα版,β版と開発を進めて,2026年夏までに形にして世に出すことを目指しているそうだ。
「竜宮国」のようなRPGとUGCを融合するプラットフォームの構想は,田畑氏がスクウェア・エニックスで「FINAL FANTASY」シリーズの開発に携わっていた頃からあったとのこと。たとえば「FINAL FANTASY XV」には,プレイヤーが倒したモンスターの素材を調理し,日清のカップヌードルにトッピングできたが,そういったクリエイティブな要素をユーザーや個人のクリエイターが自由に拡張できて,どんどん新しい世界を作っていくRPGを考えていたという。
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動画がそうだったように,今やゲームは個人でも作れる時代に変わってきたと田畑氏は語った。そうなるとプロのクリエイターが使う本格的なゲームを作る技術を,誰もが使える技術にアップデートし,「竜宮国」の世界にいるユーザーがいつでもクリエイターになれるようにしなければいけない。この場合のユーザーは,プレイヤーとプロを含めたクリエイターを指し,たとえばプロクリエイターが参入することによってクリエイター同士のコラボが生まれるなど,プロアマ問わずコンテンツ作りができるRPG空間として「竜宮国」が成立することを目指しているそうだ。
また,「竜宮国」を,「もう1つの日本を作る場」としても提供するとのこと。「竜宮国」の世界には47都道府県が存在し,それぞれが独立した国となっている。ユーザーはいずれかに所属し国作りに携わることとなるが,それはリアルの日本とも結びついていく。具体的には,プロジェクトを支援する企業・団体が協力し,「竜宮国」でユーザーが楽しめる環境を作りだしているというわけである。田畑氏は,ゲームに組み込める優れたものが日本にはまだまだたくさんあるので,それらを「竜宮国」に持ち込み,グローバルに発信することを目指していると展望を語った。
また,いわゆる「聖地巡礼」のような文化も,「竜宮国」のUGCによって広げることができるのではないかと,可能性を示した。
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日本人ゲームクリエイターの特徴を問われた田畑氏は,「ゲームを最後まで遊んでくれる人のために,ゲームの後半も手を抜かず最後までしっかり作るところ」と回答。
また,日本人の「ものを作り込む」という能力は世界全体で突出しており,もしかしたらゼロを1にする能力はほかの国や地域に劣るかもしれないが,「こうすればいい」と分かったときのクオリティの上げ方は追随を許さないと指摘した。
最後に田畑氏は,クリエイターに向けて,ぜひ「竜宮国」に注目してほしいと呼びかけ,自身でもの作りをし,ほかのクリエイターとのコラボを生み出して,プレイヤーに新しい世界を提示していく未来を作っていけたら嬉しいと語った。
純粋にゲームを好きな人たちには,2026年から順次新作ゲームをリリースしていくのでそれらを楽しみつつ,ゲームの未来を作ろうとしているJP UNIVERSEの活動を見守ってほしいと話していた。
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