
プレイレポート
思考実験アドベンチャー「ドーナツの穴」をプレイ。答えのない問いに答えていく体験は,自分を見つめ直すきっかけにもなりそう[TGS2025]
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答えのない問いを繰り返す“思考実験アドベンチャー”を謳う本作は,もともとゲームジャムのunity1weekで発表となり,約20万回もプレイされた。現在開発されているのは新規要素を多数収録する完全版で,2026年中にリリース予定だ。
実際にプレイしてみたところ,独特の雰囲気を感じただけでなく,自分が選んだ回答について,もう一度考え直したくなるような体験を味わえたので,その模様をレポートしよう。
なお,本稿ではTGS出展バージョンの内容に最後まで触れているので,ネタバレを避けたい人は注意してほしい。
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タイトル画面には,白い布と花冠をかぶった西洋のオバケのようなキャラクターが表示されている。Steamストアページの説明によると「わたし」という名前らしい。「目を閉じる」と表示されているボタンを押すと(ゲームをスタートさせると),「わたし」は「これからあなたにいくつかの問いかけをします。間違いも正解もありません。思う通りに答えてみてください」とこちらへ話しかけてきた。
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そして「わたし」はティーポットとカップを取り出すのだが,すぐさまカップを落としてしまい,動揺しつつも「お気に入りのカップは割れてもお気に入りと言えますか?」と最初の問いを投げかけてくる。そして「わたし」の背後にある2つの扉に,それぞれ「割れてもお気に入り」「もうお気に入りじゃない」という文字が浮かび上がった。これが選択肢というわけだ。
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少し迷いながらも「割れてもお気に入り」の扉を開けて中に入ると,その部屋にはさきほどの質問に対する回答の割合が表示されていた。「割れてもお気に入り」は62%,「もうお気に入りじゃない」は38%なので,筆者は多数派のようだ。
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本作はこんな感じで,「わたし」からの問いに対する回答を繰り返していくのだが,決してアンケート調査のようなゲームではない。「わたし」はこちらの回答を踏まえた質問を投げかけてくるので,単なる質疑応答ではなく会話になっているし,場合によっては「さっきの回答は間違ったかな」と思わされることもあるのだ。
試遊では,「実際の経験と,経験の後に残る記憶。どちらのほうが大切ですか?」という問いがあった。筆者は「その時は辛くても,後になるといい思い出になることってあるしなぁ」などと思いながら「記憶」を選んでゲームを進めていったのだが,この選択が最後の質問で大きな意味を持つことになった。
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その質問とは「あなたがこの夢から離れて,どこか遠いところで目を覚ました後,もしもわたしがすべてを忘れてしまうのなら,わたしたちの話には意味があったのでしょうか?」というもの。しかも「わたし」は,この質問を今にも泣きそうな声で投げかけてくるのだ。
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こう来られてしまうと,「いや違うんだよ,そりゃさっきは『記憶が大切』とは答えたけどさぁ……」みたいな感じになり,「意味がある」の扉へ。「記憶」の選択には割と自信を持っていたのだが,それが揺らぐようなことになった。
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たた,“論破”されたような不快さはない。これは「わたし」が,それまでの回答をしっかりと受け止めてくれたうえで出す,正解のない問いだからではないかと思う。最後の質問に「あなたがこの夢から離れて」とあったが,これは序盤の「ここはどこだと思う?」という質問に「夢」と答えていたからだ。
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ちなみにこの質問への回答で一番多かったのは「幕張メッセ」だったのだが,その場合,最後の質問の導入は「あなたが幕張メッセから離れて」という,妙に現実的なものになったのだろうか……?
最近,AIを話し相手にする人が多いそうだが,本作での「わたし」との会話は,それ以上に印象的かもしれない。自分の回答を基にした質問に回答することは,自問自答に近いわけで,自分を見つめ直すきっかけにもなりそうだ。最初は違和感があった「わたし」のネーミングも,試遊が終わったときには納得できた。
完全版では数百以上の問いが追加され,ストーリーや問いの分岐はさらに複雑になるとのこと。シンプルな操作方法かつ短時間で楽しめることもあって,疲れたときにプレイしたくなりそうなタイトルだ。
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- 関連タイトル:
ドーナツの穴
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(C)Atsuki Miyamura / Kako no Nikomi / room6