
プレイレポート
[プレイレポ]音信不通の友人を追って,大邸宅へ。映画業界の闇に切り込む「Dead Take」はダークでシャープなホラー作品だ
2025年7月31日にリリースされた本作は,「パルワールド」のポケットペア(Pocketpair Publishing)による初のパブリッシング作品だ。
なるべくネタバレにならないように配慮をしているが,どんなゲームなのかを紹介する以上,主人公が手にするメモに書かれた内容などに言及している。ご了承いただきたい。
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電話に出ない友人を探して,豪奢な邸宅へ
さまざまな謎解きの先にある真実を暴け
友人のヴィニーが電話に出ない。主人公のチェイスは焦り,何度かの電話のあと,ある男の家に行ったのではないかと思い至り,自身も向かうことにする。
ある男――デュークの大邸宅の前に,チェイスが到着したところから物語が始まる。
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本作は主観視点でいろいろな場所を調べて,鍵やパスワードを入手し,扉を開いて先に進んでいく。いわゆるウォーキングシミュレータに近いつくりになっている。
映画界のドンと呼ばれる男,デュークはすさまじい権力を持っている。その実績を示すように,舞台となるデューク邸は超が付く大豪邸。「これはゲームだ」と分かっていても,その内装や広さには圧倒される。「こんな家に住みてぇ……」「でも冬は暖房が効きづらくて絶対寒いだろ……」と,お宅訪問に来たような気分だ。
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どんなストーリーなのか。登場人物の関係性はどうなっているのか。事前に説明はほとんどないが,プレイヤーが邸宅を探索する過程で,残されたメモなどから少しずつ手がかりを得られるようになっている。
デュークの新作映画に関する非公開パーティーが催されていたらしく,床には“祭りのあと”といった感じのクラッカーや紙吹雪が散乱していた。
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邸内ではUSBメモリが見つかることがあり,これをシアタールームのPCに接続することで,新たな動画が再生できるようになっていく。この動画はすべて実写映像になっており,本作のストーリーを追うための貴重な情報源だ。
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邸内に残された情報や映像を見ていくと,どうやらヴィニーとチェイスは俳優仲間のようだ。デュークが次に撮影するという映画「最後の大航海」の主役に,デューク陣営はヴィニーを推している。一方でチェイスは,デュークに手紙を送って自らを売り込んでいた。
人気俳優・ヴィニーと低迷中の俳優・チェイス。邸内の探索を進めていくうち,なんとなくそのような構図が浮かんでくるが,チェイスの携帯電話にはメールが時折届く。それは,デュークがチェイスを見込んでいるような内容だった。
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キャスティングに関わる人間はヴィニーを推しているが,デューク本人はチェイスを推している……と想像できるが,ならばチェイスに送られてくるメールは何なのか。
電話に出ないヴィニー,新作映画の非公開パーティー,なぜか焦る様子のチェイス。なんとなく背景が見えそうでいて,どこか矛盾した情報もあり,先が気になる展開が続いていく。
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チェイスの行く手を阻むようにいろいろな謎解きパズルがあり,それらを解くと閉まっていた部屋の鍵やパスワード,そして前述のUSBメモリが手に入る。
正直,なぜそんなものがあるのかと思ってしまうような仕掛けも多いが,ホラーといえば「金持ちが建てた豪邸」と「妙に凝った謎のギミック」みたいなところもある。“お約束”をしっかり押さえているともいえる。
謎解きは決して難解ではなく,しっかりと観察して考えれば,必ず解けるようになっている。純粋に楽しめるはずだ。
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主な登場人物は,ヴィニーとチェイスだけではない。「最後の大航海」のヒロインを務めるヴィクトリアは,「撮影中にデュークからハラスメントを受けた」として,映画俳優組合に連絡を入れ,法的に声を上げようとしているメールが残されていた。
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このメールは,ヴィクトリアを愛称“ヴィッキー”と呼ぶ女優仲間のザラにも送られていた。だが,当のザラはデュークに対して,ヴィクトリアの肩を持つのではなく,さりげなくすり寄る内容を返信している。
これだけでも「うわ……」という感じではあるが,結局,ヴィクトリアは役を降ろされ,ザラが抜擢されたようだ。
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撮影中,ヴィクトリアの演技に対して叱責するデュークの怒声が響く映像は残されており,ハラスメントは事実だと思われる。しかし,この映像がデューク邸にあるというのが問題だ。
証拠はデュークの手の中。そしてヴィクトリアの末路は,権力者に嫌われた者がこの業界でどうなるのかを示す一例だろう。
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では,ザラはデュークに協力する旨のメールを送っただけで,大役を得られたのだろうか。
邸内には隠された部屋もあり,それらを設計図に残さないという決定をしたデュークに対して,建築家が「緊急時に危険を伴うため,私は反対だ」と批難するメールも存在した。非公開パーティーでは携帯電話などを事前に預けるルールになっているようで,最初は憧れを持って眺めていた豪奢な邸宅が,何でもやりたい放題の権力者が支配する恐ろしい閉鎖空間に見えてくる。
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USBメモリに残された映像には,さまざまな人物が登場する。デュークとはウマが合わないらしい監督,キャスティングに関わる人間,デュークの元妻,そしてヴィニー。
それらを「初めて見たとき」と「ゲームを終えてから,あらためて見たとき」の印象は,まるで異なる。皆,笑顔を浮かべて穏和に話しているが,誰も本音をしゃべっていないような不気味さを感じるのだ。
プレイヤーの想像力に比例した恐怖が訪れる,リアルなホラー作品といえるだろう。
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時間的なボリュームは控えめだが,
1本の映画を観たような満足感がある
本作は謎解きにどれくらい悩むかどうかで多少変動するが,5時間程度でクリアできるだろう。謎解きも理不尽なものはなく,ローカライズもしっかりしている。なかなか好印象だ。
ただ,先に進むために必要なアイテムを見落としたまま,ウロウロしていたことはあったので,隅々まで調べていく必要はある。
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面白かったのがポーズ中のメニュー画面だ。「再開」「ロード」などの項目があり,「メインメニュー」にカーソルを合わせると「家へ帰れ!」「出てけ」といったテキストが,「設定」にカーソルを合わせると「無意味だ」「何も変えられない」などのテキストが表示される。
おそらく,劇中の俳優が言われた「心をエグる言葉」を表示しているのだろうが,「いや,設定は変えさせてくれよ!」とツッコミたくなる。
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約5時間だと短いと思われるかもしれないが,体感的にはそれ以上だったのでボリューム不足ということはない。少しずつ明らかになっていく人間関係への興味は持続し,ストーリーの牽引力もある。
こうした題材のホラーゲームは珍しく,実写映像を織り交ぜたことで登場人物の感情やリアリティがしっかり伝わってくる。主観視点で3D空間を歩き回るホラーゲームは多いが,明確な人物の姿が実写映像でしか出てこないことで,自身の姿が見えない主観視点との相性の良さを感じた。
ワッと驚かせる,いわゆるジャンプスケア要素は少しあるものの,そんなにドギツくない。ホラーというより,ちょっとしたハラハラドキドキ感がスパイスとして振りかけられているといった感じなので,ホラーが苦手な人でも楽しめるはずだ。
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ショービジネスの闇に切り込む内容だが,直接的な表現をあえて避け,ほのめかす程度に留めているのが絶妙だ。意味深にベッドが置いてあれば,「あー,これって,そういう……」みたいな深読みできる楽しさがある。
一方で,詳細を語らずにプレイヤーの想像に任せているため,クリアしても「で,どういうこと?」とワケが分からないままの人もいるだろう。実際,「これは,こういうことで……」と完璧に説明できる人は少ないと思う。
考察が好きな人にはうってつけだが,最後までプレイしたときに「スッキリしたい」という人にはおすすめしにくい。
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業界のドンの息がかかった話題作に出演できるということが,俳優にとって,いかに人生の転機となり得るのか。その役を得るためならば,人はどこまで“演技”し,何を“やる”のか。
人間の醜さと恐ろしさをこれでもかと詰め込んだ特異なホラーゲームであり,デュークに宛てたビデオメッセージで「役のためならなんでもします」と言い切るチェイスの表情が心に残る,切れ味の鋭い作品だ。
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