
イベント
過去作の資料を保存し,未来につなぐ意義とは。YouTubeにも活動を広げた「アーケードアーカイブス」が,その理念と実績を語る[CEDEC 2025]
![]() |
「アーケードアーカイブス」を主導するハムスターの濱田 倫氏に加え,タイトーの外山雄一氏,バンダイナムコエンターテインメントの宇出津 和仁氏が登壇し,その活動内容や意義を語った,この講演をレポートする。
![]() |
「アーケードアーカイブス」公式サイト
資料を保存し未来につなぐ,「アーケードアーカイバー」の取り組みとは
本講演に興味を持った人なら,「アーケードアーカイブス」のことはきっとご存じだろう。ゲームセンターで稼働していたアーケードゲームを,現行機に移植するこのシリーズは,既に11年にわたって続いている濱田らの一大プロジェクトだ。
![]() |
アーケードアーカイブスを制作するには,ゲーム基板からデータを吸い出す必要がある。これにはアーケードゲーム業界と長いかかわりを持つ高井商会が所有する基板が使われることがほとんどだそうで,移植作業はアーケードアーカイブスのエンジンを開発する札幌の開発室で,ベテランのエンジニアたち行っているとのこと。
札幌という地名でピンときた人も多いと思うが,この多くは元・ハドソン中央研究所に所属していた,しっかりとしたハードウェアの知識を持ったエンジニアたちだという。濱田氏曰く,「アセンブラを書ける人たちだけが集まっている」そうなので,その実力は折り紙付きだろう。
![]() |
![]() |
東京ではUIの制作やデバッグ作業が行われている。アーケードアーカイブスにおけるデバッグはバグの発見に留まらず,プレイ感を当時のまま再現できているかの検証も含まれる。そのためには基板とアーケードアーカイブスを比較し,当時の開発者やスコアラーにもチェックをしてもらうそうだ。
例えば「リッジレーサー」では,全国1位の記録を持つハイスコアラーを招聘し,当時のテクニックが使えるかどうかといった細かな部分まで検証が行われた。こうした検証は,配信するすべてのタイトルで必ず行われるそうだ。
![]() |
![]() |
![]() |
アーケードアーカイブスに関する情報を発信するネット番組・「アーケードアーカイバー」も人気を博している。
こちらは2015年に始まった取り組みで,当初は移植タイトルの紹介がメインだったが,宇出津氏が出演した2021年9月の第324回「アーケードアーカイバー ナムコスペシャル!」から,当時の開発者を積極的に招き,開発秘話や資料を公開してもらう番組へと方向転換した。これにより,それまで3700回前後だった視聴回数が1万人を越えるようになり,98%の高評価がつく回もあったという。
![]() |
![]() |
![]() |
第540回「アーケードアーカイバー リッジレーサースペシャル!」では,プロジェクトリーダーの田城幸一氏を始めとした9人のゲストを招いたが,同作のスタッフがこれだけ集まるのは珍しいものだった。そのおかげもあって,同作におけるドリフトが北海道のタクシーやスロットカーからヒントを得たという開発秘話も飛び出したという。
また第541回「アーケードアーカイバー スパイナルブレーカーズスペシャル!」では,「スパイナルブレイカーズ」の主人公が「ワッフル大佐」であり,回復アイテムとしてワッフルが登場する理由が“ビデオシステムの近所にフジファミリーショップがあり,スタッフがそこのワッフルを食べていたから”であることが判明している。
当時の開発者たちに集まってもらうことで,より多くのエピソードを発掘できるのは,Webマガジン「Beep21」の編集長である西村 亨氏も指摘するところであり,今後のゲーム史編纂における一つのキーワードとなりそうだ。
![]() |
ゲームを移植し,番組を配信することはゲームメーカー側にもメリットがあると宇出津氏は語る。CEDEC 2018では,貴重な開発資料が廃棄の危機に瀕していたという事情が明かされたが,現在は整理が進められ,ソフト関係は段ボール約350箱,ハード関連も数百箱分の資料が保存されているとのこと。
またアーケードアーカイブスへの移植は,資料の再整理やスキャンを伴うため,整備を進めるいい機会にもなっているそうだ。こうした資料が「『ドルアーガの塔』40周年記念 公式記録全集」の発刊や,「PAC‐MAN×スカイガーデン パックマンのゲーム博物館」といったイベントにも生かされている。
このように保存した資料を収益につなげ,会社側に活動を理解してもらうことの大切さは,CEDEC 2024で行われた講演「ゲーム開発過去資料の保存の最前線を語ろう!」でも語られている。 こうした実績が積み重なることで,保存活動がよりスムーズになることを期待したいところだ。
![]() |
さらにアーケードアーカイバーの放送が,開発者とプレイヤーをつなげたこともあったという。第338回「アーケードアーカイバー ドラゴンバスタースペシャル!」では,同作の企画を担当した佐藤英治氏が初めてプレイヤーの声に触れ,「今日からドラゴンバスターを好きになった」とまで話している。
当時は現在ほど開発者がメディアに露出する機会はなく,プレイヤーの生の声を聞くこともなかった。今回の配信をきっかけに,プレイヤーのリスペクトが届いたのだとすれば,意義深い試みだったのではないだろうか。
![]() |
また,“「レイフォース」の企画は開発者が「マスター オブ ウエポン」をプレイしたことが影響している”とか,“「クレイジーバルーン」の企画がとん挫した後に形を変えて「ニュージーランドストーリー」になった”といった,意外なタイトルのつながりが明らかになることもあった。ゲームの歴史を考えるうえでも貴重な証言といえる。
![]() |
復刻や資料整理を進めるには,開発者にコンタクトを取るのも大切だ。宇出津氏はSNSでの調査はもちろんのこと,年賀状の住所に連絡してみるなど,あらゆる手がかりを活用していて,まるで「探偵のような状態」だという。さらに普段親しくしている「パックマン」の岩谷 徹氏が,「エアーコンバット22」の企画者である岩瀬 隆氏を探し出してくれたこともあり,人脈も重要とのこと。
![]() |
![]() |
こうしてゲームを復刻し,資料を整理することは「未来の開発者へバトンを渡す」ことであると宇出津氏は語る。
アーケードアーカイバーの10周年記念イベントでは,桜井政博氏と神谷英樹氏が登壇。過去のゲームを教科書とするために,アーケードアーカイブスを年代別に並べて資料にしている,といった取り組みを語っている。ゲームは常に過去のタイトルのつながりの中にあり,新しいものを生み出すには過去作をアーカイブとして参照できる環境が大切なのだ。
![]() |
外山氏は現代の開発者に向け,開発環境を含めた資料を保存してほしいと呼びかける。データは消えるものだし,アーカイブされたタイトルであっても関連ソフトの期限切れで配信できなくなることもある。しかし資料が残っていれば,少ない工数で載せ替えられるかもしれないのだ。
![]() |
![]() |
最後に濱田氏は,ゲームの権利を持つ人はぜひアーケードアーカイブスに参入してほしいと呼びかけた。同シリーズではタイトル単体での損益を重視していないため,大手メーカーのものであれば,採算が見込めないタイトルであってリリースできる可能性がある。氏は「必ず復刻できるように頑張る」と意気込みを語り,講演を締めくくった。
関連資料の発掘と開発者とのコンタクトに邁進するアーケードアーカイブスは,ビジネスの枠組を越えた,歴史保存の側面が強い活動といえる。とはいえ講演中にも語られたとおり,採算を取るための努力も続けられており,今後はそのバランスがより求められることになるだろう。
1990年代までのタイトルであれば,濱田氏らが資料の保存を担ってくれるだろうが,それ以降は分からない。この火を絶やさないためにも,現代の開発者には氏の言葉に耳を傾けてもらいたい。そう感じた講演だった。
CEDEC 公式サイト
4Gamer「CEDEC 2025」記事一覧
- 関連タイトル:
アーケードアーカイブス リッジレーサー
- 関連タイトル:
アーケードアーカイブス リッジレーサー
- 関連タイトル:
アーケードアーカイブス スパイナルブレーカーズ
- 関連タイトル:
アーケードアーカイブス スパイナルブレーカーズ
- 関連タイトル:
アーケードアーカイブス ドラゴンバスター
- 関連タイトル:
アーケードアーカイブス ドラゴンバスター
- この記事のURL:
キーワード
- Nintendo Switch:アーケードアーカイブス リッジレーサー
- レース
- IARC汎用レーティング 3歳以上
- ドライブ
- ハムスター
- プレイ人数:1人
- PS4:アーケードアーカイブス リッジレーサー
- Nintendo Switch:アーケードアーカイブス スパイナルブレーカーズ
- PS4:アーケードアーカイブス スパイナルブレーカーズ
- Nintendo Switch:アーケードアーカイブス ドラゴンバスター
- Nintendo Switch
- PS4:アーケードアーカイブス ドラゴンバスター
- PS4
- イベント
- ライター:箭本進一
- CEDEC/コ・フェスタゲーム開発者セミナー
- CEDEC 2025

RIDGE RACER &(C)Bandai Namco Entertainment Inc.
Arcade Archives Series Produced by HAMSTER Corporation
RIDGE RACER &(C)Bandai Namco Entertainment Inc.
Arcade Archives Series Produced by HAMSTER Corporation
(C)HAMSTER Corporation
Arcade Archives Series Produced by HAMSTER Corporation
(C)HAMSTER Corporation
Arcade Archives Series Produced by HAMSTER Corporation
DRAGON BUSTER&(C)1984 BANDAI NAMCO Entertainment Inc.
Arcade Archives Series Produced by HAMSTER Co.
DRAGON BUSTER&(C)1984 BANDAI NAMCO Entertainment Inc.
Arcade Archives Series Produced by HAMSTER Co.