
プレイレポート
[プレイレポ]体験版が配信中の「病能探偵」は認知の異常が“偽証”を生む,プレイヤーまで病みそうな推理アドベンチャー
開発を手がけるPHOSEPOは台湾のデベロッパで,Steamで「非常に好評」の評価を得ている日本風ミステリノベルゲーム「留紺の牢籠 Rail of Möbius」などをリリースしている。
見たものが信じられず,語られた証言がそのままでは成り立たない――そんな“歪んだ真実”を読み解く本作。想定プレイ時間が4〜5時間と,なかなかのボリュームとなっている体験版の感触をレポートしよう。
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本作の舞台となるのは,世界を支配する宗教組織「理教」が主催する死のゲーム「選抜」。参加者は13人の「病能者」たちで,いずれも世界の認知に異常を抱えており,さらにそれを“他人に伝染させる能力”を持つ。殺人を犯しても「バレなければ神になれる」この異常なゲームに参加しつつ,プレイヤーは事態の真相を探ることになる。
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本作に登場する「病能者」が抱える認知異常とは,たとえば以下のようなものだ。
- 嘘をつけない「強迫性障害」
- 左側の世界を認識できない「左側無視」
- 顔を識別できない「相貌失認」
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これらの認知異常が,本人のみならず,場に居合わせた者にまで作用して,事件現場や証言の内容を歪ませてしまう。プレイヤーは「誰が何を見たか」ではなく,「どの病能がどう事態を歪めたか」を読み解くことで,ようやく真実にたどり着ける仕掛けとなっているのだ。
ロジックを組み立て,謎を解き明かす「なるほど!」感もあるのだが,それよりも,「ああ,君にとって世界はこんなにも歪んで見えていたんだね……」と納得する感覚のほうが強く味わえるゲームかもしれない。
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プレイヤーの分身となる主人公ライルは,五感が連鎖する「共感覚」の持ち主。音を聞けば色が見え,色を見れば味を感じ,味を感じれば音が鳴る――そんな感覚の洪水に苦しみながらも,感覚の抑制によってかろうじて日常を保っている。
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しかし彼の抱える病が「病能」として発揮されると,“歪んだ現実”を他者にも知覚させる「世界創造」として発現する。
これが事態を打開するカギとなる……というのが普通のミステリものだろうが,本作の場合は,そう簡単に事は進まない。なにしろライル本人ですら,自分が作り出した世界と,本当の世界の区別がつかなくなるくらいだから,一筋縄ではいかない。
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ライルにとって唯一の真実の基準となるのは,「嘘をつけない」病能を持つ,妹のレナ。彼女が,ライルの病能が生み出した存在でないことを祈るばかりだ。
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体験版では,物語のチュートリアルにあたる1章と,2章の冒頭部分をプレイできる。じっくりプレイできる「ストーリーモード」と,デスゲームものらしい時間制限やゲームオーバーのスリルを味わえる「推理モード」のどちらかを選べるので,自分に合ったものを選ぶといいだろう。
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ライルが挑む「選抜」には人狼に似たルールがあり,「村人」「狼」「勇者」などの役割を割り振られる。ただ,少なくとも体験版の範囲では役割に沿った行動を選ぶ要素はなく,プレイ感はお話を読み進めていくタイプのアドベンチャーに近い。
手がかりを集めるパートは,[TAB]キーで調べられる場所を強調表示し,[W/A/S/D]キーでポインタを操作して調べるという,この手の推理ものが好きな人にはお馴染みのシステム。そして集めた手がかりを元に,ディベート型の推理パート「唇槍舌剣」で,相手の主張を突き崩していくことになる。
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キャラクターたちの発言をよく聞き,矛盾点を見つけ,証拠を選んで「異議」を突きつけることで事態は進展していく。ここでミスすると精神的な耐久値が減少し,ゼロになるとゲームオーバーだ。とはいえ直前のデータがオートセーブされているので,やりなおしのストレスはあまりない(少なくとも体験版では)。
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こういった仕組みが,単なる「間違い探し」ではなく,相手の病能を見抜く緊張感を生んでいる。特に注意すべきは,証拠が示すことや,証言の矛盾が,ミスリードや嘘ではなく,病能によって発生しているケースもありえる点だ。ネタバレになってしまうのでここでは詳しくは説明しないが,プレイヤーは「矛盾を暴く」だけでなく,「なぜ矛盾が生じたのか」を考慮して出来事を再構築しなければならない。
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通常のミステリものが“事実の整合”を追うものだとすれば,「病能探偵」は,その場に居た者の“認知の整合”を追うゲームというわけである。ただし,登場人物たちはデスゲームの最中であり,自分の「病能」を明らかにする人物は少ない。あるいは,明かしたフリをして偽ることもありえるだろう。
理路を追っていくうちに,いつしか前提がひっくり返りかねない……その感触は“病んだ知的パズル”といった趣だ。
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体験版のため,細かい部分でやや粗削りに感じられる部分もある。例えば,手がかりの位置がグラフィックスだけでは少々わかりにくい。[TAB]キーを押せば,そこが強調表示されるので,プレイ上の支障はないものの,できれば自分で探したいところだ。
ローカライズは,全体としては自然な印象だが,血縁のない青年男性を「兄」,中年男性を「大叔」と呼ぶといった,おそらく日本のプレイヤーに馴染みの薄い表現も見受けられた。ちなみに「大叔」は,自分の父親より年下の年長者を指す呼び方で,ニュアンスとしてはネットスラングの「おぢ」にも近いだろうか?
相手に異議をとなえるときの「間違う!」はかなり目立つが……体験版らしいご愛嬌といったところか。正式リリース版ではこのあたりも改善されることに期待したい。
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物語は,「理教」の教祖が病能者を創り出せる存在であること,教団はこの世界の画期的な動力源「海天使」を一手に握っていることなど,体験版ながら先の展開を予感させる要素もいろいろ出てくる。
ちなみに,海天使とはクリオネのことで,デスゲームの進行役となるアンドロイド「代行聖者」も,よく見るとクリオネがモチーフだ。ここにもなにか意味があるのかもしれない。
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演出への力の入れ具合もなかなかで,お話の要所ではアニメーションも挿入される。人狼は,特定されるたびに自らの認知障害をモチーフにした方法で処刑されるのだが,その映像はかなりショッキングだ。
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また,犯行の流れを特定するコミック風のシステムは,初めての人には新鮮かと思うが,おなじみな人にはおなじみであろう。こういったあたりからは,本作が影響を受けたシリーズへのオマージュも感じられる。
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体験版のプレイ中に強く感じたのは,「一応理屈が通っているようで,どこか腑に落ちない」という感覚だ。これはシナリオの粗というよりも,おそらく登場人物全体の認知を歪めるような,大きな謎があることの仄めかしだろう。本作では,論理だけを追うとかえって罠にはまりかねない。「プレイヤー自身の感覚やロジックすら疑う」ことが,このゲームの核心だと思われる。
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それが筆者の思い違いでなければ,本作はデスゲームものや能力バトルもののようで,それらとは一味違ったミステリー調ドラマに仕上がりそうだが……それは正式リリース版までのお楽しみだ。
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正式リリースは2026年とまだ先だが,冒頭でもお伝えした通り,体験版はすでにSteamで配信中なので,気になった人はぜひその目で確かめてみてほしい。
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病能探偵
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