
インタビュー
[インタビュー]「Europa Universalis V」は何を目指して作られたのか
日本では2000年代初頭に発売された「Europa Universalis 2」あたりから注目が高まったシリーズだが,今現在も「Europa Universalis 4」が人気であり,動画配信サイトでもAAR(リプレイ)動画が多数のファンを集めている。
そんななか,ついに最新作となる「Europa Universalis V」の発表がなされた。東京ゲームショウ2025ではメディア向けの試遊と,開発者へのインタビューができたので,その模様をお届けしたい。
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4Gamer:
まず最初に,自己紹介からお願いします。
Stefan Vonboe Lang氏(以下,Lang氏):
私は3DCGチームコーディネーターのStefan Vonboe Langです。キャラクターアーティストも務めています。
Roger Corominas氏(以下,Corominas氏):
私はRoger Corominasです。コンテンツデザイナーをしています。よろしくお願いします。
4Gamer:
優れたストラテジーゲームは,優れた誇張と省略で成り立っている側面があります。実際問題として「世界のすべての要素をゲームに取り込む」ことは不可能ですし,たとえ可能だったとしても確実にプレイヤーにフレンドリーではありません。
Europa Universalis Vではこの点,どこに最もフォーカスしたのでしょうか。
Lang氏:
これまでのシリーズに比べ,「シミュレーション」が大きなポイントになっています。Victoriaシリーズなどに見られたPOPシステムの導入がその典型ですね。本作ではPOPがすべての基礎になり,生産,管理,戦争など,すべてが相互関係を有しています。
Corominas氏:
我々はEU5を究極のグランドストラテジーゲームにしたかったんです。なのでCrusader KingsやVictoriaなど過去の作品が持つ最上の部分を,一つの大きなゲームに取り込むことにしました。
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4Gamer:
とても野心的ですね!
さて,EUシリーズを議論するにあたっては,何年にゲームが始まり,何年にゲームが終わるのかという重要な論点があります。
例えばEU2はフス戦争に始まり,ナポレオン戦争で終わります。これがEU3になるとコンスタンティノープル陥落に始まり,拡張セットを含まない場合はルイ16世の処刑で終わります。
EU4ではトゥール休戦協定・ヴァルナの戦いに始まり,ナポレオン戦争までです。
本作は百年戦争でスタートして,ヴィクトリア女王戴冠までの500年を扱いますが,この時期を選んだ理由を教えてください。
Lang氏:
まずは開始年から言いますと,1337年という年は百年戦争の始まりにとどまらず,黒死病が到来する直前の時代でもあります。
4Gamer:
時代の変革期ですね。
Lang氏:
またマンサ・ムーサがメッカ巡礼を果たしたのはこの直前の1324年,死んだと考えられているのは1337年です。中国では元の支配階級が大いに揺らぐなか,1348年から大規模な反乱が発生し始めます。日本も1336年に南北朝時代が始まりますね。
このように世界中で非常にたくさんの興味深い変化が起きていた時代であるというのが,我々が1337年を選んだ理由です。
4Gamer:
終了年についてはどうでしょう?
Corominas氏:
EU5は原則的に1837年に終わりますが,これは開始からちょうど500年という年にあたります。そしてこの年は,弊社が持つもう一つの大きなタイトルであるVictoriaにつながる年でもあります。ですので選択としては自然なものだったと言えます。
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4Gamer:
これは純粋に個人的興味からうかがいたいのですが,これまでも多くのModderがEUのセーブデータをVictoriaにエクスポートするMODを作ってきました。今回はどうでしょう? 作れるものでしょうか? というかぜひ欲しいという人が多くなりそうな設定ですが……。
Lang氏:
できるかできないかで言えば,可能だろうと思います。我々のゲームは,可能な限りModderにフレンドリーなゲームでありたいと努力しています。我々のゲームにとって,コミュニティとModderは極めて重要な意味を持っているからです。EU5でもMod制作者を完全にサポートできるよう,全力を尽くしています。
「巨大なゲーム」としてのEU5と,自動化
4Gamer:
実を言いますと,自分はEU2からこのシリーズに入り,何年も前に4Gamer誌上でEU3のAARを連載しました。そのとき感じたのは,EU3はEU2よりも「整理された」,あるいは,「シンプルになった」「抽象度が上がった」ということです。EU3にはEU2のような混沌は,あらゆる意味で,感じられませんでした。
その後は海外取材などで忙しくなったためEU4はちゃんとプレイできていないのですが,たくさんのYouTuberが作った素晴らしい動画を見て楽しんでいました。そして,なるほどEU3からこう変わったのかと感心しました。
さて,そういう経歴の自分がつい先程EU5を触って感じたのは「途方もない巨大さ」でした。感じた衝撃のレベルでいうと「初めてVictoriaに触れたとき」に近いというのが本音です。いや,そこまでではないかな……いや,それくらいかな……あれと比べてしまうといろいろ誤解もあるので難しいですが……。
ともあれ一方で,ゲーマーの人口は急激に拡大し,Steamにもカジュアルなゲーマーが増えました。そういう市場に対し,EU5は「あまりにも重すぎる」という印象があるのですが,これについてはどうお考えですか。
Corominas氏:
EU5がとても深いゲームであることは,全面的に認めます。プレイヤーが学ぶべきことが多い作品です。
しかしながら,チュートリアル・システムは非常にしっかりと作られています。プレイヤーがゼロから本作に触れる場合,最初にお勧めできる国家の一覧も表示されます。そしてやるべきことや情報量の多さに圧倒されることなく,システムやUIを徐々に理解できるように作りました。
この「徐々に」というところを我々は重視しており,スタートしていきなり大量の情報が雨あられと降り注いで打ちのめされる,ということはありません。
Lang氏:
それでも「これはわけが分からない」という状態に陥らないようにするため,我々はプレイサポートAIも充実させています。AIに委任できる領域は細かく別れており,どこを委任し,どこを自分でコントロールするのか,簡単に設定できます。
例えば交易システムが複雑すぎると感じたなら,交易を自動化できるといった具合ですね。これによってプレイヤーは自分が本当に集中したい側面に集中できます。
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4Gamer:
自動化,とても素敵な言葉です。
ときに,これは完全にプレイヤー次第だと思いますが,初心者が自動化するならどの領域が最もお勧めですか? あくまで個人的な感想としてうかがいたいです。
Lang氏:
自分は交易ですね。私は交易がとても好きというタイプのプレイヤーではなく,どちらかと言えば戦争と外交に集中したいタイプです。なので場合によってはそれ以外を全部委任してしまうこともありますね。
Corominas氏:
これは本当にプレイヤー次第ですが,初心者のためにどうしても1つだけ選べという話であれば,交易の自動化がお勧めです。本作の交易システムはとても複雑なもので,マイクロマネージメントが要求されることもしばしばですから,初心者がいきなり完全にコントロールできなくても仕方ありません。ほかにも考えるべきことが多いゲームですしね。
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4Gamer:
自分もVictoriaでは交易を完全に委任していましたね……。
次の質問です。初心者が最初の国として選ぶとしたら,どの国が良いでしょう? 好きな国があるならそれがベストなのは当然ですが,国があまりに小さいとゲーム開始直後に何もできないまま即死もあり得るでしょうし,大きすぎるとやるべきことや情報量に圧倒されてしまいます。
こちらも,個人的な好みで構いませんので教えてください。
Lang氏:
私は中規模な国家をお勧めすることが多いですね。南イタリアであるとか,それからポルトガルも良いです。規模的にちょうど良いんですよね。
あとそれからデンマークもいいですよ! 私はデンマーク出身なので,こういうときはいつもお勧めしています……というのは冗談として,こちらも規模感的にちょうど良いですし,史実に紐づいたイベントも多くてプレイを楽しめます。
Corominas氏:
私も中規模な国家をお勧めしたいですね。あまりに小さな国だと選択肢が極めて限定されますし,大きすぎると初心者がコントロールするには複雑すぎます。個人的にはアラゴンをよくプレイしますね。
「これは絶対にできない」という壁はない
4Gamer:
続いてはプレイスタイルについてうかがいたいです。EUシリーズ,というかParadoxのグランドストラテジーは,ときに大変奇抜なプレイを許してきました。EUシリーズでいえば南米でスタートしてイベリア侵攻を狙う「オペレーション・ジャガーウォーリアー」といったプレイはとても印象的ですし,私自身,奇抜なプレイのAARをいくつか書きました。
こういった突拍子もないプレイは,EU5ではどれくらい可能なのでしょうか? あるいはプレイテストのなかで起きたそのような突拍子もない印象的なプレイがあれば,教えてください。
Corominas氏:
我々は「これは絶対にできない」という壁があるゲームが,好きではありません。ですから中央アフリカの小さな部族が世界征服を目指すことだって,可能なプレイヤーには可能なはずですし,それで良いと思っています。
とはいえEU5はPOPシステムが基盤となっていますので,そこがひとつの天井にはなり得ます。例えばアステカでスタートした場合,中央アメリカを席巻するのはそこまで難しくはありません。ですがヨーロッパ人が訪れアメリカ大陸には存在しなかった疫病が蔓延し始めると,アステカのPOPに重大なダメージが発生し,結果としてアステカの発展には一定の限界が生じえます。
ただしプレイヤーの腕前があれば,大アステカ帝国がこの問題を乗り越えることも可能です。それは決して簡単なことではないでしょうが,それを阻む絶対の壁は,ありません。
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Lang氏:
我々のコミュニティからしばしば出てくる訴えとして,「なぜこんなにも簡単に世界征服ができてしまうんだ」という声があります。この訴えは我々にとって非常に重大なものだと考え,真剣に取り組んできました。
世界征服は,挑戦であるべきです。世界を征服できたという成果は,あなたが誇りに思い,世界に示すべきものであるべきです。ですので世界を征服することは,困難ですが,可能なように作りました。ただ繰り返しますが,可能ですが,困難です。
4Gamer:
Paradoxのゲームについて話していると時間が一瞬で過ぎ去っていきます。残念ながら,これが最後の質問となります。
Paradox Interactiveのゲームのなかで一番好きなゲームはきっとEU5だと思うのですが,2番目に好きなゲームは何ですか。
Corominas氏:
これは難しい質問ですね……これまでのゲームは全部プレイしてきましたが……そうですね,Crusader Kingsです……いやStellarisも……うーん,あとはEuropa Universalis 4……いや,やっぱり一番となるとCrusader Kingsです。
Lang氏:
初めてプレイしたのはEUシリーズで,本当に大好きなんですが,それでも一番好きなものと言われればVictoria 2ですね。本当に素晴らしい作品です。
4Gamer:
最後の最後に,日本の伝統となる悪名高い質問がありますので,様式としてうかがいます。日本のファンに向けてのメッセージをお願いします!
Corominas氏:
EU5はまもなく日本でもプレイできるようになります。是非プレイして,楽しんでください!
Lang氏:
EU5には我々の野心を詰め込んで作りました。ですのでプレイヤーの皆様も野心高く日本を選び,世界を征服し,それをコミュニティで共有してください!
4Gamer:
本日はどうもありがとうございました。
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