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名作アドベンチャーゲームの構造が解説された,イシイジロウ氏と北島行徳氏によるセッションをレポート[CEDEC 2025]
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印刷2025/07/23 20:11

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名作アドベンチャーゲームの構造が解説された,イシイジロウ氏と北島行徳氏によるセッションをレポート[CEDEC 2025]

 ゲーム開発者会議のCEDEC 2025で,「428 〜封鎖された渋谷で〜」「3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!」などを手がけたイシイジロウ氏北島行徳氏によるセッション「群像劇アドベンチャーゲームの可能性とその本質とは」が開催された。

 このセッションでは,両氏が手がけてきた作品や,名作アドベンチャータイトルの構造が解説されたほか,現在両氏が関わっている新作「シブヤスクランブルストーリーズ」についても語られた。また,ほかのセッションより長めの質疑応答が設けられ,そこで興味深いやりとりも行われた。

 本稿ではアドベンチャーゲームの構造解説をメインした,ダイジェスト版のレポートをお届けする。そのほかの部分まで含めた詳細版を後日掲載予定なので,そちらもぜひ読んでほしい。

※CEDEC運営事務局からの要請により,このレポートは講演の一部内容を省略したダイジェスト版となっている

イシイジロウ氏(右)と北島行徳氏(左)
画像ギャラリー No.001のサムネイル画像 / 名作アドベンチャーゲームの構造が解説された,イシイジロウ氏と北島行徳氏によるセッションをレポート[CEDEC 2025]

 イシイ氏は,「弟切草」「かまいたちの夜」という2つのノベルゲームの登場によって,ゲームとシナリオの関係が大きく変化したと考えている。

 それ以前は,シナリオが終わったらゲームが始まり,ゲームが終わったらシナリオが始まる……という“サンドイッチ”構造のものが多かったという。イシイ氏は「シナリオかゲームのどちらかが面白ければプレイできる」と,この構造のメリットを挙げつつも「システムに広がりがない」とした。

画像ギャラリー No.002のサムネイル画像 / 名作アドベンチャーゲームの構造が解説された,イシイジロウ氏と北島行徳氏によるセッションをレポート[CEDEC 2025]

 「弟切草」と「かまいたちの夜」によって,シナリオ自体をゲームするような構造が登場したのだが,両作の構造は大きく異なる。

 選択肢によって分岐するのは同じだが,「弟切草」はあみだくじ状の構造になっているのが特徴。あちらこちらの展開に飛べるため,“さっきまで恋人だと思っていた人がいきなり怪物になり,また恋人に戻る”といった突飛な話もあれば,とてもいい話としてまとまることもある。それが「弟切草」の面白さにもなっているのだが,イシイ氏はこの構造について「体験の均質化ができない」と表現した。

 「かまいたちの夜」はピラミッド状の構造を採用し,分岐の後に別の展開へ戻ることはできなくなった。これによって因果律が正しくつながるようになったのだが,イシイ氏は「それだけならゲームブックでもできる」と語り,本作の凄さは「入口にグッドエンドを作ったこと」だとした。

画像ギャラリー No.003のサムネイル画像 / 名作アドベンチャーゲームの構造が解説された,イシイジロウ氏と北島行徳氏によるセッションをレポート[CEDEC 2025]

 「かまいたちの夜」は,雪に閉ざされたペンションで起こる殺人事件を題材にしたミステリー作品で,ゲームの序盤にある選択肢を正しく選んでいくことで,事件解決(グッドエンド)へとたどり着ける。

 かなり難度が高いため,多くの場合は正しいルートから分岐したバッドエンドを見ることになるが,そこに至る途中でさまざまなヒントが得られるため,プレイヤーはそれを踏まえてまた最初からチャレンジする。

 イシイ氏は,一度死んでからグッドエンドが開くのではなく,最初から開いているところがとても美しく,衝撃的だったと語った。

 そして,プレイヤーがバッドエンドを何度も見ながらチャレンジを繰り返す「ループ構造」も“発明”だった。これはゲームのみならず,映像作品にも広がって,今や「ループもの」という1つのジャンルになっている。イシイ氏は「SF小説などにもループものはあったので,ゲームがすべてではないが,ゲームによってループ構造への理解は深まったのではないか」と話した。

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 続いて紹介されたのは,複数キャラクターの視点で展開される群像劇アドベンチャーの構造だ。イシイ氏は「マルチサイト」と呼んでいるという。

 マルチサイトの特徴は,ある登場人物の選択が,本人ではなくほかの人物に影響を与える「他人分岐」にあるのだが,これによって「提灯分岐」が持つ意味合いも大きく変わったという。

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 提灯分岐は,上の画像の右上に描かれているもので,「どちらを選んでも(本人には)影響がない」分岐。「右の道を行くか? 左の道を行くか?」という選択肢のどちらを選んでもその後の展開は同じといった感じのもので,1人の主人公で展開されるアドベンチャーゲームでは,あまり意味を持たない。

 だが,この提灯分岐を他人分岐として使うと,「何気ない選択が他人の運命を変える」という構図を作れるわけだ。

 上の画像は2人で展開されるマルチサイトだが,3人以上になると,その構造はさらに複雑になる。下の画像にその構造が描かれているが,ある選択が誰に影響するのかを示すには,本来三次元で表現されるべきもので,イシイ氏はA4の紙を円筒状に丸めてそれを説明した。

 「428 〜封鎖された渋谷で〜」のキャラクター選択画面が円筒状になっているのは,あるべき姿に倣ったというわけだ。

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 こうなってくると,シナリオを書くのが大変になるのは想像がつく。北島氏はマルチサイトの制作に当たって,時間を強く意識しているとのこと。そのために,マップを用意して各キャラクターの行動範囲やルートを作り,“横時間”を整理して各キャラクターのストーリーが矛盾を生まないようにしているという。

 さらに,キャラクター同士が遭遇したときのリアクションをよりリアルにするため,キャラクター設定の密度は普段以上に上げているそうだ。

 北島氏は,マルチサイトのシナリオ制作は,ゲームシステムを意識するディレクターとの二人三脚であるとも語った。

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イシイ氏と北島氏は,「タイムトラベラーズ」で,四次元構造にもチャレンジした。マルチサイトに“未来を動かすと過去が変わる”という要素を持ち込んだものだが,このシナリオ制作はさらに大変なものになったようだ
画像ギャラリー No.008のサムネイル画像 / 名作アドベンチャーゲームの構造が解説された,イシイジロウ氏と北島行徳氏によるセッションをレポート[CEDEC 2025]

 イシイ氏はマルチサイトアドベンチャーゲームに欠かせないものとして「未来をセーブする」機能を挙げた。

 これは一度ルートを開放した後,序盤の選択肢を変えてその影響を確かめたり,元に戻したりができる機能のこと。人によっては「できて当たり前」と感じるかもしれないが,アドベンチャーゲームには古いシステムを採用しているものも多く,序盤の選択肢を変えると以降は初回と同様のプレイが必要になるものもあるそうだ。この機能がしっかり整備されていると,プレイヤーだけでなく,開発のしやすさにもつながるという。

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 続いては,新たな可能性がありそうなアドベンチャーゲームのシステムが紹介された。

 その1つは「オープンワールドアドベンチャー」。これは「複数あるシナリオをバラバラの順番で体験し,その時系列を想像しながら物語を理解する」というもので,「Her Story」「十三機兵防衛圏」「ZERO ESCAPE 刻のジレンマ」などが該当するという。

 もう1つは「ローグライクアドベンチャー」。これはシナリオがランダムに発生するもので,「グノーシア」「DEATHLOOP」などがある。イシイ氏は「小説の神は作家で,ゲームになると開発者とプレイヤーだが,ローグライクアドベンチャーはそこにゲームシステムが割り込んでくる」と表現。そういった神々による思いもよらぬ展開に,主人公たちがどう対峙するかを見てほしいとした。

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「CEDEC 2025」公式サイト

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