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「まどか☆マギカ Magia Exedra」必殺技演出を徹底解剖! 短い映像でいかにキャラの魅力を伝えるか,そのこだわり[CEDEC 2025]
本セッションでは,スマートフォンゲーム「魔法少女まどか☆マギカ Magia Exedra」(以下,まどドラ)に携わる,WFSのシネマティクスアーティストの新谷雄輝氏,佐々木文哉氏,金子俊太郎氏の3名が,必殺技演出の制作ミッションと課題点,そして詳細な制作工程を解説した。
本来の意味である“演出”や,その演出に沿った3D映像作り。さらに,それをより良く見せるためのポストエフェクトのノウハウなどは,同じ制作畑の人にはよく参考になるだろう。
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魅力を最大限に届け,高クオリティを安定させるために
キャラクターの個性や美しさ,そしてカッコよさを最大限に引き出し,再生されるたびに愛着が増すよう,細部までこだわり抜いたという,まどドラの必殺技演出(ここでの演出とは“短い映像”という意味合い)。それらはどのようなテーマのもとで制作されたのだろうか?
はじめに新谷氏は,必殺技演出の制作におけるミッションが「キャラクターの魅力を最大限にファンに届ける」ことと説明した。
その課題として「品質を安定させ,高クオリティを維持し続けること」「必殺技演出自体の価値をどう作るか」の2つが挙げられた。
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チームは制作中,「今の時代にちゃんと届く演出」を安定して提供するにはどうすべきかを問い続けたという。
本作は,2024年7月にサービスを終了したゲーム「マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝」(以下,マギレコ)との差別化も求められていたが,従来のマギレコファンを安心させられ,なおかつ納得して楽しんでもらいたい新作でもあった。
そのためにも,ただ新しいものを作るだけでなく,「正当進化」であることをファンに示す必要があった。
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そこでチームは「原作再現+進化」というコンセプトを導き出した。これは,ファンを満足させる原作再現は当然のことながら,その良さを残しつつ,3D作品ならではの魅力もしっかりと創造するという意味だ。
それからチームは「アニメで見たあの場面を,今の技術で再解釈し表現する」ことを共通認識とし,開発を進めてきた。
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映像の基礎となるコンテ制作
必殺技演出の制作は,まず「コンテ制作」から始まる。
この工程については佐々木氏が解説した。
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コンテ制作は,字コンテ,絵コンテ,ビデオコンテの3工程に分かれる。まず字コンテは,必殺技全体の流れをテキストで書き起こした資料だ。プランナーから受け取った内容に加え,アニメやマギレコを参考に,必殺技で見せたい要素を言語化していく。
例えば「神々しさ」「大人の余裕」といったプレイヤーに伝えたいイメージも,ここで言語化しておく。
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次の絵コンテは,見た目もアニメ制作の絵コンテと大きく変わらず,後工程の作業者がひと目で必要な情報が分かるガイドにする。
ポーズやカメラなどに関しても,あとで大きく変更せず済むよう,この時点で綿密に“演出”する。もちろん,ここでの演出は映像を効果的に伝えるための構成や工夫といった,本来の意味の言葉だ。
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絵コンテ制作の工夫の例として,佐々木氏は以下の点を挙げた。
■内容と「ライン」を一致させる
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画面に対して垂直,または斜めのラインでキャラクターや要素を配置することを意識する。垂直なら安定感,斜めなら動きのある構図となる。
■分かりやすい絵作り
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ネガティブスペースを意識し,シルエットをはっきりと作る。またフォーカルポイント(空間内の視線を引く場所)を明確に設定し,顔から武器へといった具体的な視線誘導を考慮する。数秒の映像であるため,直感的に理解して楽しめる構成にすることが重要らしい。
■さまざまな角度からのカメラ
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同じような構図が続くと単調になるため,前,顔のアップ,横,後ろなど,多彩なアングルや情報量を取り入れて飽きさせないようにする。
■奥行きを意識した演出
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3D映像がより映えるように,画面の奥行きも積極的に使う。手前から斜め奥へ,その逆に斜め奥から手前へとカメラを動かすことで,ダイナミックな映像表現を追求する。
ほかにも衣装や表情,光を使った演出技法は数限りなくあるが,とくに重要なのは技の象徴となる「キメのカット」だという。これはほかのキャラクターの技と被らないよう,独自性を持たせることが必須だ。
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そしてビデオコンテを作ることで,どのような完成画面になるのか,演出制作に関わる全員が共通認識を持てるようになる。
壇上では演出の完成稿とビデオコンテが同時再生され,ビデオコンテの時点で「構図や意図は伝わる」映像になっていることが示された。
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3D映像で再現する「原作再現+進化」
ここからは,新谷氏がMAYA(キャラクターや背景の3Dモデル制作,アニメーション付けなどに使われる,業界標準の3D制作ツール)上でのカメラと,キャラクターモーション制作について解説した。
WFSではこの工程をレイアウト,プライマリ,セカンダリの3段階に分けて進行しているという。
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■レイアウト
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コンテに合わせてポージングさせ,映像を仮組みする工程。2Dイラストで表現された魔法少女のカワイさやカッコよさを3Dで最大限アピールできるよう,演出の枠組みを慎重に構築する。
なかでも顔の表現はなによりも重要であり,顔が腕や武器で隠れすぎないよう,カメラの角度をずらすなど配慮する。また,ワイドディスプレイの19.5:9からiPadの4:3まで,端末ごとの画面比も考慮し,絵が破綻しないレギュレーションを設けている。
■プライマリ
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演出内容と動作の意図をくみ取り,モーションを組み立てる工程。「盾を一気に上げて頭上で少しタメを作り,また一気に下ろす」といったメリハリのある動きにすることが,ポイントとして挙げられていた。
■セカンダリ
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狙った映像になるように仕上げる段階。髪や衣装の動きといった「揺れもの」は,すべて手作業でモーションをつける。
フェイシャルモーションもコンテをもとにシェイプエディタを使用し,テンプレートを組み合わせてつけていく。
それから新谷氏は,モーション・カメラ工程で実現したい「原作再現+進化」について,以下のように定義した。
1. あのシーンを3Dで表現
2. キャラクターの持つ魅力を,ポーズ/モーションで表現
3. 3D上の「ウソ」
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1については,原作が持つ勢いのある表情やポージングを再現することに注力する。しかし,既存のプリセットでは表現しきれなかったため,専用の表情ターゲットを作成し,原作の表情を忠実に表現した。
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2の例は以下のスライドが分かりやすい。動きの少ないカットでは,メリハリのある格好いいポージングを追求した。髪の揺れで表情が一瞬見えるといった演出で,かわいらしさを表す工夫も施されている。
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3については,モデルの大きさを一部変えることで,映像に「2Dアニメ的なケレン味」を出す方法だ。具体例は以下のとおり。
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次のUnity組み込みは,MAYAで作ったモーションデータをUnityで表示できるようにする工程だ。後ろに続く工程で印象がブレないよう,仮のライトを置きつつ作業を進めていく。
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ここでは実際に組み込んだモーションと,エネミーの絵をうまく重ね合わせることで,さまざまな大きさ・数のエネミーに攻撃がヒットしているように見せられることが示された。
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巨大な「舞台装置の魔女」の表現では,当初はほとんどが画面からはみ出していたが,新たなカメラを追加し,ON/OFFで切り替え可能にするなど,Unity上での細かな組み込み調整が加えられた。
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エフェクトと光で映像に深みを与える
エフェクトについては,f4samuraiとSPARKによる3Dエフェクト制作エンジン「SPARK GEAR」を使用し,演出素材を作成しているという。
セッションで紹介された例では,「重厚な雰囲気」と「絶望感」をコンセプトに,絵コンテ以外にも詳細な絵を加え,作業者にイメージを共有することで質の高い映像を実現したと述べていた。
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ライティングについては金子氏が解説した。主な業務工程はUnity上で光源の設定やライティングの調整を行うことだ。
1. メインライトの方向設定
2. 色調補正によるトーン演出
3. 追加光源による演出強化
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メインライトの角度で場面を自然に見せ,色調補正やシェーダの機能を補助的に使い,その技がどんな属性なのかを演出していく。
さらにポイントライト(一点から全方向に光を放つ光源),リムライト(被写体の輪郭を強調し,背景から際立たせるための光源),フィルライト(メインライトが作る影を柔らかくし,明るさを補うための補助光源)といった追加光源を用いて,情報量を上げていくという。
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ライティングが演出に与える影響は大きく,例えば五十鈴れんの演出では「可愛さ」「かっこよさ」「儚さ」の3つのキーワードに基づき,フットライト(下方向からの光源)を効果的に使用したと語る。
逆光で格好いい一瞬を作り出したり,シンプルな順光でかわいらしさを際立たせたりと,絵コンテの段階からライティングの使い分けを意識して演出をつけているそうだ。
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ポストエフェクトは,カメラが描画した映像に対して最終的な仕上げ処理を行う工程であり,Unity上で最終的な絵を作り上げていく。
使用頻度が高い,または画面に大きな効果をもたらすものとしては,ブルーム(光の拡散を表現し,幻想的な雰囲気を出す),グラデーション(色の移り変わりで情感を付与する),被写界深度(カメラのように遠景や近景をボカし主題を際立たせる)などが挙げられた。
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余談として,カットシーンムービーも必殺技演出と同じチームで制作されていることが明かされた。こちらはプリレンダだが,必殺技演出への印象と差が出ないよう,一貫した品質を保つ努力がなされている。
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さらに詳細なノウハウとして,色収差の最適なかけ方についても語られた。これはカメラレンズの色相ズレをデジタルで再現したエフェクトで,本作では画面全体にかかるものと,画面周囲のみにかかるものの2種類を用意しているという。
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ポイントとしては,「よく見たら気づく」くらいの絶妙な塩梅で使うことだ。これにより,映像の印象を大きく変えることなく,どこかリッチな印象を与えられる。
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画面周囲への処理の例や,そのほかの使用しているポストエフェクトも紹介された。これらにより受け手の視線を誘導したり,技のインパクトを引き上げたりしている。
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以上が,一般に「必殺技演出」と呼ばれる映像を制作するうえで,効果的に伝えるための構成や工夫だ。
数十秒の映像でも複数の工程と,多人数の作業者が関わってくる。その中でイメージをブレさせないためには,コンテでキーワードを言語化・具現化しておくことがとにかく大切だという。それが各工程にどう伝達されていくかを図にすると,以下のようになる。
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こうした言語化により,チームで同じ認識を共有でき,まどドラでは安定したクオリティを達成できたと語り,講演は締めくくられた。
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- ライター:高橋祐介
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(C)2024 Magica Quartet/Aniplex,Magia Exedra Project
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