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レジェンドサッカー選手を集めただけじゃない。“ストーリー”を生んだから成功した「Nexon Icon Match」の舞台裏[NDC25]
本講演には,NEXON Koreaのチェ・インギ氏が登壇。2024年10月19日・20日にワールドカップクラスのレジェンドサッカー選手たちを集めて開催した,同社主導のサッカーイベントの舞台裏が解説された。
率直に言うとゲームに直接関わる話ではないが,ただ作る・見せるだけではないブランドストーリー作りの一例として参考になるだろう。
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主題のNexon Icon Matchは,サッカー史に名を刻むレジェンド選手が韓国・ソウルワールドカップ競技場に集まり,Spear(矛)チームとShield(盾)チームに分かれてぶつかり合ったイベントだ。
レジェンド選手を招いた一大イベントというのは過去に前例があるが,「フォワードの名手と,ディフェンスの名手をぶつける」といった限定的な構図は類例がなく,本イベントがその走りとなる。
現地には,過去に欧米のサッカーアワード,バロンドールやヨーロッパ・ゴールデンシューを獲得した名選手として,エデン・アザール,アレッサンドロ・デル・ピエロ,パトリック・ヴィエラ,ティエリ・アンリ,カカなどが集い,韓国からもパク・チソンなど複数名が参加した。
しかし,なぜゲーム会社が類を見ないサッカーイベントを開催したのか?
今回はそこにかけた思いと,企画を成功させるに至った過程が,同社でサッカーやeスポーツへの支援に従事している,サッカー大好きのチェ・インギ氏から,マーケティングの観点で語られていった。
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ネクソンは,モバイルゲーム「EA SPORTS FC MOBILE」(iOS / Android)の日本版と韓国版をサービスしていることで知られる。ただ,サッカー業界へのアプローチはゲームのみならず,以前から盛んだったという。
例えば,プロサッカーチームへの投資をはじめ,韓国プロサッカー連盟と共同で,少年サッカー支援プロジェクト「GROUND.N ストーブリーグ」を推進しているのもそのひとつだ。
ひと言で言うと「彼らは以前から本気だった」らしい。そしてこれらの源は,単にサッカーを楽しむのではなく,サッカーファンにより楽しんでもらいたいという思いがあるそうだ。
そのため,このNexon Icon Matchも「大企業が突然なにかやりだした」わけではなく,これまでの活動の延長線上にあると述べていた。
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韓国では,カタールで開催された2022 FIFAワールドカップの翌年から,サッカー人気が目に見えて増大したという。EA SPORTS FC MOBILEを例にとっても,売り上げが前年比で12.3%上昇するなど,(本当にワールドカップだけの効果かは置いといて)確かな影響があったそうだ。
このことから同社は「メガイベントがスポーツ振興に役立つ」と確信を得た。しかし韓国サッカー業界では,2023年に,メガイベントに相当する催しがなかった。そこで同社は「なければ自分たちでやる」と,外部的要因には頼らず,自社開催で正面突破を図ったという。
それを実現させるに至ったのは,さすがに体力自慢の体格あってこそだろう。だが,ドリブル中央突破を選んだ決断力は並ではない。
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起案時,最初に考えたのは「自分たちがなにを提供できるか」だった。いろいろと悩んでいたところ,チェ・インギ氏自らが「ロナウドとチャ・ボムグンが一緒のチームだったら?」などと妄想していたことをきっかけに,ドリームチームを結成させることを思いついた。
まさに,講演名の「ファンタジーからリアリティへ」そのものだ。
しかし,レジェンドマッチ自体は世界で過去に開催例があるので既存のフォーマットだ。また,引退した選手は全盛期のコンディションを引き出せるわけでもない。
そこで同社は,選手のネームバリューにだけ頼らず,ゲーム会社ならではのアイデアで,「フォワード名手と,ディフェンス名手のチームをぶつけ合う」といった考えにたどり着いた。
この結果なら誰もが知りたがる。そう確信したそうだ。
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しかし,いかにネクソンであろうとも,自分たちだけでこのイベントを成立させるのは難しい。そこで足りない部分は外部に頼った。
最初に挙がった問題は,サッカーファンに訴求でき,さらにグローバルに届けられるチャンネルがないこと。そこで声をかけたのが,韓国サッカー媒体の「SHOOT FOR LOVE」だった。
さらに彼らには,ただ映像を制作・配信してもらうのではなく,“大会自体のストーリー性”生み出すことを頼んだ。以降は各種専門機関とも組み,最終的に10を超える組織と一大プロジェクトを構築した。
選手たちに打診するときも,過去の実績だけに着目するのではなく,「この選手は誰と仲良しか」を綿密に調べた。そして選手自身の関係性と人脈を活用させてもらい,参加者の輪を広げていった。戦略はシンプルに「あいつも行くの? じゃあ俺も行く!」作戦だったという。
そのうえで,スポーツの勝敗は不確実性だからこそドラマを生む。ゆえに両チームのバランスには最善の注意を払い,簡単には勝敗予想できないグルーピングを追求した。さらに全プレイヤーが試合中,最低限のパフォーマンスを披露させられるよう整えることも大事だったそうだ。
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イベント実施日は2日間だけだが,事前キャンペーンは念入りに仕込んだ。Nexon Icon Matchの発表は,選手たちのインタビュー映像からはじまり,そこで選手同士が自慢の矛と盾を武器に挑発し合った。それこそ,プロレスのアングルとでも言えば分かりやすいだろうか。
そうしてPVの段階でドラマを作り上げ,世界観を構築。スローガンとしたのは「この世にないマッチ この奇跡を目撃せよ」だ。
こうした選手同士の関係性が垣間見える一連の動画は大きく評価され,コメントでも「新しい動画が投稿されるのを毎日待っています。たくさんのレジェンドを見られて,涙が出る!」などと感激された。
宣伝期では,バイラルと動画投稿で露出量を引き上げた。先行予約チケットは受付開始から10分で売り切れとなった。公式サイトの勝敗要素キャンペーンにも約100万人が参加したとしている。
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そしてイベント当日が訪れる。会期は2日間。初日は「おもしろさ」を重視し,2日目は「感動」を与えられるよう構成した。
初日のイベントマッチはおもしろさ重視で,パワーシュート対決やフリーキック対決,1on1などで盛り上げた。レジェンドたちが互いに子供のように笑ってプレイする様子に,ファンたちも喜んだ。
2日目のメインマッチは,誰もが時代を振り返って感動できるよう演出した。とくに各選手の入場時は,EA SPORTS FC MOBILEのプレイヤーカードの演出をリアルで再現し,壮大な入場風景を作り上げた。
2日目の総括についてチェ・インギ氏は,「韓国のすべてのサッカーファンたちが感動した1日でした」と評していた。
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ここからは,製作過程で起こった課題について語られた。まず最大の問題となったのは,エンパワーメント(権限委任)だ。
というのも,プロジェクトの規模は膨張したが,同社のマーケティングチームは担当者は全部で5人。各々,各社の約20人とやり取りすることになったことで,業務の意思決定に深刻な遅延が発生しだしたという。
そこでチェ・インギ氏は,チームの誰もが意思決定をできるよう,判断基準のリストを用意し,責任の基準と範囲を明確化した。
これにより,チームメンバーはそのときどきで,リストに則った意思判断を下せるようになり,コミュニケーションコストが激減したそうだ。
単純な話,「(上長に)これどうしましょっか?」の会話を消滅させることに成功したのだろう。同時に,担当者らは自分の仕事に対する責任感がより身近になり,チーム力もさらに醸成していったとのこと。
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課題はほかにもあった。イベント当日までの約200日間で,35人のレジェンドプレイヤーを連れて,20本以上の動画コンテンツを制作する。この目標を達成するのも時間との戦いであった。
そこでチェ・インギ氏は,すべての動画撮影を効率的に,制限時間内に撮影できるよう,選手グループを4人単位で分けた。そして,撮影スタッフとサポートスタッフを各グループに専用で配置し,お手洗い休憩をのぞいたすべての撮影作業の導線とスケジュールを管理した。
これに伴い,撮影は1分の遅延も発生することなく成立できたという。この成果については「私たちではなく,SHOOT FOR LOVEのおかげです」としていた。
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イベント結果の話に移ると,可視化された指標はいずれも大きな成果を上げたという。まず会期2日間で,会場に約10万人のサッカーファンを動員できた。動画チャンネルは合計で約2.2億PVを記録。この数値は,SHOOT FOR LOVEの3年間の合計PVと同等近くになったそうだ。
イベントのことを紹介してくれた他者の動画は1700本を超え,再生回数も合計で8200万PVを記録。世界各地でのテレビ視聴者数も600万人を突破した。
さらに選手たちの個人SNSアカウントのフォロワー数上昇にも波及したほか,イベント当日はSNSで約5万件も言及されたという。
ついでに芸能人やインフルエンサーも自発的にSNSで発信することで,さまざまなメディアで取り上げられるなど,全体的にWin-Winな相乗効果が伝搬したと語られた。
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このNexon Icons Matchは,すでに次期開催のシーズン2が予定されている。シーズン1では結果として「盾チームが圧勝」したことから,次回はここまでの世界観を引き継ぎ,敗北した矛チームがリベンジを果たす,といったストーリー性で展開していくとしている。
これに対して,会場の質疑では「コンセプトの繰り返しか」という意見もあったが,今は「左利きのプレイヤーvs.右利きのプレイヤー」などの新たな区分けを設けるのではなく,1年目があったから成立する2年目の展開を,今年限りのドラマを見せることを決断したそうだ。
なお,シーズン2は6月6日時点で事前告知がスタートしている。そこでは前回の矛チームで敗北したパク・チソン選手が,韓国サッカー界の古いネットミームを用いて再試合を訴えた。これにより,公式サイトには1週間で120万人の同意署名(「またやって」の意思)が集まった。
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ただ,現状の懸念点としては,シーズン1の反響があまりに大きく肯定的だったことで,シーズン2では越えるべきハードルが引き上がりすぎていることだという。
そのプレッシャーを抱えつつも,チェ・インギ氏は「ファンのためのファンタジーの実現」を目指す。その意気込みは,「FCバルセロナの試合よりも人気を得ると思います」としていた。
シーズン2のネタバレは「パク・チソン選手だけは確定です(笑)」としつつ,7月から順次,情報公開していくという。こうしたブランドストーリー作りは2020年代から盛んに叫ばれ,流行し,その成果が語られきってはいない時期にある。しかし,本件はブランディングにおいて,目指すべきファンタジーの一例になったと言えるだろう。
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