連載
今,世界を席巻する妖怪たちと仲良くなるための一冊「本朝妖怪年代紀」(ゲーマーのためのブックガイド:第49回)
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「ゲーマーのためのブックガイド」は,ゲーマーが興味を持ちそうな内容の本や,ゲームのモチーフとなっているものの理解につながるような書籍を,ジャンルを問わず幅広く紹介する隔週連載。気軽に本を手に取ってもらえるような紹介記事から,とことん深く濃厚に掘り下げるものまで,テーマや執筆担当者によって異なるさまざまなスタイルでお届けする予定だ。
日本のアニメコンテンツが昨今,世界を席巻しているという。
2025年7月16日に全米公開された劇場アニメ「呪術廻戦 懐玉・玉折」を皮切りに,「ダンダダン」の2期テレビシリーズの全世界同時配信,「鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来」「チェンソーマン レゼ篇」の全米ロードショーと続き,そのいずれもが世界中の観客の涙腺を崩壊させているようだ。
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ここで挙げた作品が支持されるのにはさまざまな理由があるだろうが,どれもが妖怪を扱ったタイトルというのは一つ共通点として挙げていいのではないだろうか。呪霊や鬼は言わずもがな,「チェンソーマン」の公安部隊が頻繁に契約するのは妖狐だし,今日も妖怪たちは地球上を休むこともなく跳梁跋扈し,洋の東西を問わず人間たちを魅了し続けている。
ここは我々日本人としても,妖怪についてもう少し知識を増やしておくべきではないだろうか。そもそも“Yokai”という単語自体,2013年の「妖怪ウォッチ」の発売以降,世界共通語になった感がある。ともすれば,いつ海外のオタクから妖怪について質問されるとも限らないのだから。
今回紹介する「本朝妖怪年代紀」は,そんな知識で武装するのに最適の一冊。一家に一冊そなえておきたい妖怪のバイブルである。
「本朝妖怪年代紀」
編者:工作舎(米澤 敬)
版元:工作舎
発行:2025年6月30日
定価:3200円(税別)
ISBN:9784875025795
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本書は神代から明治維新前後に至るまでの,本邦における不思議で奇怪な事件を図版と共にまとめた“怪異譚年表”だ。元となったのは藤澤衛彦氏が1960年に著した「図説日本民俗学全集」に収録の「日本怪異妖怪年表」だが,そのときの項目数が600ほどだったのに対し,「本朝妖怪年代紀」の項目は,なんと2500余にも及んでいる。単純に考えて4倍強にパワーアップしており,とにかく読み応えがすごい。
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表紙を見てみると,大きく記された邦題の横に,潜むように「Chronologica Curiousa」とラテン語による副題が添えてある。Chronologicaは確かに「年代紀」だが,Curiousaは通常「妖怪」を意味しない。「奇書」――すなわち珍しい知識が載った本を指す言葉である。実際,本書の各項目には必ず原典となった文献が記載されているので,確かに「奇書の年代記」でもあるわけだ(もちろん巻末にも文献リストがある)。
また本書における「妖怪」は,必ずしも我々が知る妖怪を意味しない。「妖」はそのままアヤカシだが,「怪」は怪異のことである。つまり狭義の妖怪だけでなく,さまざまな怪奇現象が載っていて飽きさせない。彗星や幻日,奇妙な物質の落下といった,現在では科学でおおよそ解明されている現象についても書かれていて,当時の人たちがこれらをどう捉えていたかが垣間見えるのだ。
本文は,年代ごとに7章に分かれている。
- 第1章:神代,大和,飛鳥,奈良(神々と英雄の時代)
- 第2章:平安(怪異と陰陽師の全盛)
- 第3章:鎌倉,室町
- 第4章:戦国,安土桃山
- 第5章:江戸前期
- 第6章:江戸中期
- 第7章:江戸後期
鎖国で文化が爛熟した江戸期はとくに文献が多い(版本文化が普及して本が庶民の娯楽になりえる段階になったため)ということから三分割されていて,前から順番に読んでいくと,日本人が世界をどう認識していたのか,その精神史をワクワクしながら追いかけられる。編集部の売り文句が「日本史の忘れもの。」なのも頷ける作りである。
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見開きを前提にしたレイアウトも,構成がフォーマット化されていて読みやすい。
上側は本文で,怪異の項目が時系列順に箇条書きされている。人魚や河童,天狗,さらにはアマビエといった妖怪の初出がきちんと明言されていて,パラパラ眺めているだけでも面白いだろう。
ただ気をつけたいのは,この順番だ。“書かれた順”ではなく,各資料で言及された年代順でまとめられているため,例えば8世紀の文献のあいだに,18世紀の文献がいきなり挟まっていたりすることがある。項目の末尾に出典が書かれているので,混乱しそうなときはここを確認するといいだろう。
左端は本文に対する傍注がまとまっていて,特定の項目についてのより深い知識や,別の伝承などが知れるようになっている。
右下には本文に関連した引用句,もしくは編集部による洒落たまとめが入り,その左――見開き下部には,左右一点ずつ図版が配置されている。そのページの項目から2つを可視化してくれるので目に楽しく,よって全体で400点以上の図版が楽しめる。
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なお巻末には「納め口上」と題して,10月17日に「妖怪学」で文化勲章を獲得したばかりの小松和彦氏が,妖怪研究の意義を語る文章を寄稿している。過去の成果のみならず,未来の展望にまで触れているので,妖怪に興味がある人は必読だろう。
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この番外篇に書かれているのは,歴代の研究者や文筆家による妖怪の定義である。すなわち前記の小松和彦氏のみならず,荒俣 宏氏,幸田露伴,井上円了,寺田寅彦,柳田國男,紀貫之,鴨長明,清少納言,荷田春満という面々で,時代ごとの妖怪のとらえ方の違いが面白く,これを読むだけでもすごく得をした気分になる。
また傍注に当たる部分は各章のまとめになっていて,なんとカバーにしか書かれていない文章なのだ。老眼の筆者には厳しい,しかも銀色の細かい文字なのだが,これを読み解く作業に,子供のように心がときめいてしまった。
そんな幼子の心を忘れない読者諸氏に,ぜひ手に取ってもらいたい一冊である。
■■健部伸明(翻訳家,ライター)■■
青森県出身の編集者,翻訳家,ライター,作家。日本アイスランド学会,弘前ペンクラブ会員,特定非営利活動法人harappa理事。著書に「メイルドメイデン」「氷の下の記憶」,編著に「幻想世界の住人たち」「幻獣大全」,監修に「ファンタジー&異世界用語事典」「ビジュアル図鑑 ドラゴン」「図解 西洋魔術大全」「幻想悪魔第大図鑑」「異種最強王図鑑 天界頂上決戦編」など。ボードゲームの翻訳監修に「アンドールの伝説」「テラフォーミング・マーズ」「グルームヘイヴン」などがある。
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