
業界動向
Access Accepted第832回:Microsoftのリストラ批判からビジネスモデルに対する問題提起まで
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2022年から顕著になり始めた欧米ゲーム業界のリストラの波により,この3年半ほどで3万5000人の仕事が消失してしまったという。そのデータに今月,Xbox Game Studiosが加わった。ゲームビジネスは好調とされているものの,何年もゲーム制作に携わってきた開発者たちが,そのプロジェクトが公開されないまま次の職探しをするという悲劇が生まれている。そうした利益追求や効率化の企業の姿勢を批判し,さらにはGame Passのようなサブスクリプションサービスのゲーム産業への弊害も論じ始められている。
開発途中の新作が次々と中止に
日本時間2025年7月3日,Microsoftが9000人にも及ぶ従業員をリストラを行い,同社のゲーム部門も少なくない影響を受けたことは既報のとおりだ(※リンク)。2020年末のThe Game Awardsでアナウンスされていた「Perfect Dark」は開発中止に追い込まれ,開発のためにXbox Game Studiosがカリフォルニア州サンタモニカに立ち上げたThe Initiativeが閉鎖されることになった。
「Perfect Dark」(パーフェクトダーク)といえば,2000年にRareがNINTENDO 64向けにリリースしたスパイアクションゲームだ。この成功を受けて,同社は2002年にXbox Game Studios傘下となり,IPを活用してThe Initiativeが“仕切り直し作品”の開発を託されていた。
The Initiativeは,「トゥームレイダー」リブートシリーズの成功がよく知られる元Crystal Dynamicsのダレル・ギャラハー(Darrell Gallagher)氏をヘッドに,2018年に設立されたメーカーである。つまり,Xbox Game Studiosは大きな可能性を持っていたであろうブランドをXboxプラットフォームで再生することなく,さらにはThe Initiativeにも1本のチャンスを与えることなく,プロジェクトをカットしてしまったことになる。
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また,リストラはRareにも及んでおり,2019年に発表されていたアクションアドベンチャー「EVERWILD」も開発中止の憂き目にあっている。
すでに10年近い開発期間が費やされており,なかなか進まないプロジェクトに鉄槌が下されたとも想像できるが,過去の実績には申し分のないデベロッパだけに,今回の決定に疑問を感じる人も多いだろう。
Zenimax Online Studiosが「The Elder Scrolls Online」の後継作となるべく,コードネーム「Darkbird」として開発を進めていたプロジェクトも中止になったが,合わせて同社の設立から18年以上にわたりMMORPGの開発チームを率いてきたマット・フィラー(Matt Firor)氏の辞職が公式X(※リンク)にて公表されている。
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さらに,FPS界の大御所であるジョン・ロメロ(John Romero)氏がアイルランドのダブリンで率いていたRomero Gamesの一時休業がアナウンスされた。Romero GamesはXbox Game Studiosの傘下ではないものの,次回作のパブリッシング提携をしていたと思われ,公式Bluesky(※リンク)ではプロジェクトのキャンセルを報告し,新たなパブリッシャを探しているところだという。
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ゲーム業界のリストラに対する企業“不倫理”への疑問
今回のリストラについて,Xbox Game Studiosはゲーム業界の内外から多くの批判を受けている。
Microsoft GamingのCEOであるフィル・スペンサー(Phil Spencer)氏は,社内向けに送ったメールで「当社のプラットフォーム,ハードウェア,そしてゲームロードマップは,かつてないほど力強くなっています」と綴った。確かに,Microsoftは2025年第3四半期の純利益が前年同期を18%も上回る,258億ドル(約3兆6600億円)に達したことを公表している(※リンク)。
それにもかかわらず,ファンが期待していた新作の開発を中止し,効率化の名のもとに従業員やサードパーティとの契約を切り捨ててしまうばかりか,スペンサー氏ら上層部が責任を取らないことに憤りを感じる人が多いようだ。
Warner Bros. Gamesの「ゴッサム・ナイツ」では脚本を務めたミッチ・ダイア(Mitch Dyer)氏も,個人のBlueskyアカウント(※リンク)で「1年間で2万人近くを解雇しながらも,幹部たちが職を維持できるのは信じ難い。Microsoftのリーダーシップとして,恥ずべき行為だ」と批判する。
また,かつてXboxチームに在籍し,現在はThe Pokémon Companyのテクノロジー担当副社長であるエリック・ニュースタッダー(Eric Neustadter)氏は「大好きな業界に何が起こっているのか,見ていて胸が張り裂けそうだ。インセンティブ(動機付け)があまりにも乖離していて,面白いゲームや利益を生むチームが重要視されなくなっている」と自身のBluesky(※リンク)で述べた。
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ほかにも,BioWareのナラティブディレクターであるジョン・エルパー(John Elper)氏は「18年間,この業界に身を置いてきたが,これまでで最もひどい状況だと自信を持って言える」と,解雇された業界の仲間を慮るコメントをBluesky(※リンク)に投稿した。
先日,「Dosa Divas」をアナウンスしたOuterloop Gamesを率いるクリエイティブディレクターのチャンダナ・エカナヤケ(Chandana Ekanayake)氏も「大手はリストラして開発者を無駄にし,必要なときに求人するというサステナブルじゃないサイクルを続けている。一方で小さな開発チームは資金不足や新規プロジェクトが取れなくて,スタジオが閉鎖されたりレイオフが起きたりしている。まったく異なる2つの現実が並行して存在しているようだ」と個人のBluesky(※リンク)で批判を展開している。
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EA Japanのゼネラルマネージャーである野口ショーン氏も自身のX(※リンク)を通じて,「個人的な意見だが,7〜10年をかけて開発されていたゲームを中止するのは最悪の決断だと思う。キャリア全体の4分の1を完全に失うことになるかもしれない」というメッセージを公開して,デベロッパたちに同情を寄せると共に「早すぎる制作発表は控えるべき」との見解を示している。
Game Passは“毒”なのか?
少し異なる見解を述べているのが,「Arx Fatalis」や「Dishonored」シリーズで知られるArkane Studiosの創設メンバーの1人,ラファエル・コラントニオ(Raphaël Colantonio)氏だ。同社は2010年にBethesda Softworksに買収されており,さらにXbox Game Studiosの買収前となる2017年に「ゲームではなく商品を作っているような気分になった」として退職。現在はWolfEye Studiosで,2022年にリリースされた「Weird West」に続く新作を開発中だ。
コラントニオ氏は自身のX(※リンク)に「どうして誰も,最も大きな問題について語らない? そう,Game Passだ」と投稿。「Game Passは持続不可能なビジネスモデルであり,ここ10年,業界に悪影響を及ぼしてきたと私は考えている。しかし,いつかは現実に直面する。Game Passはほかのビジネスモデルを潰すか,Microsoftが継続を諦めてしまうか,どちらかになる」と続けている。
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ご存じのように,Game Passはサブスクリプションモデルであり,安価な料金で何百本という最新ゲームやクラシックなタイトルをプレイできる。ゲーマーにとっては非常に利点の多いサービスだ。
そのため,コラントニオ氏の意見はゲーマーから多くの批判も受けており,「物価ばかり上がって賃金が変わらないから,サブスクでしか遊べないんだ」といった反論が目立つ。
その一方,コラントニオ氏が示唆するように,エクスクルーシブ化によって開発費の回収が保証されたファーストパーティやサードパーティには不健康,つまり良い作品に仕上げる努力を怠る風潮が出てきても不思議ではないし,平凡な作品があふれるようになればビジネスモデルの失敗もありえるだろう。
実際,Game Passが赤字を出し続けているという噂は,Forbesの記事(※リンク)をはじめとして以前から語られている。経営効率化に専念するMicrosoftが今後,どんな判断をするのかも気になるところだ。
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ゲーム開発者の解雇や新作の開発中止といった動きに端を発し,経営者批判やビジネスモデルに対する不安が広がるなど,7月に入ってからXbox Game Studiosを巡る話題が騒がしくなってきた。自主開発路線を転換し,ASUSと協業する形で携帯型ゲームデバイス「ROG Xbox Ally」「ROG Xbox Ally X」を年内に投入する予定だが,同社にはゲーマーやゲーム業界との丁寧な対話がこれまで以上に求められているのかもしれない。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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