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Access Accepted第829回:口は災いの元。リーダーたちの発言が物議を呼んだゲーム関連の話
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印刷2025/06/23 11:00

業界動向

Access Accepted第829回:口は災いの元。リーダーたちの発言が物議を呼んだゲーム関連の話

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 言わなければいいのに,つい変なことを言ってしまって,他人に嫌な思いをさせたり,気まずくなってしまったりするというのは,誰にだって日常的に起こり得ることだろう。ただ,それがゲームビジネスにからみ,重要ポストについている人のひと言となると,ゲーマーコミュニティの信頼を失墜させ,後戻りできないほどのダメージを負ってしまうこともある。SNSで情報が簡単に拡散するようになったこの時代,ゲーム産業のリーダーたちもいろいろとやらかしている。


SNS時代に新作ゲームの情報を発信することの難しさ


「口は災いの元」「ゲーム業界」などのキーワードでAIに作ってもらったイラスト
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 「口は災いの元」ということわざは,中国古代の法家思想を源流とし,戦国時代の「韓非子」などに類する考え方が見られる。五代十国時代の官僚・馮道(ふうどう)が語ったとする説もあるが,明確な出典は定かではない。この思想は,鎌倉時代には禅宗や儒教とともに日本へ伝わり,武士の行動規範に影響を与えたという。さらに西洋でも同様の価値観が根づいており,新約聖書「マタイによる福音書」には,「自分の言葉によって罪に定められる」といった記述も見られる。

 暴言や失言は,日本的な価値観では「和を乱す行為」であり,寡黙な人のほうが信用される傾向にある。そして筆者は,どちらかというと信用されにくい,おしゃべりなおっさんだ。

 それはともかく,古くから教訓として人類史で語り継がれてきたにも関わらず,現代人も言動で失敗してしまうことは多い。ゲーム業界で思い出されるところでは,2018年11月に開催されたBlizzard Entertainment主催のイベントBlizzCon 2018でのことだ。

 その顛末は当連載記事でも触れているが,あらためて説明しよう。

 ことの発端は「Diablo IV」についての情報を心待ちにしていたPCゲーマーたちを裏切るように,スマートフォン専用(当時)の新作として「ディアブロ イモータル」の開発を,Blizzard Entertainmentがアナウンスしたことだ。会場でブーイングを受けた開発者は,「皆さんだって,スマホくらい持っているでしょ」と,場を和ませようとした発言が,多くの批判を受けることになってしまった。

 Ubisoft Entertainmentの「アサシン クリード シャドウズ」もデベロッパの発言が災いの元になった例だろう。制作発表時にインタビューで,「このゲームは史実に基づいている」「我々の視点で日本史を描く」というような発言をしていたにも関わらず,史実とは異なる描写が多く,反発を買い,その後の評価を落とした原因にもなった。

発言ではないが,古い話では2000年にEidos Interactiveが行った広告のキャッチコピーは,「ジョン・ロメロはお前たちを彼のメス犬にする」というもので,「DOOM」以来の人気者だったジョン・ロメロ(John Romero)氏の名声を凋落させたことがあった
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 こうした大規模な制作発表の際,インタビューを受ける開発者は広報と話し合い,想定される質問とその受け答えや,その時点では明らかにしてはいけないことを踏まえ,事前にトレーニングすることが多い。
 それでも,コミュニティの反応を予想できていなかったり,間違った表現をしてしまったりすることも多い。さらに,言葉尻を切り取られて違った意味で拡散されたり,他国のメディアによる取材では「Lost in Translation」(翻訳過程で細かな文化的ニュアンスが失われてしまうこと)で言いたいことが伝わらなかったりということは,ゲームに限らず起こり得ることだ。

 SNSの利用が一般的になった現在では,想定を超えた範囲にまで情報が一気に広がり,大炎上にもつながってしまいやすい。SNSはそんな危険性をはらみつつも,広報面では非常に効果的に作用するようになってきた。そのため,デベロッパがTwitch,YouTube,Discord,Xなどのサービスを使って,直接的に,そして安価にゲーマーコミュニティにアプローチできるようになっている。

 ディレクターやプロデューサーレベル,もしくは経営に関わる上層部でもサービス精神が旺盛な人は,自身の判断で軽はずみな発言や書き込みを行ってしまい,それが尾を引いて大きな「災い」になってしまうこともある。前置きが長くなったが,今回はゲーム業界に絡む「災いの元」になったリーダーたちの言動を紹介しよう。


ゲーマーであることをアピールするためにセリフを使ってみたものの……


 言動が注目されている世界的な有名人といえば,世界一の富豪であり実業家のイーロン・マスク氏だろう。昨年末にトランプ政権が発足してからは政治との関わりを強めていたが,テスラ株も急落をしたことで決別を果たし,今はSNS上でトランプ大統領と小競り合いを繰り返しているような状態だ。

 そんなマスク氏は,xAIにゲーム開発部門を2024年に設立し(関連記事),日ごろからゲーマーを自称している。

 昨年,彼は「ディアブロ IV」のエンドコンテンツ「名匠の奈落」のピットランで,世界トップ20にランクインするクリアタイムを達成したが,多忙なマスク氏がゲームをやり込む時間があったとは考えにくく,「誰かを雇ってプレイさせている」という疑惑が持ち上がった。

 さらに,その年末になると「Path of Exile 2」で成長し切ったハードコアキャラクターをライブストリーミングで披露していたが,マナの回復方法を知らなかったり,インベントリがいっぱいでアイテムが拾えなくて困惑していたりと,ゲームの基本的なプレイを理解できていない様子で,いわゆる「エアプ」疑惑が深まった。

 マスク氏は最近,不法移民の強制立ち退きに反発する集会を援護し,「最近,これを思い出した人っている?」というメッセージをXに投稿した。そこに添えられていたのは,「No Gods or Kings. Only Man.」(神も王などいない。ただの男だ。)というバナーを掲げた銅像の画像で,これは「Bioshock」のゲームシーンだ。


 「トランプは王のように振る舞うな」という反対派たちのスローガンを連想させ,それをマスク氏も意図したと思うが,銅像の主であるアンドリュー・ライアンは,ゲーム中で海底都市 “ラプチャー” を作り上げた極端な思想を持つ起業家である。「マスク氏は適当に検索しただけで,ライアンをゲーム中の英雄だって勘違いしていたんじゃないか?」と,ゲーマーから突っ込みを受けていた。

自分の作品以外を否定し,FPSジャンルを再び偉大なものにせよ!



イアン・プルー(Ian Proulx)氏
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 トランプ大統領つながりでいうと「Summer Game Fest 2025」でも一悶着あった。Free-to-Play型FPS「Splitgate 2」が正式ローンチしたことを告げるため,開発元の1047 Gamesを率いるCEOのイアン・プルー(Ian Proulx)氏がステージ上に登場した際,「Make FPS Great Again」(FPSジャンルを再び偉大なものにせよ)という文字が書かれたベースボールキャップを被っていたのだ※1

※1:ドナルド・トランプ大統領は大統領選挙で「Make America Great Again(MAGA)」というスローガンを掲げていた。これはロナルド・レーガン元大統領も1980年代に使っていたフレーズだが,トランプ氏がMAGA帽(赤いキャップ)をブランド化し,グッズとして大々的に展開したことで,強烈な政治記号に昇華したという背景がある

 そしてプルー氏は,「コール オブ デューティを毎年プレイするのにウンザリしている」などと,自分の作品を盛り立てるために別のゲームを批判するようなコメントを放ち,「安っぽい相乗り」とか「大きな場を借りてのライバル批判」とゲーマーコミュニティから叩かれてしまったのだ。

 奇しくもSummer Game Fest: Play Days中は,ロサンゼルスで大規模な抗議活動が発生しており,4Gamerの取材班も帰国が1日遅れていたら,ダウンタウンからの脱出には苦労してしまっていたかもしれないという,少し緊迫していた時期に重なっていた。

 プルー氏は当初,「政治的な意図はまったくない」と謝罪を拒んでいたものの,6月11日には謝罪動画を公開し,コミュニティメンバーとの和解を図っている。

 「Splitgate 2」は,ふたを開けてみるとスターターパックが4.99ドル,全DLCバンドルを購入すると104.97ドルというマイクロペイメント方式で,ローンチ当初こそ同時アクセス数が2万5000人を超えたこともあったが,その後は下降気味だ。ピークの数値も前作の半分以下であり,その不調にはCEOの軽はずみな言動が少なからず影響したのかもしれない。


「もし本当のファンなら,高額ゲームを買う方法を見つけ出せるでしょう」


 「Duke Nukem 3D」(1996年)のレベルデザイナーから30年近い業界歴を持ち,「ボーダーランズ」シリーズではファンの前に立って,情熱的にゲームについて語るのが,Gearbox Entertainmentの創業メンバーでありCEOのランディ・ピッチフォード(Randy Pitchford)氏だ。

 大叔父が著名なマジシャンだったということもあってか,最近ではピッチフォード氏自身もマジックにハマり,2022年には経営難で苦しんでいたハリウッドのマジック専用劇場「The Magic Castle」を買い取ってオーナーになるなど,活動の手を多方面に広げている。

ランディ・ピッチフォード(Randy Pitchford)氏
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 そんなピッチフォード氏もゲーマーの攻撃対象となった。ことの発端は,「ゲームが80ドルになるのは勘弁してよね」とファンがXにポストし,それにピッチフォード氏が反応したことだ。
 氏は,自身が10代だった1991年にメガドライブ用ゲームを80ドルで購入した過去を引き合いに出し,「私が値段をつけるんじゃないが,もし本当のファンなら高額なゲームを買う方法を見つけ出せるでしょう」と,突き放したような発言をし,多くのゲーマーから批判を浴びた。

 ピッチフォード氏は,3月に開催されたPAX East 2025のパネルセッションでも,最終的な価格については自身に決定権がないことを伝えながら「前作よりも倍以上の開発費がかかっている」と話しており,80ドル以上になることについて否定していなかった。

 確かに昨今の開発費高騰に伴ってゲームの販売価格が上昇するのは避けられない現実であり,80ドルに達するゲームも増えてきている。
 しかし,DLCやシーズンパス戦略を重ねてきたBorderlandsシリーズだけに,ピッチフォード氏の発言には「さらに搾取する気か」といった厳しい声がゲーマーコミュニティから寄せられた。

 開発元のGearbox側としても,「ほかの作品も同程度の価格なのに,なぜ我々だけが非難されるのか」と困惑している部分もあるだろう。

 なおその後,Borderlands 4のアメリカでの価格は

  • Standard Edition:$69.99
  • Deluxe Edition:$99.99
  • Super Deluxe Edition:$129.99

 と発表された。当初「79.99ドルになるのでは」と懸念されていたが,69.99ドルに据え置かれた形だ。今回の騒動を受けて対応したとも受け取れ,このタイミングで“妥協”したのかもしれない。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。

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