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22年にわたる長期運営の「メイプルストーリー」が,変化し続けるプレイヤーの期待に応える必要性[NDC25]
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最初の話題は,ライブサービス型ゲーム(運営型ゲーム)のプレイヤーが持つ期待について。ライブサービス型ゲームは,一般的な買い切り型のゲームとは,プレイヤーからの期待が異なるという。
買い切り型のゲームにおいて,面白さを感じられる瞬間は,期待が満たされるか,予想外の展開にあったときだという。プレイヤーは,期待が満たされれば安定と満足,予想外の展開ではより大きな感情の揺れを経験する。例えば「ELDEN RING」なら,プレイヤーはハードコアなゲームプレイに期待し,その通り歯応えのある遊びができれば満たされる,といった具合だ。開発者としては,この期待に応えられるようなゲームを目指せばいい。
一方で,ライブサービスゲームへの期待は不安定だ。同じゲーム,同じプレイヤーであっても,何に期待するかは時間が経つにつれどんどん変化していく。市場のトレンドや,新作の発売,年齢と環境の変化,さらには世間の雰囲気など,期待を変化させる要因は多々存在する。また,ある期待は,いきなり出てきてあっという間に消える,なんてこともある。こうした変化に,同じゲームで対応していかなければならないというのは,長期運営を行うライブサービスゲームならではの悩みと言えるだろう。
では,こうした期待をどう分析し,どう対応したのか。まずは,戦闘についての事例だ。メイプルストーリーの戦闘は,狩りとボスの2つに分けられる。かつて,数多くの雑魚モンスターを倒し続ける狩りは,成長のための中核となるコンテンツだった。プレイヤー は狩りを通してレベルを上げ,そこから装備の強化材料を獲得して,強くなっていく。戦略的な位置調整やスキルの駆使,職業同士の役割分担も必要だった。
しかし,現在の狩りは立ち位置が変化している。育成の手段は狩りだけではないし,狩りをするにしても,マップに出現するモンスター達を,1回の攻撃で一気に倒してしまうようなゲームプレイだ。つまり,昔は密度の高い戦闘が受け入れられていたが,今は楽に狩りができることが期待されているわけだ。ただ楽なだけではなく,高効率で稼げる“美味い”狩りでなくてはならない。
このとき,企画者としては,スキルの効果を調整する,マップを狭くして敵を密集させるなど,いくつかの手法が考えられる。どういった形で期待に応えるか考えていたところ,目に留まったのがプレイヤーコミュニティで話題になっていたネタ画像だ。その画像とは,「アークメイジ(火,毒)」と「ブラスター」がパーティを組んだところ,無言のブラスターにアークメイジがずっと話しかけているというもの。これが何を意味しているかというと,当時,動き回って狩りをするので操作が忙しかったブラスターに対して,アークメイジは動かずに敵を殲滅できるほど狩りがしやすく,暇を持て余しているといった感じだ。
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当時,プレイヤーが期待していたのは,アークメイジのような移動不要な定点狩りであり,とにかく楽に狩りができることが求められていた。
とはいえ,企画者としてはなかなかに悩ましい。職業間の狩り能力が同程度になるべきことには共感できるが,だからといって定点狩りを主軸にしてもよいものか。開発側にとって,戦闘は学習を通して面白さを感じられるコンテンツであり,プレイヤーの期待に応えるなら,その前提は捨てねばならない。
結果として,メイプルストーリーの開発チームは,プレイヤーの期待に応えることを選んだ。ブラスターには新スキルの追加が企画され,ほかの職業も定点狩りができるようになっていった。実装直後は,「ここまで簡単になっていいのか」という葛藤もあったが,プレイヤーからは非常に好評で,期待に応えることは正しかったのだと実感したそうだ。
ボスについての事例はどうだろうか。もともと,メイプルストーリーの戦闘は狩りがメインであり,ハードなボス戦というのは求められていなかった。それが現在は,ボスコンテンツが育成の中心となり,密度の高いバトル体験を提供するものとなった。ボス戦は,キャラクターを育成できているからといってクリアできるものではなく,プレイヤーの操作技術も求められる。
こうした状況の中で生まれたのが,操作技術を合理的に評価されたいという期待だ。というのも,プレイヤーの操作ではどうにもならない(=不合理な)状況が存在したのである。
例えば,遠距離職である「クロスボウマスター」は,スナイパーの性質を表現するため,敵との距離を維持することでダメージが伸びていくスキルを持っていた。しかし,これを維持しようと思うと,パーティとのシナジーを捨ててあえて離れなければならない。これは,プレイヤーの技術ではどうにもならない,スキル構造上の問題であり,不合理に感じるというわけだ。
そのため,この距離を維持するスキルは削除され,代わりに矢を3回放つと4回目が強化されるといった,操作技術が反映されるスキルが導入されることとなった。つまりは,評価基準を大きく変更したのである。
同様に,スキル構造上の問題で手を加えられた部分がバフだ。メイプルストーリーは長いサービスの中で,さまざまなスキルが増えていき,その結果,たくさんのバフスキルが生まれた。ボス戦では,最大火力を出すために,攻撃を避けながら決まった順番でいろいろなバフをかけ,本番の攻撃に備える必要があった。
このスキル回しは複雑で,ある種,プレイヤーの熟練度を測れる要素ではあったものの,肥大化した仕様は不合理なものとなってしまった。プレイヤーとしては,メインスキルを使っている時に死んでしまうのなら,自分の操作ミスと認められるが,バフのスキル回しで死んでしまうのは,魔法少女の変身中やロボの合体中に攻撃されるようなもので,面白くないのだ。
そこで,自動でバフをかけられるシステムを導入し,複雑な準備過程をなくすことにした。言葉にすると簡単だが,ただ便利になっただけでなく,評価要素を1つ,丸々削除したわけだ。このように,メイプルストーリーでは,変化するプレイヤーの期待に応えてアップデートを行っている。
続いて話題は「変化しないことへの期待」へと移った。これまで説明されてきたように,プレイヤーの期待は変化するものだが,中には変わらない期待もあるようだ。それが「プレイ価値の保存」への期待である。
本講演におけるプレイ価値とは,「ゲームプレイで蓄積されたデータの価値」のことだ。MMORPGの多くにおいて,楽しい経験は瞬間的なものだが,プレイした内容は,経験値やレベルなどで蓄積されて残っていく。これは,プレイヤーの努力とかけたコストが,結果として価値を持つということだ。
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長いサービスを続けてきたメイプルストーリーでは,このプレイ価値がとくに重要になる。何万時間とプレイできるコンテンツを持つだけに,プレイヤーはそこに蓄積された膨大なプレイの結果が,より長く価値を持つことに期待を寄せるからだ。
実際,メイプルストーリーでは,例えば12年前に実装された装備が,現在も現役で使える性能を持つようなバランスにしているなど,プレイ価値の保存に注力している。
ここでは,「スターフォース」という,エンドコンテンツの事例が挙げられた。これは,ゲーム内通過である「メル」への問題意識から,企画がスタートしている。メイプルストーリーにおいて,メルはキャラクターの成長や装備の強化に必要なリソースだが,長期のサービスでアップデートが続いていく以上,これを適切に使わせる手段を用意しなければ,インフレが発生してしまう。そのため,エンドコンテンツでどのように使わせるかは,重要な課題となる。
スターフォースは,確率で装備を強化するシステムで,メルの中核的な使い道となっている。ただ,もともとは問題のある仕組みだった。強化段階が上がるたびに,必要なメルは約2倍になっていくのだが,23段階(23星)からいきなり15倍になるのだ。つまり,23星以降は合理性よりもやり込みを重視した要素であり,22星が実質的な限界と言える。
ただ,この仕組みでは,時間が経つにつれ22星の所持者はどんどん増える一方で,23星以上に挑戦するプレイヤーは少ないので,結果的にメルの回収が滞ってしまう。
短絡的な解決方法としては,新規装備を追加すればいい。新たに22星に強化することで,以前より強力な装備になるのなら,またメルが使われる。ただし,この方法は既存装備の価値を傷つけるものであり,プレイ価値の保存への期待に応えられない。
そこで,スターフォースの仕組み自体に手を入れ,23星以上の強化に必要なメルを緩和し,強化にチャレンジしやすくすることを選んだ。
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以上のように,メイプルストーリーでは期待に応えるためのさまざまな施策を行っている。解決方法は単純かもしれないが,開発チームとしては,自分たちが持っていた基準に対して,疑問を投げかけ,見直していくことで,プレイヤーの期待に応えているという。
講演の最後で,講演タイトルになっている「テセウスの船」について触れられた。テセウスの船とは,ギリシャ神話の英雄テセウスに関する,パラドックスの1つだ。船の朽ちた部品をすべて交換した場合,それは元の船と同じ船と言えるのか,という問いかけである。
これに対して,重要なのは「それがテセウスの船か」ではなく,「テセウスの船だと信じている人がいるか」ではないかとのこと。誰もその船の ことをテセウスの船だと思わなくなれば,それはテセウスの船であり続けることはできない。逆に,信じている人がいるのなら,部品の交換と関係なくテセウスの船になる。
メイプルストーリーも同じように,22年のサービスのなかで大きく変わったとしても,多くのプレイヤーが「これがメイプルストーリーであってほしい」と求めている限り,メイプルストーリーのままである。しかし,誰も期待しなくなったとき,ライブサービスとしての終わりを迎えてしまう。厳しい意見だったとしても,それはまだゲームに期待しているということであり,期待を寄せられているということは,そのゲームがまだ生きている証だとして,講演を締めくくった。
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