
連載
蓬萊学園の揺動!
Episode04
この学園を救ったりなんだりするはずだが一体どうやってそれを成し遂げるのか当人はもちろん作者もよく分かってないっぽい主人公は、旧図書館に入館した!
(その3)
十分後。
返還旅団は、わたしたち四人と一頭だけになっていました。つまりわたしと、紫苑さまと、アミ先輩と、京太くんと、アプちゃんです。
あの錚々たる一騎当千の面々は――えーとですね、先ほどの正面ホール床面大崩落によって、全員地下二階だか地獄の底だかにあっけなく落っこちてゆきまして……その後どうなったのやら、消息はわたしにもわかりません。南無阿弥陀仏。
「派手に見栄ぇ切りよったわりには、えろう早ようリタイアしよったなあ」アミ先輩、床の穴を見下ろしつつ、ため息と腕組み。上腕二頭筋も心なしかゲンナリしてます。
「……まあ蔵書は無事だから不幸中の幸い、といったところかな?」
と紫苑さまのおっしゃるとおり、旧図書館に返還予定の本は、アミ先輩がガッチリ持っていたんです。
四冊セットの古い教科書だとかいうお話でしたが――ハテ、どこかで聞いたような。
というわけで、まずは地下一階。
背の高い、けれど半壊した書棚があちこちに並んでいます。というか放置されてます。
天井まで3メートルくらいありそうですが、書棚はどれもそこに届きそうなくらいの高さです。
ほとんどの棚は埋まっていますが、どうも並べかたに愛情が感じられません。本革張りの分厚い本が、乱雑に――あるいは横倒しに積まれて、うまく書名も読めません。
わたしたちのヘッドランプの他には灯も窓もなく、静けさだけがすべてを支配しているのです。
これは――
そう、これを一言であらわす術を、わたしたちは知っています。少なくとも、わたしは知っていました。
「墓場……」
――これはまるで書物の墓場です。
「いや」紫苑さまが首をふりました。「まだ生きている棚もあるようだね。気をつけて進もう」
そんな不気味な書棚の間を一列縦隊で進むうちに、わたしは大事なことを思い出しました。
「京太くん、先日のあの文字化けのあれですけど」
「そうそう、アレなんですよ」
「あれはどうしたらアレできるんしょ」
と、さっきからアレあれ言ってますが、けっしてそういうアレのことではありません。ホントです、ホントに違うんです! 信じて!
「どうしたんですかそよ子さん、それならやっぱりアプロスのことは相談しないほうが……くしゅん!」
そこから先は京太くんのクシャミやら咳やらが続いて、紫苑さまが嫌な顔をして彼から距離を取り、逆にアミ先輩は心配顔で京太くんの鼻をかんであげようとします。
そうなのです。
――このあいだの体育祭からずっと、かれが「そのこと」をわたしに伝えようとするたびに、なんらかの邪魔が入ることに、わたしたちは気づいていました。
クシャミや咳にとどまらず、停電だったり暴走路面電車だったり応援団の臨時練習だったり、イルカの群れが岸に打ち上げられたり、果ては抜き打ちテストなどという驚天動地の大事件さえありました。
原因もわかりません。というか、その原因を京太くんは先週、男子寮最深部から旧島の〈夷党の土蔵〉に至る大冒険の末に発見したらしいのですが、そのこと自体をわたしに語ろうとするとクシャミと停電と抜き打ち小テストが襲いかかってくるのでした。
けっきょく、わたしたちが選んだ通信手段というのは――わたしが適当な単語を思いうかべ、それを京太くんが表情から読み取って、イエス・ノーを仕草でこちらに伝える、だったのです。
なぜかこの方法ですと、異様な事件も起こらず情報のやり取りができるのです――例のアレの件、つまりアプちゃんの正体については。
昨日あったときまでに、わたしは、京太くんが大冒険の結果手に入れた情報を知ることができていました。つまり――
- 路面電車であのイケメン教授が言っていたことは、事実であること
- さらに、アプちゃんがその「アプロス」とか呼ばれてる妖だか超常現象だかの仲間であるらしいこと
- その現象は、もともと何十年、何百年も前から、蓬萊学園やその前身である江戸時代の私塾で起きていたけれど、数年前に隕石だか彗星だがが太陽系の外からやって来て地球のそば(と言っても数千万キロの彼方ですが)を通りすぎてから、活発になったこと
- そして今年の秋に次の「太陽系外からの隕石」が地球に接近する時に、いよいよ「学園を震撼させる事件」がおきる…に違いない! と予測されていること
ああ、でもわたしたちは蓬萊学園をちょっと甘く見ていたのかもしれません。いいえ、ちょっとどころじゃないです。激甘です。蜂蜜プラス餡子マシマシに千疋屋の最高級フルーツ詰め合わせです。
ここまで真相に接近しながら、その最後の打ち合わせを、よりによって旧図書館のど真ん中でおこなってしまうなんて!
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