
連載
蓬萊学園の揺動!
Episode04
この学園を救ったりなんだりするはずだが一体どうやってそれを成し遂げるのか当人はもちろん作者もよく分かってないっぽい主人公は、旧図書館に入館した!
(その1)
わたし、揺れてるんです。
わたしと返還旅団メンバーの皆さま全員が。
なぜって……旧図書館前駅に辿り着くまで、ガタゴトと電車に乗ってるからなんです。
女子寮から環状線でグルっと回って、でも途中で乗り換えて、ちょうど「9」の字の下腹の部分をなぞってから降りる感じで(ああ! 「下腹」だなんて! 「降りる感じ」だなんて! なんてお下品な言葉を使ってしまったのでしょう! 神さま紫苑さま許して!)、やってきたのが旧図書館――そう、蓬萊学園が世界に誇る、巨大な、そんでもってSAN値がわりとゴッソリ下がりやすいという噂の、あの旧図書館!
学園に二つ半あるという図書館のうち最古にして最大、最恐にして最狂、起源にして頂点、頂点にして最底辺という二等辺三角形ぽさもある、あの旧図書館なのです!
ここで返還旅団の一員として任務を果たせば、一気に委員会の役員待遇で「見なし上級学生」も夢ではないという、超ボーナス・ステージ!
もうわたしの頭の中では、キュロンキュロ〜ン♪ とコインの溜まってゆく効果音が響き渡ります。
が。
現実のわたし、そんなに優雅な状態じゃありません。
図書委員会謹製の対・旧図書館戦用特殊スーツに身を包み、素材がラバーなので、手足を動かすだけでギュリギョリと変な音がします。他の皆さんは赤とか薄紫とか、とっても綺麗なプラグでスーツな色合いなのですが、新人のわたし&京太くんは地味な土気色で芋虫的な……これ完全に砂漠の中を変な歩きしながら移動するやつ(しかも鬼才・デヴィッド・リンチ監督が原作をあんまり読まずに作ったと噂の1984年版のほう)ですよね? せめてヴィルヌーヴ版にして欲しかった!
いえ、リンチ版自体はわたし大好きなんですけど……とくに男爵さまが可愛らしくて……でもスーツのデザインとしてはやっぱりリメイクのほうが。
しかし問題はそれにとどまりません。
電車を順に降りる旅団の団員の皆さまは、そしてもちろんわたしも、背中にでっかい重たい背嚢を背負ってます。重いです。マジ重いです。
「そんなに重いですか?」と隣の京太くん。「前傾して、バランスをうまくとれば、むしろ歩きやすいですよ」
ちなみにその京太くんだけは、背嚢の上にもう一個チューナーがメタボになったみたいな機械をのっけて、さらにパラボラアンテナやらユニコーンアンテナやら八木式アンテナやらを生やしてます。なんだか家電の行商人みたい。
「そりゃあ通信が途切れたら任務が台無しですからね」と、あいかわらずこちらの内心をスラリと読みとってます。「報道・メディア委員会の特派員としては、このくらいやらないと」
それにしても重そう。こんなの、華奢な彼が自分で背負えるのかしら。
「あ、大丈夫。電動キックボードを改造したのを下にくっつけたので、荷物は自走するんです、ほら」
そう言いながら京太くんの視線は、わたしの腰のくびれから太ももにかけての曲線から離れません。
変態です、明らかな変態です。こやつ可愛い顔だと思って×××な所業を――
あ、違いました。
わたしの腰のあたりにすりすりしてくるアプちゃんの頭と頸のあたりを――そこにぶら下がってる鍵を――じいっと見つめてるのでした。てへぺろ。
で。
なぜわたしの太ももにアプちゃんが頬をすり寄せてきてるのかと申しますと――女子寮に置いておくと、例の怪しげな部活の先輩たちが奪取しに来るのでは、ということで女子寮自警団と図書委員会が協議した結果、今回は特別の御配慮ということでこの子も参加できることになったのです。(が、それ以上に旅団が危機の際には、アプちゃんがきっと不思議な魔法を発揮するに違いない、というおかしな学園伝説が一部で広まっていたせいでもありました。アプちゃんの「あやしく光る角」の噂は、体育祭以来もちきりなんです。)
「重いんやったら持ったろか?」
と言われてふりむくと、そこには、誰あろうアミ先輩の勇姿が。
ホントに勇姿としか呼びようのないおすがたなのです。
XXXXLサイズのスーツでも入りきらず、胸元は10センチほどジッパーを下ろし、腕や腿のストラップも外して、完全防護スーツが只のカジュアルな着流し感覚。三日月が丘からようやく顔を出した朝陽が、ピチピチなラバーの下に秘められているはずの筋肉の大山脈を、かえってクッキリハッキリ浮き彫りにして、いろんな意味で眩しいです。
ああ、そして!
そしてその隣には、我が愛しの北白川紫苑さま!
麗しの亜麻色の髪はねばついた風になびき、輝けるお肌は地面を埋め尽くすドブネズミ色の粘菌と好対照、さわやかな瞳はキリリと南の曇天を見据えています。
という描写からもお分かりのとおり、今わたしたちは学園でも一、二を争う不気味ゾーンに対峙していたんです。
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