
連載
蓬萊学園の揺動!
Episode02
いずれ学園の危機を救うことになる
ヒロインは授業に出席した!(その3)
先輩、スマホを取り出して、関連団体の名前を読み上げ始めました。ぜんぶ、これまでわたしが勧誘されたやつばっかりです。
陰謀論研。
陰謀論部。
もっと陰謀論部。
更なる陰謀論研究会。
またまた陰謀論研究会。
最後の陰謀論同好会。
ディープ陰謀論研。
ステイト陰謀論研。
メタ陰謀論団。
他にもUMA部、神獣研、都市伝説を語る会、陰謀に抗する民間防衛同好会、信じるか信じないかは貴方次第とか言いつつ当人がスッカリ信じてる研、等々。
「あ、ホントだ」京太くんもサーチ開始。「しかもこの陰謀論系団体の大半って、部とか研究会とか名乗ってますけど、ぜんぶ未公認の同好会ですよ。この二週間に内紛で分裂してできたばかりだ、ホラ」
「あらホント」
「ははあ、例の〈講堂洪水〉事件がきっかけで、誰がそよ子さんと一角獣を手に入れるかという部内競争が過激化して――あ、それで勧誘に成功すれば分裂相手を見下せるので、今は更に勧誘合戦が激しく……そよ子さんやりますねえ」
「いやいやいや!」わたし、思わず叫びます。「だから、あの洪水は全然わたしのせいじゃなくて! と言うより、そもそもこの分裂騒ぎとやらだって、あの人たちが勝手に盛り上がって勝手に衝突して勝手に分裂してるだけですし!」
「男子学生ってのは、いつもサークルの分裂を女性のせいにするものなんですよ」京太くん、腕組みアンドため息。「クラッシャーとか呼んだりして。原因の大半は自分たち男性の側にあるくせに。――それにしても、その数は異常ですね。例年のデータでは、講堂の気象現象だけでここまで団体分裂や勧誘合戦が激しくなることはないはずですが」
「あー、そらアレのせいやな」とアミ先輩。「ちょいと『補助金』『召し上げ』で検索してみ」
言われた京太くん、猛然とスマホを操作開始。
そんな彼を、アミ先輩ったら、頬杖ついて、愛おしそうに見つめます。
いっぽう、わたしは二人に挟まれたまま必死に全面の巨大スクリーンを読もうとしますが、もう授業は後半にはいっていて、何のことやらさっぱりわかりません。ああ!
と。
アミ先輩、チョチョンとわたしの肩を指でつついて、手の中のスマホ(彼女の手のひらに比べるとひどく小さく映ります)を振って、わたしのスマホを指差してきました。
すでにメッセージが届いてました(学園の女生徒は、女子寮自警団とすぐに連絡がつくように、特別な女子専用SNSがスマホにデフォルト搭載されているのです)。アミ先輩からです。隣に座ってるのに?
〈どうしたんですか先輩〉
わたし、思わず返信してしまいます。すると。
〈じぶん、この子と付き合うてるん? ステディの関係?〉
〈ま、まさか!〉
〈せやったら、うちに紹介してくれへん? 男子寮の部屋番号とか、趣味とか。なんやったらメアドだけでもええけど〉
えええ?
〈いい…と思いますけど〉
〈わああ〜〜〜むっちゃ恩に着るわ〜〜〜〉
〈でも今ご自身でお尋ねになれば〉
〈えええ〜〜〜そんなん、うち、よう言われへんわ〜〜〜〜〉
〈きっと直接のほうが好印象に〉
〈せやねんけど〜うち、こう見えても恥ずかしがり屋やし〜MBTI診断でもISFJやし〜〉
横目で見ると、アミ先輩、顔を真っ赤にしてます。ソバカスだけは色が変わらないので、そこだけ逆に薄く浮き上がっているみたい。初めて見ました。
〈ちなみに京太くんのどのへんがお気に召したんですか〉
〈そんなんパッパッと言われへんわ恥ずかし〜〉
〈え〜教えてくださいよ〜 そしたら何かお手伝いできることあるかもしれないし〉だんだん私もノってきました。恋バナは嫌いじゃないのです。
〈せやな〜 やっぱ小ぃこくて可愛ええとこかな〜 ちょい巻毛でな〜〉
〈ほうほう〉
〈あ、あとメガネ! うちメガネ男子むっちゃ好っきゃねん〉
〈ふむふむ〉
などとやっているうちに。
「なるほど解りましたよ!」
問題の京太くんの、大声が響きました。
でもそれは千人近い生徒たちの呟きが合成されたワ〜〜〜〜ンともウ〜〜〜〜ンともつかない、低い、そしてなんとも奇怪な響き――宇宙ならぬ教室背景放射とでもいうんでしょうか? ――に呑み込まれて、教壇の先生のところにはまったく届いていない様子。
「この記事によれば」
と京太くん、スマホをスクロール。
「弱小クラブや同好会の〈連鎖廃部危機〉が囁かれてるんです! ……なるほどナルホド……生徒会の方針転換があったばかりなのか……」
「どういうことですか?」と、わたし。
「補助金召し上げや」アミ先輩が腕組みをしてうなずきます。上腕二頭筋がググッとせり上がって、すごいです。つい見惚れてしまいます。「生徒会予算から各種団体への補助金配分比を大幅変更しようちゅう話や」
「まさにそれです。――あまりにも部活動が盛んになりすぎ、授業正常化を阻害しているというクラス代表会議保守派の意見がついに生徒会内部でも主流になり……ええと、それから何だっけ……幽霊部員の団体名簿からの除籍、通称〈除霊大執行〉はすでに去年から始まってたんですが、今年度はついに補助金に手をつけたんです。
活動実績のないクラブ・サークルは補助金廃止・部室も召し上げ、その結果……ええと、〈弱小部長たちの反乱〉が起きるのでは……と、これまで囁かれたたのですが、一部有力クラブが生徒会と密約を結んだらしく、両者共同の法案がクラス代表会議に先日こっそり提出されてたことが判明……一気に形勢逆転……団体抹消処分取り消しや保留を目指す弱小団体が続出して……ええと、なんだこれ、〈靴舐め部長〉たちが生徒会役員室の前に列をなしている、と」
後半、ほとんど記事を棒読みしてます。
そんなネットの記事を盲信しちゃあ危ないですよ京太くん、と言おうとしたその時。
黄色い声。
それも津波のような黄色い声が大大大教室を震わせたのです。
そして、わたしも思わずその一員となって真っ黄色の叫びをあげるところでした。
なぜって――教壇近くに、あの紫苑さまのお姿があったのですから!
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