企画記事
壊れたゲーム機器を,ご近所で直す選択肢――今まであんまり目に入ってなかった「ゲームホスピタル」で修理してもらった
製品はいずれも「スプラトゥーン2エディション」。スプラ2がリリースされた2017年7月に発売されたものだ。これをスプラ2に風花雪月にモンハンライズにと使っていたが,ポケモンユナイトで左スティックが急に故障した。だいたいルカリオのしんそくバグのせいだ。
そのころには製品の保証期間なんてとっくにすぎていた。だから私は迷うことなく新しいものを買った。カラーリングに慣れ親しんでいたから,同じプロコンを買い直してしまった。おかげでスプラ3もスプラ2版のプロコンで遊んだ。次々と出てきた新たなゲームたちもそう。
それから1つ目は誰に使われるわけでもなく,ゲーム機の隣で長年ホコリをかぶり続けた。触れたくもないくらい,汚れきるように。
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余生を十分に堪能させた彼は,あとはもう捨てるくらいしかなかった。人によっては故障品として売り飛ばす手段もあるのだろうが,面倒だし。主がいつ踏みきり,ゴミ箱のフタが開けられるかの今生だった。
けれど,思いきって捨てようとしたとき,ふと考えた。もしあのとき,修理するという発想があったらどうだったのか。わざわざメーカーに送るでもなく,もっと気楽に「これ直してくれやガハハ」と身の回りで修理できていたなら,彼のセカンドライフはどうなっていたのか。
汚れちまったプロコンに,今日もホコリが降りかかる。目を背けられないのは悲惨なその姿と,あったかもしれないもう一つの未来。
よし! 修理してくれるお店にいこ!
というわけで「壊れたプロコンを修理してくれるサービス」を探した。当然,正攻法はメーカー修理だ。保証期間の内外も不問で,安心と信頼の観点からして,これに勝る対応はない。ゲームメディアとしてもプラットフォーマーを応援したいことから,最初に断言しておく。
でないと原則 自 己 責 任 になる。
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でも面倒なのだ。手続きも梱包も郵送も,そのあとのお値段査収や「その対応でおっけーです」と連絡するのも面倒なのだ。面倒面倒っ。
私は初代PSPの初期ロットで画面ドット欠け&左スティック破損を味わった。Xbox 360では購入1か月で死の赤リング(Red Ring of Death)が点灯した。これらのデカい過去を拭えず,メーカー修理の手続きを長年苦手としてきた。ちょいっと持ってって,パパッと直してハイ料金,くらいのレスポンスでやってくれるくらいじゃないとイヤなのだ。
というわけで「プロコン 壊れた 修理 お店」で検索したところ,いくつか出てきたサービスのうち,店舗持ち込み可の修理店「ゲームホスピタル」に行き着いた。売り文句は“即日修理最短15分”。わずか9文字でこちらの求める要望をほぼ表現してくれている。
なお,壊れたプロコンは尋常ではなくキッタネー姿のグロ画像状態だったため,持ち込む前にできる範囲でキレイにしておいた。
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ちなみに,ゲームメディアのアプローチとしては「自作修理レポ」なんてのも一手である。だがこれも 自 己 責 任 のクソデカ赤文字注記を掲げる必要があるため,やめておいた。
また,4Gamerはいろんなゲーム機を分解しちゃう子として知られているが,近年の繊細な機器は,少なくない数の魂がよみがえっていない。私もまた創造を苦とする,破壊することでしか己を表現できない悲しきモンスターの類いのため,自力の手段はハナから眼中になかった。
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ここであらためて,「ゲーム機器の修理事業」に関して法的に説明しておこう。でないと「メーカー以外が修理するのって違法では?」という疑問を浮かべるインテリジェンスな方々もいるだろうから。
■電波法
ゲーム機器内蔵の無線通信機器(Wi-FiやBluetooth)は,電波法に基づく「技適マーク」が求められる。このマークがないものはゲーム機のみらなず,スマホでもPCでも日本国内では違法機器となる。そのため,海外の一部電子機器は実は持っているだけで違法だったりする。
この点から修理事業者は原則,Wi-Fi部分などの修理ができない。やってしまうと,技術基準適合証明あるいは技術基準適合認定に手を加えることになり,この改変自体が違法となる。また改変後はマークを除去せねばならないし,技適を再認証しようにも製造物責任者とは無関係な立場ではできない。
現実的に考えて,仮に合法的な手段になろうと,これらの折衝を担ったら手間がかかりすぎて商売上がったりだろう。なお,「電波法に触れないような修理であれば適法」ではある。
■著作権法
ゲーム機器のプログラムを改ざんすると違法となる。そのため修理事業者はプログラミングを修理手段に用いてはならない。
■製造物責任法(PL法)
「作った人が責任を持ってどうにかしてね」の意の法律。修理事業者とは直接関係はないが,法の解釈次第でメーカーが出張ってきても文句を言えない可能性がある。
■修理事業にまつわる小話
アメリカ・ニューヨーク州では,2023年7月1日に「デジタル公正修理法(Digital Fair Repair Act)」が施行された。
同法律は「修理の権利をメーカーが独占するな!」という観点から発起されたもので,その内容は「メーカーは修理に必要な部品・工具・手順を,ユーザーや修理事業者に公平な条件で提供せよ。これは義務だ」というもの。つまり(適法の範囲内なら)ニューヨークは全市民修理者地域と言える。
現状,日本には波及していない(だろう)が,そのうちもしかしたら子供たちが夏休みの宿題で,iPhoneやSwitchをプラモデル感覚で修理する時代が訪れるかも?
とまあ,小難しい話のすべてに目をとおした人は多くないだろうから,まとめると「やっちゃいけないことをのぞけば合法」のようである。
これ以外にも細かな法律と折衝しているかもしれないが,私も今回調べて初めて知ったことばかりなので,このあたりでご勘弁を。
ゲーム修理事業自体,ゲームメディアが普段推すことのない分野ではある。ただ,プラットフォーマーと彼らの関係性で言うと,ゲーム周辺機器業界が近いような,遠いような,といったところだろうか。
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さて,長い前置きを終えて,ようやく本題へ。
持ち込み先のゲームホスピタルは,もともとスマートフォンの修理を主とする「スマホスピタル」の派生ブランドだという。ついでに各種機器の買い取りブランド「SMASPi」やパーツ販売も手がける。
店舗は全国各地にあり,大半の店舗はスマホスピタルとゲームホスピタルが共存している。利用方法は,物品を持っていって受付でやり取りするか,郵送するか。強みとしているのは以下の3点だ。
・「即日修理がモットー」
(症状・部品在庫次第では日数が必要)
・「安心の最長6か月保証」
(直してハイおしまい! ではないアフターサービス)
・「高品質のパーツなのに修理代が安い!」
(安いからパーツは粗悪品じゃないの? を裏切る高品質)
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今回訪れた神田店は,JR 神田駅のガード下にある。20代後半のランチタイムをここらですごしていた記憶が刺激されるが,それはいいとしてバリバリの飲み屋街にある。駅チカなので利用しやすく,隣にある無人マッサージ店の薄暗いサイバーパンク感も物見の価値ありだ。
神田店では路面の受付で呼び鈴を鳴らすと,関係者専用の2階からスタッフが降りてきて接客対応される。店頭では「今後はメーカー保証がいっさいきかず,自己責任となります」の契約に署名し,故障の内容と原因がヒアリングされる。返答はあらかじめ用意しておくといい。
まあ,ときには故障界隈の無敵ワード「なにもしてないのに壊れた」と言うほかないかもしれないが。私もルカリオのせいにした。
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修理が即日対応になるかはケースバイケースだ。例えば定番と化したプロコンの修理,スマートフォンのバッテリー交換(を原因とする故障)などは即日対応がしやすいとのこと。依頼後は店舗を離れて,受取時間に戻れば,リフレッシュされた愛用品が手もとに返却される。
なお,最初に「どんな人が利用してますか」と尋ねると,やはり私と同じく「店頭で渡してサクッと直してほしい人」が多いようだ。ついでに「保証期間? そういうのいいから直して」という人がほとんどらしい。この点は前述のとおり,メーカー応援やら警鐘やら啓蒙やらで言えることは多いが,心から出る言葉は「だよね」ではある。
※私は宵越しの保証書を持たぬ,レシートとともに心中させることも珍しくない破滅型エンドユーザーでもある。普通はきちんと管理しよう
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取材日のお昼下がり,修理風景を見させてもらうべく施設2階にお邪魔させてもらった。室内にはデスクや故障品がズラリ。今では懐かしく感じるPS4 / PS3に,(次世代機を未入手なゆえ)残念ながら最新に感じるSwitchに,旧来のお友だちPS Vitaや3DSが散見される。
現在メインとなる修理機種はこれらが大半だが,ほかにも名を挙げていけばキリがないレガシーハードたちにも対応してくれる。
修理に関しては前述した法令遵守を前提に,基本はメーカー正規品の再生品(壊れた機器などから取り外されたパーツ),あるいは互換パーツを用いる。互換パーツは国産が存在せず,海外で流通されているものを使用しているが,大規模生産ではないため品数も薄め。
とくに3DSのパーツは昨今,だいぶ減ってきてしまったらしい。
当然,電波法に差し支える技適関連のパーツには触れない(PSPの無線LAN基盤修理などは受けている模様)。ゲーム機本体のプログラムにもアクセスしない。実質的に「修理というより,パーツ交換ですね」とのこと。それでいてメーカー修理よりも安くを心がけているのだとか。
そのうえで「Wi-Fiが故障したんですけど!」という事例については,だいたい基板やアンテナパーツが故障しているだけで,適法の範囲で対応できるようだ。Wi-Fi周りは正直,大半のユーザーは故障の原因など分からないだろう。だから「電波法があるし……」と諦めるよりは,言うだけ言って専門家に中身を精査してもらうのが最善そうだ。
同社の「Wi-Fiが故障したんですけど!」の事例1
同社の「Wi-Fiが故障したんですけど!」の事例2
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現地ではまず,誰かの思い出が詰め込まれた,3DS LLの修理を眺めさせてもらった。依頼された故障内容は「電源がつかない」という,シンプルにして致命的なもの。修理スタッフは最もありうる事例「バッテリーの原因」に目をつけ,まずは本体をスマートに分解していく。
バッテリーを新品と差し替えたら,ゲーム機の心音を計測する電流・電圧チェッカーでチェック。先ほどまで音を立てていなかった心電図が息を吹き返し,あっさりとよみがえってしまう。
さらに基板類も引き続き確認。細かな原因を総洗いしていく。
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ここ神田店は新人研修の場としても使われているが,基本的にワンマン体制であり,作業自慢が配属される店舗のようだった。
しかし,鮮やかな手つきの当人は「飲食業から未経験で中途でした」とのこと。入社時は最低限の自社マニュアルで勉強し,それからも勉強,勉強。1年勤務しても知識と技術は足りず,1人でいろいろと適切に判断・作業できるようになるまで,約3年かかったのだとか。
この転身には会社としての教育力を感じる……が。話していくうちに彼のプラモデル趣味の話題を引き出し,「最近は積んでばっかりですが,昔はよく作ってました。デンドロビウムとか(※)」と教えられた。デンドロビウム級となると,素養の差し引きは多少なりともありそう。
※バンダイのプラモデル「HGUC 1/144 ガンダムGP03 デンドロビウム」。定価3万円の超大物。大きさがPS5×2台分くらいある
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そして,私のプロコンの出番がやってくる。プロコンはとくに修理件数が多いことから,分解の手順にも迷いがない。外見はキレイにしたが,外装が剥がれるごとに汚らしい内臓がさらけ出される。恥ずかしい。
この子の病は「左スティックが勝手に↓方向に動作してしまう」というものだった。一例としては,キャラクターが勝手に↓方向に微動してしまい,移動中や無操作中に予期せぬ動きをしていた。このときスティックはいっさい動かず,操作判定だけがSwitchに送られる。そのため,いくら物理的に制御していても不可抗力で事故ってしまっていた。
これはSwitch本体のコントローラ補正機能を何度やったところで解決しなかった。だから故障を疑った。実際,当時のプロコンでは似た症状が右を見ても左を見ても騒がれていたものだ。
そういえば一度だけ,自前のドライバーで外装をこじ開けようとしたことがあった。そのときは100均レベルの安モノ工具を使ったため,ネジ穴をなめてしまって諦めた。ずっと忘れていたのだが,「ちょっとだけネジ穴がつぶれてますね」と言われ,本稿執筆中に思い出した。一応,自分なりに,どうにかしてあげようと思ったことがあったんだ。
まあ「精密性に欠けた工具は使うな」が最大の学びだったが。
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問題の左スティックの臓器が浮き彫りになったあと,スタッフは全周から眺めたのち,エアダスター(空気でホコリなどを吹き飛ばすアイテム)をシューーッと吹きかけた。
そのとき,なにかは分からないけれど,白い紙片のような物体が飛んでいった,気がした(カメラマンも「あった」と証言)。
どうせならそれを探して拾っておけばよかったのだが,対話取材優先で無視した。今にして物的証拠を見逃した体たらくに失笑である。
体内の確認が一通り済んだあと,PCツールで起動確認をしてくれた。するとプロコンは,ずっと忘れられていたことなんて知らない顔で起床し,画面上のスティック動作確認で,ブレのない素直な軌道を描いた。わずか数分,フッと吐息ひとつで完治してしまうとは,苦笑である。
なお,同店はホスピタルと名がついているが,「お宅のお子さん,元気になられましたよ」といった小粋なひと言のサービスはないらしい。
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ゲームホスピタルのスタッフは基本,修理事例が多いものはマニュアルと経験で,修理事例が少ないものは個人・同業を問わずインターネットでどうにか探して打開しているという。
当面はやってこないだろうが,Switch2やPS5などの最新機種が飛び込んできたなら,技術力に定評がある腕利きが投入されるようだ。それがまた新たな修理事例となって業界に積み重なっていく。
メーカー付きの修理専門家とはまた違う,それこそ「町の修理屋さん」といった働きぶり。そこに,新しいのだけれど懐かしい匂いのする存在価値を見つけられた気がした。
といったところで,さて。このプロコンはどうするか。今回は取材ネタになってくれたが,家に帰っても彼の出番はやはりない。Switchのために生まれた彼に,ゲームじゃないところで最後の大仕事をさせてしまった。それでもまあ,捨てる気持ちにはなれなくなったし,売り払うのも面倒だし。これからまた徐々に,汚らしくホコリをかぶるだけのオブジェになる確率も高い。プロコンは2つあるだけで活用性が増えるが,そのときにさらなる経年劣化で壊れていたりでもしたら,私は気だるくため息をつきながら,またゲームのお医者さんのもとに連れていくのだろう。
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「ゲームホスピタル」公式サイト
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